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5-9.影と魔術士

デスマーチからはじまる異世界狂想曲( Web版 ) — ncode.syosetu.com · All chapters

5-9.影と魔術士

※注意! 語尾が気持ち悪い敵が登場します。苦手な人はスキップしてください。

※4/23 改定版です

※8/16 誤字修正しました。

サトゥーです。ホラー映画は苦手なサトゥーです。

お化けや幽霊は平気なのですが、恐怖に引きつる登場人物達の顔が怖いのです。

◇

突然湧いた敵、それはさっきの梟のいた方向だ。

そこには梟の背後に伸びる影から、湧き上がってくる黒いローブの人影。フードが付いた袖口の長いローブのせいで顔が見えない。

「迎えに来たのだよ、ミーア」

横にいたミーアがビクッと震える。

「……嫌」

猫背気味のこの男が魔術士で間違いないだろう。さっきの梟が男の肩に留まる。ペットか使い魔か?

オレは横にいたミーアを背後に庇い、ステータスを確認する。名前はゼン、レベルが41と高い。スキル――「不明」。

嫌な予感がする、アリサや勇者の同類か?

オレはその事に動揺しながらステータスの続きを読む――なんだと?! そこにはスキル「不明」に匹敵しそうな情報が載っていた。

ミーアがオレの後ろで震えている。

詳細も大体把握した。こいつに無双されるとオレ以外は危険だ。慎重に対処しよう。無理っぽいが、可能なら話し合いで解決したいところだ。

「はじめまして、魔術士殿。オレは商人のサトゥー」

「商人風情に用は無いのだよ」

魔術士は自己紹介をする気は無いようだ。

商人を下に見ているのか、コミュ 力 ( りょく ) が低いのか、どちらもだろう。

「そっちに無くても、オレはこの娘を保護しているんだ。怪しい人間には渡せないよ」

「ふむ、 手練 ( てだれ ) の傭兵に守られて気が大きくなっているようだが、我に歯向かうなら血祭りにあげるのも吝かではないのだよ?」

魔術士が猫背のまま杖をこちらに突き出してくる。

「ダメよ! ご主人さま、そいつは強すぎるわ」

後ろからアリサが警告する。

「我は偉大なる夜の王。身の程を知るのは良いが、ゴミにそいつ呼ばわりされる謂れは無いのだよ」

まずい、魔術士の注意がアリサに向いた。

「■■■■ ■――」

魔術士はそう言うとアリサに向かって呪文を唱え始める。

ミーアの側を離れたくないが、そうも言ってられない。オレはダッシュで魔術士に肉薄し、鳩尾に当身を突き入れる。

だが、その突きは魔術士の詠唱を止める事ができなかった。オレの突きは魔術士のローブを貫通したが、何の手ごたえも無い。こいつのユニークスキルなのか?

「―― 影鞭 ( シャドー・ウィップ ) 」

魔術士の呪文が完成し、足元の影が鞭のように伸び上がりアリサに向かって槍のように突き進む。これが影鞭か。

オレはバックステップで魔術士から距離を空け、アリサと影鞭の間に割り込む。

体全体で影鞭の進路を塞ぐ。影鞭はオレの体に巻きつき、そのときピリっとした小さな痛みを感じる。

>「影魔法スキルを得た」

>「影耐性スキルを得た」

影耐性って何だよ。

ああ、ひさびさに理系の血が 幻想 ( ファンタジー ) を否定する。

だが、そんな葛藤より実利だ。

体感的には、耐性系の有無は気休め程度の差しかない気がするが、それでも今はミーアを守る可能性を少しでも引き上げよう。

影耐性にポイントを割り振って 有効化 ( アクティベート ) する。

◇

「ふむ、信じられない体術なのだよ。君は本当に商人なのかね?」

「友人はオレの事を身軽な商人さんと呼ぶよ」

オレ達が会話する背後から、アリサの小さな呟きが聞こえる。

「ダメだわ、 やっぱり ( ・・・・ ) 効かない」

魔術士が呪文を唱える隙に、アリサが無詠唱で反撃したのかアリサの魔力が減っている。レジストでもされたのか、魔術士には何の変化も無い。

「身を呈して我の攻撃から女を守るとは、天晴れなのだよ」

「感心したなら身を引いてくれないか?」

「それとこれとは話が違うのだよ。ミーアは我の目的に必要なのだ」

オレはようやく影鞭の束縛から脱出した。この影鞭、巻きついていてもピリピリするだけで大したダメージが無いんだが、実体が無いかのように手ごたえが無くて、なかなか剥がせなかった。そのくせ束縛ができる 不思議 ( ファンタジー ) 物質だ。

