LNCrawler

16-71.サガ帝国、サトゥーの戦い

デスマーチからはじまる異世界狂想曲( Web版 ) — ncode.syosetu.com · All chapters

16-71.サガ帝国、サトゥーの戦い

※2018/11/4 誤字修正しました。

サトゥーです。ホラーやミステリーなんかに、何を考えているか分からない人物が登場する事があります。大抵はその行動にその人物なりの理由があり、物語の中で語られます。

でも、現実で本当に怖いのは、 然 ( さ ) したる理由なく支離滅裂な行動をする人物なんじゃないかと思うのです。

◇

「――どこだ?」

影に逃げたゴブリンの魔王を追いかけて、オレは「マップのない領域」に飛び込んだ。

レーダーに映る光点の方向を頼りに追跡する。

その光点が不意に消えた。

魔王にはマーカーを付けてあるので、見失う心配はない。

視界内に表示しておいたマーカー情報の現在地情報が、サガ帝国の地方都市の一つに変わっていた。

オレの追跡を察知して、途中で影の空間を抜け出たのだろう。

そう脳裏で考えつつ、影の空間から抜け出した。

広がる青空、眼下に広がる都市――今いるのは都市の中央付近にある尖塔の天辺だ。

「いた」

窓を壊された建物の一つにいるようだ。

オレは閃駆で窓の一つに飛び込む。

「もう来よったんかい――」

空き巣のように部屋を荒らしていたゴブリンの魔王が、部屋の反対側にある窓から飛び出す。

窓から飛び降りる魔王の後ろ姿に、長い髪が翻るのが見えた。

――暗紫色?

禿頭だったはずの魔王に髪が生えたのか、カツラかは一瞬だったのでよくわからない。

魔王が身に付けていた白い外套も、さっきまで身に付けていなかったモノだ。

一瞬の思考を遮ったのは、窓外に見えた赤い爆炎と、窓の向こうから聞こえる人々の悲鳴。

オレは窓の外へと飛び出す。

屋根から屋根へと飛ぶ魔王が、下級や中級の火魔法をあちこちに撃ちまくっていた。

蛮行を止めるために、光魔法の 光線 ( レーザー ) で魔王を撃つ。

魔王が片腕を犠牲にして、屋根の上から建物の間へと逃げた。

回避系か危機感知系のユニークスキルを使っているのかもしれない。

魔王が放った火と、オレのレーザーが掠って発火した建物に向けて、消火魔法を使う。

周辺被害を出さないためにレーザーの威力を絞ったのだが、中級魔法だけあって二次災害を完全に防ぐ事はできなかったようだ。

オレは閃駆で地上に降りた後、建物の陰から陰へと逃げる魔王を、縮地で追いかけていく。

向こうも縮地スキルを持つらしく、なかなか追いつけない。

しかも、 遮蔽物の陰 ( ブラインド ) に入るたびに、火魔法や爆裂魔法を放って回る。

遅延発動タイプの攻撃魔法を混ぜているのが厭らしい。

被害を阻止しつつ都市を二、三周したところで、魔王が再び影の中に逃げた。

――放火しただけ?

オレは魔王の行動に疑問を覚えつつも、影の中に飛び込んだ。

消火しそこねたボヤが幾つかあるが、それは現地の人に任せる事にした。

◇

「―― 魔王 ( あいつ ) は何がしたい?」

影を通して現れた場所は、先ほどとは別の地方都市だった。

レーダーに映る光点を追うと、哄笑しながら噴水を破壊する魔王の姿があった。

再度の逃亡を封じる為に、空間魔法を封じる応用で、影魔法で影空間に逃げられないようにしておく。

オレに気付いたヤツが、姿を見せつけるようにして逃げ出す。

それを追いかけようとして、噴水の瓦礫に紛れて転がる木片が気になった。

――樽だ。

オレの脳裏に、トキスォーク王国を壊滅させた吸血鬼騒動の発端となった 吸血蚊 ( ヴァンパイア・モスキート ) をまき散らす樽が脳裏に過ぎった。

同じ樽だ。

遠くで爆発音がした。

魔王は他の場所でも破壊活動をしているようだ。

オレは空間魔法で噴水周辺を隔離して、火魔法で焼いて消毒する。

これだけ焼けば 吸血蚊 ( ヴァンパイア・モスキート ) の卵も灰になったはずだ。

少々手荒い方法だったが、オレは時間を優先させてもらった。

爆発音を頼りに魔王を追う。

転移や引き寄せといった空間魔法を使っても、発動の僅かなタイムラグの間に、建物の陰へと縮地で逃げられてしまう。有視界のユニット配置は縮地と変わらない。

逃げに徹する縮地持ちがこんなに厄介だとは思わなかった。

今度は爆裂魔法や音だけの風魔法が中心の為、消火などの後始末が必要ないので、先ほどよりは追うのが楽だ。

先ほどの都市と同じく、都市を数周するほど追いかけたところで、再び魔王は影に逃げた。

そう、逃げたのだ。

影空間への逃亡を阻止するオレの封鎖を超えて逃げるとは思わなかった。

影に潜る時に、紫色の光を帯びているのが見えたから、なんらかのユニークスキルを用いたのだろう。

◇

さらに五つの都市と一二の街で追いかけっこを続けた。

一度、忍術の分身を使って包囲しようとしたのだが、それを察した魔王がすぐに影の中に逃げたので、それ以降は試していない。

それにしても、ヤツはどこまで逃げる気だ。

――いや、違う。

オレは違和感に気付いた。

ゴブ魔王は 擬体 ( アバター ) なのになぜ逃げたんだ?

