第1章 十三節
第1章 十三節
エレボスからの猶予宣言がなされ、その報告も踏まえてギルド本部に込まれた八幡は、傷は開いていないもののしっかり無理をしていたため、その後しっかりアミッドに絞れら、四肢がガタガタ、筋肉が軋む中、恐るおそる体を労わって欲しいと自分より若干年下な少女に八幡は懇願するも、それは自分に言っているのか?とすごい剣幕で返され、その圧に負け情けなく「な、何でもないです…」と引き下がるほかなく、説教もとい医者の説法は長引き、結果折檻もとい根本療法(性根から強制)が終わり次第、疲労によりダウン。それもギルド作戦会議の場でのお説教であったためフィンもこれには苦笑いを隠しえなかった。
「次はありません」
若干...いや明らかに不機嫌なアミッドは、他の患者の治療があると足早にギルドを後にする。
そして、今度はアストレア・ファミリアによってホームに担ぎ込まれた八幡は、状況故に数時間ほどで、その重たい瞼を薄く開く。
夕刻なのか明かりが薄く、瞳には優しいがそれ以上に手足に違和感があった。
というより、顔以外に締め付けられるような感覚、
「ん、ん?」
天井の魔石灯がリビングを照らすなか、八幡は薄く開けた目で周りを見渡す。
動かしづらい手足を諦め、体を使って身じろぎする。
周りには、いつも通りお茶を飲んだり、話をしたりして談笑しているファミリアのメンバーがいた。
そんな光景に安心を覚えると同時に不意にチラついた自分の状態に薄く開いていた目をしっかり見開いて困惑する。
「....ん?」
妙に締め付けられるし何かかけられている訳でもないのに暖かいと思ったら、全身をそこそこ太めの綱で簀巻きにされている。
しかも、ご丁寧に結び目は手が届きづらい脚先に結んであるし、結んだ相手の性格が透けて見えるようだ。
まぁ、こんなことする奴なんて...おかしいな、大体こういう時は1人しか思い浮かばないはずなのにざっと考えても2人もいるぞ。
「あ、起きた!?」
「もう少し休んでいたほうが良い、傷は塞がっていると聞いていますが疲労は抜けてはいない筈だ...ただでさえ常日頃動かないのだから訛ってしかたないだろう」
「最後の方余計じゃない?」
「事実ではないですか」
「...返す言葉がありません」
働いてはいる...いるが。
昼起き、朝寝で夜通し鍛冶の仕事を行っているとはいえ、大抵はホームの中で完結することだ。
砥石や槇なんかは注文して定期的に入ってくるようにしてあるし、依頼なんかはあっちから来るように言ってある。
俺が行ってやるつもりなんてない、素材も持ち込みしか受け付けないし。舐めてんのか、だって?その分いい仕事しているからいいんだよ。
まぁ、ともあれ平時ホームを出ていない以上リオンの言葉に対して返す言葉がない。
「つってもたまに見回りに参加してるんだから多少体力あるはずだけどなぁ?」
「性根でしょうね。まぁ、私はそれでもかまいませんけれど」
「お前だけ何の話をしてんだよ?...あの取り敢えず解いてくれませんかね?」
輝夜の心配...もといいじめを潜り抜け。
何故か、アリーゼに肩を借りる形で縁側に連れていかれ、団長として一団員である俺に面談をするだのなんのと座らされたしだいだ。こういうのって主神がやるんじゃないの?
「私個人が貴方に聞きたかったの」
「何を?」
「...憑き物は取れたの?」
「...そうだな。一応取れた...で、いいのかな」
逡巡を交えて言ったがこれは別に言うかどうかを迷ったわけではない。
実際の所俺にもまだ分からないというのが現状なのだ。
それをはっきりさせるにはそれこそ一回目の侵攻みたく怒れば分かる。が、そんなリスクをこの状況で取るわけには行かない。
とは言え、リスクリターンで考えなくても俺はそれほど心配していない...というより、俺はもう許しを得ている。自分で自分を戒めてたイタイ在り方だってあっちでしっかり否定してもらったからな。
「…」
「…なんだよ?」
自己完結しようと思考していると、不思議に思ったのかアリーゼがこちらの顔を覗き込んできた。
クソ、面が良い...面だけは良い、このファミリア顔面偏差値高い代わりにその他が残念な奴らが多いんだよなあ。
「あなたが今いい顔してから」
「...お前に言われたくねぇよ」
いつだっていい面してるくせによく言う。
落ち着いた時間、状況に似つかわしくないほど穏やかな空気が流れる中、少年はおおよそぶりに紅い少女の顔を思い出す。
みんなの中心、笑顔と冗談そして優しさを振りまく輪の中心、アリーゼ・ローヴェル。
俺を信じて、俺が信じた強い少女。
「あ、今私のこと褒めたわね!言葉に出してくれていいのよ!」
「え?あ、お構いなく」
「私が構うんですけど?」
「でたよウザイ構ってちゃんが...」
「そうよ!だから構って!」
無敵かこいつ?
