第1章 十八節
第1章 十八節
燃ゆる戦場は苛烈を極める…
地に落ちた黒き竜は、自らが貫き、開け放った背後の瀑布に目もくれず、翼を広げて咆哮を上げる。
その圧に、炎は揺らめき同時に仲間たちも足を止める。
「はあぁぁぁぁ!」
しかし、その圧に負けず進撃する戦士が一人。
その身の丈ほどある戦斧を振りかぶり、勇猛を掲げ、彼が作った隙を逃すまいと、担いだ獲物を振り下ろす。
金属同士の激突音が響き、先ほどとは違う圧が周囲を過ぎる。
しかし、大最悪は首を多少屈めた程度で、大して意に介さない。が、これでおわりなどはない。
「いいぞおっさん!いったん下がれ!」
「よし!」
『星屑の光を宿し』
波状攻撃、相手に反撃の隙も与えない、攻撃を波のように続ける策の一つ。
ここまで硬いと、どれだけ続ければいいのか分からないが、ダメージを与え続ければいつかは息絶えるはず。
『敵を討て!ルミノス・ウィンド!』
後方に跳ねるように下がるガレスと入れ替わり、疾風は駆け付けた。
切り裂くような鋭い風と、破壊を込めた光を伴い、自らも木刀で切りかかる。
「っ浅い」
「次が行くわよ、リオン!」
『我が名はアールヴ』
だが、その傷は浅い。魔法と同時に斬撃を与えればあるいはと思ったが、その傷は深くない。
ならば、とその敏捷をもって後方に素早く離脱すると、大最悪の頭上に白い魔法円が出現する。
『ウィン・フィンブルヴェトル』
それは凍てつく剣。
周囲の熱をものともしない冷気の一撃。
戦場を駆けながらの並行詠唱、エルフの王族、大魔術師の渾身が大最悪の身を覆う。
芯まで凍れば、後は砕くだけ、
しかし、リヴェリアは忌々し気に呟く。
「届かんか…」
質量をもった冷気、叩きつけられたそれは白い霧と共に煙を巻き上げる。
煙が晴れたその先、怪しく光る紫が健在を示す。
大最悪はその身の霜を振るうだけで払う。
冷気は芯まで届かない、その身に宿す熱は寒気を通さず紫の光を宿すばかり、
波状攻撃の為の詠唱速度重視の威力とは言え、現状都市最強の魔導士の大魔法を気にも留めない。
それどころか、意に介すこともなく…
「階層を壊す熱線が来るぞ!退避!もしくは盾を構えろ!」
ガレスの野太い声が戦場に響く。
胸部の鱗の隙間から一層強い紫光が輝くと、口腔から紫の炎が漏れ出し、ついには放たれた。
対象は先の魔法を放った二人、そして皮切りとなった一人。
敏捷と読みに長けた二人だが、熱線というには範囲が広かった。
それはもはや、咆哮に伴う火炎。
軌跡は扇状に焦げ付き、木々は炭となって朽ちていく。
「ガレス!」
その範囲には避けきれなかったガレスがいた。
舞い上がる煤と煙、蒸発した木々の水分が戦場の一部を熱帯に変えるが、その一部だけ避けるように細い扇状に切り取られていた。その頂点には焦げ付き炭になり果てた盾を構えるガレス。
「フゥ、流石に耐えきれんか…」
所々煤けているが、身は無事なようで、構えていた盾を投げ捨てる。
流石の耐久だが、盾は耐えきれなかったようで炭となって朽ちていく。
持ち直したガレスは、片手だった戦斧を両手に切り替え、咆哮を上げながら再び突進する。
「接近戦で外殻を砕くわよ!前衛は攻撃開始、後衛は物理中心に切り替えて、魔導士は自己判断で詠唱を開始して!打つときは他の誰かが合図をお願い!」
『!』
その時、一陣の風が戦場に吹き荒ぶ。
「やぁあああぁ!!」
旋風。
いや、正しくその名の通り嵐が一条の槍のように突撃する。大最悪の土手っ腹を捉えた一撃は、交代させるに足り、断崖に脚を取られた奴は思わず再び羽ばたき始める。
一撃を終えたアイズは、仲間たちの元に後退し、舞い上がる砂埃をその身に纏う風が払っていく。
「アイズ!」
