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17-40.迷宮街道と月の回廊(2)

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17-40.迷宮街道と月の回廊(2)

※11/9(土)に幕間をサプライズ投稿しているのでご注意を。

※2019/12/10 一部追記しました。

サトゥーです。スポーツや対人ゲームをやる時は、全力で力を発揮するのが好きです。限界に達した時に、さらに一歩を踏み出せるかどうかで、その先の成長ができるかの分かれ道だと思うのです。

◇

月とセーリュー市。

魔界が溢れ出すという紫幼女の言葉を裏付けるように、空に昇った満月からは黒いヘドロが流れ落ち、夢幻迷宮の 迷宮核 ( ダンジョン・コア ) からは何者かによりクラッキングが行われ、セーリュー市の地下迷宮との通信が途絶えたと報告が届いた。

オレが向かったのは月だ。

心情的にはセーリュー市を優先したかったが、こちらを後回しにしたらヤバイ事になりそうな予感がしたので、危機感知スキルが報せるシグナルに従ってこちらを選んだ。

近くまで来てみて分かったが、なかなか酷い状況だ。

月の表面にある火山からヘドロ状の瘴気が溶岩のように噴き出し、月面だけでなく衛星軌道にも穢れが広がっていた。

真剣にヤバイ。危機感知スキルが伝えてくるシグナルを信じて良かったよ。

オレは称号を「神殺し」に変え、神剣を抜いて物質化した瘴気を抹消しながら月面へと向かう。

うげっ、気持ち悪い。不快な情念や怨嗟がうねりのようにオレの身体を襲う。

神剣で濃い部分を滅しながらにもかかわらず、その残滓だけでここまで心を責めさいなんでくるとは思わなかった。耐性スキル持ちのオレが、ナナシ装備で対処していてコレだとしたら、まともに突っ込んだら神々でも危険なレベルかもしれない。

聖句の≪滅び≫を発動すれば、それもなくなるとは思うが、稼働時間が限られているのでここでは節約を選んだ。

その事にちょっと後悔しつつも、オレはなんとか月面に辿り着く事ができた。

ごつごつした月面に触れる。

ここからが本番だ。

掌を押し付け、念じる。

――収納。

次の瞬間、月が消え去った。

成功だ。ダメ元で試したが、問題なく月をストレージに収納する事ができたようだ。

月の中心あたりに、魔族らしき個体が幾つか浮いている。

あいつらは放置しても問題ないだろう。

それよりも――。

月の引力を失ったヘドロが惑星の重力に引かれて移動を始めている。

「あれを一人でなんとかするのは、骨が折れそうだ」

見た目は簡単そうだが、巨大な衛星の表面を覆っていた莫大な量の瘴気だ。

『一人じゃないわよ!』

げんなりとするオレの耳に、元気な声が届いた。アリサだ。

『そうなのです! ポチもいるのですよ!』

『タマも~』

衛星軌道の拠点から、大型虚空艦に乗ったアリサ達がやってくる。

たぶん、アリサの空間魔法で拠点へと移動したのだろう。

『ご主人様、今日はちょっと無茶をするわよ!』

大型虚空艦の表面に紫色の光が走る。

『いっけぇええええええええええええ!』

艦の補助とアリサのユニークスキル「 全力全開 ( オーバー・ブースト ) 」で強化した「 超隔絶壁 ( ハイパー・デラシネーター ) 」が黒ヘドロを受け止める。

「まったく、無茶をするヤツだ」

オレはアリサの努力を無に帰さない為に、超隔絶壁が受け止めたヘドロの濃い場所を閃駆で飛翔しながら、≪滅び≫の聖句を発動した神剣で抹消していく。

――ぐえっ。

さっきよりマシだが、≪滅び≫状態で滅ぼしても残滓はあるようだ。

オレは心を苛む不快感に耐えながら、消去作業を続ける。

仲間達も浄化系の儀式魔法や対神魔法で、ヘドロを消去するのを手伝ってくれた。

――ALERT。

ある程度、黒ヘドロを消せたところで、モニターしていたセーリュー市の知り合いのステータスがヤバイ感じになっていた。

『ちょっとセーリュー市の応援に行ってくる。こっちはしばらく任せたぞ』

オレはそう告げてヘドロ掃除を中断し、セーリュー市へとユニット配置する。

転移前にプラネットガードを発動したら、 広域戦術輪話 ( マス・タクティカル・トーク ) 越しに『そんなのチートよ、チート!』と文句を言われたが、わりと今更なのでスルーした。

◇

「戦場は――あそこか」

セーリュー市上空から地上を見下ろす。

騒動の中心に我が輩君――黒の上級魔族がいた。何度倒しても再出現する困ったヤツだ。

ユニークスキルらしき紫色の光を帯びて、凄い速さでキゴーリ氏やゼナさんの弟のユーケル君を蹴散らしている。

ユニークスキル持ちの上級魔族はやっかいだ。

オレは黒ヘドロで汚れた服を着替え、閃駆での着地と同時に神剣で我が輩君を一刀両断にする。

我が輩君が黒い靄として消える隙間から、いつものように「神の欠片」が分離したので、そちらも神剣で始末しておいた。

このタイミングでサトゥーとして登場し、セーリュー伯爵と約束した「一度だけ外敵を排除する」という約束を消化する誘惑に負けそうになったが、余計な欲をだしてユーケル君が命を落としてしまったら、ゼナさんに合わせる顔がない。

ユーケル君達も無事だったし、オレの選択は正しかったと思う。

オレは≪滅び≫を発動したままだった神剣を納める。

迷宮から溢れる程度の敵なら、竜牙剣か聖剣で十分だろう。

「一つ倒したところで意味は無い。我が輩、見参」

「影は夢幻。我が輩、降臨」

「我が輩、参上」

量産型の我が輩君がわらわら登場しはじめた。

どこまで事実か分からないけれど、どこかに実体があって、地上に現れるのはその投影あるいはコピーという事だろうか?

