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16-59.賢者の塔(7)

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16-59.賢者の塔(7)

※2018/8/21 誤字修正しました。

「エチゴヤ商会の本店で自爆テロ?」

「はい。ですが、丁度来店していらしたレイラス様のお陰で店員や来客に死者はありません。負傷者は多数出ましたが、既に魔法薬や本店常駐の魔法使い達によって治癒済みです」

お昼休憩をしに孤島宮殿に戻っていたサトゥーとセーラの所に、エチゴヤ商会総支配人秘書のティファリーザが報告にやってきた。

シガ八剣の聖盾使いレイラス殿は、エチゴヤ商会経由で提供した増設装甲や簡易型「フォートレス」を組み込んだ新型鎧の調整に来ていたらしい。

今度クロの姿でお礼を言いに行かないとね。

「自爆した者は助かりませんでしたが、死骸の中に人とは思えない臓器が散見されたので鑑定スキル持ちに確認させたところ、自爆者の正体がホムンクルスであると判明いたしました」

ホムンクルスの中でも現代で主流のタイプではなく、フルー帝国時代に作られていた古いタイプの戦闘用ホムンクルスだとティファリーザが付け加えた。

「それにしてもテロか……」

敵の首領は転生者のようだし、真っ正面からの軍事力で勝てないからテロに走るという選択肢を取るかも知れないという事は、もっと考慮しておくべきだった。

今までにも、シガ王国の王都を狙った「 転身丸 ( リボーン・シード ) 」による無差別テロやイタチ帝国の工作員によるスィルガ王国のテロ活動なんかもあったわけだしね。