俺ならこんなノリ一回でも死ねるぞ。
鎌ってちゃんと言われて王業に抱き着いてこいとでも言うように両手を広げてくるアリーゼにドン引きながら、躱すという極めて不毛なやり取りをしていると
「ん?」
「輝夜とリオン?」
庭に出てきたのは普段からは考えられないほど神妙な空気を醸し出している二人組、理想を追う者と現実を嚙み締めた者の二人が互いに獲物をもって出てきたのだ。
「...では、お願いします」
「えぇ、始めましょう」
二人の距離が互いに一歩足りないと言うところに落ち着いた頃。
火蓋を切る言がポツリと零れる...
静けさの中曇天が光を奪う鈍色の空の下で、互いの獲物を抜き放ち、片や刀が殺意を向け、片や木刀が切っ先を尖らせる。
「...ん?」
互いに特化した敏捷を弾き、一歩と言う短い距離を踏み込むと獲物が交差し金属と木刀が激突したとは思えないほど甲高い音が庭に響く。
「止めなくちゃ!」
「そうだな」
瞬間的に始まった試合に衝撃を受けていると、この状況で何をとでもいうアリーゼの言葉に我に返る。
そうだこの状況で何てことしてくれてんだ。
「ちょっと待て」
「どうしたのよ?」
「武器がお釈迦になったら誰が直すんだよ?」
『え?』
『はい?』
しかし、食い違いがあったのはこちらのようだ。
アリーゼはこの状況をいつもの延長上にある喧嘩だと思い止めようと声を上げた、対する八幡は修業は良いけどその武器ではやめてというのが彼の言。
そして、どちらの意見に対してなんと返答すればいいのか揃って迷い、フリーズしている二人。
まぁ、結果的に止まってくれたからいいや。と投げやりになる八幡だった。
「訓練だったの?」
「それ以外に考えられますか?」
どうやら勘違いしていたのは俺達の方だったらしい。
輝夜曰く木刀を持ってこちらを物々しい顔で見てくるので、気持ち的には年下に仕方なく付き合うお姉さんらしい。
実際年上なのだからその理由に違和感はないが、ただの善意と言うのが実に輝夜らしくな…というより絶対何かしら打算がありそうだ。
「それは別にいいが、武器は両方とも預けてもらうぞ。リオンお前の木刀もだ」
「...素手でやれと?」
「いい趣味ですわね」
断じて違う、間違っても美少女が生身で殴り合う図を見たくて武器を取り上げたわけではない。
俺はいたってノーマル、特殊な性癖など持ち合わせていない。
「いや、さっき言ったでしょう?武器壊れて治すの俺なの分かる?」
「それが鍛冶師でしょうに...」
「...はぁ、獲物ならある」
『?』
「どうせなら他の連中も呼んで来い、やるなら全員でやったほうが俺としてもお前らとしても都合がいいだろ?」
「それで、全員の武器を徴収して素手で殴り合えって?いい趣味してんな騎士様よぉ」
「輝夜お前...」
「...」
俺なんかしたっけ?あ、それともまたなんかやっちゃいました?
