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18-22.小人の里(2)

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18-22.小人の里(2)

※ちょっと長いです。

サトゥーです。人が三人いれば派閥ができると言いますが、幸いな事に自分の会社では派閥らしきモノはありませんでした。もっとも自分が気付いていないだけで、笑顔の裏にドロドロした派閥争いがあったのかもしれませんけどね。

◇

「どう? ご主人様。何か原因は掴めた?」

「いや、ダメだ。地下に原因があるのは分かったけど、途中で追えなくなったよ」

瘴気視スキルを空間魔法の「 遠見 ( クレアボヤンス ) 」や術理魔法の「 透視 ( スルー・アイ ) 」に乗せるのが存外難しくて、最後まで追いかける事ができなかった。

「抜く?」

「それが合理的だと同意します」

『抜くだと?! 命の蓮をか?』

『ならん、ならん! それは禁忌だ!』

ミーアとナナの発言を聞いた「蓮の司」の翁達が、ぴょんぴょんと飛び跳ねて怒りだした。

拳サイズの身長でずんぐりむっくりした体型のせいか、どこかコミカルに見える。

「だったら、池に潜って――」

『 巫 ( かんなぎ ) の許可もなく、聖なる池を穢すのは禁忌だ』

「なら、水を抜くのもいけないのでしょうか?」

『聖命池の水を抜くなど、言語道断!』

アリサの提案は喰い気味に拒否され、リザの確認に翁が激昂した。

『原因は掴めたか、大きい人』

そう声を掛けてきたのは、オレ達を隠れ里まで案内してくれた戦士チピタチョペタだ。

彼の後ろには縄で縛られたモグラの死骸があり、兵士達が号令に合わせて引っ張っている。

このモグラは魔物ではなく普通の害獣らしい。

『戦士チピタチョペタ!』

『聖命池の畔に穢れを持ち込むなど、言語道断!』

『早く引き離せ!』

翁達がチピタチョペタに食って掛かるが、彼は面倒そうに詰め寄った翁を蹴飛ばして無視した。

息子の行方を尋ねたご婦人にも素っ気ない態度だったが、彼は基本的に粗暴なようだ。

「幼生体! 老人への暴力は禁止だと告げます」

『ふんっ、ヨソ者が口を挟むな』

チピタチョペタはそう言って歩み去る。

傲岸不遜を絵に描いたような人物だ。

兵士達が号令を掛けながらモグラを引っ張って里に向かった。

『お怪我はありませんか?』

『怪我? そんな事よりも穢れを祓わねば!』

翁を心配したのだが、小人達は存外丈夫なようで、ぴょんと跳ね起きて指示出しを始めた。

『掃除人だ! 掃除の司を呼べ!』

『呼び、行く』

『急げ』

翁に命じられた使用人が駆けていく。

ミーアが念のためにと回復魔法を掛けてやると、翁が感謝の言葉を述べていたので、少しは痛みがあったようだ。

自分の怪我よりも、池や蓮の管理の方が重要な感じかな?

