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6-3.強化しよう

デスマーチからはじまる異世界狂想曲( Web版 ) — ncode.syosetu.com · All chapters

6-3.強化しよう

※2/11 誤字修正しました。

サトゥーです。最近のRPGでは色々な品物が作れる仕様のものが多いですよね。

大抵は失敗したら素材が消えてしまうようです。

◇

その日の晩、予想していた「お客さん」が比較的近くに来たので寝床から起きて、夜番をしていたミーアとタマの所に行く。

「交代?」

「まだ早い~?」

「交代はもう少し先だよ」

タマに「索敵」の仕方を尋ねてみた。

「にゅ~?」

短い腕を組んで悩む姿が可愛い。眉間によっている皺を指でつつきたくなる。

「音いっぱい、ちがう音」

「同じ景色、ちがう色」

「いい匂い、ふつうの匂い、わるい匂い」

「いっぱいの同じ、いっぱいの違い」

「だから、わかるの~?」

一生懸命伝えようとしてくれる言葉に耳を傾ける。

要は沢山の情報のなかから差分を検知すればいいんだろう。「考えるな、感じろ」かな?

「ちょっと林に入って試してくるよ。何かあったら声を上げるから、聞こえたらリザを起こして助けに来て」

そう2人に伝えて林に分け入る。

付いてきたがるかと思ったが、眠さでそれどころじゃないようだ。

接敵した時に強打とかのスキルを取得するつもりなのでリザの槍を借りてきた。ちゃんと、寝る前に借りる許可は貰ってある。

タマには少しと言ったが、実際は3キロほど離れた場所だ。敵の場所までは数百メートルほど。

鑑定の時の経験を踏まえて、メニューの各種表示をOFFにする。

続いて、自然体になって、タマの言葉を反芻しながら神経を研ぎ澄ませていく。

目を半眼に閉じ、焦点を広げる。

月明かりも疎らな木陰。蔦や藪。枝で眠る鳥のシルエット。小さな生き物の光る目。遠くの木々の隙間に垣間見えた黒い影。

耳を澄ます。

沢山の音。風の揺らす木々の音。小さな生き物が揺らす草の音。虫の声。何かの爪が硬い地面にあたる音。

体の隅々まで自然と一体になるのをイメージする。

草木の匂い。土の匂い。かすかに感じる水の匂い。川に落とした絵の具の様に、他に紛れるイキモノの匂い。

感覚が静かに澄んでいく――

かさっ。

とん。

ヒュン。

体に感じる空気の流れの変化に合わせて、死角から襲ってきた何かの攻撃を避ける。

避け終わってからそちらに意識を向けると、少し離れた位置に着地した一匹の黒豹がいる。そいつは奇襲をかわされた事など何でも無いかのように、優雅に向きを変えこちらを見上げている。

ログのみ再表示する。

>「索敵スキルを得た」

>「危機感知スキルを得た」

>「空間把握スキルを得た」

>「心眼スキルを得た」

大盤振る舞いのスキルを 有効化 ( アクティベート ) する。

その間も黒豹が何度か攻撃を仕掛けてきたが、見える位置にいる以上、避けるのは大して難しくないので問題ない。

索敵スキルのお陰か、樹上にもう一匹いるのが判る。

こちらが疲れた時を狙っているのか?

林の中で取り回しに難がある槍は使いにくいのだが、空間把握スキルで振り回しても大丈夫な角度が判るので思うように動かす事ができる。

夕方に練習しておいた強打の構えから、強打と刺突の重ね業を一匹目に叩き込む。静かな一撃が何の抵抗も無く黒豹の頭を貫く。

>「刺突スキルを得た」

>「強打スキルを得た」

>「貫通スキルを得た」

オレの攻撃するタイミングに合わせて樹上の斑豹が襲ってくるのを、見えているかの様に危な気なくかわす。

3つのスキルを早速 有効化 ( アクティベート ) して、着地したばかりの斑豹に叩き込む。

リザが強打を打つときに魔力を消費していたみたいなので、槍に魔力を込めるような感じで試してみた。

魔力を込めると槍に薄っすらと赤い光が浮かぶ。

なかなか綺麗だ。

槍は赤い軌跡を描きながら斑豹を貫く。

ほんの半瞬ほど遅れて赤光が手首を捻った方とは逆の方向に回転しながら穂先の方に収束して斑豹に吸い込まれ、豹の上半身と後ろにあった木々を粉々に爆散させてしまった。

野営地から離れた場所にしておいて良かった。危うく皆の安眠を妨げるところだった。

>「魔刃スキルを得た」

>「螺旋槍撃スキルを得た」

リザの出していた赤い光が強打とは別の技だったとは思わなかった。使えそうなスキルが取得できた事だし結果オーライだろう。もちろん、この2つも 有効化 ( アクティベート ) する。中二病っぽい名前だが、そこは目を瞑ろうと思う。