そんな事を考えつつ、サトゥーはストレージから幾つかのアイテムを取り出す。

「ティファリーザ、これを君とエルテリーナ総支配人に。こっちは幹部連中と受付けを警備する姐御さん達に渡しておいてくれ」

「腕輪と華奢な篭手、それに傘ですか?」

腕輪と篭手はどちらも同じ機能を搭載しており、任意に術理魔法系の疑似物質製の盾を生み出せる。

さらに腕輪の方は装備しているだけで、熟練魔法使いによる「物理防御付与」以上の防御障壁を自動で張り続けてくれるから、外出時以外も装備しておくように言い含めておく。

傘型のアイテムは「アンブレラ」という「フォートレス」の試作回路を装備した防御アイテムだ。

現在の「フォートレス」と比べて二割程度の防御力しかないが、普通のテロリスト相手なら十分すぎると思う。

国王と宰相、ムーノ侯爵とニナさんあたりも狙われそうだから、腕輪を量産してエチゴヤ経由で配った方がいいかもしれない。

◇

「見えてきましたわ!」

雪原の向こうに見えた塔を見上げたカリナが、雪兎を追いかけて遊んでいたポチとタマに声を掛ける。

「どこ~?」

「あそこ、なのです!」

雪まみれの顔を上げた二人が、ぶるんと顔を振って雪を払う。

三人の後ろには、ルルとリザの姿もあった。

今日は『氷原の魔女』に招待されて、彼女の塔に遊びにきていた。

「けっかい~」

「なんとなくくぐり抜けられそうな気がするのです」

「いえす~?」

このへん、とポチが結界の一部を鞘に入ったままの剣でつつく。

「二人とも、今日は魔女殿に招かれているのですから、壊してはいけませんよ」

リザがタマとポチを窘める。

結界破りの竜牙剣を使えば、冗談抜きに大抵の結界は破れてしまう。

「魔女さんがいらしたみたいですよ」

ルルが皆を呼ぶ。

「お待たせっす。おや? サトゥー閣下は来ていないっすか?」

「はい、ご主人様はちょっと所用で」

「そうっすか……」

せっかく思う存分魔神様トークができると思ったのに、と呟きながら魔女が肩を落とす。

「ご主人様も楽しみにしていましたから、きっと用事が終わったら来られると思いますよ」

「そうっすよね? 閣下が気にしていた魔界関係の資料も 樹氷 ( ひょー ) ちゃんから借りて用意してあるんすから、来てもらわないと困るっすよ」

親友である樹氷の魔女を気安い愛称で呼びながら、魔女がパタパタと手を振る。

「こんな雪のなかで立ち話も何っすから、塔にご招待するっすよ。閣下が迷っても困るし、しばらく結界は開けておくっす」

魔女が片手を振ると、雪の上に氷の灯明が現れ、新雪の上に歩きやすい道ができる。

「凄いですわ!」

「ぐれいと~?」

「魔女のヒトはとってもとっても凄いのです」

カリナ、タマ、ポチの三人がそれを見て目を丸くした。

その様子に自尊心を刺激されたのか、得意げな顔で「それほどでもあるっすよ!」と言いながら、皆を先導して塔へと歩き出した。

◇

「う~ん」

賢者の塔の図書館で、ペンを上唇と鼻で支えたアリサが天井を見上げて唸る。

アリサの横で文献を読み返していたヒカルも、「原始魔法から現代魔術への変遷と相違」という研究テーマの難解さに頭を悩ませているようだ。

「ミーア達は進んでいるのかしらね?」

「朝食の後にゼナから少し話を聞いたんだけど、無詠唱は今のところ資料が少なすぎて無理だから、詠唱短縮スキルの使用/不使用の違いを体感で確認するのから進めているって言ってたわよ」

「なるほどね~。やっぱ、どの課題も伊達に百年以上未解決じゃなかったわけだわ」

そう言って嘆息したアリサが、「変遷と相違」のうち、資料から類推できそうな変遷部分にターゲットを絞って研究する事を提案した。

「過渡期はあるけど、普通の傾斜じゃなくて、階段みたいに段階的に普及していっているのね」

「伝播が段階的なのは、地図で見た限り情報の伝達速度や国境で止まっているからよね」

二人が描き写した大陸地図に、伝播した年代を書き込み、年代別の国境をサトゥー謹製のカラーマーカーで描き込んでいく。

そして、視覚化された情報から、幾つかの物事が読み取れた。

「それを遡っていくと、始点はオーク帝国の北部か『竜の谷』あたりか……」

「竜神様かな?」

「もしくはオーク帝国が独自に開発したか……」

前者なら竜神が現代魔術の始祖として神話や伝説で語り継がれているはずだ。

魔女は魔神こそが始祖だと言っていたが、二人が調べた限り、それを示唆する資料はあれど、明確に肯定する資料は皆無に近い。

「相違関係はほとんど資料がないけど、私達が使ってみた限りだと全然別モノよね」

「うん。原始魔法は現代魔術に比べて、魔力は異常に浪費するし、発動までに時間が掛かりすぎるけど、スキルがない系統の魔法を使った時みたいな頭痛や吐き気はないもんね」

アリサの発言にヒカルが同意する。

二人はサトゥーに指南されて、簡単な原始魔法の発動に成功していた。

もっとも、長時間の集中の末に「なんとか発動できる」程度なので、実用性は皆無と言える。

「オーク帝国関係は資料が少ないんだよね」

「それは仕方ないよ……」

ヒカルが寂しそうに微笑む。

「ご主人様に言って、王都地下のリ・フウか公都地下のガ・ホウ辺りに紹介してもらって、インタビューするっきゃないかな~」

「――ガ・ホウ? ガ・ホウは公都地下にいるの?」

ヒカルに肩を掴まれガクガクと揺らされながらアリサが首肯する。

「知り合い?」

短距離転移でヒカルから脱出したアリサが問う。

「うん、ガ・ホウは誇り高いオーク帝国の『 鷲獅子騎士 ( グリフォン・ライダー ) 』。戦争が終わってからは、旧王都の浄水設備の管理をお願いしていたの。私が眠りについた後は、小さな自治区に引っ越して平和に暮らしていたはずだったんだぁ。でも、目覚めた後に訪ねた自治区にはオークは誰もいなくて、セテ達に聞いたら400年前の戦争で自治区にいたオークは皆殺しにされちゃって――」