「いっぱい来たのです」

「幼生体……」

掃除人と言われる女性達がたくさんやってきた。

ナナが手をわきわきさせているが、作業の邪魔になっても困るので、ミーアに手を繋がせて衝動的な行動を取らないように注意する。

『すごい、血ですね』

『箒では時間が掛かりそうね。 へちま ( ・・・ ) を使いましょう』

『ミソン殿、掃除の司はどうされた?』

『ご子息のタピタトカタ殿が失踪してから臥せっておりまして』

『もう一ヶ月か。そういえばリポタレポト殿も行方不明だったの。次代の戦士長候補ばかり、いったい何があったのやら……』

そういえば里に来た時にも、トプトなんとか君も所在不明みたいな事を言っていたっけ。

今回の蓮の件とは関係ないと思うけど――マップ検索で所在を調べてみたが、該当無しだった。少なくとも、このマップ内にはいない。

念の為、遺体も探してみたがそちらもヒットしなかった。

一ヶ月前なら遺体が喰われた可能性もあるけど、マップ外――隠れ里を囲む広大な盆地の外へと行ってしまった可能性もある。余計な事は言わずにおこう。

それよりも、まずは調査だ。

「どこ行くの?」

「ちょっと池の周りを観察してこようと思ってね」

翁達は忙しそうだし、さっき蓮が黒ずみ始めた対岸へと向かう。

「特に何もないと告げます」

「ルル、何か気になるモノはない?」

「特にないわ。風の流れも普通だし――タマちゃん?」

地面に横顔を押しつけたタマが、お尻フリフリ何かの音を聞いている。

その様子が気になったのか、ポチまで同じポーズだ。

「ザシュザシュしているのです!」

「音、消えた~?」

「しまった、なのです。ポチの声が聞こえちゃったのです?」

「どんまい~」

タマとポチが立ち上がる。

「何の音だったんだい?」

「土を引っ掻く音~?」

――ふむ。

「もう一度、音を聞いていてくれるかい?」

「あい」

「ポチも今度は失敗しないのですよ」

タマとポチが地面に耳を当て、準備完了の合図を送ってきた。

オレはそれに合わせて精霊光を全開にし、蓮の纏う瘴気を祓う。

それと同時にタマの耳がピンッと立ち、ポチの尻尾が激しく左右に振られる。

何かの音を拾ったようだ。

「こっち」

「なのです」

数歩進んでは地面に耳を当てるのを繰り返し、蓮の池から少し離れた場所で停止した。

ここならいいかな?

