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16-61.賢者の塔(9)

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16-61.賢者の塔(9)

※2018/8/27 誤字修正しました。

※2018/8/27 一部修正しました。

サトゥーです。大学の頃はレポートを書く事が多かったのですが、社会人になってからは社外イベントにでも出ない限り機会がなくなりました。まあ、プレゼン資料を書く事はそれなりにあるのですが……。

◇

「――サトゥー君への質問は以上かな? では、決を採る。サトゥー君が提出した『生物から 不死生物 ( アンデッド ) への変遷と不可逆性の否定』についての論文を受理する事に異論がある者は挙手せよ」

レポートを完成させたオレは賢者の塔に提出に来たのだが、レポートに目を通した賢者カリューの号令で、急遽理事会が招集され、そのまま論文発表会のような事をさせられる羽目になった。

レポートの蘇生魔法について触れた箇所だが、遙か昔の賢者がカリオン神に実在の可能性を質問して否定されていたそうで、特に追及もなくスルーされた。

なお、検証に用いた「 不死生物還元 《 アンデッド・トゥ・ライフ 》 」は禁呪指定となったが、せっかく作った呪文なので、「開発者不明」と記述する事を条件に、賢者の塔の「封印庫」に収録してもらう事になっている。

「異論はないようだな。では、論文を受理し、サトゥー君に博士の称号、助手のセーラ君に修士の称号を授与する」

「――異議あり!」

論文発表時に一番精力的に質問というか論戦をふっかけてきた太った博士が立ち上がって叫んだ。

「不服かね、パドル博士?」

「不服だ!」

オレとしては論文が認められればそれでいい。

賢者の塔の称号でもめて時間を浪費するくらいなら、無しでも問題ない。

こちらから辞退しようと口を開くより早く――。

「これほど偉大な論文の対価が博士では不足だ!」

――あれ?

「過去の例を挙げるまでもなく、『未解決の議題』を解いた者には『博士』ではなく『賢者』の称号を与えるべきだろう!」

太った博士の叫びは、盛大な拍手をもって支持されてしまった。

賢者の称号と共に、賢者カリューから「賢者の塔」の責任者の地位も渡されそうになったが、それは固辞し、賢者の塔の理事に就任するという事で収めてもらった。

なお、正式な授与式や祝賀会は明日執り行われる予定だそうだ。

>称号「博士」を得た。

>称号「賢者」を得た。

◇

「閣下、『未解決の議題』の解決、おめでとうございます」

カリオン中央神殿に到着すると、厳格な顔をした神殿長を始めとした高位神官達と巫女マイヤーに迎えられた。

賢者カリューの遣いが先に報告してくれていたようで、すでに儀式の準備が整っており、そのままカリオン神と交神を行う事になった。

『――神よ。我らが崇める思慮深き神よ』

巫女マイヤーの呼びかけに応え、天から明るい光が降ってきた。

心地よい朱色の光だ。気のせいか、前に浴びた光より輝いている気がする。

恍惚の表情をしていた巫女から表情が抜ける。

トランス状態に入ったようだ。

『……えらい』

カリオン神からの言葉は一言だけだったが、同時に届いた言葉にならない言葉で、「祝福」「称賛」「満足」といった感情が流れ込んできた。

『あげる』

朱色の光の中に、濃い朱色の煌めきが生まれ、そのまま本の形に結晶化する。

AR表示によると「叡智の書カリセフェル」という「神授の宝具」の一種らしい。

本の装丁には朱色の「知泉石」という見知らぬ宝石が嵌まっていた。

後で分かった事だが、この本には既存の魔法の呪文が調べられる機能があったので非常に便利だった。

もっとも、オレが自作した魔法の過半数が収録されていなかったので、完全収録という訳ではないらしい。

それでもオレの知らない魔法が沢山載っていたので、暇を見つけては使用して魔法欄に登録していこうと思う。

>称号「カリオンの聖者」を得た。

>称号「カリオンの使徒」を得た。

>称号「司書」を得た。

◇

「サトゥー君の試練達成と『未解決の議題』の解決を祝って、くぁんぱーいっす!」

部屋の中に乾杯の声と杯が打ち合わされる澄んだ音が響く。

賢者の塔でレポートを提出し、カリオン中央神殿で卒業証書のような試練終了認定書とやらを貰った帰りに、「氷原の魔女」さんの塔に報告に寄ったところ、酒好きの魔女さんの提案で宴会が始まったのだ。

