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18-6.勇者ハヤトの物語〔3〕

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18-6.勇者ハヤトの物語〔3〕

※今回はチェック時間が取れなかったので誤字多めです。ご了承ください。

「すっげーな。世界遺産に登録されそうだぜ」

ブルーメ師匠の特訓に耐え抜いた俺達は、俺が召喚された「勇者神殿」の近くにある「勇者の迷宮」へとやってきていた。

武器は木剣ではなく、召喚時に「 無限収納 ( インベントリ ) 」の中に収納されていた聖剣アロンダイトだ。

他の装備も練習用の鎧や盾ではなく、聖剣と一緒にあった聖鎧や聖盾を身に着けている。

こうして勇者装備を身につけていると、訓練兵からぐっと勇者に近付いた気がするぜ。

「世界遺産?」

「なんだそりゃ?」

「間違えるな、ハヤト。これはパリオン様から下賜されたサガ帝国の財産だ」

スバクとザヤンは適当に流したが、生真面目な騎士ジェリードは真面目な顔で訂正してきた。

こいつは公爵家の三男でいくらでも出世街道を進めるのに、勇者の従者なんていう危険な最前線任務に手を挙げた変わり者だ。

もっとも、そんな危険な任務に志願するだけあって、攻守兼ね備えた優秀な騎士で、こいつの盾術をたっぷり盗ませてもらった。

剣術の方はこいつのサガ帝国制式剣術とザヤンの豪快な実戦剣術の両方を学んだ。

「騒ぐんじゃないよ。ここは教練場じゃないんだよ?」

ブルーメ師匠が細身の美女と渋いイケオジ、それから生意気そうな少女を連れて現れた。

「今日からの迷宮探索にはこいつらも合流するよ。自己紹介しな」

「初めまして勇者様、私は弓使いのシーアリィ――」

「げっ、弓鬼かよ」

「まじかっ、鯨を射るとか言い出して北に行ったんじゃなかったのかよ」

美女にじろりと睨まれて、スバクとザヤンが口笛を吹いてそっぽを向いた。

有名人の女性を見て、俺はある事に気付いた。

「長い耳――エルフか!」

「違います。私は 長耳 ( ブーチ ) 族です」

シーアリィが苦笑してから訂正した。

なんでも、こっちのエルフは耳がちょっと尖っているだけで、日本人的なエルフのイメージである笹の葉状の長い耳をしているのは、長耳族という全然別の種族らしい。

「エルフ様に『エルフは長い耳じゃないのか?』と問うのは最大の禁忌なので注意してください。彼らはめったに『森』から出てきませんが、シガ王国公都の歌姫シリルトーアや先代勇者の従者をしていた『山崩し』のセベルケーア様のような例外がいますから」

