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16-66.サガ帝国へ

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16-66.サガ帝国へ

※2018/10/2 誤字修正しました。

サトゥーです。父や祖父の時代は、転勤する同僚を新幹線の駅のホームまで出向いて見送る事が普通だったそうです。微妙に眉唾ですが、今の時代にやったら有名人がいるのかと誤解されそうですね。

◇

「預言?」

「うん、セテが巫女達から直接聞かされたんだって」

孤島宮殿のリビングに入るなり、ヒカルからそんな話を聞かされた。

飛空艇をサガ帝国に向けたオレ達は、パリオン神国での疲れを癒やすために孤島宮殿に戻ってきていた。

「セテ――ああ、国王か。それで預言の内容は?」

「サガ帝国に魔王が出現するんだって」

またか。

昔、公都で巫女長から聞いた魔王出現の預言は全てクリアした後だし、今回の預言は完全に別口だろう。

「パリオン神国の方は預言無しか?」

「うん、尋ねてみたけど、どうしてそんな事を聞くのかって逆に聞き返されちゃった」

ふむ、神々にとってパリオン神国に出現したホムンクルスの魔王が予定外だったのか、それともパリオン神の中央神殿がある場所だから、パリオン神以外の神が神託をしなかったのか、少し気になる。

パリオン神国の人間が機嫌を損ねたせいか、パリオン神からの預言を与えられていなかったみたいだしね。

「ちょっと見てくる」

オレはそう告げて、サガ帝国にユニット配置で移動し、サガ帝国各地のマップを最新の状態に更新して回った。

今のところ、魔王はマップ検索に引っかからない。

サガ帝国の旧都――パリオン神国の巫女さんに行けと言われた場所に、ユニークスキル持ちのホムンクルスを見つけた。

なんとなく「鉱山のカナリア」的な罠臭い感じがしたので、直接接触せずにマーカーを付けるだけにしておく。

必要なチェックを終えて、オレは孤島宮殿に戻った。

◇

「どうだった?」

「今のところ魔王はいなかったよ」

オレはヒカルにそう告げ、ユニークスキル持ちのホムンクルスの件を伝えておく。

他の子達は風呂に入っているようなので、後で伝えればいいだろう。

「罠っぽいっていうのは同感。緑の上級魔族が自分の 擬体 ( アバター ) を使って、よくそういう罠を張っていたよ」

珍しくオレの勘が当たったらしい。

でも、なぜか勘が当たって嬉しいというよりは、実は外れているんじゃないかと不安になる。

「――そうだ。イチロー兄ぃ、もう一つ調べてほしいことがあるの」

ヒカルが上目遣いにお願いしてきた。

「いいよ。なんだい?」

「セーリュー市と旧都で風邪が大流行中ってセテが言っていたのよ」

旧都――オーユゴック公爵領の領都だ。

「風邪薬を作ればいいのか?」

オレの言葉に、ヒカルが首を横に振る。

「違うの。本当にただの風邪か調べてほしいの」

「ただの風邪じゃない――インフルエンザとか?」

「うん、そうだったら嫌だなって思って」

「分かった。調べてくるよ」

オレはユニット配置でセーリュー市に行く。

マップ情報を更新してから、マップ検索で状態異常を調べる。

インフルエンザはいない。大流行というわりに風邪を引いているのは人口の一割ほどだ。

――ん?

何かおかしい。

もう一度、状態異常で検索してみる。

該当者数は人口の七割。

悔恨病や焦気病、憤怒病というこっちの世界特有の精神疾患に罹っているようだ。

聞き覚えがない病気なので調べてみると、風邪などで身体が弱った時に、バンシーやフューリー・ゴーストなどのアンデッドを介して罹患する特殊な病らしい。

しかも、どれも「悔恨病:潜伏」のようになっているので、普通の鑑定スキルだとなかなか見分けられないので、現地の人達はただの風邪が大流行したと思い込んだのだろう。

もしくは、本当に風邪が大流行した後に、これらの病に罹ったのかもしれないけどさ。

もっとも、それほど深刻になるような病気じゃない。

悔恨病に罹ると、 うじうじ ( ・・・・ ) 、 くよくよ ( ・・・・ ) して部屋に閉じこもり、焦気病に罹ると、落ち着きをなくし、常に不安になるらしい。憤怒病はとにかくイライラして、周りに当たりたくなる病との事だ。