アリサに聞かせるでもなく、ヒカルは過去を回想する。

「でも、良かった、生きててくれたんだ……」

ヒカルが万感の思いを込めて呟く。

アリサはヒカルの肩をポンポンと叩き「今度、会いに行こ」と声を掛けた。

「――ご主人様?」

眷族としてのつながりから、サトゥーの覚えた違和感が伝わったアリサが顔を上げる。

「どうしたのアリサ」

「敵が網に掛かったみたい。囮かも知れないから、私達は『黄金の心臓』の本拠を見張ってるナナの応援に行きましょうか」

「そうだね」

敵に感知される事を警戒したアリサとヒカルの二人は、転移ではなく裏路地を走って本拠を目指した。

◇

「――ちっ」

都市国家カリスォークに転移した小男が、転移終了するなり舌打ちをする。

「転移感知結界に、再転移封じまで――全ては貴様の掌の上という訳か、イレギュラー!」

「ご明察――って言いたいところだけど、影武者って事は本命は別の場所って事かな?」

小男――影武者の正面に出現したサトゥーがキザな口調で尋ね返す。

「言うと思うか? ――<開け>」

影武者がアイテムボックスの黒い空間から、禍々しい楕円球体を取り出した。

「死――」

影武者が言い終わる前に、サトゥーが縮地で懐に飛び込み、一瞬で無力化した上で楕円球体をストレージに収納してみせた。

『バカめ』

エコーがかった声が、影武者の胸元から聞こえた瞬間、白い閃光と上級魔法並みの爆発が周囲にあふれかえった。

『くかかかかか、首領殿の言う通りの行動で嗤わせてもらったぞ、イレギュラー』

消し飛んだ影武者のいた場所には、一体の 怨霊君主 ( レイス・ロード ) が浮かんでいた。

『「クァクの呪炎」に耐えられる生き物などいない。あの世で後悔するがいい、イレギュラー!』

瓦礫と化した都市が炎に沈む。

◇

「こっちはハズレっぽいわね」

「うん、怪しげなヒトはいるけど、普通の怪しさだね」

「同意と告げます」

『黄金の心臓』の本拠近くの屋根の上で、アリサ、ヒカル、ナナの三人が、そんな言葉を交わす。

「――いた」

ヒカルが短く呟く。

「まじで? どこ?」

「視界内に新たな人物はいないと告げます」

キョロキョロするアリサやナナには答えず、ヒカルは杖を構える。

「 神威巨槍 ( ディバイン・ランス ) !」

立ち上がったヒカルの傍に、電柱サイズの巨大な槍が五本現れた。

「いっけぇええええええええええ!」

巨槍が誰もいない地上に向かって降り注ぐ。

通行人が悲鳴を上げて、地面に刺さった巨槍が作り出した白い靄の向こうに逃げていく。

「――敵わんな。無茶しおるわ」

緑色の肌をした小さな手で巨槍を受け止めた小男が、土煙の中から姿を現した。

「なあなあ、どうやって見つけたん? 転生者や勇者が神から貰った鑑定スキルでも見破られへんはずやねんけど」

「あんた、緑ね。珍しく緑色以外の衣装だから気付かなかったわ」

ヒカルの言葉に、小男はきょとんとした顔で自分の肌を見る。

「ちゃうで?」

「誤魔化しても無駄よ。魔素迷彩や 擬体 ( アバター ) なんて能力を使えるのは緑の上級魔族くらいよ」

ヒカルの決めつけを、小男は否定する。

「ちゃうちゃう。わいはオリジナルや」

「――オリジナル?」

「緑に 擬体 ( アバター ) の作り方を教えて、主さんから 貰 ( もろ ) うた『盗神の装具』をやったんはわいや」

小男が目深に被ったフードの下で口角を上げる。

「まあ、そんな事はええやん。イレギュラーのおらへんところで『神退者』の子に会えたんは僥倖や」

「アリサには手出しさせないと告げます」

小男の視線からアリサを守るように、大盾を構えたナナが移動する。

「今のところは手出しせえへんから安心してえな」

警戒心を解く様子のないナナに嘆息し、小男はそのまま会話を続ける。