「まさか、『未解決の議題』の一つを解くとは……サトゥー殿は武人としてだけではなく、学者としても卓抜した才能をお持ちなのですね」

そんな風に「樹氷の魔女」の弟子ラケル君が絶賛してくれる。

それは良いのだが、トロンと酔った目でオレの手を握って、熱い視線を向けるのは、貞操の危険を感じるので止めてほしい。

アリサやヒカルに加えて、最近はシスティーナ王女まで、わくわく顔を向けてくるしね。

「まったく、すごいさね。ラケルもペンドラゴン卿を見習うんだよ」

「はい、師匠!」

彼の師匠である「樹氷の魔女」も一緒だ。カリナ嬢を超える立派なバストをしているが、ウェストサイズもグレートなので、首にむっちりと太い腕を巻き付けて胸を押しつけられても嬉しくない。

「あたしらも負けてられないっすね、 樹氷 ( ひょー ) ちゃん」

「まったくさね」

二人の魔女さんが酒杯を重ねながら頷き合う。

「源泉に縛られてなかったら、自分でトキスォーク王国まで行くんすけどね~」

「あそこの遺跡調査には放蕩者を代わりに行かせたって言っていなかったかい?」

「そうっすよ。遺跡調査に行ったシガン君が、早く戻ってこないっすかね~」

――シガン?

魔女さんの口から意外な人物の名前が出てきた。

そういえば、「賢者の塔」に来た時は、彼の調査をしようと思っていたのに、別の興味深い事が多すぎてすっかり忘れていた。

「もしかして、シガン・サガ氏とお知り合いですか?」

「うちの塔に出入りしている学者っすよ。サトゥー君も知ってるんすか?」

「いえ、直接お目に掛かった事はありませんが、トキスォーク王国の知り合いが、シガン殿が吸血鬼騒動後に行方不明になっていると言っていたので……」

「きっと無事っすよ。シガン君は気配を消すのが上手かったから、そう簡単に殺されたりしないっす」

「あの子は地図を読むのが下手だったから、迷子にでもなっていそうだね」

二人の魔女さん達はシガン・サガ氏の死亡を信じたくないようだ。

内心では分かっているようだし、後日、トキスォーク王国から彼の死亡通知を出しておくとしよう。

「そういえば、シガン氏は何を研究されていたんですか?」

「シガン君は魔神の封印について研究していたっすよ」

――げっ、マジか。

「もしかして、封印を解く方法をご存じだったり?」

「神々の封印を解くなんて無理っすよ」

シガン氏は魔女さんと違って魔神信奉者というわけではなく、「魔神を封じるほどの結界があれば、魔王達を封印するのも簡単だろう」という理由で研究をしていたそうだ。

「魔神様が封印されている魔界へは魔界ゲートを通っていくって言われているんすけど、それを裏付ける資料がどこにもないんっすよね」

なので、今ひとつ信憑性に欠けるそうだ。

「その魔界ゲートっていうのは、誰が言っていたんですか?」

「シガン君の知り合いっすよ。小柄なおっさんで、シガン君の同郷の人っす」

シガン氏と同郷という事は、サガ帝国の人間で間違いないだろう。

「何ヶ月か前に、さっき言っていたシガン君の所に、トキスォーク王国の調査を依頼しに来てたんすよ」

「あの変な訛りのサガ国語を話す小男か……あいつはどうにも好かん」

「ラケル君は相変わらず、初対面の人をすぐに嫌うっすね」

――変な訛り。

その人物に心当たりがある。

魔女の弟子に魔王の方言をまねた口調で尋ねてみると、「そんな感じです」と答えが返ってきた。

「もしかして、緑色の肌をした人ですか?」

「緑色? 魔物じゃあるまいし、そんなわけないっすよ。普通の肌色だったっす」

――違ったか?

