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第1章 二節

天秤の騎士は、己が正義を成し続ける — www.pixiv.net · All chapters

第1章 二節

カーン…カーン…という、甲高い音が規則正しい音色で響く。柱は木材、その間をコンクリートで固めた、八幡の個室兼鍛冶場は、星屑の庭のそのまた庭、にポツンと建てられた少し大きな犬小屋…の奥の階段を下った地下に建てられており、夏は涼しく、冬は炉によって暖かいという快適な造りとなっている。

夜も耽ける丑三つ時に、その日に得た素材を使い、来るかもしれない戦に向けて八幡は柄にもなく準備をしていた。

また夜通し作業か…

そんな中不意にぬるい風が部屋を吹き抜ける。

開かれていた扉の方には、金色の髪を結わえた寝る前で薄着の同僚が立っていた。

「貴方がここまで勤勉に働くとは…オラリオの曇天は貴方のせいなのでは?」

「…ふぅ、なら俺は働かない方がいいな」

高熱の中で鉄を鍛え続けた為か、額からは汗が滝のように流れていく。

師の教えで鍛冶の腕に関しては、オラリオに来た当時から一級鍛冶師、今では魔剣も打てるのだがそれ以上に彼の打つ剣は美しく、また強固な物だった。

「…それで、こんな時間に、それもお前が訪ねてきた。何か用か?木刀のメンテナンスなら…頑張って明日には受けられるけど」

「いえ、そこはいつも助かっているのですが…実は、先日とある神と出会いまして」

「マジか…」

この瞬間、比企谷八幡は思春期相応の勘違いをしていた。

皆の妹ことリュー・リオン(俺は違う)は、エルフ特有の潔癖が中々抜けきれていない、所謂頑固者。

その彼女がダンジョンではないにしろ出会いを果たしたのだ(勘違い)。良かったなアリーゼ、良かったなお姉ちゃん(笑)達、お前達の妹に春が来たっぽいぞ。

応援したいし、実って欲しいとも思うが相談相手を間違えてないか?とも思う。

まぁ、ここは取り敢えず。

「頑張れ、俺は応援するぞ」

種族は違えど同じ神を戴いている眷属だ。

応援しない訳にはいかない。

いい経験になるといいな、あわよくばこのクソみたいな状況の都市でも幸せになれればいいなという意味を込めての言葉だ。

是非受け取って欲しい。

「…貴方は何か盛大な勘違いをしているようだ。取り敢えず水を飲んで落ち着いて欲しい」

もう一度言おう、比企谷八幡は勘違いをしていた。

しかし、それも仕方のないことだ。炉の熱は尋常ではなく熱く、槌からくる衝撃は脳を揺らす。そして、休憩に入る前に相談に乗っているのだ。冷静どころか熱に浮かされていてもおかしくないのだ。

あちらは夜中ということもあって、恐ろしい程冷静だった。

別に恋じゃなかったってよ?どんまいアリーゼ。

おそらく…というか絶対こう言った話は大好物であろう我等が団長様に残念賞をくれてやったところで、俺は差し出された水を飲み干す。そして垂れていた汗を手拭いで拭うと、熱で火照った体が芯からゆっくり冷えていくのを感じる。

それと同時にあのリオンが恋?有り得んなぁ〜と先程の思考を全否定する言葉が浮き上がってくる。第一こいつ俺含め男にまともに触れんし、なんだったら不意に触れただけで投げ飛ばされるまである。

「改めて、話を聞こうか」

「はい…実はその神に‘‘正義‘‘とは何かを問われまして…咄嗟に答えたのですが、言い返されてしまいまして。そこで、口だけは達者な貴方なら答えを知っているのではと」

「言葉の端々に短い棘を感じるんだが…」

「いつもの事では無いですか」

「お前もあいつらに似てきたな。いい意味で…」

「ありがとうございます」

「皮肉のつもりだったんだけどな」

流石ファミリア一の頑固者、ジョークも冗談も皮肉も通じない、純情過ぎてこっちが困るまである。

しかし…この質問もまた聞く相手を間違えている。

俺の所に来るまでに、アリーゼには聞いたのだろうが曖昧過ぎて、と言うか内容がデカ過ぎて理解不能、ライラに関しては何処か違うと思ったのか途中でもういいと蹴り、輝夜には聞こうとすら思ってないのだろうから、残るはノイン、ネーゼ、マリュー…

「大方、それで分からなくなったってとこか…」

「……」

「図星かよ」

「そう言う貴方はこの質問にどう答えるのです?」

「ん〜」

昨日今日で、同じような質問をされた気がするな、それこそアストレア様に…困った、本当に困った。本気で質問する相手間違えてるじゃねぇか。

「俺にも分からん…」

「?」

「…俺は別に正義の為に戦ってる訳じゃないし」

「では何故貴方はこのファミリアに?」

「拾ってもらったから」

比企谷八幡はある意味戦争孤児の様なものだ。生まれ育った村を焼かれ、身よりもなく、共に生きる者もいなかった。あったのは復讐の火と、握った二振りの剣だけ。憎いもの達の背中を追ってここまで来たは良いものの、街はこのザマだ。齢12歳の少年が生きるには辛いものがある。

そこで出会ったのが、かの女神だった。神は超越存在故に嘘は通じない。出稼ぎに来たという八幡の嘘を見抜き、その奥にある悲しみと怒りを知ってなお受け入れ。寧ろ抱き締めてくれた、その温かさがあったから俺はここに居る。