「で、アリサはん。世界の半分をやるから、わいらの陣営に来おへん?」

「ばかばかしい。今時、そんなバッドエンド直行の選択肢を選ぶヤツがいるわけないでしょ」

「さよか。なら、世界全部でどうや? 富も名声も美食もええ男も、なんでも思うがままや。嘘やないで、神々を蹂躙できる魔法使いにはそれくらいの価値はあるさかいな」

「何度尋ねても無駄よ。私がご主人様の傍から離れる事はないわ!」

小男の誘惑を、アリサは小揺るぎもせずに拒否した。

「大した 気っ風 ( きっぷ ) のよさや。でもな、わいの方についたら、愛しい人の心も手に入るで? どうや? 浮気な男が自分だけを愛するようにしたるで」

「ふんっ、アリサちゃんを馬鹿にするのもいい加減にしなさい! ご主人様――サトゥーの心はアリサちゃんの 実力 ( ジツリキ ) でゲットしてみせるわ!」

アリサが男前に叫ぶ。

「さよか。まあ、頑張り」

交渉が不首尾に終わった小男が踵を返す。

「わいはイレギュラーが来る前に帰らせてもらうわ。あんたらがココにいるって事は、吸血蚊計画は潰したあとやねんやろ?」

「逃がすと思う? 空間魔法使いからは逃げられると思わないでよね」

「元勇者からもね」

アリサの横に、ヒカルが並ぶ。

「緑に詳しいと思ったら、あんたが王祖の嬢ちゃんか。王都に引きこもってイレギュラーにはめったに同行せえへんって話やったけど、このタイミングで来るか」

小男がぼやく。

「まあ、ええわ。勘違いしてそうやけど、 擬体 ( アバター ) が作れるんは自分だけやないで――」

そう言って身を包んでいたボロボロの外套を脱ぎ捨てる。

「嘘――」

「やっぱりか――」

称号を見たヒカルとアリサが、正反対の言葉を呟いた。

◇

「まさか、あんなモノを隠し持っていたとはね。最初のは囮だったわけだ」

燃えさかる瓦礫の中から、サトゥーが姿を現した。

煤や埃で汚れていたが、生活魔法を使うと無傷の身体が現れる。

「イタチ帝国から手に入れていたのかな?」

『出所など知らぬ』

「そうか。なら、後で軍師にでも尋ねてみるよ」

サトゥーの平静な様子に、レイス・ロードが訝しげに凶相を歪めた。

『どうした、イレギュラー。貴様が後手に回ったせいで、この都市に住む幾千の民が非業の死を遂げたのだぞ? 後悔や怒りはないのか?』

自分の行いを棚に上げて、レイス・ロードがサトゥーを糾弾する。

「――後悔? 特にないけど?」

『勇者ともあろう者が、己の不手際を認める事もできんのか!』

レイス・ロードが理不尽に怒る。

「不手際なんてないからね」

『――何?』

「気付いていないのかな? あの小男が転移してきた感知結界と連動して、異界に引きずり込まれていた事に」

『なんだとっ』

やれやれと言いたげなサトゥーの言葉に、レイス・ロードが周囲を見回す。

大量虐殺時に必ずある濃い瘴気も怨霊の大量発生もなかった。

『では、誰も死んでいないというのか?』

「そうさ。シガ王国の王都でわざわざ自爆テロをして、ここでのテロを示唆してくれたからね」

サトゥーが腰の聖剣を抜く。

「首領の目的を――」

『ぬおぉおおおおおおおおおお』

サトゥーの質問を無視してレイス・ロードが吠えると、彼の周囲が黒く歪み、周囲の炎や瓦礫を吸い込み始めた。

自爆技らしく、レイス・ロードの身体も漆黒の奈落へと吸い込まれ始めている。

『地獄の底へ案内してくれる。我と共に滅べ、イレギュラー!』

「そういうのは遠慮しておくよ」

サトゥーが聖剣を一閃すると、青い輝きに両断されたレイス・ロードが消滅したが、レイス・ロードが作り出した漆黒の奈落は閉じる様子もない。

「まあ、異界ごと閉じればいいか――」

サトゥーはそう一言呟いて、レイス・ロードの乾坤一擲の技ごと異界を消し去った。

――ん?