皇女様が注意してくれた。

「俺はロコッシ。A級冒険者で斥候をやっている。こっちは――」

「ボクはセイナ! B級冒険者で斥候さ!」

イケオジは44才、レベルが42だ。

ボクっ子のセイナは18才で低身長だが、胸は並以上ある。若い割にレベルが高く、レベル39だ。

「B級? そんな二流を連れていくのか?」

「ロコッシの弟子だろ? 経験を積ませてやれよ」

「なんだとー! ボクを馬鹿にするな!」

「やめろ、セイナ!」

スバクの文句を聞きつけたセイナが噛みつき、ロコッシがセイナの襟首を掴んで止める。

「こいつはB級だが、それは実力や実績が不足しているからじゃない。こいつの年齢のせいだ。冒険者ギルドの規定で20才未満はA級に上がれないんだ」

「そういえばそんな規則があった、か?」

「あるんだよ! 初代勇者様が『A級は大人になってから』とか言って規程に20才以上って書いたせいで今でも規則が変わらないんだ!」

セイナが吠える。

たしかに年齢制限で足止めされたら腹も立つよな。

スバクが「大人なら15歳だろ?」なんて首を傾げているが、初代勇者は日本の常識で20歳を大人の基準にしたんだと思う。

「分かった。実力が十分なら問題ない。君達を歓迎する」

こういう口調はむずがゆい。

はやく実績を積んで、いつもの口調で話せるようになりたいぜ。

◇

「迷宮にエレベーター?!」

ガス灯に照らされた回廊を進んだ先には古風なエレベーターがあった。

「勇者様の世界には昇降機がありふれているのですよね?」

「ええ、ロレイヤさん」

おっとりした声で神官のロレイヤさんが話しかけてきた。

こっちの世界では珍しいらしく、皇女様や騎士ジェリード以外のメンバーが緊張気味の顔で乗り込んでいく。ブルーメ師匠? あの婆さんは、いつも通りだ。

「ずいぶん、深いんだな」

俺達を乗せたエレベーターが深い階層へと俺達を運ぶ。

「20階層までの『勇者の迷宮』は、従者候補を育成する為の場所ですから。勇者様や従者候補は20階層以降の深層を使う事になっています」

「私やメリーエスト様も冬の農閑期には騎士団の訓練で浅層に入った事があります」

騎士ジェリードが皇女様に続けて言う。

「農閑期? あんたら貴族や皇族なんだから関係ないだろ?」

「それがあるんだ。この迷宮はパリオン様の奇跡で作られたモノだが、迷宮を徘徊する魔物は都市の余剰魔力を用いて作られる。農閑期のような余剰魔力がある時期にしか使えないのだ」

俺にはよく分からない内容だが、他の者には馴染み深い事柄なのか誰も聞き返さない。

「でも今は農閑期じゃないじゃん?」

「今回は勇者様がいるからな。皇帝陛下が帝国中の都市から、深層を稼働させるに足るだけの魔力を集めてくださったのだ」

皇帝ってのは魔法使いの親玉みたいな存在なのか。

なんとなくローマ皇帝とかアメリカの大統領みたいなのをイメージしていたぜ。

「そろそろおしゃべりは終わりだ」

ブルーメ師匠が言うのと、エレベーターが停止するのは同時だった。

「さっそく出迎えだぞ」

エレベーターの格子扉が開き、俺達が降り立った広場の向こうには、殺戮衝動に目をギラギラさせた豚鼻の奇妙な怪物がいた。

俺の持つ鑑定スキルが、デミオークという種類の魔物だと教えてくれる。

「オークか――雑魚じゃねぇか」

「油断するな。ここは30層。あれはオークの上位種に違いない」

ズバクとザヤンが武器を構えつつ軽口を叩く。

俺も武器と盾を構え、二人とともに進む。

デミオーク達のレベルは28から31くらいだ。

数は見える範囲で10匹を超える。

「デミオーク・ブッチャーとデミオーク・バーサーカーの混成部隊だ。ブッチャーは包丁型の剣を投げてくるから注意しろ。バーサーカーは味方ごと斬りつけてくる。油断するなよ」

斥候ロコッシが神官ロレイヤさんと一緒に皇女様を守る位置についた。

「ズバクとザヤンはデミオークに斬り込んで一匹だけ勇者に回せ! 殿下は魔法禁止、ロレイヤも回復以外は使わなくていい。シーアリィはズバクとザヤンがうち漏らした奴が勇者に近付かないように牽制しな!」