いずれも、体調が回復すれば、何もしなくても五日から一〇日ほどで完治するので、これといった専用の治療法は存在しない。

上級神聖魔法の「 疫病快癒 ( ピュリフィケーション・ウィルス ) 」は効くかどうか微妙だが、中級神聖魔法の「 病気回復 ( リムービ・デシーズ ) 」や水魔法の「 病気治癒 ( キュア・デシーズ ) 」での快癒例があるし、万能薬、エリクサー系などの魔法薬を使っても完治するはずだ。

心配ないとは思うけど、感染源がアンデッドなので、セーリュー市の為政者に伝えておいた方が良さそうだ。

セーリュー伯爵はちょっと苦手なので、彼の娘のオーナ嬢に伝言を頼もう。

自室にゼナさんの弟でオーナ嬢の婚約者であるユーケル君が一緒なのが気になるが、さすがに昼日中から婚前交渉するとは思えないので、クロの姿に変装してからお邪魔する事にした。

「ユーケル」

「オ、オーナ様、いけません! 私達はまだ――」

転移した先では、ユーケル君がオーナ嬢に押し倒されているシーンだった。

情熱的な事だ――いや、違う。

「目を覚ませ」

オレはオーナ嬢に水魔法「 病気治癒 ( キュア・デシーズ ) 」を使う。

彼女はサキュバス由来の誘愛病――悔恨病、焦気病、憤怒病などと同系列のアンデッド由来の精神疾患に罹っていたのだ。

「何者――クロ様!」

「ユーケル? わ、私は何を――」

ユーケル君に庇われた背後で、オーナ嬢が上気していた顔を青ざめさせていた。

彼女のケアはユーケル君に任す事にして、精神魔法の「 平静空間 ( カーム・フールド ) 」で彼女の精神を強制的に立ち直らせる。

「聞け――」

オーナ嬢の瞳から不安そうな感じがなくなったのを確認してから、セーリュー市に蔓延するアンデッド由来の病について伝える。

「やはり、ただの風邪ではなかったのですね」

オーナ嬢が悔しそうに呟く。

彼女は風邪の感染傾向がいつもと違う事に気付いていたらしい。

普通なら体力のない下町の方から感染が広がるのに、今回は富裕層の多い内壁の内側から感染が広がったそうだ。

「ありがとうございます、クロ殿。後の事は私達にお任せください」

妙に気合いの入ったオーナ嬢に首肯し、念のために万能薬や下級エリクサーを30本ずつ渡しておく。

ついでにエチゴヤ商会の支店にも寄って、万能薬や精神の安定を促す香を納品しておいた。

◇

「どうだった、サトゥー」

入浴を終えた皆が集合していたので、ヒカルがオレの呼び名を改めた。

「普通の風邪だけじゃなかったよ」

オレは見聞きしてきた事をヒカルや仲間達に伝える。

セーリュー市と公都だけじゃなく、ムーノ市やオレが太守を務めるブライトン市でも、同じ病が蔓延していた。

まだ広がっていないが、王都や迷宮都市でも流行の兆候があったのだ。

なお、ブライトン市は魔力が余っていたので、都市核の間に寄って住民達の病気対策に使えそうな儀式魔法を発動してある。わりと必要魔力が多いし、気休め程度の効果しかないらしいが、魔力を溢れさせるよりはいいだろう。