換えの利く 擬体 ( アバター ) を乗り換えれば済むはずなのに、乗り換えずに逃げる理由はなんだ。

オレは一三個目の都市を逃げる魔王を追いかけ、ヤツが行う嫌がらせのような攻撃魔法の後始末をしながら、ヤツの目的を推測する事に思考を回した。

ヤツは何をした?

火を付け、噴水を破壊し、吸血蚊を広めようとし、家屋を破壊し、爆音で人々を驚かせる。

吸血蚊を除けば都市規模で致命的な行為はない。

――変だ。

ヤツは猪王や狗頭に比べれば弱いが、それでもレベル九九もある。

無詠唱の上級魔法を使えば、最初の旧都のように都市を火の海に沈める事だってできるはずだ。

曲がり角を消えるヤツの長い紫髪が目に入った。

その後を追う。

「もう一体いるぞ!」

曲がり角の先で、魔刃を発動した黒騎士が斬りかかってきた。

それを連続した縮地で回避し、魔王の追跡に戻る。

――もう一体?

そうか。

色合いしか似ていなかったから気付かなかったが、最初の屋敷で空き巣紛いの事をしていたのは、ナナシの衣装と似た色の服を物色していたようだ。

よく見れば全く違うが、普通の人が超高速で動くオレ達を見分けるのは難しいだろう。

だが、ナナシの悪評を撒くのが目的だとしても、迂遠すぎる。

わざわざオレを引き連れてやらなくても、オレと同じ衣装をしたホムンクルス達を各都市に派遣して破壊活動をさせるだけで済む。

目的が見えない魔王の行動を見抜けない自分に、イライラが募る。

こちらを一瞬振り返った魔王がニヤリと嘲笑を浮かべるのが見えた。

発動の早い光魔法で攻撃をしたい衝動を堪え、縮地を使う。

あと一歩のところで、再び魔王が影の中に逃げた。

オレは苛立ちながら影へと飛び込む。

――追ってはダメ。

影へともぐる途中で、微かに幼い女の子の声が聞こえた気がした。

――罠。

そう続けて聞こえた気がするが、影に入ったタイミングだったので、本当に聞こえたのか自信がない。

声というよりは思考のような感じだった。

『アリサ、呼んだか?』

『うんにゃ、何も言ってないわよ』

眷属通信かと思ったが違ったらしい。

繋ぎっぱなしの空間魔法「 戦術輪話 ( タクティカル・トーク ) 」でもないはずだ。

『何かあったの?』

『いや、都市から都市に逃げ回る魔王を追跡中さ』

『大変ね~、アリサちゃん達の手伝いが必要なら、いつでも言ってね! 眷属ぱぅわあ~で助けちゃうからさ』

アリサのお陰で、さっきまでのイライラが消えていくのを感じる。

やはり、アリサはムードメーカーだ。

『ありがとう、アリサ』

オレはそう告げて眷属通信を切り、魔王を追って影空間から外へ出た。

◇

「振り出しに戻る、か?」

出たのは最初に魔王がいた旧都だ。

マップに目を落とす。

魔王は都市内にいない。

――いた。

旧都の郊外にある「勇者の丘」に魔王がいた。

この見晴らしの良い丘は、パリオン神の奇跡、「勇者召喚」が行われる古式神殿がある。

――魔法陣が起動している?

丘の地下にある巨大な魔法装置に蓄積された魔力が、神殿の天井や柱にある積層型の魔法陣に流れて発動寸前のような感じだ。

それもそのはず――。

普段は管理人以外誰もいないはずの神殿に、パリオン神殿の巫女達や神官達、さらには知り合いを示す青い光点が二つあった。

オレは焦燥感に駆られながら、魔王がいる古式神殿へと閃駆で迫る。

ゴブリンの魔王がいた。

「お疲れちゃ~ん」

白いフードの陰から覗く口が、ニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべている。

巫女達や神官達が暗紫色の光でできた鎖に拘束されて床に積み上げられており、その天辺に座った魔王の傍に、先ほど見つけた青い光点の片方――勇者の従者でありパリオン神殿の神官であるロレイヤの姿があった。

神官ロレイヤは他の神官達と同様に暗紫色の光でできた鎖に拘束されて、後ろから魔王に組み付かれて、喉元に漆黒の刃をもつ短剣を突きつけられている。

「ナナシ様!」

「月並みで悪いけど、人質の命が惜しかったら、そこから動かんとってな。あんさんがいかに規格外でも、縮地で飛んでくる前にこいつくらいなら殺せるで」

それは事実だろう。

あの短剣はヤバイ。

魔王よりも危機感知が強い。

マップ検索で全員をマーキング。

旧都での一件と同じように、空間魔法「 万物移送 《 トランスポート・エニー・オブジェクト 》 」で――できない?