「あんたの目的は何だ?」

「君に語る意味は無いな。ミーアを助けたいなら勇者でも連れてくるのだな」

「勇者に恨みでもあるのか?」

その言葉に魔術士は答えず、天を仰いで哄笑する。

哄笑に呼応するように足元の影から無数の影鞭が起き上がる。さっきの呪文の効果がまだ残っているのか。

手を 拱 ( こまね ) いていてはミーアを攫われてしまう。物理攻撃が無理なら魔法攻撃だ。

オレはポケットから魔法短銃を両手に取り出し、威力の目盛りをMAXに切り替える。

こいつのレベルなら、このくらいの攻撃で死なないだろう。

「的外れにも程があるのだよ」

魔術士のその言葉と同時に影鞭がオレとミーアに向かって伸びてくる。

魔法短銃で影鞭を迎撃する。2丁拳銃とか、どこか厨二っぽいのが嫌だ。

いける。

ミーアに向かう影鞭を全て迎撃し、自分に来る影鞭は巻きつくに任せる。さすがに全部落とせなかった。

「なかなか、良い武器なのだよ」

「そうかい? ミーアを置いていってくれるなら1丁やるけど、どうだい?」

オレは魔術士に取引を持ちかけながら、体を拘束する影鞭を魔法短銃で潰していく。

後ろからミーアの短い悲鳴が聞こえた。

首だけで振り向くと、ミーアの足元から生えた影鞭がミーアを拘束してる。

魔術士から更に影鞭が伸びて、オレを拘束してくる。

魔術士は新しい魔法を唱え始める。

この上、変な魔法を使われては堪らない、魔法銃を魔術士に打ち込む。ヤツの体力は減るが、次の弾を撃つ前に回復してしまう。やつのユニークスキルは無敵とかなのか?

オレは狙いを杖に変更し、魔力の弾丸を撃ち込む。

「助けるのです!」「助ける~?」

ポチとタマが影鞭を何とかしようと飛びつくが、影鞭をすり抜けてしまうみたいだ。すり抜けつつも影鞭でダメージを受けてしまったらしく、2人は悲鳴を上げて飛びのいた。

リザとアリサは、物陰からこちらを窺っている 這いよる影 ( シャドウストーカー ) を牽制している。

撃ち込んだ弾はすべて魔術士の足元から湧きあがる影鞭に防がれてしまった。

そして、ついに魔術士の魔法「 影渡り ( シャドー・ポータル ) 」が発動する。

ミーアの体が影に沈んでいく。

オレは魔術士を撃つのを諦め、影鞭の拘束を力ずくで引き伸ばして沈むミーアの上半身を抱きとめる。

「この娘は返してもらったのだよ。不用意に殺されては困るので言っておくが、無理に引き抜けばミーアの命は無いのだよ」

魔術士の体も影に沈んでいく。相変わらず顔は見えない。

「我のような超越者に敵わぬのは、世の理不尽な 理 ( ことわり ) と思い諦めるのだよ。死を恐れぬなら我の 迷路 ( メイズ ) を訪れるがいい、知恵と勇気とやらを振り絞って突破してみせるのを期待しているのだよ」

