第1章 十六節
第1章 十六節
目の前の光景に思うところがないと言えば噓になる。
燃える木々、煙の臭い、人ではないが生き物の焼ける音。
今まで何度も悪夢で見てきた…
比企谷八幡の脳裏をあの日の光景が過ぎり、無意識に握った拳に汗が滲む。
だが、これ以上の階層でこの地獄絵図を描かせるわけには行かない。
ここを最終防衛線として、奴を討伐出来なければオラリオは間違いなく壊滅する。
「息、し辛い…」
「あぁ、ヤバくなったら絶対逃げろよ。…多分、ずっとこのでかい水溜まりの近くで戦えるわけじゃないからな」
18階層に入り、すぐさま陣を敷く算段だったが、この火災では辺りを見渡せず、連絡路のすぐそこで道を探しながら最適な場所を探してはいるが、泉を囲もうにも同じ考えの火だるまになったモンスターがうじゃうじゃといた。
最も、大半道は半ばで力尽き緩やかに燃えながら灰に帰っているが
「例のモンスターは…」
「状況的にどうやら間に合ったようですが、これは…」
「この炎、下から湧き上がってねぇか?」
臨時で状況の解析とこれからの算段を付けるために話し合ってはいるが、目標の陰がまだ見えない以上、空論でしか語れない。
モンスターの産まれないこの階層でも、他の階層から不意に迷い込むことはある。
だが、この階層の周辺に此処までの炎を砲撃するようなモンスターはいない、火を吐くモンスターには心当りがあるが、それがここまで大きくなるとなるとよほどの数が必要なはずだ。
つまりこれは、遥かに深い階層からの攻撃、それも階層の天井を貫通するレベルの火力を持ったものが向かってきているということだ。
「52層の竜の壺…話に聞いたものじゃが、それに近しいと見える。小僧、お前さんにはどう見えておる」
「…なるほど」
「何か分かったの」
地の底から吹き出る炎に辺り一面が火事になっている。
息を吸うだけでもその熱で喉が焼けそうになる中、地面に手を当て振動を感じていた。
「この階層で複数のモンスターの音…これはおそらく下の階層で同じような火事が起きてて群れがそのまま錯乱状態で上がってきているんだろう」
「種類は?」
「さすがにそこまでは…」
そこらじゅうでちょいちょい聞こえる、生物の断末魔、そして、未だ消えずにそこら中に転がる化物の瀕死体を見るに、下の階層も十中八九燃えている。
俺が地面に振れて感じた衝撃と、今もなおそこら中で響いている衝撃の間隔と波長は同じ。
つまり、
「下からの振動は小さいのが複数と例のでかいのが一つ。良く分かったよ。地団駄踏んでる音と明確な意思をもって進行する音には決定的な違いがあるから、階層をぶち抜いているのも、今ここにこれだけの火災を寄越したのも、例の大災厄たった一体で間違いない。その52層のモンスターが複数なら十中八九違う」
『!』
「つまり、どこの階層からかは不明だが階層主を淘汰しながら、階層を隔てる岩盤を破壊して進行中だというのか」
「いや、もうすぐそこまでっ!」
彼の言葉を遮るようにどこからか矢が放たれる。
風切り音を聞いてすぐに反応できた八幡は、すぐさま抜刀し切り捨てる。
「敵襲!」
「総員構えろ!」
慌てるように武器を構え、各員が互いの背中をカバーするように警戒する。
だが、俺はそんな中で疑問が生まれた。
何故、今の一瞬で一矢だけなのか…
ヴァレッタなら確実にバレないように確殺する。あの状況なら一斉射で確実に複数をやれたはずだ。
弓なら神の眷属でも関係なく扱えて毒でも塗れば致命傷にもなる、にも拘らずまるで宣戦布告の様に一矢だけ。
こんな舐めた奇襲を考える奴は一人いや…一柱しかいない。
「これはこれは皆様お揃いで」
炎で陰る木陰から複数の人間の中からぬるりと出てきたそいつは、紳士然とした態度でこちらを臨んでいる。
「てめぇ、どっから入ってきやがった」
「…さて、どこからでしょうね?」
「とぼけるな、ダンジョンへの入り口がもう一つあることは分かっている。黙って吐け」
睨みを聞かせるライラの横で、輝夜は既に抜刀し切っ先を奴に向けている。
「んん?困りましたねぇ。私の口からあなた方にお教えできることなど、あるとすれば、そうですねぇ…あぁそう、あの村の人間、特に平塚の門下生達の切り心地は実に素晴らしかった。とでも言いましょうか」
