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17-18.ピンク色の災い(3)失敗編

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17-18.ピンク色の災い(3)失敗編

「くそっ、強ぇえ」

「A級冒険者の意地を見せろ!」

サガ帝国の帝都近くにある塔の一つ、その中層付近でサガ帝国の冒険者達が身の丈六メートルもある 尖兵巨厄鬼 《 デミトロル・ヴァンガード 》 と激闘を繰り広げていた。

「よし! 刃が通った!」

「焼け! 再生させるな!」

冒険者リーダーが大剣で尖兵巨厄鬼に傷を負わせた場所を、他のメンバーが火魔法や燃える槍で焼く。

通常の魔物なら継続ダメージを与える流血を止めるのは愚かな行動だが、強力な再生能力を持つ尖兵巨厄鬼の場合は再生を阻害する為に必須の行為なのだ。

「ぐわっ」

「不用意に近付くな! トロルはオーガより怪力だぞ!」

吹き飛ばされた若い冒険者に、リーダーが注意する。

「長丁場になりそうだぜ」

一進一退が続く戦いに、リーダーが疲れた表情を見せる。

その彼の耳に涼やかな風に乗って可愛い声が届いた。

『冒険者さん、近くを通過します。驚かないでください』

「誰だ?」

『私達は勇者ナナシの従者、白銀騎士団です』

広場の向こうに、白銀鎧の一団が音もなく現れた。

静音化というには静かすぎる甲冑集団の登場に冒険者の何人かが動揺するが、事前に声を掛けられていたリーダーが「動揺するな、敵じゃない」と叫ぶ事で戦線が乱れる事を防げた。

