LNCrawler

第1章 一節

天秤の騎士は、己が正義を成し続ける — www.pixiv.net · All chapters

第1章 一節

村が……見慣れた景色が燃えている。

田畑も木々も、昔遊んだ稲穂の草原も…灰に代わっている。

彼の目の前には、愛していた妹の遺体。胸に槍が刺さり、切っ先は地面へと伸びている。その他にも、彼の知る者、彼が恩師と呼んだ人、友人と呼んでくれた少女達の冷たくなった死体が転がっている。流れていた血は既に黒へと変色しており、彼が遅すぎた事を物語っている。

「……」

しかし、彼の表情はただ暗いだけだった。

悲しくない訳では無い、痛くない訳がない、辛くないなどと思いたくも無い……だと言うのに、彼の瞳は悲しみを写さず涙も流れず、瞳に焼き付いていく遺体に返しているのは怨の焔だけ。

返却され、託された剣の、刀の鞘を握る手に力が入る。

「……」

彼は間に合わなかった…師の下を経ち、鍛えた剣を持って故郷に戻ればこの様だ。二人に渡すはずだった獲物は渡せず死に際に彼女らは俺に言った。息も絶え絶えに、力を振り絞り。誰よりも高潔でプライドが高く、冷たい様で熱い心を持った彼女は俺に最後の言葉を告げた。

『ごめん、なさい…貴方の刀受け取、れそうにないわ。だから、貴方が…』

いつも明るく、皆を引き立て。周りに合わせる為に誰よりも周りに目を向けていた彼女は最後に笑いながら言った。

『背負わないで、って言ってもヒッキーは多分背負っちゃうから……でも、それだけじゃダメ、だよ。だから、夢は…私たちの夢も背負って、欲しいかも』

誰が、何をした…なんて聞かない。もう分かりきっているから。その噂を聞いて急いで帰ってきた…だと言うのに間に合わなかった。村を目に捉えた頃には、燃えていた。

今思えば彼女らはギリギリで意識を持たせ、俺を待っていたのかもしれない。妹を、小町を見て俺が折れて発狂してしまわないように、俺が俺を見失わないように彼女らは望みを託してくれたのだと、

「……」

いつの間にか雨が降ってきたようだ。それに気付いた彼はその特徴的な瞳を上へと向ける。いつもは多少の光の灯った瞳は、暗く深い黒に染まっていた。

周りには俺の身を焦がそうとする炎が舞っている…丁度いいこれで体が冷える。きっと火だって消えるだろう……けれど、この胸にある焔は死んでも消えそうにない…

この日、少年は修羅へと堕ちた。瞳に怒りを宿し、大切なものを奪っていった、敵を、それに類する者達を駆逐する。

護りたかったなど言わない、ここから始まるは復讐劇。黒く、熱く、痛く、彼が、彼女が受けた痛みを、理不尽を味あわせる。絶対に……

「朝っぱちから嫌なもんを見た……」

自室にて目を覚ました八幡は、掠れた声でそんな事を言う。自分が修羅となったあの日の夢だ、今でも時々夢に見る……

駆け付けただけだった俺には傷のひとつもない。ただ、あの夢を見る度に背中が冷えて、嫌に思えるほど頭が熱を上げようとしてくる。

「……」

過去に固執するのは何とも愚かだとは思う、けど俺はこの怒りを一生背負って生きて行く。この街に居るであろう皆の仇をうち、その先に現れるであろう悪を根絶する。その先に何が残ってるかは知らない。

『ハチマーン!起きてぇー!私よ、私!世界で一番美しい私が起こしに来たわよ!』

忘れる為に今一度眠りにつこうとすると、自室の扉が激しく叩かれる音が響く。木製のそれはひとつ間違えれば壊れかねない程脆い…最も叩いているのが神の恩恵を刻まれた眷属、冒険者であると言うのも理由の一つなのだが。

「…」

『あ!黙ったわね?なら、肯定と取って入りま〜す」

さっきのはノックのつもりだったのか…と思っていると、扉が勢い良く開け放たれる。

まるでいつもの事かのようにごく自然な所作で扉を開ける、言いたくはないが美少女の姿。

別に寝る為に黙ったんだが、こうなれば交戦開始だ!と言わんばかりに八幡は再び布団を被る。

「もっしもーし?あれだけ騒いだんだし、起きててもおかしくないはずなのになぁ〜…チラ」

いや、騒いだ自覚あったんかい。

「…」

絶対に起きてやんない、正直もう目覚めてるけど絶対起きてやんない。なんだった今日一日ここから動かないまである。

「こんな美少女が態々部屋に来てまで起こしに来てあげたのになぁ〜、チラ」

「…」

アリーゼは部屋を適当にプラプラとしながら、膨らんだ布団をチラチラと覗く。部屋と言うよりは鍛冶場なそこには、道具と少しの本、寝る為に少しせり上がった居間がある程度のものだ。