「ポチ達の近くに魔物の大群?」

マップを見ると、 魔物調教師 ( モンスター・テイマー ) のホムンクルスが乗る従魔を先頭にした魔物の大群が、都市国家カリスォークに向かって移動中のようだ。

ポチ達が訪問している魔女の塔が移動経路の途中にあったらしい。

◇

「にゅ!」

タマが声を上げるのと同時に、魔女が領域内に侵入した魔物に気付いた。

「結界を開けっぱなしにしていたせいか、魔物が入り込んだみたいっすね」

渋いお茶と和菓子の組み合わせに舌鼓を打っていた面々が、魔女の言葉に腰を上げる。

「退治して参りましょうか?」

「わたくしも退治に参加しますわ!」

「いいっすよ。お客さんに働かせるのは悪いっす」

魔女が壁際に掛けたとんがり帽子と長杖を手に取る。

断られたリザとカリナは残念そうだ。

「だいじょぶ~?」

「おっきな魔物が沢山いるのですよ?」

木々の向こうに見えた魔物を見てタマとポチが心配そうな声を上げた。

「安心して見ていてくださいっす。自分が支配する源泉の近くにいる魔女は、無敵っすから」

魔女が屋上に駆け上がる。

「冬で魔力が余ってるから、丁度いいっす! ■■ 降雪、■■ 竜巻、■■ 落雷、連続で使うと魔力効率がいいんすよねぇ~」

「おう、ぐれいと~?」

「すごくすごいのです!」

源泉の魔力を潤沢に使える魔女が、次々に魔法を連打して魔物達を屠っていく。

大型の魔物に随伴する小型、中型の魔物は吹雪や雷で動きを止めたが、傷ついただけの大型の魔物四体は雪をかき分けながら塔へと向かってきた。

「げげっ、あれだけの魔法の雨でも死なないなんて頑丈っす!」

魔女のぼやく視線の先で、大型魔獣一体の額を輝く弾丸が撃ち抜いた。

「ルルずるい~」

「ポチも一発だけ撃っちゃうのです」

「タマも~」

愛剣を抜いたタマとポチがノータイムで魔刃砲を撃ち、二体の大型魔獣の頭を撃ち砕いた。

「さ、最後の一体はわたくしの獲物ですわ!」

カリナが愛用の篭手に魔力を溜める。

その間にも、最後の大型魔獣は歩を進め、塔の間近へと迫る。

「ま、まだっすか? あたしがやっちゃった方が――」

「溜まりましたわ! 行きます!」

じれた魔女の言葉を遮って、カリナの魔刃砲が発射され、大型魔獣の頭部に命中した。

「おし~」

「クンフーが足りないのです」

「集束が甘いですね。それにもう少し速く魔力を練らないと実戦向きではありませんよ」

「ちょ、そんな事言ってる場合じゃないっす! ■■ 落雷!」

魔女の魔法で大型魔獣が悲鳴を上げて足を止めたが、倒すには至らず、怒りの篭もった咆哮を上げて魔女達を睨み付けた。

「カリナ様、こうです」

魔女と対照的に落ち着いたリザが、槍をくいとしゃくると、赤い光弾が渦を巻いて吹雪の空を突き抜け、大型魔獣の頭部を吹き飛ばした。

その後もリザが講釈を続けていたが、あんぐりと大きな口を開けて驚いていた魔女はそれを聞いていなかった。

「あたし、源泉を支配する大魔女様なんすけど……」

ぼやく魔女の脳裏に、魔物達の動きが支配領域を通して伝わってくる。

「げげげ、魔物が全部こっちに向かってくるっす」

正確には先頭のテイマーが操る従魔を除いてであるが、神ならぬ身の魔女にそんな事は分からない。

「次はもっと活躍してみせますわ!」

「それは、ちょっと無理みたいです」

カリナの宣言を否定しながら、ルルが空を指さす。

「な、なんすか、アレ!」

空から降ってくる幾百幾千もの榴弾のごとき光弾の雨が、吹雪を蹴散らして魔物達を撃ち抜き、雪原の雪を盛大に巻き上げた。

「皆、怪我はないかい?」

「ご主人様」

「この間のテロリストの一人がカリスォーク市に魔物の群れをぶつけて、オレ達を攪乱しようとしていたみたいだね」

空から現れたサトゥーが、魔女に挨拶して窓から入ってくる。

「では、カリスォーク市に敵の首魁が?」

「ああ、そうみたいだ。今、アリサから救援信号が来たよ」

「案内するる~?」

タマが影に半身を沈めてサトゥーを招く。

「頼むよ、タマ」

「あいあいさ~」

「魔女さん、すみませんがお話は後日、日を改めて――」

そう一言告げて、サトゥーはタマと共に影の中へと身を投じた。

※次回更新は 8/19(日) の予定です。