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18-7.勇者ハヤトの物語〔4〕

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18-7.勇者ハヤトの物語〔4〕

※今回はチェック時間が取れなかったので誤字多めです。ご了承ください。

「従者就任式は終わった。勇者と従者代表の殿下には幾つか伝えておくべき事がある」

就任式の後、ブルーメ師匠に呼ばれて俺とメリーエストは別室に来ていた。

「まずは、タリスマンの機能だ」

基本的な説明は後で他のメンバーにもすると言った後、魔王討伐後に現れる「魔神の権能」を捕獲する機能があるのだとブルーメ師匠が続けた。

「この機能は殿下の主タリスマンにしかできないが、他の従者達が持つ副タリスマンの協力がないと実行ができない。権能うんぬんの話は他言無用だが、魔王討伐の戦いを挑む直前に『魔王を復活させない』為に必要だと説明して各自に伝えるように」

メリーエストが頷くのを待って、ブルーメ師匠が俺を見た。

「次は勇者の 自己確認 ( セルフ・ステータス ) の隠し機能についてだ」

「隠し機能?」

「ああ、そうだ。殿下はスキルの取り直しはできないと伝えたはずだが、実は『裏技』でスキルを初期化してスキルポイントに戻す事ができる」

「マジで? 試し放題かよ!」

俺は思わず叫んでから、どうして秘密にしていたのか疑問に思った。

「秘密にしていたのが不思議かい?」

ブルーメ師匠に首肯する。

悩み抜いてスキルを選んだあの日の自分に教えてやりたい。

「リスクがあるからさ」

ブルーメ師匠が言うには、リセットしてスキルポイントに戻したときに完全に元の数値まで戻るわけじゃない事、ロストするスキルポイントの法則性は不明な事を教えてもらった。

「なるほど、適当に選んで何度もやり直してたら、どんどん弱くなっちまうわけか……」

「そういう事さ。この『隠し機能』はどうしてもスキルポイントを振り直す必要ができたときの最後の手段だと思いな」

必須スキルが無くて詰むのを回避する手段って感じか?

まあ、憶えておいて損はないので、ブルーメ師匠から『隠し機能』の使い方を教えてもらった。

◇

「これからは対外的な仕事もやってもらうよ」

皆のもとに戻り、タリスマンの基本機能説明が終わった後、ブルーメ師匠がそう切り出した。

ブルーメ師匠の言う「対外的な仕事」とは顔見せで各国を巡る事だ。

「人脈を作るのも勇者の仕事のうちさ」

ブルーメ師匠の言葉を聞いて、少し面倒だと思ったのは正直な気持ちだ。

この時の俺は人脈作りの重要性に気付いていなかった。

サガ帝国の旧都でのサガ帝国要人を招いた舞踏会の日々に嫌気がさしたり、メリーエスト様主催のお茶会で令嬢達によるハニトラまがいの交流から逃げ回ったり、セイナやスバク達と勇者宮を抜け出して旧都を食べ歩きしたりと、つかの間の自由を満喫した。