魔術士は哄笑しながら影に沈んで消える。ミーアが沈むのを最後まで見届けないのは余裕なのか油断なのか。

オレの体もわずかに影に引きずり込まれそうになるが、レジストしてるのか1センチ以上は沈まない。

影がミーアを引きずり込む力が強い。俺が引っ張る力のほうが強そうだが、じりじりとミーアの体力が減ってる。これ以上力を入れて引っ張ったらミーアの体が千切れそうだ。

オレは決断する。

「アリサ! 朝になったら、なんでも屋の店長を頼れ」

そう一言声を掛けて、ミーアと一緒に自ら影に沈みこむ。

アリサ達なら 這いよる影 ( シャドウストーカー ) くらいなんとかできるはずだ。できれば怪我をせずに勝ってほしい。

あの店長は頼りないが同族の危機だし、ナディーさんなら上手く手配してくれるはずだ。

◇

沈み込んだ先は漆黒の空間だった。

音も無く光も無く、まさに影の中といった感じだ。もちろん空気も無い。

さすがに少し苦しい。影鞭の攻撃より体力が減るのが早い。それでも自然治癒のせいか一定時間で戻っていく。ひょっとしたら、窒息死とかができない体になっているのかもしれない。

空気があっても、こんな場所に長くいたら気が狂う人もいそうだ。

少し酸欠で、思考に集中できない。

そうミーアだ。

自分の体も見えない状態なので当然のようにミーアも見えない。

ストレージから 光粒 ( ライト・ドロップ ) を取り出して魔力を注ぐ。

自分の体くらいは見えるようになるかと思ったが全然だめだった。レーダーにも自分しか映っていない。

久々に「全マップ探査」を使う。残念だがレーダーの表示はそのままだ。本当にオレしか居ないのかもしれないな。

マップを開いて見る。

そこには、こう書かれていた――「マップの存在しないエリアです」

「ゲームか!」

オレは吼えた。

そして、その声に呼応するかのように、音も無く影の空間は砕け、ガラスのような破片となって消えていく。

◇

そこは謁見の間という記号を集めたような場所だった。縦長の部屋だ。学校の体育館を縦に半分に切ったような広さだ。石造りの床、壁際には丸く太い柱が並び、柱に付けられた蜀台からはLED光のような魔法の光が部屋を照らしている。一段高い奥には玉座があり、その奥には虹色に明滅する直径2メートルほどの球体が膝くらいの高さに浮いている。

玉座には眠らされたミーアがいる。その横にはミーアを介抱する見知らぬ金髪美女がいる。顔はミーアそっくりだが、けしからん巨乳だ。いや、今はそんな事はどうでもいい。

オレが駆け寄るより早く、玉座の横の譜面台のような装置に指を走らせていた魔法使いがこちらに気がつく。

「バカな!」

男は驚きながらも、譜面台を操作する手を緩めない。

「そう、バカな! なのだよ。どうやって我の影の牢獄から抜け出した! あれは貴様のような低レベルの輩に、どうこうできる代物では無いはずなのだよ」

驚きたいのか、自慢したいのか、馬鹿にしたいのか、ハッキリしてくれ。

さっきの影空間の影響なのか、足元がややふらつく。

「オレには光の護符があるからな。影魔法は効かないんだよ」

しまった、本当の事を言う気はなかったが、誤魔化すにしても内容が適当すぎる。詐術スキルが暴走したのか?

「そうか、ズルは許容できないのだよ。この部屋には 迷路 ( メイズ ) を攻略したものだけが、訪れる事ができる、そういう決まりなのだ」

魔術士はそこで言葉を切って、自分の言葉に数度頷く。

「そして、ここまで訪れる事のできた勇者こそ、不死の王たるこの我を討滅する資格があるのだよ」

こいつは、何を言っている?

迷路を攻略して、自分を殺してほしいのか?

それに最初は夜の王って言ってなかったか? 自分の呼称の固まらないやつだ。

だが、そんな事より、こいつの言い分に少し頭にきた。そんな理由でうちの娘達やミーアに迷惑をかけたのか?

「死にたいなら自殺しろ。他人を巻き込むな」

「ふははは、神から受けた祝福があるかぎり、我は不死身なのだよ」

不快だが、こいつのバカ話がもう少し続けば足も回復する。

だが、相手もそこまで付き合ってくれないようだ。

「では、主の間から退場してもらおう」

玉座の横手にある扉が開いて――