「無事じゃったか!」
「うん…大丈夫」
「ハチマンは!?」
駆け寄ってくる仲間たちに、アイズはぎこちなく受け答えをしていく。そして、アリーゼの問いには、視線を持って答えた。
「来るよ…」
視線の先は先程飛ばされた森林地帯、そこで赤い光が瞬くと捻れるように寄りあった鎖が龍の形を取りながら八つに別れていく。燃え盛る赤い炎が、顎と角を形取り、牙は楔、背鰭は燃え盛り揺らめく炎、黒鉄のくさりは鱗のように怪しく煌めいている。
その様をただ一人、見覚えがあるが故に名前を呼ぶものがいた。
「あれは八岐の…大蛇か!?」
誰あろう彼と故郷を同じくする、輝夜である。
精霊の力が混ざった、天の鎖。
浮かんだその名を『八脈龍揮』、いつも以上に丈夫でいつも以上に思った通りに動く。
でかい腕が8本生えたような感覚と言えば分かりやすいかもしれない。
突き出した右手をゆっくりと下ろし、小さく呼吸をする。だが、全能感に慢心するな、俺の決着点は大最悪じゃない。全霊じゃなくても全力であいつらを勝たせて、俺も勝ちに行く。なんだ…結構やる事は簡単で助かるな。
左手に握る蔓佐韋を、強く握り直す。
最後にもう一度、今度は大きく呼吸をして…
ゆっくりと加速していく。
柄じゃないから咆哮は挙げない。
けど、伴う龍は周りの木々を薙ぎ倒しながら進んでいく、嫌でも喧しいからどんどん目立つ。
サイズ上の自己主張は、ちょっとどうにもならないみたい…
「お、おい…あれ、ハチマンだよな?」
「その様ですが…まさかあんな手を用意してたとは…」
「ガハハハ!相変わらず奇策が得意な奴じゃ!じゃが、あれならデカさも負けとらん!」
「あぁ、1本で裂かれるなら寄り合わせて強度を底上げする。単純だがいい手だ。」
「流石、私達の騎士!とんでもない飛び道具を用意してたもんだぜ」
千日手を覚悟した隊に活気が生まれる。
何も聞いてないとか、私にくらいは教えてくれてもいいじゃないとか、心配して損したとか、言いたい事は山ほどあるが、それでもこの気を逃す手はない。
「皆!ハチマン一人に手柄を取られないように!行くわよ!」
『おう(おうよ)!』
再び、飛び立とうとする大最悪、見下ろすように首を下げ、鈍重な身を意に介すことなく、爪を突き出し突撃するが…
加速から生まれた慣性に身を任せ、飛び上がると同時に炎を纏わせた刀を振り上げる。今度は最初から両手で握り、最大限の殺傷力を引き出す。八相に構え、爪というより掌を切り裂くイメージで、振り下ろす。
「っ!」
しかし、踏み込みが足りないのか慣性と羽衣から来る膂力だけでは、鱗も含んだその身を切るには今一つ足りない。
それどころか、大きさ、空中における膂力、迫ってくる質量、全てにおいて奴に劣っている。
幸い、加速し切る前に接触したからこそ、受け止める、反撃すること出来ているが、単純な力の勝負において、これに拮抗もしくは対抗できるとすれば体感でいっても、獲物の大きさ、力のステータス的におっさんかオッタル、うちのファミリアじゃ一対一は無理だ。
が、そこはいまなら数と質量で埋められる。
「行け!」
一瞬のやり取り、自らの中で行われた分析に応じて、追従する鎖の龍を指揮する。
四体を翼に、二体を胴体に、残りの二体を不足の事態、仲間のサポートに備えて背後に待機。
飛ばれると厄介なら、もう一度落としてやるよ。
膂力を生み出す翼に龍の楔が突き刺さる。
膂力を封じ腹に突撃を受けた大最悪は、再び地へと落ちていく、決着は地上でつける。
これ以上階層を抜けられて溜まるか、
「団長!」
「総員突撃!」
『うぉおおおお!!!』
勇猛を掲げろ、勇気を示せ、死を恐れろ、命を守れ、大いに助け合え、私達(俺達)は決して1人なんかじゃない!