そのせいか――。

「ハヤト! 今日のお茶会は逃がさないわよ!」

「ハヤト様、今日の晩餐会には皇帝陛下もご臨席されますから、逃げたらブルーメ様に再特訓していただきますよ」

――なんて軽口をたたき合えるくらいになった。

メリーエストなんて呼び捨てだ。

それでもなんとかお偉いさんとの交流を終え、迷宮がある都市や迷宮遺跡がある都市を優先に世界中の国々を巡る旅に出発する日が来た。

「これが勇者の御座船、次元潜行船ジュールベルヌです」

「おおおおおおおおおおおおおおおおお!」

どや顔のメリーエストが指し示す先には、銀色に輝く船があった。

「宇宙船じゃねぇか!!」

旧都の上空を飛んでいた飛行船っぽい飛空艇で行くのかと思っていただけに、俺はジュールベルヌを指さして叫んでしまった。

「ウチューセン? そういえば歴代の勇者様もそう呼んだと書物にありましたね。これは初代勇者様がエルフ達から譲り受けたという光船をサガ帝国の技術で改装した船です」

「空の彼方にある呼吸できる空気のない虚空まで飛ぶ事ができるそうですから、ウチューセンと呼んでも構わないかもしれませんね」

「本当に宇宙船かよ」

エルフすげぇー。

「ハヤト! それより早く乗ろうよ!」

セイナに促されて俺はジュールベルヌに乗り込む。

入り口のハッチも、二重のエアロックになっているじゃねぇか。突然ファンタジーからSFの世界に変わった気分だぜ。

座席には戦闘機や宇宙船みたいにシートベルトまであるし。

「さっさと座りな。ベルトの固定方法は一回で覚えるんだよ!」

先代勇者の従者をしていたブルーメ師匠が順番に席を回る。

シートベルトに馴染みのある俺以外の仲間達は結構手間取っていた。

「それでは出発します。ブルーメ様、お願いいたします」

「分かった」

操縦はブルーメ師匠らしい。

俺は地下格納庫からの出発シーンをイメージしてわくわくしていたのだが、ジュールベルヌは俺の想像の斜め上を行った。

「次元潜行――開始」

「なんじゃそらあああああああああああああああ!」

船の周囲に銀色の境界面が波打ち、その中に潜り込んでしまったのだ。

「騒ぐんじゃないよ。地上に出たら通常空間に戻ってやるから」

銀色の亜空間を抜け、ブルーメ師匠の言葉通り、旧都の空へと復帰した。

「空だ!」

「飛んでるぞ!」

「ふん、田舎者め。飛空艇も飛ぶだろ?」

「あたし、飛ぶの初めて!」

スバク達やセイナが眼下に広がる旧都を見下ろして騒いだ。

ジェリードの嫌味なんて誰も聞いちゃいない。

「ハヤト様は落ち着いていますね。勇者の国にあるというヒコーキに乗り慣れているのですか?」

「いや、飛行機にも一回しか乗った事はない。乗り心地もかなり違うな」

ロレイヤさんの問いに答える。

テレビや動画で見慣れているだけで、高校生の俺には飛行機に乗る機会は少なかったんだ。

「そろそろ潜るよ」

ブルーメ師匠がそう言って、ジュールベルヌを再び次元潜行させた。

こっちの方が魔力の消耗が激しい代わりに、移動速度が速いらしい。魔物に襲われる危険性もなくなるので、危険地帯を飛ぶときは次元潜行させた方がいいそうだ。

◇

世界各地の訪問は、海外旅行もした事がない俺には刺激的だった。

もちろん観光目的じゃないから、どこの国に行ってもお偉いさんの挨拶から始まって、色んな式典で退屈な時間を過ごすはめになった。

舞踏会やお茶会でも引っ張りだこだ。水蜜桃のような美少女や映画俳優も裸足で逃げ出すような美女にも会った。

どの国でも勇者は歓迎され、縁を持とうと女性をあてがってくる王や大貴族も多かった。

ハニトラは遠慮する。

悪いが俺の趣味はもっともっと若いんだ。

色んな国のご馳走を食べるのもいいが、そろそろ日本食が恋しい。

歴代勇者が日本の出身なら、サガ帝国に戻れば日本食を出す店の一つもあるかもしれない。メリーエスト達は知らなかったが、ロコッシは心当たりがあるという。

戻ったら連れていってくれると約束してくれた。頼りになる男だぜ。

旅の途中に、ブルーメ師匠の薦めで同時に世界各地にある迷宮にも訪問した。

サガ帝国の辺境にある「血吸い迷宮」では醜悪なヴァンパイア・スレイブを討伐し、本物のバンパイアにも遭遇したが、こっちは逃げ足が速く討伐には至らなかった。

魅了されたセイナが目をハートマークにしてしなを作るのは面白かったが、上級吸血鬼と呼ばれるバンパイア・ロード相手だとレジストや解除が大変でシャレにならない相手だと師匠が言っていた。

長鼻鼠首長国にある繁魔迷宮では、ついに魔族に遭遇した。討伐はできたが、あれが下級というのが信じられない。その後に出てきたもう一匹はブルーメ師匠が一刀両断にしていた。やっぱり師匠は凄い。俺も精進せねば。