日頃は友好的に接してきたつもりだが、いかんせん俺ではお姫様の気心は知れないのだ。
にしても、解せないが、
「まぁ、いいや...いや良くないな」
「あはは、それで?訓練は分かったけど、武器もなしにどうやってやるの?八幡ちゃん」
流石みんなのお姉さんマリューだ。
アホの話を鵜吞みにせずに、しっかり本人の言を聴いてくれている。
間違いない、彼女こそ正しく聖女。どこぞの治療院の堅物聖女と違って清楚と穏やかさしか持っていない...たまに、狂気付きで脳筋だけど
「武器ならある、いくらでも壊していい武器が」
『え?』
「そんなものいつの間に...」
自分たちの武装の整備だけでどれだけ苦労しているのかは、見回りのサイクルの都合上このファミリアの全員が理解している。
それも間違いではない、現に徹夜に次ぐ徹夜、昼夜逆転により生活習慣は壊滅済み。だがそれでも睡眠時間が一日の中から消えたのは、凡そ1週間程度しかない。
1週間を程度と言っていいかと言われると答えはノーだが、ここにある武器たちと言うのは、
「もとから自前で持ってた輝夜以外の武器、の試作品達だ」
『あ』
「なるほど」
箱や樽の中に納められた武器の数々に見覚えがある面々だが、その中で一人偉く狼狽した様子の少女が一人。
「ク、クリムゾンオーダーってこんなに試作品があったのねぇ、あ、あはは」
「お前のあーでもないこーでもないに付き合い続けた結果生まれた一週間とちょっとの残骸達だ。今のそれはさぞ使いやすいだろう」
「何本あんだよそれ...」
「アリーゼのだけで20本ってところかな、良かったな二人とも剣なら山ほどあるぞ」
試作品を作る必要がないが故に修練用の武器がない二人に渡す武器が出来たと思えば、まぁ供養はできるかな。
それはそれとして要望が多い団長殿には今度個人的に報復をしようそうしよう。
「お、あたしのアレもあるじゃねぇか、これを機に新しくするのもありだな」
「冗談でもいうんじゃねぇ...」
これから行うメンバー全員の武器のメンテと修繕を考えるととてもじゃないが仕方ないが先に終わらせれば休めるのだが...
「お前らの武器が終わったら俺のに入るからな」
「...そうか、二本目」
「折れちゃったからな」
「一本で行く気はないのか?」
基本スタイルが二刀なだけであって実のところ一本でも戦えないことはないが、それでも二本が良いと思ってしまう。
二本で戦うことになれてしまったからというのもあるが、それ以上にあの二本だ。
俺にとってあの二本は特別なものだ。俺の最初の傑作であり、自信作、思入れも大きい。
「ない」
「そうか」
何よりあの人に勝つには手数としても二本必要だ。
一本では話にならない、というより二本でも相手になるかも怪しい、だからこそ打てる鉄は打つ。鍛冶師だけに...
「フフッ...」
「え?何、おかしくなった?」
「ほっとけ最初からだろ」
準備運動を始めている二人が、横目にそこそこ辛辣なことを言っているが、いつの通りなのでスルー。
「じゃ、いくらでもあるからいくらでも壊してくれていいぞ」
『オー!!』
実際、まだ自室の倉庫にいくらもある。それもこれもこの数年でたまったあいつらのお古だ。
ここで消費しても材料は残るからプライスレスだ。状態に関しては保証しかねるが修練に耐えられるだけの耐久は残してある、というより倉庫に収めるときに状態が保てるようにしておいたのが幸いしている。
準備運動を終えた連中が、激突をはじめる音を背に俺は作業場に歩いていく。
...芝の地面を踏みしめる音、受け身を取って激突する音、金属が激突する音、それら全てが響き合い反響する中で自分の中にある強い自分のイメージを研鑽していく、俺の英雄像、騎士の像、守るための強さ、二度と失わないための力。
それを具現化するための武器のイメージを…
「…見えた」
やっぱり二本ないとだめだ。
両手を広げないと守れないくらいあいつらは強い、そいつらを守るには両手にないとだめだ。
「武器種は...やっぱ一緒がいいよな」
いままで使ってきた組み合わせが一番しっくりくる。
刀と刀でも、両刃と両刃でもない。
両刃と刀…両方あってようやく俺は全力で戦える。
「そんでもって二本の利点は片方を温存できる点だ」
敢えて言おう、独り言は続く…
「て、なると両方の耐久を上げて…」
彼の名誉のためにいうとすれば、これは独り言だが同時に重要な要素でもある。
現状において武装を何度も試行錯誤している暇はない。
メンバーの武器の修理、整備の時間、一応の休養を含めての3日間だ。アリーゼの例の武器、ライラの良く分からない武器のときと違い、試作品複数を作る時間もそれらの作成の時間など無いに等しい。
つまり、機会は一度だけ、一発勝負で仕上げなければならないのだ。
その為には、より鮮明にイメージを固め、形を、思いを研磨していく。
そう、これもまた鍛冶だ。
「...よし、固まった」
立ち止まっていた足を上げ、鉄の扉を押し開ける。