こんな絶望も悪も、12人で踏み倒してやる。
「正しく、神時代における英雄譚…」
その光景をさも満足気に眺める神が一人…エレボスだ。
戦場を一望出来る丘の上、燃え盛り怪しく光る大最悪と、勇猛と勇気を掲げる眷属達。
その中に、一際目立つ男子が居る。
「彼は地上の絶対正義足り得るか…いや、それは自ら否定したようなものか」
彼は自らの正義を友と自身の尺度に委ねた。
確かにそうだ。
正義だ、悪だと神がここで言った所で、地上で栄えるのは子供達…即ち人間達だ。文化も、在り方も、世界も、自ら考え切り開く者たちだからこそ、我々の娯楽足り得る。
「彼自身、そこに気付いたからこそ、この俺にあそこまでの事が言えたのだろう…なぁ、アストレア」
「…」
その背後には、護衛にアスフィを伴ったアストレアが林の暗がりから現れる。
「以前もそうだが、ダンジョンにまで来るとは、相変わらずお転婆が過ぎるなぁ…君は天界にいた頃から変わらない、過激さはアルテミスに及ばないが、圧と行動力は処女神たちの中で一番強い、ヘスティアなら、同じことをしただろうが…あいつはどちらかという知略向きで理性的だ」
「あら、私が理性的じゃないとでも?」
「おっと…」
手に持つ錫杖の矛先をエレボスに向け、私はいつでも理知的で理性的だと誇示する。少し離れた距離とは言え、リーチは十分、唯一の眷属もやられたエレボスは丸腰だ。降参の意志を示すようにエレボスは両手を上げる。
敵の将は落とした、後は戦場に委ねるだけ、といったところか…
「……最後に絶対悪として、正義の女神に聞かせてくれ」
「…なに?」
「地上の正義とは、絶対正義とは何だ?」
これ以上の抵抗は無意味。
おそらく、地上の決着は…もうじき着くだろう、アルフィアは彼との決着の為にこの場には来ることはない。
つまり、この戦いがこの先の、闇派閥の進退を決める、と言っても大最悪が討伐されようと、なかろうと、この場で俺は彼女によって拘束され地上で裁きを受けるだろう。
故に、これが最後の機会だ。ついぞ得ることが出来なかった、自身の対局を得ることが出来るかもしれない。
「…それを私がここで示してしまえば、それが地上の正義になってしまう。地上の正義は地上に生きる子供たちが、あの子たちが作るものよ。それに、貴方はあの子から、あの子たちからその答えを見せられているはずよ」
「…そうだな。地上の正義はあの子供たちの様に様々な形がある。彼女らの様に次へと紡ぐ正義、彼の様に守りたいものを守る正義、ただ一人自分自身の幸福を至高とする悪と他人との幸せこそ良しとする正義、俺に理解できない訳だ」
誰かを不幸にして自分の幸福を得る悪と、誰かと共に幸福を分かちあう正義、相容れない訳だ、コインの裏表だとしても、同じ混沌から生まれるもので幸せという結果は同じでも白と黒、より多くとたった一人という大きな違いがある。
分かり合えない筈だ、正義は悪になり得るかもしれないが、悪は正義にはなれない。
地上の正義の定義が他人の為、であるというのならなおのこと。
あぁ、だからこそ俺は地上の子供が…
「なぁ、アストレア…」
「…この戦いを見届けることだけは許してあげるわ」
「あぁ…すまない」
まるで彼が何を聞くか分かっているの様な会話だった。
空気がそうさせた?流れがそうさせた?