「リーダー、あれって」

「ああ、例の一件で俺達を助けてくれたやつらだ」

彼らは白銀騎士達の活躍を見た事があったようだ。

冒険者と尖兵巨厄鬼が戦う広場の端を、白銀騎士団が颯爽と通り過ぎる。

「まずいっ。――物陰にトロルがいるぞ!」

白銀騎士団の進行方向に、小狡い尖兵巨厄鬼を見つけたリーダーが警告を発する。

「……■ 紫電刃網 《 サンダー・ブレイド・ネット 》 」

白銀騎士エアーことゼナ・マリエンテールが行使した風と雷の複合魔法が、尖兵巨厄鬼の防御障壁を吹き飛ばし、その身体を痺れさせる。

「クゥンフゥウウウウウウ・キィイイイイイイイイイイイイイイイイック!」

動きの止まった尖兵巨厄鬼の胴体に、青光を曳きながら飛んできた白銀騎士クンフーことカリナ・ムーノの蹴りが突き刺さる。

「クンフー・アッパー」

くの字に折れ、 背後に吹き飛ばされた ( ノックバックした ) 尖兵巨厄鬼に、しゃがみ込んだ姿勢からの豪快なアッパーが激突し、巨体を宙に浮かべる。

『カリナ殿、今だ!』

カリナの兜の中に渋い声が響く。

蒼い光がカリナの身体を包み、鎧の隙間から閃光が放たれた。

「クンフー・エアレイド・ダンス」

強烈な震脚で地面を蹴ったカリナは、宙に浮かんだ尖兵巨厄鬼の身体を四方八方から包み込むように連撃を加えた。

空中を足場にし、超高速の瞬動を駆使した攻撃は、彼女が分身したかのような錯覚さえ与える。

「フィニッシュ、ですわ!」

ズドンと地面に落ちた尖兵巨厄鬼の前で、カリナがポーズを決めつつ叫ぶ。

それと同時に尖兵巨厄鬼の身体の内側から赤い光が漏れ、爆音と共に弾け四方八方に肉片を撒き散らす。

打撃と共に尖兵巨厄鬼の身体に打ち込まれた魔刃の楔が、臨界点を超えて爆発したのだろう。

肉片や血が周囲を汚したが、カリナ自身は「 知性ある魔法道具 《 インテリジェンス・アイテム 》 」のラカが作る鱗状の小光盾群が全て防いで汚れ一つない。

やがて、その肉片や血も靄となって消えていく。

「ドロップは魔核だけみたいですわ」

「お疲れ様、クンフー」

尖兵巨厄鬼を倒し終わった白銀騎士団は、何事もなかったかのように静かな足取りで広場を出ていった。

「マジかよ……」

「俺達が必死に倒すバケモノを瞬殺か……」

「おい、見とれてるな! 戦闘中だぞ! 死にたいのか!」

あまりの実力差に呆気に取られていた仲間を、リーダーが叱咤する。

『ずるい子かな?』

『ずるい子だよ、きっと』

暗闇の奥で、ピンク色の髪をした幼女達がくすくす嗤う。

新しい獲物を見つけた幼い顔に嗜虐の笑みが浮かんだ。

◇

「こんにちは」

「飴をお持ちしました」

「ありがとうございます。これで飴売り場で騒ぐ人が減ります」

変装したルルとサトゥーが飴を納品に訪れると、ティファリーザが怜悧な美貌に笑みを浮かべて商品倉庫へと二人を案内する。

「すごい量っすね」

倉庫に到着したルルが、格納鞄から飴が入った箱を取り出し、倉庫で合流したネル達が箱を積み上げていく。

この飴は塔でドロップしたモノではなく、ルルとサトゥーが作ったモノだ。

塔でドロップした飴に習慣性があるという話が王立研究所から報告されたため、カフェイン量を調整したコーヒー飴や各種炭酸飴をエチゴヤ商会や支店で販売する事にしたのだ。

イライラしている人が多いという話を聞いたサトゥー達は、カルシウムを添付した保存食や塩飴も試作しており、それもサンプルとして納品している。

「半年分くらいはありそうですね」

「いやー、それは甘いっすよ、ティファさん。たぶん、三ヶ月、早かったら二ヶ月で売り切れちゃうっすよ」

ティファリーザとネルの会話に、サトゥーとルルが顔を見合わせる。

彼らの計算では一年分くらいの量のつもりだったからだ。

「そんなに?」

「はい、これまでの売れ行きや頻繁に売っていないか確認にくるお客様の数を計算にいれればそれくらいかと」

ティファリーザの見積もりを聞いたサトゥーは再量産を約束する。

「そうだ、これをどうぞ」

サトゥーに合図されたルルが各種飴のレシピを手渡す。

「レシピまで提供頂いて宜しかったのですか?」

「売れ筋商品ならエチゴヤ商会でも作れた方が雇用が広がるだろう?」

「お気遣いいたみいります」

ティファリーザが頭を下げる。

仕事を辞めて塔に入り浸る者が増えたとはいえ、仕事を求める労働者は未だに多い。

エチゴヤ商会で飴の買い取りは今後も続ける、という事を確認してサトゥーは最上階の執務室へと移動する。

ルルはエチゴヤ商会所属の料理人達に、飴レシピを伝授しに厨房へと向かった。

「クロ様、お待たせしました」

王城へ行っていたエルテリーナ支配人が戻ってきた。

「先日の件について陛下に報告に行っておりました」

「こちらが王国で共有した資料になります」

紫塔で「その階に出現するはずのない格上の魔物が出現する」事件が世界各地で発生しており、その事件の前後に「ピンク色の髪をした幼い娘を見た」「幼い子供の声を聞いた」という報告が幾例かあるそうだ。

「シガ王国以外での目撃例ありか――うん?」

資料を確認していたサトゥーの視線が、何枚かの資料を行き来する。

「同じ日付けの目撃例、しかも遠方の国か……」

「幼女の目撃例ですね」

支配人の確認にサトゥーが首肯する。

神出鬼没、あるいは自分が想像するよりも幼女達はたくさんいるのか、サトゥーがしばし思案する。

「クロ様の索敵でも捉えられなかったのですか?」

「残念ながらね」

ピンク髪の幼女の話を聞いた後に、サトゥーとタマの黄金ペアが捜査に乗り出したが、数日経過した今でも発見に至っていない。

「クロ様、幼女の目撃例だけで、イレギュラーな魔物が出ない場合もあるようです」

ティファリーザが報告する。

「これとこれは違うけど――」

サトゥーが指摘したいくつかはピンクの何か――マントや衣服を目撃したというモノだった。

それらは彼の仲間である猫忍者タマやその相棒の犬勇者ポチの二人が、塔へ遠征にいった際の姿が目撃されただけだろう。

「――こっちはその通りだね」

イレギュラーな魔物が出なかったのか、通りかかった強者が気にせず倒したのか、魔物の死骸が残らない塔では探索者が全てなので、それ以上は判断がつかなかった。

「犠牲者に共通点はなし。特定の誰かを狙ったわけではなさそうだな……」

「もしかしたら、ここに書かれていない共通点があるかもしれません。犠牲者の追加捜査を行いますか?」

支配人の申し出に、サトゥーが「頼む」と答えた。

◇

「ゼナが戻ってきました。皆様、戦闘準備を――」

塔の上層階に到着した白銀メンバーは、大きな広場を拠点にして魔物狩りを行なっていた。

ここには白銀メンバーに加え、大盾を装備した8体のオリハルコンゴーレムがいる。

「敵は4! マンティコア1、獅子3です」

広場を駆け戻るゼナが大声で叫ぶ。

その後ろからは巨大な 尖兵老頭獅子 ( マンティコア・ヴァンガード ) が追いかけており、さらに後ろから三体の 尖兵空歩獅子 ( エアウォーク・ライオン・ヴァンガード ) が姿を現した。

前者は老人の頭に獅子の身体に蝙蝠の翼を生やした魔物で、上級までの氷魔法や風魔法を使う強敵だ。後者は空を駆ける獅子で、咆哮による瞬間的な防御盾や瞬動を併用した立体的な攻撃を得意とする。