そして、遺跡のある国の一つ、中央小国群にあるクボォーク王国で、俺は奇跡の出会いを果たした。

◇

「あなたは 誰 ( だーれ ) ?」

式典から逃げ出した俺は迷い込んだ離れで、淡い紫色の髪をした幼い天使に出会ったのだ。

これほど愛らしい娘を俺は見た事がない。

「イエス・ロリータ! ノータッチ!」

あまりの可愛さにテンションが上がりすぎて、自分でも訳が分からない事を口走っていた。

「正気に戻れぇえええ!」

追いついてきた正装のセイナがスパンッと俺の頭を叩かなければ、もっと変な事を口走っていたかもしれない。

「す、すまない――俺は勇者。サガ帝国の勇者ハヤト・マサキだ」

「まあ! 勇者様なのですね!」

鈴が鳴るような可愛い声で、天使が俺の名を呼ぶ。

あれだけの醜態を見せたのに、天使は俺に嫌悪の表情を向ける事なく、無垢な笑顔を向けてくれた。

天使は見かけだけじゃなく、中身まで天使だったらしい。最高だ。

「君の名前を教えてもらってもいいかい」

「私はアリサ。クボォーク王国の末姫、アリサ・クボォークでございます」

日本人みたいな馴染みのある名前だ。

不思議の国のアリスみたいなふわふわした服装も似合うと思う。

「――この子が救国の隠れ姫」

セイナが後ろで何か言っていたが、俺の視線は天使に固定されて離れない。

「殿下」

「私の事はアリサ、と」

「アリサ王女――」

「私に敬称は不要ですわ」

くうぅ、仕草が可愛すぎる。

イエス・ロリータ、ノータッチの精神がなかったら、感極まって抱きしめているところだぜ。

「アリサ――」

「はい、勇者様」

可愛すぎて心臓がバクバク言う。

『ああ、いっそハニーとでも呼びたいぜ!』

『うふふ、別に構いませんわよ』

――え?

思わず日本語で叫んでしまった俺に、アリサ王女が日本語で返した。

『どうして日本語を?』

『勇者様は紫色の髪をした転生者の事をご存じありませんか?』

『……転生』

そうだ。そういえば座学の中でメリーエストから聞いた事があった。

この世界には忌み色――紫色の髪を持つ転生者がいると。

転生者の中には利を与える者もいるが、多くは災いを起こして人々を不幸にした為、辺境では生まれてすぐに殺されてしまう者も多いのだと聞いた覚えがある。

『では、あなたも?』

『ええ、そうです。前世の事はあまり覚えていませんが、夢の中で断片的に思い浮かぶ事を家臣達に伝えて、人々の暮らしに役立てて頂いているのです』

後でセイナから聞かされたが、アリサ王女は「救国の隠れ姫」という二つ名で呼ばれるほど、この国の飢饉対策で活躍しているそうだ。

『わたしは幼いので、まだまだできる事は限られてますけど、少しずつでも民の暮らしをよくしたいのです』

『なんと気高い!』

幼女とは思えない崇高さだ。

俺の前だけでもわがままを言ってほしい。

この日の交流は俺を呼びに来たメリーエストに連れ戻されて終わったが、滞在期間中はアリサ王女とのお茶会を何度か行い、彼女に役立ついくつかのスキルの使い方や情報を伝える事ができた。

「ハニー! また遊びに来るぜ!」

「はい、勇者様。お待ちしています」

面と向かってハニーと呼べるくらいは仲良くなれた。

各国の訪問が終わったら、サガ帝国に戻る前に必ずもう一度、訪問しよう。

◇

そんなふわふわした上機嫌の日も長くは続かない。

世界最古にして最大の規模を誇るセリビーラの迷宮では、シガ八剣の秘蔵っ子という小生意気な女に出会った。

「ふーん、あなたが勇者? なんだか頼りない感じね」

やや釣り目で眉の細いキツイ系の銀髪美少女が、開口一番喧嘩を売ってきた。

「まったくゼフに会ったら、弟子の教育がなってないと文句を言ってやらないとね」

「ちょっと! サガ帝国の人だからって、お師匠様の事を呼び捨てにしないでよ!」

ブルーメ師匠にまで噛みついたぞ、この女。

なかなか無謀な奴だ。

「母親が自分の息子を呼び捨てにしたくらいで、弟子のあんたに文句を言われる筋合いはないよ! それにあの子は私の弟子でもある。つまりあんたは私の孫弟子ってわけだ。教育を受けた事があるなら、噛みつく前に名乗りの一つも上げな!」

ブルーメ師匠にやり込められたものの、美少女はすぐに気を取り直して挨拶を口にした。

「あなたが剣聖ブルーメ様でしたか、失礼いたしました。私はシガ王国オーユゴック公爵の孫娘、リーングランデ・オーユゴックと申します」

堂に入った淑女の挨拶だ。

生粋の貴族だけあって、メリーエストと並べても遜色がない。

「王立学院在学中は学友の師匠であるゴウエン殿から剣の手ほどきを受けていましたが、卒業後はゴウエン殿の紹介でジュレバーグ閣下から剣術を学び、今は実戦訓練をかねて迷宮で活動してます」

シガ八剣筆頭のジュレバーグさんは槍使いと聞いていたが、「八剣」だけあって剣も使えるようだ。

「王立学院――騎士学舎かい?」

「いいえ、魔法学舎に通っていました」

「あなたが『爆裂魔法』を復活させたリーングランデ殿ね!」

メリーエストが喰い気味に割り込んできた。彼女はリーングランデの事を知っていたらしい。

なんでも在学中に炎と風の上級魔法まで修めた才媛で、失われた魔法を復活させた偉業を興奮気味に語ってくれた。

メリーエストに匹敵する魔法使いのうえに、剣術まで使えるとはなかなか贅沢な奴だ。魔法剣士って奴かな?