オレは土魔法の「落とし穴」で地下深くまで穴を掘る。

下の方に、穴の壁面に下半身を残してジタバタする土色の何かがいた。

「出た~」

「とー、なのです!」

タマとポチが穴に飛び込む。

「とったど~」

「あわわ~、なのです」

ポチが勢い余って、件の下半身から手を滑らせて穴の底に落ちそうになっていたので、「理力の手」で支えて事なきを得る。

タマと一緒にズボッと抜けた土色の正体は、さっき戦士チピタチョペタ達が運んでいたモグラのようだ。

ちょっと――いや、かなり大きそうだ。

穴の中の二人と一匹を「理力の手」で引き上げる。

「ふおんふおん~」

「きゃぷちゃーなのです」

モグラと一緒に持ち上げられたタマとポチが楽しそうだ。

たぶん、UFOに捕まったシチュエーションだと思う。

オレはそんな二人に笑みを向けた後、モグラの魔物―― 紅爪土竜 《 ルージュネイル・モール 》 を観察する。

ジタバタと暴れているが、レベル六ほどの雑魚なので、オレの「理力の手」から逃げ出せるはずもない。飛び道具になりそうな種族固有能力もないので、そのまま観察する。

「さっきのモグラじゃないわよね?」

「親玉っていうか、瘴気で魔物化したんじゃないかな」

「それじゃ、これが原因で蓮が黒ずんだわけじゃないの?」

「どうだろう?」

オレはマップ検索で「紅爪土竜」を調べる。

蓮池の下に何匹もいるが、このくらいの濃度で蓮が瘴気を帯びるとも思えない。

魔物を検索してみたが、結果は同じだ。この蓮池周辺には「紅爪土竜」以外の魔物はいない。

「原因かどうかははっきりしないけど、無関係じゃないと思うから、分かりそうな人に見せに行こう」

オレ達は 棘蔦足 ( ソーン・フット ) の蔦で魔物を縛り、術理魔法で作った「 自走する板 《 フローティング・ボード 》 」に乗せて運ぶ。

小人達の近くで暴れられても困るので、「理力の手」で押さえつけておこう。

翁達は――。

『ば、化け物じゃあああ』

『逃げろぉおおおお』

――と叫んで一目散にいなくなってしまった。

老人とは思えないほどの健脚だ。

「困ったね」

翁か 巫 ( かんなぎ ) あたりに見覚えがないか尋ねようと思ってたんだけど、このまま町中に持って行ったらパニックになりそうだ。

『モグラはここか――ぎぃやああああああああああああああ』

『逃げろぉおおおおお!』

威勢良く現れた戦士チピタチョペタや兵士達だったが、魔物を目にするなり槍を投げ捨てて逃げ出してしまった。

普通のモグラと比較したら、 筏 ( いかだ ) と戦艦くらい違うからね。

「皆はここで待ってて、ちょっと社までいってくるよ」

「分かったわ。浮気防止にミーアだけでも連れていって」

「ん、任せて」

小人相手に浮気なんて、物理的に無理だと思うけど。

オレはミーアを連れて 社 ( やしろ ) へと向かった。

◇

『――魔物じゃと?!』

報告したら、 巫 ( かんなぎ ) のツリルフルリさんが真っ青な顔で叫んだ。

そのまま床にへたり込んでしまったが、側仕えの人達みたいに卒倒していないだけマシと言える。

『ほ、本当なのか?』

『はい、本当です。このあたりでは魔物は珍しいのですか?』

『……おらぬ』

『はい?』

『この地には魔物などおらぬ。先祖の残した伝承に僅かに記されているのみ。実際に目にした者はおらぬのだ』

なるほど、そこまでレアだったら、戦士チピタチョペタの反応も仕方ないかもね。

『そ、その魔物とやらが見たい。ここに運び込め――いや、わらわが行く』

『ではエスコートしましょう』

普段は輿か何かで運ばれるんだろうけど、魔物にびっくりして投げ出されたら危ないので、オレが掌に乗せて運ぶ。

『う、うおおおおお』

なるべくゆっくり動かしているけど、ツリルフルリさんには恐怖体験だったらしく、オレの指にしがみ付いてギュッと目を閉じている。

ミーアの「ぎるてぃ」判定もない事だし、そのまま皆のいる場所に戻った。

『これが魔物かや』

ひとしきり絶叫した後、疲れて脱力した顔でツリルフルリさんがオレの掌の上からモグラの魔物を見下ろす。

『モグラに似ておる』

『おそらくは魔物化したモグラでしょう』

続けて、「命の蓮」が黒くなったのが瘴気のせいだと告げ、単に瘴気を祓っただけではすぐに元に戻ってしまうという事を報告した。

『つまり? どういう事じゃ?』

『「命の蓮」を穢している瘴気の根源が別にあると考えています』

よく分かっていない感じのツリルフルリさんにそう告げる。

一応、マップの3D表示で蓮池の地下を確認したけど、特に怪しい物体は存在しなかったんだよね。

ゲームでよくある魔物を全部倒せば解決するというパターンも考えたけど、このモグラを見る限り、そこまで瘴気が濃いわけでもないし、地下をうろうろする魔物も、突出した存在は見当たらなかったのだ。

『もしや――』

『心当たりがおありですか?』

『――確証はない。ないが、気になる事がある』

意味深な一言を呟いて黙り込んだ巫女が、社への帰還を指示したので彼女を連れて戻る。

魔物を運んだままだとパニックになるので、始末して「魔法の鞄」に収納した。

『乙女よ、「変わらずの乙女」よ。我が願いに応えたまえ』

社に戻ったツリルフルリさんが、護摩壇のような祭壇の前で一心に祈り始めた。

「何も起こらないわね?」

「アリサ、もう少し待ちましょ」

三〇分ほど待っても変化がないので、アリサが飽きてきたようだ。

ちなみに、ポチとタマは一〇分もしないうちに丸くなって眠ってしまった。リザは周囲への警戒を続けており、ナナはおっかなびっくりで寄ってきた小人族の子供を膝に乗せてご満悦だ。