「「「我が輩、高速殺法」」」

黒の上級魔族達があり得ない速度で縦横無尽に攻めてきた。

「我が輩、必殺」

勇者ナナシ ( ・・・・・ ) の背後を取った我が輩君2号が、刃のように伸ばした爪で首を刈る。

「ナナシ様!」

それを見たユーケル君達が息を呑む。

首を刈られた 勇者ナナシ ( ・・・・・ ) の姿が掻き消える。

まあ、それをオレが見ていた訳なので当然だが、あれは残像だ。

気付いた我が輩君2号が反応するより早く、オレの持つ聖剣がその身体をバラバラに斬り裂いた。

我が輩君はしぶといから、みじん切りしたうえで竜鱗粉を混ぜたナパームで焼き尽くしておく。

「なんて強さだ」

キゴーリ氏の呟きを聞き耳スキルが拾ってくる間に、他の我が輩君達も始末していく。

「我が輩、復活」

……あれだけ厳重にやったのに、再生しやがった。

再生できなくなるまで斬る手段もあるけど……。それは面倒すぎる。

「「「我が輩、復活」」」

他の我が輩君達も次々と復活している。

ユニークスキル持ちの我が輩君が復活してこないのがせめてもの救いだ。

「苗床たる迷宮あるかぎり、我が輩不滅」

なんて面倒な……。

「勇者様! 迷宮をなんとかしないと!」

ユーケル君が言わずもがなの事を主張する。

うん、迷宮を破壊できるなら話は簡単なんだけど、資源を産出する鉱山な一面もある迷宮を、セーリュー伯爵が手放すはずが――。

「ペン――勇者ナナシ!」

キゴーリ氏の傍に現れたセーリュー伯爵が叫ぶ。

この危険な場所に来たのかと一瞬焦ったが、それは良くできた映像だった。都市核によるモノだろう。

「一度だけセーリュー市を守るという約定を果たされよ!」

「既に守ったんじゃない?」

――というかそれはサトゥーの時の約束だろう。

「まだだ! セーリュー市を蝕む迷宮を――」

「消滅させる事になるかもしれないけど、いい?」

「……構わん。この迷宮は『竜の谷』を狙った魔族達の侵略拠点だった。未練はあるが、民の安全には代えられん」

へー、そうだったのか。

最難関だった伯爵の許可も出た事だし、準備は既に万端だったので、サクッと解決する事にした。

「それじゃ、やるね」

オレはあらかじめ張り巡らせておいた結界を発動する。

煌めく青い光がセーリュー市を覆う。それは積層型の浄化結界となり、我が輩君達や迷宮から溢れた魔物達の瘴気を浄化していく。

「我が輩、驚愕」

「我が輩、咆哮」

「我が輩、絶叫」

聖碑と同じ積層型の浄化結界は伯爵領全体規模なので、その焦点となる迷宮付近は特に効果が高い。上級魔族でも苦しむレベルだ。

これだけの規模の浄化結界が展開できるのも、竜の谷の極太竜脈に接続してあるからなんだよね。

「まだまだ負けヌ。我が輩、不屈」

「迷宮ある限り、滅びぬ。我が輩、不滅」

――はいはい。

オレは 迷宮核 ( ダンジョン・コア ) に仕掛けておいた罠を発動する。

それと同時に地震が起こる。迷宮核が壊れて、迷宮が崩壊を始めたのだろう。

「ペンド――勇者ナナシ殿、これは――」

「迷宮は破壊したよ。崩れないように、ちゃんと支えるから大丈夫」

オレは 地盤操作 ( アース・コントロール ) の魔法で地盤沈下や地割れなどを無理矢理押さえつける。

「これで――チェックメイトだ」

オレは聖剣と竜牙剣の二刀流で、動きの鈍った我が輩君達を殲滅し尽くした。

「この結界で10日ほどはセーリュー伯爵領全体が守られる。それじゃボクは次の場所に行くよ」

状況についていけない人達に手を振って、オレは月軌道の掃除に戻った。

◇

「ふう、こんなモノかな?」

久々に全力で戦ったので疲れた。

まあ、疲れる原因のほとんどはヘドロ掃除だったんだけどさ。

オレは仲間達の待つ大型虚空艦に帰還する。

「ただいま。迷宮や月のゲートも封鎖したし、この世界に魔界が溢れる事もないだろう」

これでテニオン神のクエストは完了、かな?

「あれ? リーングランデ様達は?」

さっきは気付かなかったけど、大型虚空艦の中に彼女達の姿がない。

「お姉様達なら、『地上は任せて』と言って出ていきました」

マーカーの位置がサガ帝国などの有力国家の首都にある。

孤島宮殿の転移ゲートを使ったのか、アリサやアーゼさんの空間魔法で送ってもらったのだろう。

地上でもパニックが起こっているだろうし、リーングランデ嬢達なら、勇者ハヤトの従者として世界を巡った実績や信用もあるから適任だ。

「イレギュラー! 次は主様を助けて!」

紫幼女がオレにすがりついてきた。

そういえば、そんな話もしていたっけ。

※次回更新は11/17(日)の予定です。

※2019/12/10 リーングランデ達が別行動をしている旨の記述が抜けていたので追記しました。

※書籍18巻の購入報告&感想ありがとうございます!

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