◇

意図せず広い練習スペースができたので、少し魔刃の練習をしてみる。込める魔力によって光り方が違うようだ。

魔力1を込めてみる。微妙に淡い光の線が薄っすらと槍に浮かぶ。

魔力10を込めてみる。はっきりとした赤光の線が槍に浮かぶ。

魔力50を込めてみる。強めの赤光の線が幾重にも槍に浮かぶ。照明に使えそうだ。

魔力200を込めてみる。強烈な赤光――ヤバイ、槍が変な振動をし出した。

このままだと槍が破裂しそうな予感がする。

リザの哀しそうな顔が脳裏をよぎった。

まずい。

そうだ。

入れすぎたなら、吸い出してみよう。

その刹那の思考の後、槍に込めた魔力を吸い取るようなイメージで魔力を抜く――良かった、振動が収まった。

ふう、焦った。

今度は黒鋼の槍とかで実験しよう。

魔力を吸い取ったのに、リザの槍に赤い線というか模様が浮き出たままになっている。仕方ない、朝になったらリザに土下座して謝ろう。

せめて性能が落ちてないといいんだが……。

AR表示で確認すると、槍の名前が「魔槍ドウマ」になっている。前はたしか「カマドウマの黒槍」だったはずだ。攻撃力とかの性能もちゃんと覚えていたわけじゃないけど、間違いなく強化されているみたいだ。前は黒鋼の槍より少し強いくらいだったはずだが、今はその3倍近い。ストレージにある竜槍には遠く及ばないにしても、他の魔槍に近い性能になったようだ。

いわゆる武器強化って事なのか。

もっとも、あの感触だと失敗一歩手前だったろう。失敗していたらリザの槍が壊れていたのは想像に難くない。

ログを見ると幾つかのスキルが増えていた。

>「魔力操作スキルを得た」

今までも魔法道具やナナに魔力を注いでいたんだが……。

注ぐだけでなく、吸い取る所までやって初めて条件を満たすのだろう。

>「魔力付与スキルを得た」

>「武器強化スキルを得た」

さらに、こんな称号まで獲得していた。

>称号「魔槍の鍛冶師」を得た。

役に立ちそうなのでスキルはちゃんと 有効化 ( アクティベート ) しておいた。

◇

試しに普通の短剣に魔力を注いでみる。

これは違うな。

リザの槍の場合、浅い皿に水を注ぐような感じなのだが、この短剣の場合、目の粗いザルに水を注ぐ感じだ。魔力が引っかかるもののすぐ抜けてしまう感じなのだ。

当然、赤く光ったりもしない。

今度は、ストレージに仕舞ってあった 大羽蟻 ( フライング・アント ) の脚を一本取り出して魔力を注いでみる。

さっきの短剣よりはマシなんだが、中が詰まってるような折れ曲がった管に水を流すような感じがする。流し込む魔力が引っかかるような閊えるような、もどかしい感じだ。

強引に魔力を通したらいけるか?

そう思って試したら、破裂して飛び散ってしまった。リザの槍も一歩間違ってたらこんな感じになっていたのか。

新しい蟻脚で試す。やはり魔力を10くらい注ぐと破裂してしまう。

リザの槍が特別なのか、素材の違いなのか?

もっと頑丈そうな素材で試す事にした。

竜の歯を取り出して試してみる。歯といっても30センチほどある大きなモノだ。

魔力を注いでみた感触は蟻脚と同じ。違うのは魔力の耐久度くらいで500くらいまでは大丈夫だったが、そこで歯に亀裂が入ったので中断した。

あまり遅くなってタマ達に心配させても悪いので、今晩はこの辺で切り上げる事にした。帰る時にメニューの設定を忘れずに戻しておく。

野営地に戻ったオレを迎えてくれたのは、眠ってしまったミーアとタマのあどけない寝姿だった。

もっともタマの方は、オレがリザの槍を馬車に立て掛ける音で目を覚ました。その後、音を立てたのがオレだと判るとそのまま「ぐで~」という感じにだらしなく寝そべってしまったが、眠ってはいないようだ。

オレが横に座ると、胡坐をかいた膝の上にのたのたと上がりこんで、丸くなって寝てしまった。

猫鍋を思わすその姿に和みつつ、2人の代わりに朝まで夜番をする事にした。