『化け物が出たんじゃと』

『やはり、穢れが……』

茸民家の陰から小人達の会話が聞こえてきた。

彼らは身体が小さいからか、それほど距離が離れていないのに、聞き耳スキルでも完全に聞き取れないほど声が小さい。

『次の戦士長が決まらぬのも……』

『順当ならトプトタペタが……』

『……臆病者……』

『だから、チピタチョペタが……』

『もしかして、他の候補がいなくなったのも?』

『めったな事を言うな! もし誰かに……』

なんか会話が不穏な方向に流れ始めてきた。

小人の里の権力争いまで関わる気はないので、聞き耳スキルを向けるのを止める。

「飽きてきたわ」

アリサが大きく伸びをする。

「ねぇ、ミーア。なんとかならない?」

「むぅ」

アリサに無茶振りされたミーアが、困り顔で大樹を見上げた。

「ドライアド」

ミーアがドライアドを喚ぶ。

アリサが期待に満ちた顔で樹木を見つめる。

……何も起きない。

「無理」

ミーアが諦めた。

そういえばエルフって、長生きの割に諦めるのも早かったっけ。

「ご主人様ぁ~」

アリサが縋り付いてきた。

めずらしくセクハラなしだ。

「アリサは仕方ないな~」

猫型ロボットの気分で樹木を見上げ、「 魔力譲渡 ( マナトランスファー ) 」を使ってみた。

基本的に接触しないと効率が悪いんだけど、このくらいの距離なら問題ないはず。

『……ふああ』

模様に重なって、あくびをする緑色の童女が浮かび上がった。

「ドライアド」

「あら? 幼子ちゃん、よね?」

ミーアが呼びかけると、現地語で喋っていたドライアドがエルフ語で答えた。

「そう」

「どうしてここに――って、ちょっと待って、なんか喚ばれているみたい」

『応えた! 「変わらずの乙女」が呼びかけに応えてくださったぞ!』

社 ( やしろ ) の奥から、歓喜するツリルフルリさんの声が聞こえてきた。

やっぱり、活動するだけの魔力がなくて通じていなかったようだ。

「終わった~。なんか、前にエルフ達が結界を張った場所が壊れたみたい。涸れたはずの地脈を通って魔力と瘴気が流れ込んだと思う~。後はよろしくね~」

ドライアドがそう言って幹の中に消えた。

『大きい人! 「変わらずの乙女」が知恵を授けてくれたぞ!』

満面の笑顔でツリルフルリさんが飛び出してきた。

勢い余って階段を転げ落ちそうになったのを、手を差し伸べて助ける。

『すまぬ、助かった』

『それで乙女はなんと?』

『古の結界が綻んだそうだ。周囲の外輪山にある64の遺跡のいずれかに障りがあったのだろう』

ドライアドからの情報と変わらないけど、調べるべき遺跡が64個あるとは初耳だ。

『分かりました。さっそく調査してみましょう』

『うむ、任せたぞ、大きい人』

社の前を離れ、仲間達と蓮池に戻る。

「順番に見て回るの?」

「そんな面倒な事はしないよ」

蓮池の畔に手を突き、地脈の流れを意識する。

一番影響が出ていた場所がここだし、ここから地脈を逆に辿れば問題の場所が見つかるはずだ。

細い細い蜘蛛の糸のような地脈を辿っていく。

細いのに渓流のような清らかさはなく、ドブ川の底のヘドロの中を進むような気持ち悪さだ。

ドライアドは「魔力と瘴気が流れ込んだ」と言っていたが、瘴気の割合がかなり濃い。

――見つけた。

壁紙の破れ目のように一部が裂けて、そこから微量の魔力が流れ込んでいる。

どうやら、瘴気の淀みが詰まって擬似的な堤のようになっているようだ。

オレは地脈への接続を解除する。

「どう? 何か分かった?」

「ああ、ばっちりだ」

問いかけるアリサに、彼女の口調をまねて答える。

「ミーア、ガルーダを喚んでくれるかい?」

「ん。■■■■……」

ミーアが理由も聞かずに詠唱を始める。

オレ達はミーアが喚び出したガルーダに乗って、先ほど地脈接続で見つけた遺跡を目指して移動する。

◇

「みっけ~」

「遺跡のヒトを発見なのです」

「あれが遺跡なの? なんだか、石を積んだだけのモニュメントに見えるわね」

遠くの崖の上に、遺跡を発見した。

「あれ? ご主人様、遺跡の陰に誰かいます」

ルルが指摘してくれた場所を見たが、素の視力ではまったく分からなかったので、望遠スキルの助けを借りてもう一度集中してみた。

「いるね。小人族の若者のようだ」

ずいぶん衰弱しているようだ。

ガルーダに怯えるかもしれないので、少し離れた場所に着陸し、そこから歩いて若者の方に向かう。

「ご主人様、あの子、行方不明って言われてた小人じゃない?」

――トプトタペタ。

たしか臆病者とか言われていた小人だ。

前にマップ検索した時には見つからなかったけど、この遺跡の少し外側が別マップになっているようだから、あの時は境界の向こう側に行っていたんだと思う。

魔法薬だと用量がよく分からないので、ミーアの治癒魔法で若者を癒やす。

若者は怪我が治っても気を失ったままだったが、ルルが近くでスープを温めたらお腹の音とともに目を醒ました。

『……ここは?』

『遺跡の近くですよ』

オレ達が姿を見せたら驚いてもう一度気を失いそうだったので、幻影で小人化したオレ達の姿を投影して、「理力の手」でスープ皿や彼の身体を支えてスープを飲ませる。音声は腹話術スキルの助けを借りた。