仮にも男の部屋にズケズケと脚を踏み入れ、白々しい棒読み口調を伴いながら、何とも雑なセリフを吐いていく。

「……最終手段とリオンの手料理どっちが良い?」

布団越しではあるが、当ファミリアに所属する人間ならば、どちらも御免だと答えるであろう問答を投げかけられる。片方はよく知る暗黒物質、しかしもう片方は知らない。だが、おそらくろくな物では無いだろう。

「どっちも御免だな……」

「そ、なら最終手段ね!」

「え?」

最終手段?何それ、八幡聞いてない。聞いた事ない…

そう思っていると鍛冶場の方からゴソゴソと何かを漁る音がしたかと思えば、次には石を削る様なガリガリという不快な音が聞こえる。

もしやと思い、布団から顔を出すと、

「ファッ!?」

「フン!」

その細身に見合わない大剣を振り回す、団長の姿。と言うより振り下ろされてるんだが?

やばいと思い申し訳程度の防御を腕で取ると、剣が目の前で停止する。

「起きた?」

「…バッキバキに覚めたわ。寿命が5年位縮んだ気分だ…心臓に悪いからマジでやめてね」

「フフン、善処するわ!」

「……はぁ」

観念するかと、布団から体を出し、そのまま端に畳んでいく。中心に座している囲炉裏には昨日の灰が若干残っている。そろそろ掃除しなきゃな、

俺の所属するファミリアである、アストレア・ファミリアだが、探索系のファミリアでもあるがその活動内容は街の警護に重きを置いている。

「おっ!やっと起きて来やがったか」

「八幡…貴方はもう少し規則正しい生活をした方がいい」

食事を摂る為にリビングへと顔を出した八幡に、反応を示したのは二人。

一人は小人族の少女、ライラ。八幡に並んでファミリア内での知将の一人‘‘知識を知恵に変える‘‘と言う独自の信念で戦っている。尊敬している仲間の1人だ。

もう一人はエルフの少女、リュー・リオン。皆の妹、俺は違う、以上!

現時刻11時、俺としてはまだ寝足りない。まだギリギリ朝飯になっちまうからな。

「俺の睡眠が浅いのは誰のせいだろうな、輝夜?」

「っ!」

「あぁ…またですか」

八幡がそう言うと、リューは納得した。輝夜とは、台の端で今大人しくお茶を啜っていた極東美人、八幡と同じく極東出身の少女、ゴジョウノ・輝夜の事である。では、彼女がどう彼の睡眠時間に関係しているかと言うと、

「双葉の整備はしんどいんだぞ…いい刀だから尚更な」

「ふふん、だろう。それにお陰で街の奴らは守れたんだ、安いもんだろ?」

「俺にメリットがないなぁ?あと、猫剥がれてんぞ」

「っ!それは申し訳ございませんでしたわね!」

不機嫌を表に出しながら、取り繕ったような上品な口調で八幡に訴えかける。

八幡は、彼のファミリア。アストレア・ファミリア所属の戦闘可能な鍛冶師である為。巡回を行う彼女らとは別の意味で、寧ろ代えが居ない分、多分に酷使されている。

つまり、休みよこせこの野郎という訳だ。

「ま、そういう訳だ。俺の睡眠がこうなるのは仕方ないの、たがら休める時に休むんだよ。おやすみ」

「飯食いに来たんじゃねぇのかよ…」

食事に来たは良いが眠気の抜けない八幡は、台に顔を伏せる。

「ダメよ!八幡これから私とデートなんだから」

「初耳なんすけど?」

流石にものの数秒では眠りに付けないので、アリーゼの発言が真横から響く。昨日の時点では作業が終わらず、寧ろ日付が変わる直前に追加が来たので朝までかかったが、いつ聞いたかすら思い出せないということは、突飛に出た事だろうと八幡は処理する。

アリーゼにしてみればよくある事だ。

「…大体、この治安の悪い街でデートなんて出来るかよ。出来たとしても行かんけど」

「そうなるように頑張っているんじゃない!あ、引き摺ってでも連れて行くからそこは安心して?」

「安心できる要素がひとつもない……」

寝起き早々水も飲まずに、こんなハイカロリーな会話はなるべくしたくないんだが……相手がアリーゼでは無理な話か。

「それと八幡にお客様よ?」

「お客?」

それ起こす時に言ってくんない?

仮にもレベル2なのでそこそこ名は知れてると思っていたが、態々ホームにまで来るような物好きだ?

心当たりなどある筈はなく、取り敢えず。

「誰だ?」

「フィン」

「…」

絶句した、天下のロキ・ファミリア。その首領様がしがない鍛冶師に何の用だってんだ?間違いく面倒事なので、一気に起きるき失せたんだが?