ここから先は彼にとって戦場も同じ、戦場に立つため、立たせるための戦場、鍛冶師にとって鍛冶場とはそういうものだ。
師からの教えが少年の脳に過ぎる。
上で彼女たちも同じくその場に立っている。
互いに今できるベストを尽くす。
多くを語るべくもなく、1人と11人は高め合う。
お互いの戦場でただ一つの勝利のために、
剣が傷つき、刀身が揺れるたびに彼がどれだけ自分たちの武器に試行錯誤してくれているのかが伝わってくる。
ぶつかるたびに掌が痺れて、その感覚に暫し感じていなかった充実感が身を包む。
それもそうだ、都市の零落が深まるにつれて住民を守るのを重視していくことに決めた。
ファミリアの方向性を自警に舵を切ったことで、鍛錬がおろそかになるのは必然だったのだ。
「…ギア、上げるぞ団長!」
「…えぇ!」
額の汗を拭い輝夜に応える。
輝夜の剣戟の速度が上がる。
こちらは金属剣に対し輝夜は木刀、にも拘らず響く音は甲高い金属が接触する音。
それはひとえに製作者の腕と仮とは言え担い手の高い技量によるものだろう。
「…っ」
「…」
輝夜の技量は高い、極東の剣技特有の力の込め方と踏み込みそして間合いの見極め、その全てがファミリア内でもずば抜けて高い、敏捷において他の追随を許さないであろうリオンを相手に翻弄されることなくその姿を捉え続ける動体視力は対人戦に特化した動きともいえる。
が、現在それと同時にアリーゼは受ける剣圧から、ある感情を感じ取っていた。
それは憤り。
「…」
剣戟の合間、互いに距離を話したタイミングでアリーゼは剣を降ろす。
それに呼応して輝夜もまた木刀をゆっくりと降ろす。
「どうした団長?」
どうやら当人は無自覚のようだ。
目つきはいつもと同じ、切れ長の目に紅い瞳。
だが、アリーゼはその瞳の奥にある何かに対する怒りを女の勘で感じ取っていた。
「輝夜、何をそんなに怒っているの?」
「...何をいまさら、あれだけ舐めた真似をされたんだ。憤らない方がおk」
「そうじゃない。そっちじゃなくて」
実のところ彼女からこのような怒りを感じるのはこれが初めてではない。
これはそう、八幡が自らの生い立ちを皆に語った時からだ。
あの時、団員が各々悲哀や痛み、憤りを感じる中で、彼女だけは何処か別の何かに憤りを感じているようだった。
それからだ彼女が八幡への過剰なまでの固執、何か後ろめたいような感情があるような物言いとそれを否定し関係ないという八幡のやり取り。
「何が貴方を駆り立てているの?」
「!」
そばで剣戟が降りしきる中、そこだけが静寂に包まれていた。
冷たいような感覚がアリーゼの二の腕を通り過ぎる。
二人の間だけに暫しの静寂が流れ、曇った夜空が見守るなかで、輝夜はその小さな口を開いた。
「あいつの...八幡の村を元々管理していたのは、私の実家だ」
「!」
極東の村には所々に神にまつわる社がある。
それは英雄神話の時代であったり、それこそ朝廷が興される遥か前にまでさかのぼることになるだろう。
というのも、朝廷自体神々の降臨に際し、多くの地主などをまとめ上げて作られたものだ。
そして、その中でも力ある社を管理する地主もとい村の管理者が朝廷に古くから使える「ジョウの一族」の者たち、貴族と呼ばれる者たちだ。
「あたしが家が嫌で出たことは話したよな」
「えぇ…初めて会ったときに簡単に話してくれたのを覚えてるわ」
「出るときに家の家宝だった二本の刀、彼岸と双葉を奪ってやって心からざまあ見ろと思った」
その時のこと話す彼女は表面上は楽しそうだったが、その実言葉の発し方は何処までも投げやりだった。
「ここに来るまでの旅路で多くの物を見た、ずっと家にいた私にしてみればその全てが新鮮だった」
揃えられた前髪から除く顔は目だけが笑っていなかった、上がった口角も声色も語る内容が楽しかったと言っていた。
「だが…」
その一言が飛び出すまでは…
ここから先はアリーゼも知らない。
彼女がこれから語るのは彼女自身の罪過の原点、あの日から心に刃を突き立てる知るべくして知ったことの真相、うら若き乙女が開いてしまったパンドラの箱の中身。
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どーも、長きにわたり休養もといバイトに勤しんでおりました。投稿者です。
さくっと、春休みに入った大学生ですが、来月のとあるパックは不味いので死ぬほどバイトを入れました。
加えて3教科の追試も出てきやがりましたのでちょっと時間かかるかも、と言っても、ここからはそこそこイメージが固まっていますので、少なくともアストレアレコード終了までは確約できます。
週一は厳しいかもしれませんが頑張りまーす。
追伸、コメントと待ってますコールありがとうございます。
今後ともコメント、誤字の指摘、加えて感想や様々いただけますと幸いです。
それでは...あけましておめでとうございました。