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16-68.サガ帝国、帝都の戦い(1)

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16-68.サガ帝国、帝都の戦い(1)

※2018/10/17 誤字修正しました。

※今回はサトゥー視点ではありません。

「思ったより遠い場所に出たわね」

遠くに見えるサガ帝国の外壁やそこから覗く尖塔を見ながらアリサ――黄金騎士レッドが呟いた。

彼女の後ろには黄金色の鎧に身を包んだ仲間達が一緒だ。

暗雲が重くのしかかる帝都の空には何隻もの飛空艇が舞い、帝都上空から地上に向けて砲撃を行なっていた。

「戦闘はもう始まっていますね」

リザ――黄金騎士オレンジが地上から上がる黒煙を眺めながら言う。

今日の彼女は愛用の魔槍ドウマ改三ではなく、攻撃力に優れた竜槍ヘイロンを手にしていた。

「たぶん、移動後にすぐ戦闘にならないように、イチ――サトゥーが配慮してくれたんだよ」

ヒカルは勇者ナナシのスタイルで参戦している。

オリハルコン合金製の糸や大怪魚トヴケゼェーラの銀皮繊維を織った布を用いた勇者ナナシの衣は、重厚な黄金騎士装備にも匹敵する優れた防御力を持つ。

「さすがはご主人様です」

リザが誇らしげに呟いた。

「とりま、突撃前に『 遠見 ( クレアボヤンス ) 』で現状を確認するわ」

「念のため、カウンター対策しておいたら」

「そうね。魔王と交戦中のサガ帝国の首都を調査するんだし、やっておくわ」

アリサが兜の面防を上げ、耳元の飾りに魔力を流す。

それだけで、サトゥーが作った対探知系のカウンターを防ぐ魔法回路が起動する。

「それじゃ、行くわよ」

太陽珠が嵌まった杖を構えて目を閉じた。

アリサの魔法が発動し、魔法的な視線を帝城へと届けた瞬間、真っ白な光が視界を染める。

それと同時に、先ほど魔力を流した耳飾りが、パチリと火花を飛ばした。

「――おわっ」

火花による静電気のような刺激にアリサが魔法を解く。

「カウンターだわ」

「大丈夫?」

「もっちのロンよ! さっきの感触だと都市核の阻害障壁ね。この程度のカウンターで阻めるほど、アリサちゃんの空間魔法は柔じゃないって教えてあげるわ」

「待って」

腕まくりのポーズをするアリサを、ヒカルが止めた。

「都市核の阻害障壁って事は、魔王への対策に張っている可能性が高いわ。ヘタに破ったら、魔王へのアシストになっちゃうかも」

「それもそうか……」

アリサが少し考えてから、仲間達を見回す。

「ポチ、悪いけどリュリュと一緒に帝都の周りをぐるりと一周してきてくれない?」

「はいなのです」

ポチ――黄金騎士イエローがこくりと頷く。

彼女の腰に下げられた白い剣は、下級竜ボウリュウの牙を原始魔法で加工した竜牙剣だ。

「リュリュ行くのですよ」

――LYURYURYUUU。

ぴょんっと背に飛び乗ったポチが呼びかけると、白い下級竜リュリュが嬉しそうに鳴いて空へと飛び上がる。

『帝都に近付き過ぎちゃだめよー』

アリサが空間魔法の「 戦術輪話 ( タクティカル・トーク ) 」経由でポチに注意する。

『らじゃなのですー』

「らじゃなのですー」

ポチの返事は僅かな時間差をもって、戦術輪話と音声の両方から届いた。

「タマもいく~?」

「そうね。帝都内に潜入して、魔王の位置と魔王以外にも敵がいるか探ってきて」

「にんにん~」

タマ――黄金騎士ピンクが忍者のポーズで影に沈んでいく。

「出す?」

ミーア――黄金騎士グリーンが太陽珠が嵌まった杖を取り出しながら尋ねた。

「今回は市街戦だし、杖艦は止めておきましょう」

「アリサ、浮遊砲台も出さない方がいい?」

ルル――黄金騎士ブラックが携帯用の加速砲を肩に担ぎながら確認する。

「次元砲艦はまずいけど、浮遊砲台くらいならいいんじゃない? 都市までの移動にも使えるし」

光船の次元潜行機能と同種の魔法装置を搭載したルル用の砲艦は、惑星上での戦闘をするためというよりは、虚空――宇宙空間に生息する怪生物の排除用に開発されたものだ。

惑星上での運用も可能だが、自重無しにサトゥーの技術を詰め込まれたため、「竜や魔王が暴れた」時以上の被害が広がる事が懸念される。

残念ながら、対神用兵器は搭載していないので、あくまで通常生物用の戦闘艦だ。

「市街戦という事ならば、私も強化外装を装着するのは止めておきましょう。あれは地上での格闘戦には不向きですから」

「一応、パワードスーツみたいなもんだから地上でも使えると思うけど、リザさんくらい基礎能力が高いと足枷みたいに感じるかもね」

アリサがそう言いながら、自動防衛用の浮遊盾や近接防御球を自身の周りに浮かべていく。

「アリサ、私も通常装備のみでよろしいかと問います」

ナナ――黄金騎士ホワイトが鏡面処理を施された大盾を手に尋ねてきた。

「そうね――魔王がヒカルたんよりレベルが高くない限り、使うのはキャッスルだけでいいわ。今回は対神戦じゃないし、実装されたばかりの 御座 《 アブソリュート・スローン 》 は奥の手で取っておいて」