「居ないって言」

「呼んでくるって言っちゃった!」

「…」

たった今退路は潰されました。

……さてどうしますか?

解答、ヒキガヤ家伝統の戦法…必殺逃げるんだよォー

「さぁ、行きましょうね」

「あぁ、ちょっと待って、せめて羽織着させて」

俺のレベルは2、対するアリーゼのレベルは現在3。たった1つの差だと言うなかれ、冒険者、神の恩恵に置けるレベルの差とは天と地ほどの差がある物だ。

……まぁ、覆せないと言えば嘘になるが。

なんて思いながら、首根っこを持たれ引き摺られながら客間への階段登らされていく。朝から体がボドボドなんですけど、これからお話に聞くんじゃないのかよ?

客間に辿り着くとそこには既にお客が座っていた。

「やぁ、朝早くに済まないね」

そう言って目の前の爽やかな少年は片手を挙げる。

ロキ・ファミリア団長、フィン・ディムナ。オラリオ一の切れ者にして、腕っ節に関してはレベル5の第一級冒険者。そして顔もいい勝ち組野郎。

「朝飯食いながらでもいい?」

「あぁ、構わないよ」

起きてきた当初の目的を果たすことにした。

マルチタスクな俺は飯を食いながらでも話は聞ける、流石俺、専業主夫も夢じゃない。まぁ、成りたくても成れそうにないんだけどね?このファミリアじゃ…

「それで俺に何の用だ?」

座った直後、待っていたかのように俺の席に朝食が置かれる。ありがたい限りだ、このファミリアのいい所は、面倒を持ってくる奴が居る反面、それと同じくらい良心が居ることだな、うん。

「…闇派閥が動き出しそうだ。」

その瞬間八幡の纏う雰囲気がガラリと変わる。時計で言えば12から6へ、天秤で表せば上下が逆転したかのように、

「…成程、通りで態々。根拠は」

「話が早くて助かるよ…」

奴らの動きが活性化しつつあるのは知っていた。現に俺がこんな時間まで寝てたのは、それに駆り出される団員たちの武器のメンテをほぼ毎日強いられているからだ。

「報告は何処まで聞いている?」

「襲撃ヶ所、ファミリア名、人数、そんなとこだ…」

輝夜、ライラが居るとはいえ俺もある程度は報告書を読ませてもらっている。目的が有るからな…

「十分だね。なら、一週間後に冒険者会議が有る。君も来てくれるね?」

頬張ったパンを咀嚼し終えると、八幡は頷く。

もうすぐだ…もうすぐアイツらの宿業を遂げられる。

…朝の夢も有ってか八幡の瞳が紫色に染まっていく。

「…頼んだよ。八幡」

そう言うと、フィンはホームを立ち去っていく。周りで聞いていた団員たちは、起きてすぐの八幡と今の八幡の顔の違いに瞳を伏せる。その瞳の意味を知っているが故に……

フィンとの対談が終わり、客間には食器を改修しに来てくれた団員とアリーゼ、そして興味本位で来たであろうライラとリューが居る。

「ニガい…」

察して、食事を持ってきてくれたものだから、こっちもと思ったが、それは話が良すぎたらしい。

マグに入っていたのは、砂糖も練乳も入っていないブラックな物だった。舌に広がる、苦手な刺激に思わず顔を顰める。

『ホッ』

「?」

すると周りから安堵の声が聞こえる。何故だ?

「あら、おはよう八幡」

「…ウス」

横から聞こえたのは、美しく威厳ある声。来客の件を知ってか、気を使って自室に戻っていた女神アストレアが客室へと入ってきたのだ

八幡はバツが悪そうに顔を逸らしながら返事をし、口の周りに付いたパン屑を拭う。

「あぁ、お前ら。整備は終わってるから勝手に取っていってくれて構わないぞ。他の奴らにも伝えといてくれ」

「いつもありがとうございます」

「ありがたくもらってく」

昨日の時点で、渡された武器装備の整備は終わっている。仲間達にそれを告げると、思い思いに言葉を返される。そのほとんどが感謝の言葉だった為、不意に上がっていた怒りの感情が下がって行く。

「それで会議は行くつもりなのよね?」

「はい…俺の宿業を果たす為に」

「違う違う!この街を守る為。でしょう?」

アストレア様に聞かれたので、理由も含めて答えるが、どうやら解答に間違いがあったらしい。

横に座っていた団長に訂正されてしまった。

「…そう、だな」

俺はその訂正に対し少し詰まりを覚えながら言葉を返す。

アストレア・ファミリアの活動理念の一つに、市民の安寧が挙げられている。それに意を唱えるつもりはない。籍を置かせてもらっている以上、俺はそれに従うし、必要ならば仲間達には必ず手を貸す。