違う、同じ神として、この戦いは見逃せない、どうせ死ぬならこの戦いを見届けてからにしたい、と要求をするだろうと故郷を同じくする者として、多少の付き合いの長さから察せられたという至極単純なものだ。
「アスフィ」
「はい、なんでしょう?」
「行って来てもいいのよ?」
「えぇ?しかし」
確かに先程から戦場に目を向けていた、護衛対象であるアストレアを置いてだ。
「あら、大丈夫よ。地上だろうと天界だろうと、こんなのに後れを取る私じゃないわ」
こんなのって酷いなぁ、と矛先を背中に突きつけられ両手を上げながら、勘弁してくれと言っているのが表情から見て取れる。
そう言えば、アストレア・ファミリアの先頭の指南はアストレア様がつけていたはず…なるほど、武闘派というのもあながち間違いでは…これなら任せられるが、
「いえ…不測の事態にも備えるのが私ですので。それに…」
戦場を見やり、彼方此方に魔法や矢、人や…鎖の龍が飛び交う戦場に戦闘向きではない私が行っては足手まといになる。
「私では悲しいほどに向きません」
熟練した兵士と魔術師、そして極めて統率の執れた一軍、そして、精霊の奇跡そのものとなった少年。
大最悪を抑え込む龍たちを足場にしながら、一撃離脱を繰り返しながら合間に魔法を叩き込んでいく。
泥臭いかもしれないし、どちらが先に倒れるかも分からないようなデスマッチ。
「硬すぎでしょ!」
「いえ、それだけではありません」
「切った傍から再生していっている。厄介極まりなし」
「まぁ、こんなおかしなモンスターに普通のモンスターの常識当て嵌めるのもなぁ」
魔石を砕けば確実に仕留められる…が、その魔石の位置もわからない上に、この巨体。
その上再生能力まである。
流石に、再生に上限はあると思うが、それもどれだけ削れば現れるか分かったものではない。
探ろうにも浅く傷つけたくらいではすぐさま再生されて、探しようがない。
「おいおい、じり貧じゃねぇか」
「なんじゃ弱音か!ひよっこ共」
「ひよっこって…根こそぎ一応レベル2以上なんすけどねぇ…」
戦いながら軽口を叩くのは悪手も悪手だが、この状況において互いの意見をリアルタイムで交わすのは重要なことだ。
切った感触、手ごたえ、モンスターの反応、何が起死回生につながるかわからないこの状況では、時間も手間も惜しい。
故に、これは効率を考えたうえで最適な手だといえる。
「無駄口を叩くな!こちらも精神力がいつまでもつかわからんぞ!」
「ごもっとも!」
尻尾の薙ぎ払いとそれによって生まれる旋風を龍を盾に防ぐと、そのまま大最悪を取り囲むように円陣を積み重ねていく。
「龍なら炎とか吐けないの?」
「そんな便利なもんじゃねぇよ、出来て拘束ぐらいだ」
「十分だっての!」
こちらもあっちも視界を奪われているがその実、天井だけは開けてある。その理由は単純。
そんな隙を、ライラが見逃すはずがないとわかっているからだ。
監視に四つ頸、蜷局を巻くように回り続ける四つの頸、坩堝の口から爆弾が投げ込まれ。
破裂音の後に黒煙が立ち上る。
「どうだ!」
やってやったぜ、という声が聞こえてきそうな顔でこっちを見るライラから、無言のまま視線を外し、再び大最悪を見やる。
「・・・」
戦場においてはあくまで冷静でなければならない、その時にできる最大限で俺はこいつらを守る。
勝てなくても、生きて帰るそのために俺はお前を狩る。
「っ!」
瞬間、鎖が弾かれる甲高い音が、重複して響く。
黒煙の中から、巨大な寸動が弾かれて落ちてくる。咄嗟のことにさしもの八幡も対応が遅れ、操作ではなく反射的に声が出る。
「退避だ!鎖の塊が降ってくるぞ!」
爆発による内側からの力によって、拘束が緩んだ隙に全身を震わせて振りほどかれたらしい。
舞い上がった煙の向こうで怪しく光るその両目、そしてすぐにでも動き出せるような姿勢から情報が見て取れる。
「アストレア様!」
『!!』
アスフィの叫ぶ声に思わずファミリア全員が振り返る。
声の先には倒れる鎖の先にアストレア様とアスフィ、そしておまけがついている。
「なんでここに!っ、それより」
辛うじて直撃は避けているが、質量が質量だけに、丘が崩壊して落下中だ。
アスフィが二人を抱えて浮いてはいるが、流石に二人分の重量に耐えられる設計ではないらしい、今にも落ちる。
俺はやむを得ず着地と警戒のために制御可能な二本を向かわせ、制御を失っている四本の再稼働をしつつ残りの二本でみんなのサポート。
『ヴァアアアアア!』
「…今度はなんだ」
煙が晴れない内から暗がりの向こうに怪しい光が増えていく。
「ブレスか!」
「退避じゃ!」
「いや、これは…そんなもんじゃない」
ひとまず防御だ。
アストレア様とアスフィ、とおまけは無事に着地してる、周囲にモンスターはいない。
「アリーゼ」
「全員後退!なるべく距離をとって!」
予めしてある、魔法保存を使うか?