ブルーメ師匠が指示し、俺や仲間達が行動を開始する。

お膳立てされるのは悔しいが、ここで文句を言うほど子供じゃない。

この試験を突破して、こんなお膳立ては無用だと分からせてやる。

俺は静かに闘志を燃やし、緊張でカラカラに乾いていた喉を唾を飲み込んで湿らせた。

「行くぞ!」

俺はそう宣言し、最前列を走る。

十分にデミオークに近付いたタイミングで最近取得したばかりの「瞬動」スキルを発動し、デミオークに急接近して相手の意表を突く。

――うおっ。

予備動作もなく繰り出された剣鉈のような包丁が顔を掠める。

思わず大きく避けすぎた俺の耳に、ブルーメ師匠の叱咤が飛んだ。

「びびるな、勇者!」

「びびってない!」

俺は叫び返した勢いに乗って、袈裟懸けに聖剣を振り下ろした。

鋼を強引に引き裂く不思議な感触に続いて、肉が裂ける嫌な感触が手に伝わってくる。思わず聖剣を投げ出したい衝動に駆られたが、へそに力を込めてギリギリで耐えた。

切り裂いたオークの身体から噴きだした生温かい血を顔に被って視界が赤く染まる。

「血を浴びるな! 魔物の血が毒だって事は多い。返り血も相手の攻撃だと思って避けるのを忘れるんじゃないよ!」

「師匠……初陣の弟子に、よくやったの一言もなしですか?」

「それだけ減らず口が言えたら上等だ。余計な知恵を付けたスバクとザヤンは、帰ったら特訓コースをダブルでプレゼントしてやる」

「ちょっと師匠!」

「くっそう、ジェリードとハヤトも巻き込んでやる!」

ブルーメ師匠の血も涙もない命令に、スバクとザヤンが泣きそうな顔で叫んだ。

あまりにいつものありように、思わず泣き笑いのようになってしまった。

「勇者様、感情を抑えつけすぎないでください。発散する事も、必要ですよ」

神官ロレイヤが豊かな胸元に俺の頭を抱き込んだ。

柔らかな感触が頭を包む。スバクとザヤンが何か叫んでいるが、俺としては性的な興奮よりも、母親に抱きしめられているような不思議な安心感があった。

「すまない、ロレイヤさん。もう大丈夫だ」

「はい、ハヤト様」

ようやくロレイヤさんが勇者ではなく、スバク達みたいに名前で呼んでくれるようになった。

少し恥ずかしかったが、弱みを見せた事で俺の事を身近に感じてくれたのかもしれない。

「――魔物の死骸が消えた?」

魔物が持っていた武器も消えている。

地面に飛び散った血の跡だけが、魔物の存在が幻ではなかったのだと俺に教えてくれていた。

「この迷宮は特別です」

「屋外や他の迷宮に現れる魔物は、普通に死骸が残りますよ」

皇女様とロレイヤさんが教えてくれた。

「座学で教えなかったのか?」

「すみません、失念していました」

ブルーメ師匠に問われた皇女様が頭を下げる。

まあ、一回見たら分かるし、別に問題ない。

「ブルーメ殿、次の魔物が近づいてきたぞ」

偵察に行っていたロコッシが警告する。

「よし、次は普通に戦いな」

ブルーメ師匠の大雑把な指示で戦いが始まる。

初戦は少し情けなかったが、この戦いからはブルーメ師匠の猛特訓を思い出して、さっきよりはマシに戦えた。

軽々と敵を倒せるようになったのは五回目くらい。

周りを見られるようになってきたのは一〇回目くらいからだ。

――というか、マジで従者候補達は化け物揃いだった。

長耳族のシーアリィは乱戦の中でも的確に魔物の目を貫いて間引き、皇女様の放つ雷魔法は敵の集団を薙ぎ払い、斥候ロコッシは罠を一つも見逃さず、敵の接近を全て見破った。

「このパーティーで普通なのは俺とセイナだけかよ」

「ちょっと、勇者くーん。ボクを一緒にしないでよー」

セイナの頭をポンポンと叩いたのが腹に据えかねたのか、俺の手を振り払ってセイナが抗議してきた。

こいつはさっき偵察で魔物に見つかり、大集団を連れてくるという失態を演じたばかりだ。

ロコッシに叱られて凹んでいたので慰めようとしたのだが、余計なお世話だったらしい。

失敗や学びを経て、最初の階層をクリアした頃、俺は初めてのレベルアップを体験していた。

「なんだか身体がむずむずする」

「レベルアップだね」

「もう、ですか? さすがは勇者様ですね」

俺はレベルアップを称えてくれる仲間達に照れ笑いを返した。

むずむずしたレベルアップで基本ステータスの能力ポイントやスキルポイントが増えたが、勇者はこの世界の人間と違って任意に割り振る事ができる。

ブルーメ師匠からは、迷宮を出るまではお預けだと釘を刺されているので、あまりレベルアップしたという実感はない。

31階層をクリアして、32階層の何度目かの戦いで二回目のレベルアップを果たした。