「おい…」

「なんだ?」

食事を終え、頼んで用意してもらった大量の砂糖と練乳をぶち込んだオリジナルブレンドを飲んでいると。横から声をかけられる。喋りかけてきたのはライラだ。

「お前、フィンから何を聞きやがった」

「…」

ライラは俺や輝夜に次ぐ智将、知恵者の一人だ。作戦の立案は俺達3人、それを承認するかどうかが団長に譲渡されている。

言うなれば、俺たちが頭脳、アリーゼその中で判断を司り、他の団員はそれに従う体みたいなもんだ。

どうやら、先の会話の後の俺の様子が気になったらしい。

「いや…何も」

「言え」

「あ、はい」

男が女に逆らえないのは英雄神話の時代から変わっていない。てか寧ろ怖すぎて逆らえそうにない、

「闇派閥…」

『!』

このホームでその単語は聞き慣れている。

しかし、その単語がロキ・ファミリアの団長の口からもたらされた、と言う事に意味がある。勿論、こんな状況だ無いとは言いきれない。

俺たちアストレア・ファミリアはその性質上、闇派閥と交戦する機会が多い、現に昨日も相対している。

だが、探索系ファミリアであるロキ・ファミリアはそうではない。つまり、

「多分、ダンジョン内ででも見たんだろう」

「そうなった場合疑問が一つありますわね」

「どっから出てきたのか…」

いつ入ってきたのか輝夜が会話に参加する。

仮に俺の予想通り、フィン達がダンジョン内で奴らを見た場合。輝夜たちが昨日戦った奴らは何処から、と言う話になる。

ダンジョンから出るには、ギルドを必ず通る事になる。外部から入ってきたというなら、ガネーシャ・ファミリアが行っている取り締まりを受ける事になる。

つまり、奴らがダンジョンから出てきたにしても、オラリオ外から入ってきたにしても、どうやってという疑問が現れる。

「だとすれば、まずあり得るのが、ダンジョンの別の出入り口」

「次に壁の下を掘って外部から入ってきたか」

「最悪のパターンは内通者がいた場合だ」

「確かに…他のファミリアに紛れて救出なんて名目で街に出られちゃ防ぎようがねぇ」

現在、オラリオの街の治安は芳しくない、それどころか荒れに荒れている。何しろ、暗黒時代なんて言われているほどだ。

「今の街の状況じゃ、視線を内と外両方に向けるなんざほぼ不可能だ」

「会議じゃ、おそらくそれが内容になってくるだろう」

だが、おそらくフィンが俺にこの情報をもたらしたのは、別の意図があったことは明らかだ。あいつには俺の事情をある程度話してある……今回ばかりは手として使われてやる。だが、やり方は自由にさせてもらうぞ、フィン。

「アリーゼ」

「終わった?」

「あぁ、会議はお前、俺、輝夜、ライラで出席する。」

「おう」

「えぇ」

「見回りはリオン、ネーゼを中心に編成、他はアストレア様の警護をお願いね」

小会議の結果をアリーゼに伝えると、そのまま一週間後の編成に移る。

「いいな?リオン」

「異論ありません」

硬いねぇ〜、流石エルフ。まぁ、軽く来られても逆に困るけど。

「私の木刀はどうなっていますか?」

「ちゃんと終わってるから安心しろ。それじゃ一週間後に起こしてくれ、おやすみ〜」

「ちょっと待てい!」

「ん?」

「八幡、ステータスの更新をしましょう」

「え?俺ダンジョン潜ってないっすよ?」

「良いから、良いから」

ライラに呼び止められたかと思えば、要件があるのはどうやらアストレア様らしい。

昨日は武装の整備に1日回してたから、外にすら出てないんだが?

「心境の変化から変動があるかもしれないからよ」

「…そんなに変わってませんて」

それでも良いから、良いからと手招きしてくる主神様に渋々と言った感じで着いていく。いつ行っても女神とは言え女性の部屋に、それも寝室に行くのは緊張するものだ。

「それじゃあ、始めるわね」

現在の状況はと言うと、かの女神のベッドの上に俺が上裸でうつ伏せになり、その上にアストレア様が跨っている状況だ。どこの神もこんな体勢でステータス更新をしてるのか?今更だけど、