セーリュー市だけなら偶然という線もあるが、同時多発となると何者かが裏で暗躍している可能性が高い。

「――って、あの黒幕しかいないでしょ」

「ああ、それはオレも考えたんだけど、吸血蚊にくらべて目的が謎すぎないか?」

アリサの突っ込みにそう返す。

「『意味が無いことはしない』と考えさせてミスリードを誘っているのかも」

それはありそうだ。

「ブライトン市でやった事を伝えて、他の都市でもさせてみるか?」

「待って、それこそが相手の狙いかも」

ヒカルが異議を唱える。

「都市核の魔力を浪費させる事が目的って事?」

「うん、オーク帝国にいた頃に、フルー帝国の軍師が難攻不落の城塞都市を落とすのに使ってた策がそんな感じだったの。完全に同じじゃないけど、すっごく似てる」

都市核は万能に近い多彩な機能を持つが、どんな機能を使うにも源泉からの莫大な魔力を必要とする。

魔力を浪費させて、都市核を使って打てる手を減らすのが目的というのは、すごくありそうだ。

「分かった。諸々の情報を伝えて、後の判断は国王に丸投げしよう」

「いいの?」

「いいんだよ。こういう事を悩むのは国主の仕事だ」

それに、オレよりは国王や宰相の方が最適な判断をしてくれるはずだからね。

一応、手伝ってほしい事があったら相談するように伝えておく。

◇

「サトゥー様、そろそろ飛空艇が前方にサガ帝国の旧都を捉えました」

「分かった。着替えたら飛空艇の方へ行くよ」

飛行服の 家妖精 ( ブラウニー ) にそう答え、自室へと戻る。

あれから五日。

ヒカルによると、国王は都市核での儀式魔法は使わず、国庫の備蓄食糧や薬品を解放して貧民層の食糧支援をする事で、病気への抵抗力をアップさせる対処を行なったらしい。

風邪を初期症状としたアンデッド由来の病はシガ王国のみならず、世界各地で広がった。

明らかに人為的なものだが、それを成している人間は巧妙で、蔓延前に対処できたのはエルエット侯爵領とビスタール公爵領の領都を含む僅かな都市だけだったらしい。

魔王の預言に関しては、第一報以降進展はない。

ヒカル経由で王都にいるメリーエスト皇妹とトリーメヌス皇女から、非公式にサガ帝国の魔王を倒してほしいと頼まれたくらいだ。公都から来ていたリーングランデ嬢からは、魔王討伐に加勢すると提案があったそうだが、そっちは丁重にお断りしている。