『!』
「・・・」
その一瞬、頭が芯から冷えた。
目の前の男は抜き放った剣をだらりと下げながら、わざとらしく顎を触り考えたかと思えば、口角がニヤリと上がり吐いた言の葉は、二人の心を揺さぶった。
「お前が…みんなを、小町を、殺したのか?」
「えぇ、もっとも村の住民を蹂躙したのは他所の眷属でしたが…多少、手ごたえのある貴方のお友達を切るのは住民を惨殺するより何倍も良い経験になりました。特に二人、実に実直な剣で私もつい楽しんでしまった。長くもっと長く殺したいと…」
「…そうか」
「恩恵を持たない生身の状態であそこまでの実力…神を戴けばさぞ良い冒険者となったでしょう」
誰に向かって言っているのか、など分かっている。
この場でそんなことをいう意味など、俺もしくは輝夜への煽り、冷静さを欠けさせて隊の規則性を乱して、大災厄到着への準備をさせないつもりだ。
「あの場に貴方がいればさぞ厄介だったでしょう…もっとも、結果は同じだったしょうけど、ね」
「貴様!いい加減にっ」
彼に対する発言の数々についに切りかかろうとする輝夜を、ハチマンは片手で制止した。
”何故止める”という視線を彼に向けるが、”大丈夫だ”という彼を見て、輝夜は刀を下ろす。
「…そうだな、例え俺があの場に間に合ったとしても、できる事なんてたかが知れてた」
俺はあの頃、弱かった。
強みも力も無かった。
雪ノ下の剣には鋭さがあった。
由比ヶ浜の剣には迷いがなかった。
皆の剣には誇りがあった、負けたくないというプライドと、誰よりも強く、誰かを守れる剣になりたいという欲望が…
俺にはそんなものはなかった。
あったのは…少なくとも自分が大事だと思った人を守れる強さが欲しいという中途半端な欲望。
けど、俺は剣には拘らず別の手段に走った、言わば半端者。
あいつらの力に成りたくて、あいつらを導く賢者に成りたくて、俺は朝廷で多くのことを師匠から学んだ。
鍛冶も知識も料理も、軽くだが兵法だって教わった。
結果、間に合わなかった。
俺は動くには遅すぎたんだ。
何より、俺は戦う術をあの時教わらなかった。
弱い俺を変えたくて、成りたい自分になる為の選択が、今は後悔を産んでる。
でも…
「それでも、最後に希望を託してくれた奴らがいる」
『!』
脳裏に過ぎるのは、俺を救ってくれた二人の少女の背中。
小さくても、俺には眩しすぎる背中、追いつきたくても追いつけない遠い憧れ…
「希望…そんなもの、は」
「あったさ、俺なんかの為に残ってくれた。俺なんかに託してくれた望みが」
「・・・」
瞳には焦燥に変わり、引き込まれるような強い眼差しが宿る。
眠たそうないつもの目でも、あの日を思い出して疲れている目でもない、前だけを見たアリーゼを思い起こすような向こう見ずな目。
「自分が大切だと思えるものを守りたい」
「っ!」
「それが俺の正義、俺が抱いた…希望だ」
火の粉が舞い散る戦火の中心、少年の目に復讐という陰りは見えない。
正義を掲げた彼に、悪は狼狽える。
正面から理不尽を砕く正しさを前に、動揺を誘った側が被っているこの状況に、顔無しは強く噛み締める。
「…そうですか、あくまで正義などという虚構を持って戦うと…理解に苦しみますね」
「あいつの眷属に理解できるなら、当人が分からないなんて言うはずないだろ」
「所詮は裏表…我々という悪失くして存在を見出せないあなた方が、我々を討伐するというのですか」
見るからに憤っている目の前の男に、陣営の余裕が戻ってくる。
彼の動揺に敵陣の表情が大して変化していない点を見るに、同じ眷属ではない。
つまり、俺達に劣る点が一つあるということだ。
「勘違いすんじゃねぇよ、あたしらが狩に来たのはでかいモンスターだ。それにおまけがついてきただけ、だろ?」
「はっきり言ってはどうですか?倒されるのは腹に据えかねるので見逃してください、と」
あっちは指揮官ひとりだが、こっちには煽り厨が二人もいる。
俺は煽らないから、現実を突きつけて冷笑するだけだから。
だから、間違っても俺が真っ先に煽ったみたいに同意を求めるのを止めろライラ。
てか、お前からみたら大体のモンスターでかくね?