「いや、間に合わない」
あれはもう撃つ、それもあの光一本じゃない。
顔を隠すように右手を振り、制御を取り戻した六本を全員の前に来るように防御の陣をとった瞬間。
煙を切り裂く光線が複数本迸る。
鎖の竜は震え軋む感覚が右手に伝わる。
明らかにブレスだけではない、背中にある複数の水晶から攻撃をしている。
流れ続ける光線は鎖を軋ませながら滑り、階層の壁を削りつつある。
減衰してなおあの威力、直撃すればガレスのおっさんでも危ない。
「てか、こっちも大概ヤバい」
高い密度の熱に耐えている鎖だが、束ねられているとは言え、細かい鎖が複数あるだけ、応力は高くとも独立した鎖単体と考えれば熱に対する容量は据え置き。
正面から与えられる威力と熱、それによって発生している鎖に対する負荷に悲鳴のような音が上がっている。
「鎖が!」
「不味いぞ!このままでは」
どうする?今からでも使うか…
だが、こいつは以降のアストレア様の護衛のために割きたい。
でも、判断を誤れば戦線が崩壊する。
なら、ここで割くべきなのは…見渡す限り集団は四つ、制御を一時的に放棄している二本、機能している物のうち四本を引き締めて総した熱容量を上げれば防げる。合計で四本は残る。
「よし」
「ハチマン!どうするの」
「四本捨てる。これから先のフォローは攻撃寄りになるぞ」
「了解」
「八岐の半分か、貴様が四本分働けば済む話だ」
「おいおい、勘弁してくれよ。お姫様」
なんか知ってそうだけど、それは今度。
俺にあの鎖四本分の働きをしろとか、なんか怖いこと言っているし、無視したらしたで後の報復が怖いからリアクションはするが…どうしよう、したらしたで言われた働きをしなきゃならなくなる…というかなったな。
「減衰してる…今なら」
鎖が焼き切れ始めた頃、光線と熱の減少が見て取れた。
「団長」
「えぇ!みんな行くわよ!」
鎖の一部が煤けて溶け切った頃、光線が消えた直後、陰から跳ねるように飛び出し、一気に攻撃に転じる。
メンバーとロキ・ファミリア、アーディが再び攻勢に向かうように駆ける中、俺は反対方向に走りアストレア様のもとに向かう。
その途中で、荷物を拾う。
片目で戦場を見ながら、制御を取り戻した四本を動かす。
「アストレア様!」
「ヒキガヤさん!」
「どうしてこんな所にまで」
いくらアスフィが二つ名を与えられた冒険者とは言え、神がダンジョンに潜るとは、あまりにリスクが高すぎる。
それに…
「…エレボス」
「やぁ、またあったな」
横にいる黒髪の邪神に警戒せざるを得ないが、この場でできることはたかが知れている。
何より、どんな絡めてや不意を突こうと、あのアストレア様がこんなのに後れを取るとは思えない。
「ハチマンみんなをここに…」
「え?」
「…それはそのためのものでしょう」
彼女の視線の先には、八幡が持ってきた人が二人ほど入りそうな大きな箱。
「それは、そうですが」
「なら、貴方自身の目的のためにも…私は私にできることをしたいの」
「…なんでもお見通しですか。俺の内は読みづらいって言ってませんでしたっけ」
「読むまでもなく分かりやすいだけよ。あなたは」
さいですか。
すごく優しい表情でそんなことを言われたら、うっかり好きなっちゃいそうなものだが、アストレア様相手にそれはある意味予定調和なので、俺は大丈夫。
そんなに分かりやすいほど感情を表に出しているつもりはないのだが、どこで聞いたか忘れたが「感情を処理できない人間はゴミだ」ということが過ぎる。まぁ、うちのファミリアに理性的な奴がいるとすれば…おかしいこういう時一人くらい思い浮かぶはずだが…
「分かりました。アスフィも頼む」
『楽園宮』
用意していたストックをここで切る。アストレア様の保護と護衛、あいつらがなんの危険もなくことを済ますためにこれ以上ないほど都合のいい魔法だ。
絶対不可侵の領域を作り出すこの魔法は、対象者を自由に選べる。