そう思ったが、アリサが小声で「あいつも最初に会った時は、普通の肌色だったわよ」と補足してくれた。

どうやら、アリサ達との激しい戦闘で、化けの皮が剥がれたらしい。

「ラケル殿、先ほどの言葉は、どこの方言かご存じですか?」

「さあ? 私は知りませんが、師匠ならご存じでは?」

ラケル君によると、彼の師匠である「樹氷の魔女」さんはサガ帝国の出身らしい。

樹氷の魔女さんが「間違ってても文句を言うんじゃないよ」と前置きしてから教えてくれた。

「サガ帝国の東にあるキゥーショ地方の寒村があるあたりさね。700年前にオーク帝国との激闘があった古戦場跡や枯れた迷宮遺跡がある場所だよ」

おおよその場所が分かったので酒宴の後に行ってみたが、ごく普通の田舎の村々があるだけで、特に怪しい結社の構成員や隠れ家の類いも見つからなかった。

そのついでに、シガン氏が調査しようとしていたトキスォーク王国の遺跡にも寄ってみた。

遺跡は調査を行なった形跡があり、保存食などの物資を積み上げた跡があった。

残念ながら、碑文らしき石板の過半数が削り取られて情報が隠滅されていたので、魔神関係の新情報はない。

残留物も調査したが、トキスォーク王国を始めとする色々な国の調査団がいたという事くらいしか分からなかった。

まあ、恐らくだけど、例の魔王の差し金だと思う。

◇

「結局、私達の論文は間に合わなかったわね」

「もう半月ほどあったら書けるから、暇な時に仕上げようよ」

孤島宮殿に戻ると、リビングでヒカルとアリサが紙束を整理しながら相談していた。

二人の「原始魔法から現代魔術への変遷と相違」は、変遷まで整理が終わっており、後は相違部分をまとめるだけのところまで進んでいたそうだ。

オレも興味があるので、レポートが書き上がったら真っ先に読ませてもらおう。

「ティナ様達はどんな感じだったの?」

「私達は無詠唱の前段階として、詠唱短縮スキルを調べて詠唱破棄の可能性から探っていました」

アリサの問いにシスティーナ王女が答える。

ちょっと違いが分かりにくいみたいで、魔法系が得意じゃないメンバーが首を傾げていた。

「詠唱短縮」スキルは呪文の変数部分を、プリセットした固定値をスキルによって上書きさせる事で、詠唱を一部省略するのだ。

一方で、「詠唱破棄」スキルは呪文詠唱そのものを省略し、最後の「発動句」だけを唱える事で魔法を発動する。

そして、オレやアリサ、ヒカルが普段から使っている「無詠唱」は、呪文詠唱と「発動句」の両方を省略して魔法を使う。

オレの無詠唱は「メニュー」というユニークスキルによるモノだから例外としても、アリサやヒカルの無詠唱は転生時や転移時に神から貰った「 自己確認 ( セルフ・ステータス ) 」スキルの隠し機能なので、普通の人にも取得のチャンスはあると思う。

神授のギフトとはいえ、「 自己確認 ( セルフ・ステータス ) 」は「神の欠片」由来のユニークスキルじゃないからね。

「ねぇねぇ、ご主人様。今のティナ様の話、アイテムで実現できないかな?」

「ごめん、聞き逃していた」

「もー! ちゃんと聞いててよね。ティナ様、もう一回お願い」

ぷんぷんと口で言いながら怒るアリサがシスティーナ王女に話を振る。

「通常の呪文詠唱で、詠唱後に発動を保留してタイミングを計って発動句を唱える事ができますよね?」

「ええ、戦闘では必須技能ですね」

そういうスキルはないが、これができないとフェイントなどができない為、素早い相手には魔法を当てにくいのだ。

「そこで、その発動前の保留状態を『せーぶ』できる魔法道具を作れないかと」

保留状態をセーブか。

なかなか自由な発想だ。

「面白そうですね。可能かどうかはちょっと分かりませんが、研究してみます」

今ひとつ魔法回路が想像できないが、これが上手くできれば色々と戦術の幅が広がりそうだし、他の人が保留した魔法を発動できたら、一気に前衛陣の強化ができそうだ。

研究してみる価値は十分にあるね。

「クロ様! 大変です!」

わくわくしながら頭の中で回路を考えていると、一人の女性が部屋に駆け込んできた。

いつもは物静かな雰囲気のティファリーザが、珍しく血相を変えている。

「パ、パリオン神国が!」

最後の試練があるパリオン中央神殿がある国だ。

あまり良い思い出のない国だが、一時期は都市核を一つ支配していた事もあったので、無関係とは言えない。

あの都市核は特に必要なかったので、実験終了後に解放済みだ。

「パリオン神国が滅びました!」

おっと、それはびっくり。

※次回更新は 9/2(日) の予定です。

※2018/8/27 都市核周りの文章を修正しました。