背中に冷たい何かが垂らされる。

神血…イコルと呼ばれるそれは、背中に刻まれた神の恩恵を浮かび上がらせ、成長に応じてその力の性質を上げたり変えたりしている。

「…終わったわ。今写すわね」

そう言うと、背中に今度はザラりとした乾いた平たい物がが当てられる。

「はい。これが貴方の最新のステータスよ」

渡された羊皮紙には俺の現在のステータスが記されていた。と言っても以前見たものとさして変わっていなかったが、

比企谷八幡

レベル2

力:B

耐久:B

敏捷:A

器用:S

魔力:A

鍛冶:I

スキル

・怒りの眼…怒りの感情による一時的なステータス継続上昇。発動時成長率高補正。精神に対する干渉完全遮断

・賢者…一定以上の怒りの感情に対する抑制効果。精神力の効率向上、魔法陣展開高速化、魔法保存×1

魔法

・天の鎖…汝の正義は此処に為される。名を示せ確たる正義よ。

神聖、又それに連なるものに対する絶対拘束魔法。詠唱変化による発動形態変化。短文詠唱

詠唱

“其が罪は原罪となる『ここに万物を戒めよう』“

・楽園宮…安息は此処に叶い、楽園は此処に顕現する。

絶対領域展開、魔法陣内における自分を除いた対象者に持続回復効果。

詠唱

”痛みよ、苦しみよ、憂鬱よ、後悔よ、我が元にて天へと解放されよ。己が罪と向き合え、己が正義を疑うな。安息は此処にもたらされる、終わりには花束を、始まりには賛美歌を。唄え手向けの歌、寿け命の誕生。此処にこそ楽園は成る“

・天秤の審判…長文小節詠唱魔法。汝の正しさを示せ。悪は此処に平伏すだろう…

自身が悪と断じた対象を、絶対の効果対象とし魔法の効果を絶対とする。

曰く、レベル3までもう少しらしい、が

「やっぱ、まだ出ませんか…」

と言うのは、現状俺だけが持っていると思われる小節詠唱魔法‘‘天秤の審判‘‘についてだ。発現してから具体的な効果も、詠唱すらも出ていない。分かっているのは効果対象に出来る相手と、そのフレーバーだけだ。

「貴方には絶対に倒すと言う気概はある。けど、実際に闇派閥を相手を取った時に感じた物は何?」

アストレア様からの疑問に関しては、余裕がある時に一度だけ、考えた事がある。

アストレアの言葉の中にはこう言った意図が隠されている、「貴方の正義は何?」と。

アストレア・ファミリアの団員の殆どはどうあれ市民を思って活動し、誰かの為と言うのが彼女らの正義である。

しかし、比企谷八幡はそうでは無い…

「命乞いが耳に響かなかった、ですかね…」

「…そう」

八幡の返答に対する、アストレアのリアクションは悲しげであった。

鍛冶師とはいえ、余裕さえあって元気さえあれば八幡は任務に駆り出されることもある。その場で、拘束が無理な場合殺すことを厭わない。

「多分これが俺とアリーゼ達の決定的な違い。正義の根幹が正しい物か怨讐なのか…」

「貴方のその怒りはきっと正当なものでしょう…けど、行き過ぎた粛清は糾弾の対象に成りかねない。貴方がそれを気にしなくても、アリーゼ達が、私達が…」

俺が戦う意味、俺の正義の意味なんて決まってる。

復讐、怨讐、あいつらの命を奪った闇派閥への怒り、こんな黒々とした感情が俺の正義だ。

もっとも、これを正義だなんて言えないんだろうが、

「市民は俺にとって、あいつらを駆逐するおまけで守ってるに過ぎない…」

八幡が抱いている怒りは数年前のあの日から続いている。それこそ、夢に見てしまう程。そして、その夢を見る度に薪はくべられ続ける。愚かなほど燃え上がり、火種は永遠に消えはしない。

「なら、これから見つけていくしかないわね。」

「?」

「貴方の本当の正義…貴方が守りたいと思えるものを、よ」

用事が終わったので、部屋を出る。俺の守りたいものねぇ?…もう無いから解答に困ってるんだがな。

「ハァ〜」

「どうしたの?溜め息なんかして…あ、いつもの事か」

部屋を出て直ぐ横に、一人壁に立て掛ける様に居た。

何気に失礼な事を言ってきたのは、言わずもがなアリーゼだ。

「誰のせいだと思ってやがる…」

「さぁ?」

「お前らだよ」

武器のスペエアの要求に始まり、事務処理、掃除に、整備に、改良の依頼、ホームの改装工事その他諸々、俺此処に来て働き詰めなんだが⁉︎

「なら、リフレッシュに行かない?」

「お断りします、ごめんなさい」

ペコリと腰を折り申し訳なさを演出しながら自然な流れで誘いを断る。某後輩直伝のお断り術が此処で活きる。本当なら、一二言早口で述べた後に言った方が効果的なのだろうが、アリーゼなら問題ない、多分。