「あんさんが魔法でやってた空間魔法封じのユニークスキル版や。わいらゴブリンは弱い代わりにユニークスキルのスロットが多いから助かるわ」

魔王が嘯く。

セリビーラの迷宮下層に住む 小鬼 ( ゴブリン ) 族のユイカは、ユニークスキルを13個も持っていたけど、それが小鬼族に特有のモノとは思えない。

だけど、ここまでヤツの使ってきたユニークスキルの数を考えると、ユイカに匹敵する数のユニークスキルを持つのは本当のようだ。

「何が目的だ」

オレは会話を続けながら、ロレイヤに突きつけられた短剣を調べる。

――神害の短剣。

厄介そうな名前に、背筋が寒くなりつつ備考欄を読む。

竜神の爪の欠片から作られた、神をも殺しうる凶悪な短剣らしい。

――え?

作成者名が――。

「ナナシ様! 私達の命よりも魔王を討伐してくださ――」

「うるさいオッパイやな」

ロレイヤの叫びが苦痛の悲鳴に変わる。

魔王がロレイヤの胸を乱暴に掴んで黙らせていた。

ロレイヤの視線が一瞬だけ、意味ありげに右奥に向けられた。

オレは魔王に気付かれないように、小さく頷き返す。

そこにはもう一つの青い光点がある。

さっきロレイヤと一緒に見つけた、勇者ハヤトの従者、長耳族の弓兵ウィーヤリィだ。

そちらを注視しないように注意しながら様子を見る。

なんらかの潜伏系スキルを使いながら物陰で弓を構えているようだ。

サファイアのような青い結晶質の荘厳な長弓を構えている。

長弓につがえられた矢は、矢尻に聖なる青い光を帯びている――あれは勇者博物館に展示されていた聖剣と同類の聖なる武器だ。

ウィーヤリィの狙撃をサポートしようと、すり足の予兆になる重心移動で魔王を牽制する。

「動きなや、動いたらほんまに刺すで――」

魔王の斜め後ろから、青い光の矢が魔王の頭部を射貫く。

頭の上半分が撃ち抜かれたスイカのように吹き飛んだ。

「やった!」

青い矢を射た長耳族の娘、勇者ハヤトの従者ウィーヤリィが喜びの声を漏らす。

神官達の暗紫色の拘束は解けていない。

「油断するな!」

魔王はまだ生きている可能性が高い。

「分かっている!」

すぐさま返事がくる。

ウィーヤリィも油断はしていなかったようで、二射目を準備していた。

オレはこの隙に人質を助ける為に、縮地で魔王やロレイヤのいる神殿の中央へ向かう。

――浮遊感。

オレは人質達に「理力の手」を伸ばそうとして、周辺の魔素が消滅している事に気付いた。

夢幻迷宮の垂直通路でやられた魔力中和空間だ。

体内の魔力までは消えていないが、天駆を使おうと供給するたびに消失する。

オレは下に視線を向ける。

40メートルの地下空間があった。

このままだとオレはともかく、他の子達が死んでしまう。

オレはストレージに入っていた海水を地下空間に出す。

勇者召喚施設が壊れるかもしれないが、今は人命の方が大切だ。

10メートルほど落下したところで、着水した。

ストレージに海水を収納して水位を下げていく。

レーダーの表示がおかしい、この地下空間は別マップになっているらしい。

減りゆく海水の中で、魔王の身体が黒い靄となって消えていくのが見えた。

擬体 ( アバター ) を解除したようだ。

それとタイミングを同じくして、神官達を拘束する暗紫色の光でできた鎖も消えてしまった。

濡れた髪や服が張り付くのも払わずに、神官ロレイヤが地下空洞の中央にある小さな塔のような場所にある操作盤を操作している。

いつの間にか、魔力中和空間が解除されていたようだ。

着水時に怪我をした者も少なからずいたので、上級水魔法による治癒をしておく。神官達の回復魔法は詠唱が長いからね。

念の為、全マップ探査を使ってみたが、この空洞に隠し扉や隠し部屋の類いはないらしい。

「ナナシ様、起動中の召喚魔法陣が暴走しています! このままでは旧都の人達の命や魔力を全て使い果たすまで、異世界から勇者を召喚し続けてしまいます!」

これが魔王の企んでいた事なのか?

オレは最悪の事態を阻止する為に、操作盤のもとへ走った。

※次回更新は、11/11(日)の予定です。

【宣伝】

「デスマーチからはじまる異世界狂想曲」15巻は11/10(土)発売予定です。

詳しくは活動報告をご覧下さい。