今回は、アストレア様とアスフィ、アストレア・ファミリアの面々を出入り自由に、おまけは入れはするが出られはしない。
監獄と安全圏を同時に熟せる本当に便利な魔法だこと。
火災の隙間を縫うように駆け、再び戦場に帰還する。
だが、ここからは防ぐ番だ。
アストレア様の厚意を果たすためにも、攻勢にあるこの状態を維持しつつ防戦に入る。
「アリーゼ!」
「!」
選手交代だ。
というように、彼女に視線を送るが、どういうことという視線が返ってくる。
俺はその問いに後ろを一瞬見ることで答える。
「っ・・・」
その回答が伝わったのか、一瞬なぜという顔をしたが、すぐさま情報を嚙み砕いたのか沈黙のまま頷く。
どう伝わったか分からないが、少なくとも読んでいるという事だけは伝わっているはずだ。
「叔父様!リヴェリア!アーディ!とアイズ、ちゃん?!」
「なんじゃ!」
「何事だ!」
「「?」」
「…10分頂戴」
「何!?」
「この状況で10分用意しろ、だと?」
当然だ。
あのデカ物相手に11人が一時的に離脱し、10分を稼ぐのだ。
いくら高耐久を誇るガレス、並行詠唱可能の魔導士の上澄みであるリヴェリアといえど前衛がアイズとアーディだけというのは戦線が崩壊しかねない。
「大丈夫!」
「根拠は!」
「ハチマンが11人分働くから!」
「はい?」
「…フッ、分かった。勝算はあるんだろうな」
「当然!」
「良し、なら行ってこい!」
「みんな!アストレア様のところに急ぐわよ!」
「ん?」
なんかサクサク話進んでるけど、今さらっととんでもないこと押し付けられなかった?
「良し、小僧!貴様が前衛の中心じゃ!なぁに、アイズにかっこいいところを見せられるぞ!」
「えぇ…まぁ、そういう考えもありますね」
「カバーよろしくね、ハチマン!」
「がんばって…」
「よし、がんばります」
「ちょろいな、それでいいのかお前は…」
即席パーティーだ、前衛3、中前衛1、後衛1、バランスとしては申し分ないが、それは敵が普通の階層主限定だ。
こんな黒くて危なくてデカい、規格外じゃとんでもなく頑張らないと行けない。
が、幸い体積としては鎖の龍四本を加えれば勝ってる。
つまり勝ちってことだな?
「…10分、稼いでやるよ」
別に、倒してしまっても構わんのだろう?
とか、言いたいが、それをしたら俺の最終目的が果たせなくなる。
だから、全力で戦って全員で勝つ、それならギリもう一本も温存できる。
『アストレア様!』
黄金の光を淡く放つ球体を見つけ、そのまま入っていく。
自らの主神のもとへ
「エレボス!貴様」
「おおっと、今はそれどころではないんじゃないのか?」
今の自分は無害、無抵抗だと示すように両手を肩まで上げるエレボスに輝夜とリオンはやむを得ず牙を収める。
「アストレア様、何故」
「皆、ステータスの更新よ」
『!』
思わず疑問を呈するライラに、間髪入れずアリーゼが答える。
その言葉に思わず驚く。
「このような場所でですか?ですが、何故急に」
「…この戦いを私は見てきた。貴方達がエレボスの傘下の子たちと戦い、特に輝夜は一つ決意を決めた。アリーゼは葛藤の中でもみんなの為に覚悟をし続けた」
「「・・・」」
「皆もそれに気づいて、いつも以上に頑張っている」
『・・・』
「その心と、この戦いの中で得た全てをぶつければ。貴方達はあんなのには負けない」
そこまでは読み切れていなかったとアリーゼは思った。
ハチマンが向けた視線から読めたのは、ステータスの更新と時間を稼ぐ行けという意志だけ。
おそらくハチマンもそこまでは聞いていなかったのだろう。
「あんなのとは言ってくれるな。あれでも神々を贄に召喚した、神獣に近いものだぞ?禍々しいが」
「・・・それに、これもある」
「それは…ハチマンの」
「・・・」
アストレアがそっと手を置くそれは、ハチマンがこの階層に持ってきた巨大な箱だった。