「あ、そう。じゃ行くわよ!」

「話聞いてた?」

「レッツゴー!」

「お、バカ脱げる引っ張るな!」

角して、八幡の外出が決まった。大変不本意ながら。まぁ、仕事は終わってるからいいけど、出来れば静かにそっとしておいて欲しかった。切に願う俺に静かで、安らかな休日を…

街は所々に瓦礫が積まれている。痛々しい街の情景に心が傷むと言えば嘘になるが、今日行うのは、別に街の修復ではない。

今日行うのは炊き出し、つまり市民の心のケアだ。

「ただの炊き出しにそれ要るの?」

「そう言うお前だって持ってきてんじゃねぇか…」

「私は立場上もあるから」

「なら、俺にもあるだろ」

横で歩いているアリーゼが傍の方で、俺が腰に刺しているそれについて指差してくる。念のため持ってきた、俺の…あいつらの物になるはずだった、刀と剣だ。

雪厳と結一、魔剣の様な特別な力はないが、この世に二つとない俺の傑作達だ。

雪厳は刀身が冷たさを感じさせる程深く黒い鋼を鍛えた長く美しい刀。結一は陽光が目も開けられない程反射する純白の刀身を携えた両刃の剣。

「炊き出しなら先に言えっての…」

「忙しい人になんて言えばいいのよ?」

「忙しい関係ねぇだろ」

「あら、整備中は集中し過ぎて人の声なんて聞こえないくせによく言うわ」

「ごめんなさい」

凄い笑顔で言い返されたので、謝罪せざるをえなかった。こう言った、場合は取り敢えず謝りなさいと師匠からの教えだ。

「誰が着いてるんだ?」

「今日はロキ・ファミリアよ」

「という事は、」

そう思い、市民達が作っている列から目を離し、その横警備が並んでいる場所を見渡すと、その中に一際ガタイがいい少し小柄な人影を見受ける。

此方が発見すると同時に、あちらも俺達に気付いたのか、此方に近づいて来る。

「なんじゃ珍しく外に出とるではないか」

「よう、おっさん」

「ガレスのおじさま!」

ロキ・ファミリア団員にして古参の内の一人、ガレス・ランドロック。ドワーフの老兵で、レベル5。耐久と力はオラリオでも指折りで、なんでも大破した巨大船を1人で持ち上げたなんて話があるくらいだ。

「仕事を放って逢瀬か?いいご身分じゃのう小僧」

「いや違「そうなの!」」

「ついに!私にも春が「来てねぇよ、聞け」」

「ガハハハ!相変わらず騒がしい奴らじゃ、つまらん警備もこれなら退屈せん!」

目立つ身振り手振りをしながら主張を続けようとするアリーゼを横目に、何年寄り臭いことをと思ったが年寄りだったな、少なくとも俺よりは…

この都市には武人と呼ばれる者も、呼ばれた者も沢山いる。しかし、この人はその中でも指折り、それでいて一二を争うレベルで好戦的だ。

「誰も来んだろ、こんな日に」

「そうだと言いがな」

「逆も言えるんじゃ無いかしら?」

「ん?」

そう言ったアリーゼは明後日の方向を向いていた。

「こういう日にこそあいつらは来る。そう考えられない?」

「…数は?」

「何処におる」

人影か、若しくは視線か或いは直感か。先の二つなら俺かガレスのおっさんも気付くはず、つまり答えは後者だろう。そして、アリーゼのこう言った感は良く当たる。

「数までは分からないわ。けど、多分場所なら…」

「おっさんは他の奴らに伝えてくれ、俺らで先行する」

「良かろう!抜かるなよ若造ども」

そう言うと、ガレスのおっさんは駆けていく。

「私達も行きましょう」

「…あぁ」

狙いがなんであれあいつらが俺の前で事を起こそうと言うのなら…残らず殺す。絶対に、

「八幡、落ち着いて」

「…あぁ、分かってる。腕一本位にしとく…」

「落ち着いてない!」

どうやら、バレていたらしい。まぁ、スキルのせいで目の色が変わるから分かりやすいんだろうが、

「いい、なるべく殺さない、よ!いい、わかった!」

「分かってる分かってる。殺さなきゃいいんだろ、殺さなきゃ…」

そう吐き捨てると、八幡は獰猛にニヤリと笑った。

殺さずに痛めつければ情報の一つや二つ吐くだろ、殺すのはその後だ、結局殺すのかよ!というブラックジョークは置いておいて。路地裏を進んで行くと怪しい人影が一つ、二つ、三つ…