なんて、思いながら鼻で笑ったら。
「ふん!」
「いった!なにすんの?」
「てめぇの心に聞きやがれ」
失礼な、事実陳列は罪に問われない筈、それでも正義の使徒か!
いってぇ、よりにもよって泣き所に綺麗に…
「それで話は終わりか?」
「なんで、脚押さえた格好でそんな台詞言えんだ、こいつ」
「蹴った張本人がいう?」
ライラの装備丈夫に作った奴誰だよ…俺じゃん。
流石俺の作ったブーツ、つま先に鉄板仕込んで蹴りの攻撃力と先端のグリップ力を強化した優れ物、絶対に仲間に使うものじゃない。
寧ろよく俺の泣き所砕けなかったな。
「あなた方の語る綺麗事はつくづく私を苛立たせてくれますね…」
「なんかごめん」
「以前の貴方は復讐の鬼、修羅そのものでした…私を殺さんとするあの殺気は私を満たしてくれた、貴方が行った殺戮は私の憧れだった!あれだけの血を流せたあなたが羨ましかった!だというのに、今の貴方からは、殺意も!狂気も!一切感じない!何故ですか!」
「…お前からはあいつと違って贖罪の意志を感じない、あるのは殺したいって気持ちとそうして気持ちよくなりたいっていう危ない意志だけだ。だから復讐してやるのもやぶさかじゃないが、残念ながら今はそんな暇はない」
「っ!」
なぜ奴が俺の今の様相に苛立っているのか理解できないが…残念ながらそれを今考えている暇はない。
何より、復讐なんてものはもう乗り越えている。
「確かに俺をオラリオ立たせたのは復讐心だ。お前らが憎くて、殺したくて…奪い返したくてここに来た」
悪夢に見るあの光景に、救えなかった人たちの死屍累々に報いるために俺は切り続けた。
だが、両手が真っ赤に染まってもあの日の光景は消えない、あの日の雨は晴れなかった。
「けど、復讐の果てに俺はもう一度大切だと思えるものを見つけることが出来た。だから、俺がこの場にいるのは、お前らにこれ以上大切なものを奪わせないためだ」
大切だと自覚できた、教えてもらったあの日、雨は止んだ。
晴れとまでは行かなくても曇になった。
でも、曇で良い、俺の光はここにある。
上で照らす日の光より、一緒に戦って照らし続けてくれる星々を俺は大切にしたい。
「お前が奴の眷属として奪うつもりなら、俺はアストレア・ファミリアを守る騎士としてお前らと戦う」
「そうですか…であれば!今一度奪い貴方を修羅に堕としましょう。私と同じ殺戮を好む修羅に!」
「来いよイカれ野郎」
「行くわよみんな!」
炎が侵攻し、火の粉が舞い散る戦場で、これ以上の語らいは不要だと、互いの軍団は武器を取った。
正義は頭目の号令で、悪は沈黙で開戦の口火を切る。
「わしらは向かってくるモンスターを狩る!アストレア・ファミリア!奴らは任せたぞ!」
「この戦況を早急に片づけて、討伐の準備に入る。出し惜しみしろとまでは謂わないが温存を念頭に置いておけ!」
ガレスを先頭に、ロキ・ファミリアの面々は迷い込んできた燃ゆるモンスターを狩りに向かう。
リヴェリアが戦場を俯瞰しているので、戦況制圧後の戦陣修復は容易だろう。
先達からの激に士気が上がる。
「言われるまでもない」
「おうよ」
「了解」
楽園はこの日戦場に変わった。
戦火の中、死にゆくモノ達が蔓延る中で、接敵する。
武器を片手に駆ける者、小隊を組み詠唱を詠う者。
火花散り弾ける中に、金属の激突音が混ざり始める。
大災厄到達までの時間は…僅かだ。
アストレア・ファミリア12人アーディが加わり計13名に対し、闇派閥側の人数はざっと数えても40前後、一人ひとり相手をしていては後ろから刺され一網打尽にされる。
しかし、それが起きないのは…
『天の鎖よ!』
散開する銀の鎖、敵と味方の間を縫うように動き戦場を振るいにかける。
楔に貫かれる者と、武器で弾き接敵せんと武器を伸ばす者、その鎖は味方を守り、敵に二択を迫る彼の精神性を表すかのように動きを変える。
「なるほど、噂に名高い眷属殺しの鎖、囚われればただ人に戻り、貫かれれば容易く命を奪う。我が主の言う通り選民的な貴方に相応しい力ですね。ですが」