戦いの中でも、何か出すわけでもなく、いつ使うものなのか知らされていないもので、長期戦になった時の食糧だとばかり思っていたが。この局面で出すという事は、自ずと答えは見えてくる。
と、リオンは横の輝夜を見やる。
「何か心当たりが?」
「武器だ…」
「え?でも、私たちの武器はみんなハチマンちゃんが決戦前に」
「その強化版みたいなものね」
『!』
アストレアがそういうと、その箱に心当たりがあったのか、アスフィが後ろのレバーを操作し、箱が音を立てて開き始める。
観音開きかと思うと正面が少し動き、横にスライドするように武器がずらりと扇状に展開される。
槍、剣、盾、短剣、メイス、弓、木刀、11人の武器もしくは装備がそれぞれに用意されている。
「ハチマンは今回の戦いで、みんなの動きに武器がついてこれない可能性を考えて、ずっと前から用意していた武器たちよ。癖もちろん、耐久力もなじみ方も、いつも以上のはず」
「これは…」
「なんとも…」
「流石と言わざるをえねぇな…」
全員が感嘆の声を上げる中、輝夜、アリーゼに対してのみ、専用のものではなく。
「簪か…」
「綺麗な髪飾り…」
送られたのは、青い竜胆があしらわれた簪と、白百合を一輪かたどられた髪飾り
「…貴方達のものはハチマンがずっと整備し続けてるから、新造するよりそれが一番なじんでるだろうって。でも、フェアじゃないからって用意してたわよ。みんなと同じ手作業で」
『!』
お前(あなた)はどこまで…とそこまで言いかけて、言葉に詰まった。
泣きそうな訳ではない、嬉しくて、キュッとして、緊迫した戦場だというのに喜びがあふれてしまう。
「色ボケどもが…さって、あたしのはっと、ん?」
「貴方のは魔槍よ」
「はぁあ!?あいつ何考えて…」
と、言いかけたが、何となくわかったし、あいつの声で脳内再生余裕だったわ。
大方、「お前も小人族だし、憧れて一回ぐらいは絶対触ったことあるだろうし、ライラ様ともあろうものが、タイミング見計らっての投擲もできないとかそんなことありませんよねぇ」と、いう製作者の意思を妄想して。
「あの野郎…」
勝手に被害妄想して、勝手にイラついている。
身勝手が過ぎる。
「この木刀もしや!」
「えぇ、アーディが取り戻してくれた貴方の故郷の枝を使って作られたものよ。」
「という事は…あの短期間で作成したのですか⁉」
「…そうなるわね」
社畜根性が極まっているといえばそれまでだが、アリーゼとリオンの新装備一式、みんなが今の今まで使っていた武器全部の整備
に加えて、この数の武器を作っていた。並みの胆力ではない。
「改めて、とんでもない鍛冶師だなハチマンは」
「みんな、大助かりだもんね」
「って、そんなハチマンを戦場に残してきたんだけど!?」
『!』
「アア、アストレア様!いい、急いで急いで!」
「どこを見ているエレボス!」
「いや、急に脱ぎ始めたのそこのアマゾネスの子だよねぇ!」
罪悪感に苛まれる前に、いそいそと、ステータスの更新を行う。
…なお、武器が入っていた箱の向こうで行われ、エレボスの四方をとんでもない眼力で圧をかけられていたため、その様子は意地でも見せてもらえなかったようだ。
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やっほ、卒研でストレスマッハだよ。
シャンフロまだすか?あと、青ブタ終わるの受けれられないっていうか心が持たないんだけど?
情緒が不安定だ、こんな感情はハヤテのごとく!全巻読み終わって満足して以来だ。
これからどう生きればいい、鴨志田一先生の次回作に期待して座します。
と、終始支離滅裂な僕の内情はおいておいて、ようやくここまで来た。
長かった、次回でやっとデカいトカゲをノシて、やりたいことが出来る。
というわけで、いつになるか分からないが、これからもよろしくお願いいたします。
それではおやすみなさい