「いた!」

「…」

見覚えのある黒いローブ……分かりやすくて助かる。

「てめぇ!紅の正花、それに腐り、」

と、その先の言葉は続かなかった。

「はぁ?」

先程啖呵を切ろうとした闇派閥構成員が、疑問の声をあげる。その後ろには既に刀を横に振り抜いた、八幡の姿。

そして、視線の先には先程まで繋がっていた自分の腕が宙に舞っていた。

「あぁあ…アアア!ガァァァアアア!!」

「八幡!」

「殺してはいねぇだろ…」

そのまま落とした腰を立て、刀を収めずそのまま男の首筋に刃を添わせる。八幡が冷たい眼光を飛ばすと、その横に切り飛ばされた片腕が落ち、繋がっている切り口からは血が滝のように流れ、それを見る当人に死への恐怖を刻んでいく。

「ここで何しようとしてた?あと何人いる?…お前の知ってる情報全部吐け。そうすれば、生かすのも視野に入れてやる」

「あ、ァァァ腕が!俺の腕が!」

ごちゃごちゃうるさいな…いっそ首切って見せしめにするか。そう思った矢先だった、

「ひ、ヒィィィ!」

「…」

俺が仲間の腕を切ったのを見て腰を抜かしていた構成員の1人が、そんな情けない声を上げながら路地裏から逃げようとする。

ふざけるなよ…小町は、あいつらはそれすら許されずに殺されたんだぞ。なのにお前らのそれが罷り通って良いわけねぇだろ。

『天の鎖よ』

俺は添えている刀をそのままに、横目に逃げる奴らを視認すると、最適解を詠唱する。低めに構えた手のひらから魔法陣が展開されると、そこから蜘蛛の巣状に編まれた鎖が顕現し奴らを捉えるように伸びていく。

ある程度伸び切り、構成員達をその範囲に収めた事を確認すると、俺は手のひらを勢い良く閉じながら、腕を前に引き上げる。すると、蜘蛛の巣状の鎖達がみるみるうちに、間のマス目を狭めて行き、かかった虫共を絡めとっていく。

「ハァハァ!なんで!なんでだよ!」

「クソ!クソクソクソ!」

闇派閥とはいえ神の眷属、即ち恩恵という名の神聖をその身に刻んでいる時点でこの鎖から逃れる術はほぼ無いに等しい。

「さて、おっさんが来るまで遊んでやるのは安いが…」

『っ!』

「黙って俺の質問に答えろ…」

そう言って八幡は冷酷なその目を彼らに向ける。およそ正義のファミリアの物とは思えない、その冷たさは彼の暴挙を横で見ていたアリーゼでさえも動揺を隠せないほどだった。

「…なんじゃ、もう終わっとったか」

騒ぎを聞き場所が分かったのか、ガレスのおっさんが路地裏へと入ってくる。目を離した、その時だった…

「ふ、ふふふふ!ふひっ!」

『!』

捉えられていなかった残りの一人がそんな不気味な笑みを浮かべた、その時だった。懐から何処か見覚えのある装置を取り出し、その装置が火花を散らした。

「っ!アリーゼ!」

その瞬間、炊き出しが行われていた広場からも分かるほどの爆発音が響き、路地裏からは煙が上がった。捉えていた闇派閥の構成員が何らかの方法で自爆を行ったのだと分かった。

「ゴッホガッホ!小僧、小娘!生きとるか!」

やはり第一に立ち上がったのは、その場に居た中で最も丈夫なガレスであった。煙に巻かれて辺りの状況は分からないが、この様では爆発の中心にいた連中はおそらく死亡している、もしくは跡形もなく…

「何、とかな」

「ちょ、ちょぉぉ///」

咄嗟の判断だったが、怒りがある程度振り切り抑制が始まっていたのが幸いしたのか、八幡はアリーゼを護る意味合いも込めて、彼女に覆い被さる様にして爆発を逃れている。

「あ、あぁ悪い団長」

まさかの展開に全開の赤面を晒しているアリーゼをよそに、八幡はあっけなくその身を引き、爆心地へと向かう。

「チッ」

そこへ立つと強烈な匂いがした為か、鼻を抑えながらその遺体を確認する。人が焼ける不快な匂い、死に際まで醜く、その遺体は見るに堪えない。ある残骸は二つ、自ら爆発物となったであろう一人が跡形もなく消し飛んだようだ。