楔を弾き、鎖を回避した顔無しは、足元に転がった味方を見やる。
肩を貫かれ縫うように足のふくらはぎを通った鎖に体の自由を奪われている仲間に不気味な微笑を向けると、そのまま剣で胸を貫く。
「っ!」
そのまま、死体を持ち上げると
「ほっ!」
「なっ!」
此方に投げつけた。
意表を突かれ硬直するが、敵の体に付けられたものを見て、一瞬で冷静さを取り戻す。
接触する数秒前、手前に奔っている鎖を掴み、手前に手繰り寄せしならせる、たわんだ鎖は波をもって死体を弾く。
弾き飛ばされた死体は衝撃で音を立てると同時に金属がぶつかる甲高い音…その瞬間死体は爆発を伴って四散する。
視覚を奪われるのは不味いと片手を振るい煙を払う。
「相変わらず悪趣味だな…」
「であれば…もう片方を抜いてはどうです?」
「・・・温存しろっていわれるからな」
「見た所、その刀も腰の剣も以前見たものとは違う、新しく誂えた物。やはり、二本なくては戦えませんか?」
「・・・」
新造した刀と剣…少なくとも剣の方だけ大災厄、できる事ならアルフィア戦までは温存しておきたい。
ゆらりと目の前の男の体が揺れると、流れるように剣を振り下ろす。
軌道は詠める、上段からの袈裟切り。
それを俺は、下段からの切り上げで弾く。久しく行っていなかった両の手での斬術だが、体が力の加減を覚えてくれていたようで助かった。
「素晴らしい…しかし、強さが足りない!」
切り上げた刀を流れるように横に向け剣先を自分の頭に向くようし、弾かれてがら空きになった顔無しの胴体に袈裟切りを振り抜こうとするが、あちらは剣先をくるりと下に回し空いたもう片方で押し出すようにして剣が落ち。
下向きの力に、斜めに振り下ろされている刀は流され弾かれこちらの左肩が晒される。
地面に刺さる直前、顔無しは剣を持ち変えると体勢を右なぎに転じ、腰を入れて振り抜く。
こちらは踏み込んだ場合に備え届かない斜め後ろに飛んで後退し、刀を構え直す。
「…理性的ですね。やはり、あの体を割くような殺気を感じない…実に嘆かわしい、あれだけの力、あれだけの殺意と狂気を手放す貴方は私からしてみれば愚か以外の何でもない」
「…うるせえよ」
相も変わらず、奴の思考がさっぱり分からないが、冷静な様相に対してなんか苛立っているのは分かる。
分かるが、今はそれどころじゃない。
「よそ見…ですか」
「お前らの悪趣味のせいで考えることが多いんだよ」
戦場から敵陣を俯瞰して分かったことがある。
接敵した敵には二種類ある、顔無しをはじめとした恩恵を得ている者と、恩恵を得ていない信者。
身も蓋もない言い方をすれば、切れる爆弾とよく動く爆弾。
「彼等自身が望んだことです。それでもなお命を奪うのを躊躇うのであれば、以前の様な目に遭いますよ」
炎が侵攻し煙る中で、所々で爆発が起きているが、まだ疎らだ。
此方が殺すのを躊躇っていられるのは、今の所質が上回っているから、ただ殺傷力を持つ手数に関してはあちらが大きく上回っている。一般人を制圧するのは容易いが、抑える直前に目の前で自爆されればこちらは致命的なダメージを受ける。
が、この状況を好転させる手はある。
それを握っているのは不本意ながら俺だ。
「輝夜!」
「っ何を!」
戦場で呼ぶ名は俺が信じる正義の一人。
後退した俺に追撃を加えんと踏み込んだ一撃に、俺は構えることをしなかった。
それは、戦場を駆ける彼女を足元で感じているから。
「あと、頼む」
「…あぁ!」
俺の背後から艶やかな黒髪がなびく。
後退する俺と入れ替わる形で彼女の居合が閃き、再び顔無しの剣を弾く。
彼女の接敵と共に、俺は自分の役割に走るため、敵から目を離し戦場を駆ける。
「クッ!」
「…悪いな、私も我慢の限界だ」
切れ長の目を効かせながら、輝夜は綺麗な所作で刀を収める。草履を擦り、居合の態勢を取るように脚を開き、刀にその手をかけ、その目は敵を捉えている。
「おや、何か恨みを買うような粗相でも?」
「分かり切ったことを言う必要があると?」