よっぽど空腹だったのか、若者はあっという間にスープを飲み干した。これまでは苔を囓って飢えをしのいでいたらしい。

三杯ほど飲み干して一息ついたところで話を切り出す。

『どうして、こんな所に?』

『里から逃げたかったんだ。ボクは戦士には向かないのに、皆して戦士長だった父様の跡を目指せって言うんだ。母様も許嫁達も使用人達も皆……』

『それで、逃げる為に、遺跡を壊して結界に穴を?』

『違う!』

合点がいったと推理を披露したら、強い口調で否定されてしまった。

やはり、推理というのは難しい。

『壊したのはリポタレポトだ』

聞き覚えのある名前――確か彼と同時期に失踪したという小人の名前だったはず。

『彼も里から逃げて?』

『違う。彼は、彼とタピタトカタはボクを追いかけてきたんだ』

『連れ戻す為に?』

それならどうして遺跡を壊したんだろう?

『違う。ボクを事故に見せかけて殺す為だ』

「殺す為? なんの為に?」

アリサが口を挟んだせいで、若者が落ち着きなく周囲をキョドキョドと見回して声の出所を探し始めてしまった。

小人サイズのアリサ達の映像も作って、遺跡の裏側から姿を見せる。

『私の仲間達です』

『そうか……母上に頼まれて私を連れ戻しに来たのか?』

『いいえ、違います。ツリルフルリ様に頼まれて遺跡の調査に来たのですよ』

『そうか……』

若者が俯いて黙ってしまった。

『教えてください。どうして、リポタレポト殿とタピタトカタ殿があなたを殺しに来たと思ったのですか?』

『ボクの血筋が邪魔だったんだ。戦士長の血筋が』

なるほど、よくある話だ。

『そんな彼らがどうして、遺跡の破壊を?』

『事故だ。ボクを殺そうとした槍が遺跡の要石を壊してしまったんだ』

そう言って若者は壊れた要石とやらを見せてくれた。

大きめの魔核をベースにした魔法回路のようだ。

『ボクは崩れた遺跡と一緒に山の向こう側に滑落した。彼らは裂けた結界から溢れた魔物に追われて、逃げ惑う内に結界の向こう側に行ってしまうのが見えた』

言われて結界の向こうに出てマップ検索したら、二人の遺体の残滓を発見した。

それほど離れていなかったので、閃駆で行って回収する。

生きていてくれた方が良かったけど、消息不明よりはマシだろう。

あとは結界の修復だ。

オレは遠話でボルエナンの森の古老に、空間魔法の「 遠話 ( テレフォン ) 」を繋いで要石の修復方法を教わる。

手持ちの素材でなんとかなりそうだったので、さくさく修理して結界を張り直した。

「空間魔法でチェック完了。問題ないわ」

「ん、精霊も」

アリサとミーアがお墨付きをくれる。

「えもの~?」

「入れ食いなのです!」

「ご主人様、モグラ狩りも完了いたしました」

獣娘達が紅爪土竜の死骸を担いで戻ってきた。

「マスター、魔物寄せの香が切れたと報告します」

「それで最後だから大丈夫だよ」

これで結界内の魔物退治も完了。

放置したら小人達が全滅しそうだから、ついでに始末した。

帰りは徒歩で地脈沿いに瘴気を掃除して、里へと戻る。

◇

『大きい人! 「命の蓮」が元の瑞々しさを取り戻したぞ!』

社に戻るとツリルフルリさんが笑顔で報告してくれた。

『結界は修復しました。地脈も浄化したので、もう大丈夫ですよ』

『そうか! 感謝する! 感謝の品々を贈る。どうか、受け取られよ!』

装飾品や布、木の実なんかが大量に積み上げられている。

布はリボンに使えそうかな?