「そちらではなく、次元盾艦は不要ですか?」

「地上じゃ使い勝手が悪いからいいわ」

ルルの砲艦と同種の目的で作られた艦は、惑星上だと防衛の余波による周辺被害が大きいため、アリサは悩むそぶりも見せずに使用を却下した。

『こちら、ポチなのです――』

◇

「外壁塔から光信号――艦長! 南の空から 竜 ( ドラゴン ) です! 白い竜が来ます!」

「魔王に続いて竜だと? あの戦闘狂どもめっ。この忙しいときに戦場を荒らしに現れおって……」

帝都上空に浮かぶ、飛空母艦の艦橋で艦長が憎々しげに唇を歪めた。

「迎撃しますか?」

「バカを言うな。たとえ下級竜でも飛空艇程度の戦力で迎撃などできるはずもなかろう」

下級竜なら、先制の一撃を入れる事は可能かもしれないが、傷を負った手負いの竜に沈められるのがオチだろう。

「ワイバーン隊を出して下級竜の注意を引け! 帝都から引き離すんだ」

「で、ですが、それではワイバーン隊が……」

「分かっている」

下級竜にじゃれつかれたワイバーンが無事に済むことは十中八九ないだろう。

「――艦橋。青尾隊、行くぜ」

伝声管から、飛行甲板にいるワイバーン隊の声が響く。

「帝都を竜の炎で焼くわけにはいかないだろ?」

「……すまん」

決死隊を志願するワイバーン隊の言葉に、艦長は奥歯が割れんばかりに噛みしめた。

飛行甲板から、四騎のワイバーン隊が発進する。

「地上の魔王に変化あり! 巨大な蝙蝠のような魔物を放出し始めました!」

「蝙蝠を出す? まるで血吸い迷宮の『 吸血鬼 ( ヴァンパイア ) 』どものようではないか……」

「艦長、もしかしたら、 吸血鬼 ( ヴァンパイア ) の魔王なのではないでしょうか?」

「これだけの情報で断言するわけにはいかん。鑑定はまだか?」

「未だ、魔王の身体を包む黒い霧に阻まれて判定できないそうです」

帝城の城郭の頂きに鎮座する、ヒトガタの魔王を艦長達は睨み付けた。

飛空母艦から飛び立ったワイバーン隊は、帝都を囲む外壁の近くへとやってきていた。

「あれが白竜か――」

隊長がジェスチャーで編隊を組む部下達に白竜の場所を指し示す。

「――首のあたりに金色の金属? 違う! あれは鎧だ! あれは、あの竜は竜騎士の騎竜なのか!!」

驚く隊長の声は上空の強風に掻き消えた。

『こちら、ポチなのです。空飛ぶトカゲのお肉さん達の背中に鎧のヒトが乗っているのです』

『 飛竜騎士 ( ワイバーン・ライダー ) ね。戦闘になっても面倒だから、無視していいわ』

『らじゃなのです。リュリュ、スピードアップ! なのです』

空間魔法で密かにそんな会話が交わされていたなどと、神ならぬ身の隊長には知る由もなかった。

――LYURYURYUUU。

遠くで白竜が鳴く。

ワイバーン隊の面々と騎獣のワイバーン達が、恐怖に身を硬くした。

だが、白竜は一瞬だけワイバーン隊を一瞥した後、今までの数倍の速度で帝都の外壁沿いに飛び去っていく。

「――速い」

隊長は安堵と共に、白竜の速さに対する憧れや嫉妬の心が湧き上がるのを感じていた。

『追いますか?』

部下がジェスチャーで問いかける。

「追いつける訳がない――『帰投する』」

隊長はジェスチャーで指示を出し、ワイバーンの鼻先を飛空母艦に戻した。

結果的に、それは巨大蝙蝠と激戦を繰り広げる飛空母艦の危機を救う事になる。