好きな男の傷口に塩を塗り、彼から大切なもの達を奪い、あまつさえその大切なもの達を侮辱した目の前の外道に対して、さすがの輝夜も我慢の限界だった。
あの時は止められたが、今回はよろしくと袖を振られている。つまり、もう止められることは、ない。
「いえいえ、聞くつもりなど毛頭っ!」
「…あぁ、私も貴様と会話するつもりはない。」
顔無し、ヴィトーも反応に遅れる神速の居合。
常に感じるこの殺気に紛れての抜刀は、今も肌で感じる殺意の数倍の重さと鋭さがその切っ先に込められていた。
その目は狩人の目など比べ物にならない。
意志を持ってただ殺すという明確な殺意を孕んだ目だった。
「あいつに代わり、お前を切っても文句は言わないそうだからな」
これはファミリア全員の総意だ。
ファミリア全員が貴様の命を狙っている。
恨みでは動かず命を奪う事を躊躇う我々だが、あの男を惑わすあの魔女と、目の前のこいつだけは例外。
逃した場合の危険度とその精神性を考えればここで始末する他ない。
最も私的にはあの魔女に対して2つの意味で負けたくない!
何より私たちの騎士に一生物の傷を残したこいつだけは許すつもりはない。少なくとも私は絶対。
そして、彼が掲げた誇りをこれ以上汚させない為にも私たちアストレア・ファミリアはこいつにだけは負ける訳には行かない。
「参る…」
燃ゆる戦場を駆ける八幡は道すがらにも数人の敵を切って行った。が、その殆どが狂信者、神がどうのや天がどうのと言って話にならなそうな奴らが飛びついてくる。これがあと20名弱居るとすれば連鎖爆発でここに大穴が空きかねない。
「八幡!」
「アーディ…ちょうどいい、リャーナ達後衛のフォローを頼む。」
「分かった!八幡は?」
「俺は…ちょっと消火活動を」
「?」
戦場を掌握するのは彼からしてみれば簡単なことだ。
先程と同じように、足元の振動から足さばきを読み、そこから性格を読んで誰が何処にいるのかを把握する。
地形ならもっと簡単だ。
地上の激音に対して波を返している場所など、多少移動したとしてもこの迷宮の楽園に数か所しかない。
「ライラ!団長!この状況を終わらせる!邪魔させるなよ!」
「おうよ!」
「期待してるわよ!皆、八幡の邪魔をさせないで!リャーナ、セルティ詠唱再開!マリューは状況を見て詠唱開始!アスタ、ノイン!アーディと一緒に後衛のカバーに入って!イスカ、ネーゼ、リオンは輝夜の周囲を遊撃!」
彼に見える者は彼女にも見える。
彼の考えは彼女にも分かる。
そこまでは言い過ぎかもしれないが、彼の邪魔をさせるなの一言からここまでの情報を読み取ることができるのは、一重に彼女の勘の良さと彼の不器用な言い回しをこれまで何度も聴き取ってきた経験によるもの。
戦場の暑さに汗を垂らすライラだが、横で駆けながら彼の意志を読み解き尚且つ噛み砕いて戦局を変えていく団長に、尊敬と同時にドン引きしている。
「…これ、愛は偉大とかそんなレベルじゃ無くね?」
「フフーン!私の愛はみんなのものよ♪」
彼女のやけに様になっているウインクに、やかましいとツッコミを入れるライラは、若干引き気味に成りながら、分かれる。
『アルガ!』
赤く滑らかなポニーテールをなびかせながら、少女は戦場を駆け、瞳の緑に強さを抱く。
情熱を表す炎を纏い、細身の愛剣に爆発的な火力を与え、その加速は文字通り炎が進むごとし。
その炎の強さは彼への思いの強さ、色は正しく彼女の精神性を表すかの如く、仲間に希望と信じる秩序を示し続ける。
「あんま燃やしすぎんなよ!これから消すってのに!」
味方が敵のおおよそを押さえてくれているが、それも膠着すれば自爆で簡単にひっくり返される。
あれの威力は俺が身をもって知っているからな、神の眷属をほぼ殺せる威力の爆発、それもあれだけの数ともなれば…
しかし、爆発には当たり前の弱点がある。
「ついた…」
目の前には水場、開戦時に一時拠点としていた泉。
爆発には点火が必要だ。
それを担っているのは火炎石を使った撃鉄装置であり、それによる魔石爆発があそこまでの致命的な爆破を可能にしている。