せっかくの気持ちだし、ありがたくいただこう。

『これは友好の印に』

シガ王国で入手した食料品を小人達に提供する。

『食糧、いっぱい』

『これで冬も越せる』

『餓死者でない』

デチャプタ語を話す下層の小人達が飛び跳ねて喜んだ。

『宴だ! 大きい人に感謝の宴を!』

蓮が元に戻った時点で準備を始めていたのか、日が落ちるとすぐに社前の広場で宴会が始まった。

小さな杯に盛られた料理を勧められるままに口に運ぶ。

薄味だがなかなか美味しい。量が少ないけど、彼らのサイズだと樽で出してくれたような感じだ。

『楽しんでいるか、大きい人』

『ええ、楽しませていただいてます。私達の料理も振る舞いましょう』

そう言って格納鞄経由でストレージからパンケーキやフルーツパンチなど彼らのサイズでも食べられるような料理を出して振る舞った。

小人達がパンケーキの山に登り、フルーツパンチのボウルで泳ぐ。

「幼生体を救助すると告げます」

『俺は美味しくないぞぉおおお』

ナナがボウルで溺れる小人を助けるのに箸を使ったせいか、ちょっとした誤解を与えてしまったようだ。

「皆も食べるかい?」

食べ足りない顔の獣娘達に肉料理を取り出して提供する。

『すごい肉だ』

「一緒に食べようなのですよ」

「しぇあしぇあ~」

ポチがハンバーグを切り分けて小人達に提供し、タマが大海老を千切って殻の空洞に小人達を招く。

お互いにスケール感が違うから、何を提供しても面白い感じになってしまう。

『息子に代わって礼を言う』

『よくぞ、息子の骨を届けてくれた。これで墓が作れる』

結界を壊した二人の親族がオレに礼を言いに来てくれた。

もう一人、生き残ったトプトタペタ君の父親は――。

『息子の 死を看取って ( ・・・・・・ ) くれた事、感謝する』

そう言って頭を下げた。

オレを手招きしたので、掌に乗せて耳元に運ぶ。

『愚息の手紙は読んだ。妻や周囲には息子の望み通り死んだ事にした。……息子の事を頼む』

髭づらの小人がそう言って頭を下げた。

トプトタペタ君が里に戻るのを嫌がったので、父親に手紙を出す事を条件に死んだ事にする事にしたのだ。

件のトプトタペタ君はナナのポケットに隠れている。

里を去った後は、シガ王国の王都屋敷にしばらく滞在した後、頃合いを見計らってボルエナンの森に移住する予定だ。

小人達との楽しい宴もやがて終わる。

「終わったー?」

『乙女が! 乙女が動いたぞ!』

『変わらずの乙女が変わった?』

『ほら! 本当だっただろ! 前にも乙女が動いたんだ!』

『さすがは宴じゃ! 乙女も一杯どうじゃ!』

大樹に宿るドライアドが急に動いたので、小人達が腰を抜かして驚いた。

嬉しそうに主張する人は、前回動いたのを目撃した人だろう。酔っぱらい達は平常運転だね。

「終わったよ、ドライアド」

「じゃ、送るねー」

まだ別れの挨拶を済ませていなかったのだが、せっかちなドライアドが「 妖精の道 ( アルフ・ロード ) 」を開いてしまったので、そのままシガ王国へと帰還する事になった。

転移の光が消えると、オレ達は出発地点の公園にいた。

「ありがとー、ニンゲン!」

こっちのドライアドがお礼を言って桜の木に消える。

そろそろ夕暮れだから、撤収する人達と夜桜見物をする人達で公園はごった返していた。

夜桜見物もしたいところだけど、夜の公園は酔っ払いだらけになるから教育に悪い。

「それじゃ、帰ろうか」

「あいあいさ~」

「はいなのです!」

元気な仲間達の声を受け、オレ達は公園を後にした。

『これが大きい人の都!』

ナナのポケットから顔を出したトプトタペタ君が王都の夜景を見て感動している。

王都邸に招いた後、いつの間にか賢者鼠達と交流を持って仲良くなっていたが、レイヴン・ライダー達が乗るカラスへの恐怖をどうしても克服できず、ボルエナンの森へ移住する事になった。

彼らの里でもフクロウが最大の脅威だったらしいし、抗いがたい恐れがあったのだろう。

後日、ボルエナンの森に様子を見に行った時には、森に棲んでいた別の小人族の女の子と仲良くしていたので、きっと幸せな日々を送っているに違いない。

故郷への手紙はドライアドが届けてくれる手筈になっているし、第二の生活を満喫してほしいと思う。

できれば、子供が生まれた後でも良いから、故郷に顔を出して心配していたお母さんを安心させてあげてほしいけどね。

※次回は5月の予定です。

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