◇

「にんにん~」

帝都の外壁上に、黄金騎士ピンクが影の中から現れる。

「広い~?」

一人で調べるには、サガ帝国の帝都はあまりにも広い。

広大なシガ王国の王都と比べてさえ、何倍もの広さがあるのだ。

「ぶんぶんぶん、分身の術~?」

ピンク色のマントが翻り、猫のお面で顔を隠した忍者達が「にんにん」と増えていく。

「手分けして探索するる~?」

「「「あいあいさ~」」」

忍術で増えた忍者達が帝都へと散らばっていく。

ここにそれを突っ込む者はいない。

帝都の中央にある帝城から放射状に伸びるメインストリート。

それを見下ろす背の高い建物の屋根に、忍者の一人がシュタッと着地した。

見下ろす通りは群衆や荷物を満載した馬車で溢れていた。

「痛いっ、押さないで!」

「うるせぇ、どけ!」

「おかーさん、どこおおおおお」

「早く! 早く逃げないと魔王や魔族がくるぞ!」

「いやだ! 魔族に捕まって地獄へ引きずり込まれるのはいやだああああ!」

群衆は怒号や悲鳴を上げながら、我先に門へと殺到している。

「ぱにっく~?」

猫忍者が困った顔になる。

群衆の中で、母親からはぐれた子供が大人達に押されて転んだ。

普通なら、その子には悲惨な運命しか待っていなかっただろう。

だが、それを忍者は見ていた。

「にんにん~」

子供が影に呑み込まれ、忍者の足元から現れる。

「ここ、どこ?」

「屋根の上~?」

不安そうな子供に、忍者はこてりと首を傾けて答えた。

忍者はするりと子供を肩車すると、子供を捜す母親らしき人のもとへと運ぶ。

それは全体から見たら取るに足らない小さな奇跡だったかもしれないが、そんな光景が帝都のそこかしこで繰り返される事になる。

燃える家の中に現れ、絶望に沈む人達を家の外へ――。

逃走する人達を庇って、 血の従僕 ( ブラッド・ストーカー ) の群れに呑まれそうになっていた兵士達に加勢し――。

黒騎士達と 下級吸血鬼 ( バンパイア・スレイブ ) の激戦地では、両手に持った扇子で応援する姿が目撃され――。

ある館では 吸血鬼 ( バンパイア ) に囚われた令嬢達を救出していた。

『タマ、帝都はどんな感じ?』

『『『えきさいてぃんぐ~?』』』

もっとも、偵察役としては少し報告に問題があるようだ。

◇

「エ、エキサイティングって事は地上に魔王以外の魔物も出ているみたいね」

「ん、確認した。吸血鬼」

タマやポチに遅れて、ミーアもまた偵察用の疑似精霊を帝都に放っていた。

「魔王も?」

「待って」

意識を疑似精霊に向けたミーアが指示を出す。

「むぅ、失敗」

ミーアが顔の前で、両手の人さし指で×の形を作った。

どうやら、魔王の近くまで接近した偵察用の疑似精霊が撃墜されてしまったようだ。

「ポチの情報も併せたら、魔王から分離した巨大蝙蝠軍団と帝都に溢れる吸血鬼系の魔物だけみたいね」

「吸血鬼は霧化や獣化なんかで隠れるのが得意だからやっかいね」

吸血鬼との戦闘が豊富なヒカルが顎の下に手を当てて唸る。

「大丈夫よ。さあ、出番よ――ルルお姉様」

「ええ? 私?」

暗雲立ちこめる帝都の空を指さして、「やったんさい」と促す 妹 ( アリサ ) に、 姉 ( ルル ) は戸惑いの声を返した。

※次回更新は、10/21(日)の予定です。