こいつらは死んでも不快なのだな、と八幡は再認識する。

「こりゃ、一時避難で炊き出しどころじゃないな…」

「せっかく…いい日になる筈だったのに」

それもこれもこんな奴らがいるから…自分の不幸を他人のせいにするような奴ら、その中でも最悪の部類であるこいつらがいるから、誰かが泣く。

「…しかし、おかしなものじゃな」

「?」

「おかしくなきゃこんなことせんでしょ?」

「そうでは無い」

立ち込める煙と、不快な匂いの中。遺体と先程の出来事を見たガレスが長きを生きた者として言葉を発する。

「奴らがこれ程まで大々的な行動に乗り出したことがじゃ」

「…確かに、今までのヤツらなら。精々ダンジョン内での闇討ちか、都市への嫌がらせ程度だった」

「けど、ここまでの行動に出たってことは何か…この街の冒険者が怖くなくなるような戦力が入ったか…」

有り得ない話では無いが、そんな人材恵まれているはずだ。それこそ、この都市に来れば引く手数多で、富も名声も手に入るはずだ。

…ならば、それも込みで対策を講じるしかない。

八幡は考える所作を終えると、

「おっさん、フィンへの報告は頼む」

「それは任されてやるが、お主は何をするつもりだ?」

「ちょっとダンジョン…」

「なら、私も行くわ」

足りていない素材が数種に、見に行かなきゃならない場所がいくつか、会えるのならウラノス様にも会っておく必要がある。

「何処まで潜るの?」

「18階層だな」

ホームに戻り、小さな鞄に必要な物資を最低限詰めていく。日帰りの弾丸旅行だ。そこまでの大荷物は必要ない。

装備に関してはいつもの着流しに軽い胴当て、素手に篭手を付けた程度、上には羽織を羽織って。靴は自作のブーツだ。

「アリーゼ…お前はどう思う?」

「ん?八幡の事?勿論好ましく!」

「そっちじゃない…」

分かっているのに話を逸らそうとするのは、彼女の悪い癖だ。湿っぽい話はファミリアの団長故に余りできず、ましてや俺と同じく16と言う若さで戦場に駆り出されている不安を、こうして誤魔化しているように感じる。

「……多分、貴方と同じ結論の筈よ」

「…そうか」

先程の襲撃未遂に置いて、最も特筆すべきは爆発の件だ。

アレが何なのかはさて置き、量産されているのであれば、厄介なんて言葉では足りないだろう。

なんたって、嫌がらせに命を賭けるのを厭わないような連中だ。

「あれは…俺が何とかする」

「えぇ、お願い…捕まえるのが一番効果的だと思うから」

スキルによって速攻で発動出来る上、冒険者に対しては効果覿面な‘‘天の鎖‘‘は本当に重宝してる。

「任せろ…」

「輝夜達には?」

「勿論言う。寧ろ知っといてもらわないと困る」

1週間後の会議の際に、参加するであろう冒険者には伝えるが、それでも俺のような範囲攻撃を行える人間が多い訳では無い。寧ろ、数が多い分処理が面倒だ。

やはり、殺した方が早いのでは?

「ねぇ、八幡…」

「ん?」

先程のまま沈んだ表情で、今度は彼女は語りかけてきた。

「やっぱり許せない?」

「あぁ、無理だな…」

俺は許さない、自分の都合だけで意思ある命を容易く奪う闇派閥を…

だけどきっと、アリーゼが聞いているのはそこじゃない。

「俺は俺を許せない」

「っ!」

あの日俺は誓った、宿業を果たすと…けど、未だに果たせていない。ましてや、知っていた!知らされていた!でも、間に合わなかった!

けど、それは言い訳だ。きっと大丈夫だ、なんて甘い理想に囚われていたのは間違いなく俺だ。だから、俺は俺を許せない。たとえ、宿業を果たしても、この業だけは俺が許すことが出来ない。

「許せるのは多分…アイツらだけだ」

同じ釜の飯を食った仲。

アリーゼ、そしてアストレア・ファミリアの古参には一度だけ話したことがある内容だ。

輝夜は何処か苦虫を噛み潰したように、ライラは少しだけ分かるというように、そしてアリーゼは悲しそうに聞いてくれたのを覚えている。

八幡のそのような発言を聞いたからか、アリーゼは優しく綻んで言葉をかける。

「きっと許してくれるわよ…だって、貴方の話に出てくる娘達は皆優しそうだもの」

「っ!お前がアイツらを語るな!」

「ごめんなさい…」

彼女が謝ると、八幡も自分の様子に気が付いたのか、紫に妖しく光った目を落ち着けると、

「…こっちこそ、悪い。八つ当たりみたいになっちまった。」

この街に来て3年。異常なまでの速度で成長した八幡だが、その成長は怒りと悲しみ、揺れる情緒の中で遂げたられた物だった。

怒りは成長を補正し、振りかざされる復讐という名の正義は彼に取って油も同じ。燃え盛る炎は赤い焔から、紫の鬼火へ…

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私は常に飢えている……ちゃんとした休息に飢えている……

立て続けに予定が詰まってしまって、投稿が遅れました。言い訳ですが、体育祭、期末に大学入試と休んだら殺されるレベルで仕事が積まれていくのだが!?

言い訳終わり!すみませんでした!

話的にはアストレア・レコードの話です。

少し雑かも知れませんが、勘弁して頂けると幸いです。前の方からすこし変えた所がありますが、どうでしょう?良かったらコメントといいねをよろしくお願いします。それでは