もう少し性格がツンツンしてなかったら、仲間に勧誘したいところだぜ。

「ねぇ、勇者様。一度お手合わせ願えないかしら? サガ帝国の勇者の実力をこの目で見てみたいの」

俺は鑑定スキルで彼女のレベルを確認する。

――レベル40か。

年の割に鍛えているが、レベル60になった俺には届かない。

騎士団の連中との模擬戦で分かった事だが、レベルが10離れただけで普通は勝つ事ができない。高レベル帯になれば相性次第で戦いようもあるが、さすがに20も離れたら勝ち目はないだろう。

「怪我をするだけだ。止めておけ」

「あら? 勇者ともあろう者が戦いを挑まれて逃げるの?」

「身の程知らずめ、そこまで言うなら相手をしてやる。怪我をしても責任は取らないぞ」

「心配してくれなくても大丈夫よ。私の仲間には公都から連れてきた優秀な神官がいるわ。あなたがどんな火傷を負ってもなおしてくれるわよ」

まったく気に食わない女だ。

少しお灸を据えてやろと最初から本気で戦ってみる事にした。

「うおっ」

炎と風の複合魔法が初手で襲ってきた。

始めの合図までに詠唱を終わらせていたのだろう。

わざと収束を甘くしたリーングランデの魔法を、瞬動で強引に突破する。

「さすがは勇者ね――■ 小火 ( リトル・ファイア ) 」

次の詠唱を準備していたようだが、それをためらいなく破棄して別の呪文に切り替えた。

それにしても、この女は詠唱が速い。

俺が盾で魔法を打ち払う間に、次の魔法を唱えてくる。

しかも小さな魔法で牽制するのが、やたらと上手い。ブルーメ師匠のような実戦派の師匠に鍛えられたのだろう。

剣の腕も上々だ。

騎士ジェリードなみの腕がある。

「■■■ 火炎槍 ( フレイム・ジャベリン ) 」

炎の槍が飛んできた。

避ける軌道に、別の炎の槍を置いておくあたりが厭らしい。

盾で受けてもいいが、ちょっと意表を突いてやろう。

俺はブルーメ師匠から教えてもらった技で魔法を切り払い、そのまま直進する。

「魔法を斬るですって?!」

魔法を使う余裕を無くした状態で接近を許したリーングランデに勝ち目があるはずもなく、数合の打ち合いで地に伏せる事となった。

「私が負けるなんて――爆裂魔法さえ実戦で使えたら……」

負けず嫌いなのか、涙を浮かべたリーングランデが土を握りしめて悔しがっている。

「戦場に『たられば』は無いんだよ。死んだらそこで終わりだ。戦うときは自分の最善を尽くし、負けそうなら逃げるか戦わないのが戦士ってもんさ」

ブルーメ師匠は相変わらず厳しい。

俺はリーングランデの前に歩み寄る。

「なかなかの腕だったぜ」

「何よ、敗者をなぶりにきたの?」

「次は俺様にユニークスキルを使わせてみせるんだな」

始めはフォローするつもりだったのだが、リーングランデのトゲのある言葉を聞いて、つい挑発的な言葉を返してしまった。

やっぱり、この女とは合わない。

アリサ王女の可憐さを半分でもいいから見習ってほしいぜ。

※更新は下記の通りです。

7/5 18時、18-4.勇者ハヤトの物語〔1〕

7/6 18時、18-5.勇者ハヤトの物語〔2〕

7/7 18時、18-6.勇者ハヤトの物語〔3〕

7/8 12時、18-7.勇者ハヤトの物語〔4〕

7/9 12時、18-8.勇者ハヤトの物語〔5〕

7/10 12時、18-9.勇者ハヤトの物語〔6〕

7/10 18時、18-10.勇者ハヤトの物語〔7〕

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書籍版「デスマーチからはじまる異世界狂想曲」20巻は7/10(金)発売予定です。

早売りをする一部の店舗では既に入荷されているようです。

パリオン神国編とデジマ島迷宮編をベースに新規で書き起こした勇者ハヤトとサトゥーの共闘の物語です。お楽しみに~。

詳しくは活動報告か著者twitter(@AinanaHiro)をご覧下さい。

※活動報告に「web完結記念SSペーパーについて」をアップしました。