「ご主人様、礼服です」

「ありがとう、ルル」

ルルが衣装部屋から取り出してくれた礼服を受け取る。

「お手伝いします」

すすすっ、と自然な動きで、メイド服姿のアリサが寄ってきて、オレに手を伸ばす。

「ルル、上着のボタンをお願い。ベルトを外すのはわたしがやるから――」

息をするようにセクハラ行動を取るアリサの頭に拳骨を落として部屋の外へ追い出す。

いつの間に入り込んだのやら。

「ルルも着替えの手伝いはいいよ」

「は、はい……」

微妙に残念そうなルルの行く末が少し心配だ。

着替えを終えたオレは、ストレージから取り出した幾つかのアイテムを装備していく。

パリオン神国の一件で源泉との繋がりが絶たれて魔力の回復ができない事があったので、紅貨を用いた携帯型の聖樹石炉を組み込んだベストを用意してみたのだ。

ストレージは問題なく使えるとおもうけど、空間魔法やアイテムボックスを使用不能にする手段があるので、念のためにね。

もちろん、これらの装備は他の子達にも与えてある。

廊下に出ると、リザが待っていた。

「ご主人様、サガ帝国への出征にはぜひお供させてください」

出征って……。

「オレはパリオン神の試練を受けに行くだけで、戦いに行くわけじゃないよ」

「ですが、先日の増殖魔王を使って仕掛けた相手が待ち構えているのではありませんか?」

うん、たぶん待っていると思う。

でも、だからこそ、初手はオレが一人で立ち向かいたい。

「私ではまだご主人様のお役には立てませんか?」

槍を構えて敵と対峙した姿からは思い浮かばないような儚げな感じだ。

「リザにはいつも助けられているよ」

オレの言葉は彼女の求めるモノではなかったらしく、オレを見つめていた視線が下を向く。

「リザ――」

下を向くリザの顎に手を添えて上を向かせる。

「――オレはリザが頼りないから、待機を命じるんじゃないよ」

実際、夢幻迷宮やパリオン神国で魔王すら倒せる事を証明している。

今の彼女達が敵わない相手は、狗頭や猪王なんかの別格の大魔王くらいのはずだ。

神々でさえ、不意を突けばダメージを与えられる事をアリサが実証した。

「今度の相手は真意が読めない。どんな手で来るか分からないから、リザやアリサに後詰めを任せたいんだ」

リザがオレを見つめる。

オレの言葉が単なる慰めか、本心からの言葉かを見極めているかのようだ。

「オレが罠にはまって困った状況になったら、助けに来てくれるかい?」

「……はい、ご主人様、その時はこの命に懸けてお助けいたします!」

少し逡巡した後、リザが力強い声で承諾してくれた。

◇

「あら? リザさん、何かいい事でもあったの?」

リザと一緒にリビングへ入ると、アリサが声を掛けてきた。

「はい、アリサ」

「――へ? マ、マジで?!」

「むぅ」

リザの返答が意外だったのか、アリサとミーアが顔を見合わせる。

「マスター」

ナナの声に振り返る。

ぱふんと効果音がでそうな、柔らかい感触に包まれた。

「あーー!」

「ぎるてぃ!」

無表情のままオレをハグしたナナを見て、アリサとミーアが大きな声で抗議する。

「どうしたんだい、ナナ?」

「無事の帰還を祈願するおまじないだと告げます」

「そうか、ありがとう」

リザと真面目な話をしたせいか、柄にもなく深刻な顔をしていたらしい。

「わたしも祈願する!」

「同意!」

「タマも~」

「ポチだって無事を ガキン ( ・・・ ) するのです!」

年少組が次々に抱きついてくる。

ハグされているというよりは、校庭やアスレチックの はん登棒 ( ・・・・ ) にでもなった気分だ。

「「あ、あの、これはいったい?」」

お茶の用意を持って厨房から戻ってきたルルとゼナさんが、口を揃えて驚きの声を上げた。

オレは張り付いていた年少組を剥がして、ソファーの上に転がしていく。

「サトゥー、どろーん君47号の試作が間に合ったので持っていってください。今回はミト様に手伝っていただいて隠密性と単独行動性能を追求しました」

「サトゥーさん、こちらの聖水もお持ちください。公都に行って巫女長様と二人で作った特別製です」

システィーナ王女とセーラが競うように差し出す餞別を受け取る。

「マスター・サトゥー。本体コアから預かった『身代わり人形』を持ってきた」

コア・ツーが呪われそうな人形を幾つかオレに渡す。

彼女が言う本体コアというのは、オレがダンジョンマスターをしている夢幻迷宮の 迷宮核 ( ダンジョン・コア ) の事だ。

この「身代わり人形」はゲームでよくある「死んだことをなかった事にしてくれる」ような便利アイテムではなく、ポチの黄金装備にある「フィジカル・ミラー・イメージ」と似た、高度な分身アイテムという品だったりする。

必須なわけではないが、使い捨てのアイテムだし、何かの役に立つかと思ってリクエストしておいたのだ。

「 邪念結晶 ( イービル・フィロソフィア ) のお陰で魂魄値と瘴気値は潤沢だから、何か必要なモノがあったら遠慮無く言ってほしいって、本体コアが言っていた」

「ありがとう、コア・ツー」

使い道のなかった「 邪念結晶 ( イービル・フィロソフィア ) 」を瘴気補充のつもりで、少し前に夢幻迷宮の 迷宮核 ( ダンジョン・コア ) に預けていた。

瘴気値だけでなく、魂魄値まで補充できたのは嬉しい誤算だ。

「「マしター」」

ナナの配下の翼人幼女のシロとクロウがパタパタと飛んでくる。

――ぴぴるるるる。

――ちゅいぃ。

シロやクロウと一緒に来たのか、ドリス王女のペットで神鳥のヒスイが飛んでくる。

その背中には王冠を被って赤いローブを着込んだ賢者鼠のチュー太が乗っていた。

どうやら、皆、オレの出発を見送りにきてくれていたらしい。

「なんていうか、最終回の主人公みたいね」

声の方を振り向くと、元鬱魔王で転生者のシズカが、奥の勝手口側で扉に背を預けて立っていた。

「ミトから聞いたけど、また魔王絡みなんでしょ? ここで待機しているから、必要になったら呼んで」

魔王から「神の欠片」を分離する役割を果たすために、わざわざ引きこもっていた異界からやってきてくれたらしい。

「ありがとう、助かるよ」

「礼はいいわ。居候している対価みたいなものよ」

シズカは頬を染めることなくそっぽを向く。

照れ隠しではなく本当にそんな感じらしい。

「それじゃ、行ってくるよ」

「危なくなったら、眷族ぅ~通信ですぐに言うのよ?」

「その時は私やアリサちゃん達と絶対に助けに行きます!」

アリサとゼナさんが明るい感じに言う。

「も、もちろん、その時はわたくしとラカさんも参りますわ」

『うむ、微力を尽くそう』

出遅れた感じでカリナ嬢とラカも主張する。

見送りの言葉をくれる仲間達に返事をしつつ、飛空艇へのゲートへと向かう。

ヒカルは定時報告を聞きに王城に行っていてここにはいない。

元剣魔王の狐っ子は今日も平常運転で、砂漠の異界でヘイロンと遊んでいるそうだ。

「ご主人様……」

「行ってくる」

「――はい」

少し心配そうなリザにそう告げて、ゲートを開く。

「サトゥー様、大変です!」

「イチロー兄ぃ! 大変だよ!」

開いたばかりの飛空艇へのゲートと王都のエチゴヤ商会邸へと繋がるゲートから、飛行服のブラウニーとヒカルが血相を変えて飛び込んできた。

このパターンは前にも覚えがある。

今度はサガ帝国が滅亡した、なんて事はないよね?

※次回更新は、10/7(日) に更新予定です。