元がレベル50もあっただけに、レベルアップが遠い。

それにしても、猛特訓で微々たる上昇しか見せなかった経験値バーが、魔物を倒すだけでみるみる増えるのはなんだか納得がいかない。

経験というなら、ブルーメ師匠やザヤン達との訓練で得た経験の方が遙かに多いはずなのに。

「おめでとうございます、勇者様」

「さすがはハヤト様です。パリオン神よ、あなたの勇者は順調に成長しております」

皇女様やロレイヤさんを筆頭に仲間達がレベルアップを祝福してくれる。ブルーメ師匠もだ。

違うのは一人だけ――。

「なんだか、納得がいかなーい! ボクの方がレベルが低いのに、どうして勇者のレベルが二回も上がるのさ! レベルが高いほど、必要な経験が多いはずでしょ!」

斥候セイナがぷんぷんと怒る。

「納得いかないか、セイナ?」

「ロコッシ、この子には勇者様の事を説明してやらなかったのかい?」

「いや、したさ。ただ、バカ弟子は話した内容を覚えてないだけさ」

斥候ロコッシとブルーメ師匠が顔を見合わせる。

「セイナ、よく聞きな。勇者はパリオン神の寵愛があるから、普通の人間よりもレベルが上がるのが早いのさ。私ら一般人でも、同じ事を学んでも人によって成長の度合いが違うだろう? それと同じだと思いな」

「ブルーメ師匠が一般人?」

「俺の知っている一般人とは違うな」

「お前達、聞こえてるよ!」

スバクとザヤンの素直な感想を耳にしたブルーメ師匠が柳眉を逆立てる。

俺も同じ感想だっただけに、一緒になって身体を竦めた。

「勇者様方のレベルアップ速度は、通常の三倍だと言われています。その分、最初のうちは身体への負担が大きいので、何か違和感を覚えたら、すぐに私に言ってください」

ロレイヤが聖母の笑みで言う。

俺達はその後も順調に迷宮を攻略し、三ヶ月後の三度目のアタックでは、最下層近くまで進む事ができた。

メリーエスト様やシーアリィ達とも名前で呼び合えるようになったし。

それもこれも勇者の持つ「 無限収納 ( インベントリ ) 」の冗談みたいな収納力のお陰だ。

10人の数ヶ月分に相当する食糧や水を全て収納し終えた時は、自分でも信じられない思いだったからな。

俺がレベル六〇に到達した日、俺達は迷宮の日々に終わりを告げる事になった。

「これだけ上げれば、上級魔族や魔王と遭遇戦でもしないかぎり大丈夫だろう」

ブルーメ師匠がそう言って太鼓判を押してくれた。

「他のメンバーもほとんどがレベル五〇を突破した事だし、次の段階に移るよ」

ブルーメ師匠が宣言し、俺達はパリオン神殿へと連れていかれた。

「巫女殿、儀式を頼む」

「承知致しました。勇者様、そして従者の皆様、こちらの魔法陣の上にある円の中にお入りください。これは皆様を縁で結びます」

神託の巫女に促され、俺達は指定された円に入る。

「いと尊き、幼き女神よ。あなたのしもべ、救世の勇者に仕える従者達に祝福を与え賜え」

祝詞のようなモノが終わると、天から降り注ぐ淡い青い光が俺や仲間達を包んだ。

仲間達が天を見上げ、手を差し伸べるとその手にお守りが現れた。

鑑定スキルが、「神授の お守り ( タリスマン ) 」だと教えてくれる。

「おめでとうございます。これであなた方はパリオン神から、勇者ハヤト様の従者として認められました」

こうして、いつものメンバーの従者候補の称号から候補が取れ、勇者宮で正式な従者への就任式が行われた。

俺は背中を預ける仲間達に信頼と笑顔を向ける。

「これからもよろしく頼むぜ!」

こいつらとなら、魔王が相手でも戦える。

この時の俺は、そう信じて疑いもしなかった。

※更新は下記の通りです。

7/5 18時、18-4.勇者ハヤトの物語〔1〕

7/6 18時、18-5.勇者ハヤトの物語〔2〕

7/7 18時、18-6.勇者ハヤトの物語〔3〕

7/8 12時、18-7.勇者ハヤトの物語〔4〕

7/9 12時、18-8.勇者ハヤトの物語〔5〕

7/10 12時、18-9.勇者ハヤトの物語〔6〕

7/10 18時、18-10.勇者ハヤトの物語〔7〕

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書籍版「デスマーチからはじまる異世界狂想曲」20巻は7/10(金)発売予定です。

パリオン神国編とデジマ島迷宮編をベースに新規で書き起こした勇者ハヤトとサトゥーの共闘の物語です。お楽しみに~。

詳しくは活動報告か著者twitter(@AinanaHiro)をご覧下さい。