ここだけ見ればこの爆発物には火薬を使っていないからこその軽量や、携帯性、人間爆弾という非道な手段をいとも簡単に行えるという点で優れているが…逆に言えば点火には大した細工をしていない。それは押収した装置で確認済みだ。
即ち、通常の爆弾と同じ水。
火炎石の撃鉄は少しの衝撃で爆発しているが、装置そのものが水に濡れれば点火が出来なくなる。
共に実験で立証済み。
だが、うちのファミリアには人間の無力化に特化した魔法を使えるやつは多いが、水や氷を使える奴はいない。
寧ろ、焼いたり、吹き飛ばしたり、感電させたりが多いため下手したら誘爆させかねない。
現にセルティの雷撃は相手を見て撃たなければ最悪の状況になる。
故に、今回の開戦では魔法を打つのに消極的になってもらっている。
「ま、それもここまでだ」
泉の淵に振れながら唄う。
詠唱は…
『渦巻け!戒めの鎖!』
割と適当だが、命令は自分で下しているし…何より、イメージ通りに動くのがこの魔法のいいところだ。
『天の鎖よ!』
叫んだその名に呼応するように水中には複数の魔方陣が展開され、無数の鎖が天に突き出し、交差しだす。
そのまま円錐二つの頂点を突き合わせるような形にまとまると、
『回れ!』
水中の魔方陣がゆっくりと回り始め、同時に鎖もゆっくりと加速していく。
泉の水が渦を巻いていくと同時に、鎖を水が伝い始める。
同時に、俺の精神力がゴリゴリ削れていくが、そこはカバーできる。
「はあぁ…」
瞳を閉じ、呼吸をゆっくり整える。
意識しろ、俺にはできる、そういう力を俺は授かったはずだ。
そう言い聞かせ、八幡は魔法の制御を片手と頭の片方に切り替える。
そして、鼓動と呼吸から心臓の熱を感じ、その熱を自らの意志で上げていく。
魔法ではないが思考を二つに分ける行為…並列詠唱と魔法制御の効率化。
進化したスキル賢者の効果。魔法を同時に二つ詠唱できる技術を今は、思考を二つに分けるという解釈に広げる。
魔法ではないが、この力は制御が難しい。
「あの時は疲労のお陰でいい感じに制御できてたけど、今は比較的万全な状態。どうなるか分からない」
俺が天界から帰還したあの日に感じた胸の熱。
その力を段階的に上げていく。
まずは、心臓の熱を感じての巡りを意識して体全体に広げていく…
「精霊の力をそのまま貰っても持て余すと思ったのにこんなに早く有効活用できるとは思ってなかったわ…」
どんどん上がっていき、アリーゼの様に炎を纏うが、体に異常はない。
寧ろ、魔法の行使によって疲弊していた精神力が、回復していく。
使ったそばから補充されていく感覚なので、じゃんじゃんつぎ込む。
それにより鎖の動きは高速に至り、水が交差する点を過ぎ広がっていき、ついには階層に雨が降り始める。
『!』
「よし…」
最初は噴水からでる弱い霧吹き程度だったが、時を経るにつれ供給される水が増え、大雨に代わっていく。
階層全域とまでは言えないが、戦場一帯を水浸しにしていく。
同時に足元を奪うが、神の眷属なら大した問題にはならない。
が、捨て駒こと狂信者たちは別だ。
彼らは恩恵を持たない一般人、足元がぬかるめば抜け出すことは困難。
「これは…」
「流石、それでこそ私が惚れた男だ…」
何より、これで自爆装置は無効化した。
今なら…
「アリーゼ!」
「畳みかけるわよ!」
『了解!』
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しゃあ!思ったより早くできたぁ!
二次創作は走り出せば楽しい!
原作の完成度が高いのがここにきて改めてありがたく思える!
輝夜さんマジつえぇマジ最強。ヒロイン力高過ぎぃ!
息切れしたら公式から供給が来るからよぉ…永久機関が出来上がっちまったなぁ!
まぁ、取り敢えずここまではね。
次回はついにヤツが…来る。と思う。
さぁ、奴ってだれのことだろうにぇ。
じゃ、次回にまた会おう。
是非コメントと誤字の指摘よろしくね