「ゴーレム3番から8番は大盾で空歩獅子を阻め!」

システィーナ王女が叫ぶと、大盾とメイスを装備した6体のオリハルコンゴーレム達が尖兵空歩獅子の前に立ち塞がる。

――MAWZN。

マンティコアが老人の顔で咆哮を上げると、その身体の周囲に幾本もの氷の槍が出現し、白銀メンバーに向かって殺到する。

「 神威聖盾 ( セイクリッド・イージス ) 」

詠唱を終え発動を保留していたセーラの神聖魔法が発動し、マンティコアの氷槍を軽々と防ぎ、マンティコアの突撃をも跳ね返す。

「……■ 紫電刃網 《 サンダー・ブレイド・ネット 》 」

そこにゼナの複合魔法が放たれ、マンティコアの防御障壁を引き剥がす。

「クンフーキィイイイイイイイイイイイイイイイイック!」

タタタタタッと空を駆け上がったカリナが、上空からマンティコアの背――翼の付け根に必殺技を放ち、飛行能力を奪う。

王女の護衛をしていた二体のゴーレム達も殺到し、マンティコアの翼をズタズタにする。

「詠唱終わりました」

「退避!」

ゼナとセーラが詠唱を終えると、王女の指示でカリナとゴーレム達がマンティコアから距離を取る。

「……■ 神威聖打 ( セイクリッド・インパクト ) 」

「……■ 神威雷陣 ( ディバイン・サンダーフィールド ) 」

神聖魔法の聖なる一撃と、雷魔法による範囲雷撃がマンティコアを蹂躙する。

『カリナ殿、今だ』

「はい、ラカさん!」

マンティコアの残体力を見極めたラカのアドバイスで、カリナが中層で 尖兵巨厄鬼 《 デミトロル・ヴァンガード 》 を倒す時に使った連続技からの超必殺技で止めを刺す。

爆発して肉片を周囲に撒き散らすマンティコアの姿を、物陰に潜み遠くから観察している者達がいた。

『何、あれ?』

『あれに手を出すの? ヤバない?』

『ヤバイ』

『ちょー、ヤバイ』

ピンク色の髪をした幼女達だ。

『勇者なのかな?』

『勇者って、パリたんの勇者?』

『あの野蛮なおっぱいがそうじゃない?』

『そうかも』

『きっとそう』

キツい顔をしたピンク髪の幼女がパンパンと手を叩いて仲間の注目を集める。

『ビビってないでお仕置き! ちゃんとしないと主様に褒めてもらえないよ!』

『それはやだー』

『褒めてもらえないのは 嫌 ( や ) ー』

幼女達が格上の魔物を捕まえに移動する。

彼女達が目を付けたのは、上層でもとびっきり危険な 尖兵下位魔竜 ( デミドラゴン・ヴァンガード ) だ。

『バケモノにはバケモノ!』

ピンクの前髪が一本だけ角のようにピンッと立った幼女が宣言した。

彼女の細い腕には 漢字で ( ・・・ ) 「隊長」と書かれた腕章が嵌まっている。

『えー、ドラゴンはヤバイよー』

『そうそう、あいつら野蛮だもん』

『すぐ噛むし』

『防御障壁を突き抜けてくるし』

『「可愛いは正義」だって知らないもん』

『『『ねー』』』

他の幼女達からは不評のようだ。

『いーからやるの!』

隊長幼女の宣言で、幼女達はおっかなびっくりの足取りで尖兵下位魔竜へと向かう。

しばし、尖兵下位魔竜に鈴を付ける役を押し付け合っているうちに、尖兵下位魔竜が幼女達の存在に気付いて咆哮を上げた。

――ANGYWAAAAAAZ。

『『『ぎゃー』』』

恐ろしい咆哮に怯えた幼女達が、バタバタと逃げ出す。

『だから、ヤバイって言ったじゃん!』

ドラゴンは逃げる幼女達を追いかけながら、幼女達を守る球形障壁をガシガシと囓る。

『やだー、防御障壁が削れる。削れてくー』

『キバ! キバが当たる』

幼女達が頭を抱えて右に左に逃げ惑う。

『逃げよ、早く逃げよ』

『悪者懲らしめないの?』

『懲らしめる前に、こっちが食べられちゃうよ』

『えー、悪者を放置するの?』

『あんたがやれば』

塔の穴に逃げ込む幼女達。隊長は最初に逃げた。

『みんな酷いや――あれ? 足音しない?』

逃げるのを躊躇っていた幼女が異変に気付く。

恐る恐る振り返る幼女の視線の先に、ブレスを吐く直前の姿勢をしたドラゴンがいた。

『ぎゃー』

最後の幼女が慌てて穴に飛び込む。

そこに暗紫色の業火が叩き付けられた。

炎が消えるとそこには黒焦げの壁が欠ける事なく存在していた。岩をも溶かす業火を受けてなお、傷付かなかったようだ。

ドラゴンはしばらく壁をガシガシと掻いた後、のそのそと巣へと戻っていった。

紛 ( まが ) い物といえど、ドラゴンは思うようには動いてくれないようだ。

※次回更新「17-19.ピンク色の災い(4)囮編」は6/9(日)の予定です。