「全部失くして絶望しながら復讐をしようとしてた時、アストレア様に救ってもらったから、それに対する恩返しみたいなもんでここに居る」

「では!貴方はなんの為に戦う!」

「そうだな…強引に仮定するなら奴らに奪った罪を命を持って償わせる為か。けど、その質問そのまま返す」

「っ!」

「俺が戦う理由は復讐だが、お前は何がしたくて戦う…なんの見返りを求めず、結果も、成果も求めず、ただただ周囲が断じた悪ってやつに秩序を振りかざすだけってのはライラ風に言えば不健全だぞ」

八幡は心からの言葉を淡々と述べていく。それはリオンの胸を刺していった。

胸に湧き出た何処か不快な感覚に、どんどん顔を歪ませていくリオンを横目に、八幡は打った剣の出来を、剣の腹を撫でるなりしながら確認していく。これから研磨の作業があると考えると、日の出と同時に眠りに着くことになりそうだと、足元にある鉱石の塊を見ながら思う。

「……まぁ、いいんじゃねぇ?それでも」

「何が!」

不機嫌そうに怒号を挙げるリオンに対して、彼は飽くまでも冷静だった。

同じファミリアのよしみ、有り体に言えば家族のよしみだ。

「悩み続ければいい…お前はこれからも見つける努力をし続けろリオン、俺は自分の正義なんてもう分からん…正しさなんてあの日に捨ててきちまったからな。」

「それは!…それは、悲しい生き方だ」

「なんでお前がそんな顔すんの?」

そうだ憂う必要はない、これは俺の覚悟であり使命であり、やりたいこと、単に音味も胸糞悪いだけで、部外者であるお前が悲しそうにすることは無い。

「高潔な正しさだけが本当に正しい訳じゃない、偶には甘さだって必要だ。飴と鞭って奴だな」

「…」

「ゆっくり考えればいい…まぁ、なんか急かされてるなら俺以外に聞いた方がいい」

「…分かりました。すみません、夜遅くに」

リオンは八幡の顔を見て、申し訳なさそうにそう言った。

「このファミリアでこんな時間まで起きてんのは、俺か夜の番だけだからな。おやすみ、リオン」

「はい。おやすみなさい、八幡」

立ち去るリオンに、八幡はぶっきらぼうに体も視線も向けずに手を振るだけに留めた。リオンはそれに何を言うでもなく、少しだけ晴れた表情で鍛冶場を去っていった。

「はぁ〜」

鉄臭くさと外気のながれ正面に熱を横に感じながら、八幡は先程の会話からあることを思い出した。

いつだったかアストレア様は、リオンの正義が最も幼いと言った。

だか、俺にはそんな事は言わなかった。

それは俺もまた自分の正義を持たないからなのか、あるいは…

打った剣を砥石で磨き上げながら考えに耽っていると、防音の為の分厚い鉄製扉がガコン!と勢い良く開け放たれる……今日は来客が多い。

「鍛冶師様。お風呂、貸して頂けますか?」

「ホームにもあるだろ…」

ていうか、手元のそれはもう貸せと言っているようなものでは?

来客は夜の見廻りから帰った輝夜だった。少しくたびれた着物と艶やかな黒髪を翻し、その脇には桶とタオル、その他諸々が挟まれており、その桶の淵には着物の上からでも隠しきれないほど主張の激しい双丘が乗っかっている。

「久しぶりに檜風呂の気分なのですよ」

「…はぁ、好きにしろ」

俺がそう答えると輝夜は、「では、遠慮なく」と機嫌良さげに俺の後ろを通って部屋の奥へと入っていく。

そう、この鍛冶場にはなんと温泉が完備されている、と言うか俺がつけた。

そもそも、ファミリアの方針で朝食こそ大抵は一緒に食べるが、流石に年端もいかない男女(男1人に対し、女11人余り)がひとつ屋根の下と言うのは如何なものかと俺が考え、画策したのがこの地下工房だ。

それからなんやかんやあって、掘って行ったら温泉が出ました。じゃあ、遠慮なく使わせてもらいましょう。と、以上から俺の部屋の奥には檜風呂が出来ましたとさ、

「男としては幸福なことなんだろうが…俺にそんな度胸なんざないしな」

現在16歳、思春期真っ只中の比企谷少年は暴れ出そうとするリビドーを磨いている剣に意識を向ける事で抑え込んでいる。そう今こそ‘‘賢者‘‘の力を使う時だ。

あ、ダメだ。あれの効果、怒りに対してだけだったわ…

八幡が葛藤する中、シュルシュルという着物を脱ぐ音が終わると奥の脱衣所から風呂場に繋がる扉が開く音がした。風呂場もとい脱衣所へと繋がる扉をしっかり閉じていないのか掛け湯をする音が漏れてくる。

「…」

これは良くない、非常に良く無い。本当に不健全だ。なんとかしなくては、と思っているといつの間にか研磨作業が終わっていた。

「そ、そんじゃ…次に移りますかね」

意図せず八幡の声のトーンが1部跳ね上がる。

都合がいい、剣を鍛える音ならあの音も消えてくれるだろう。そうじゃなきゃ困るってなもんだ、

「…考えてみてほしい。俺は16歳、絶賛思春期真っ只中だ。それなのに羞恥のかけたあの女は!」

改めて道具を揃えながら、誰に聞かせるでも無い悪態をつらつらと述べていく。自己主張の弱い俺の声など響くはずは…

『それは申し訳ございませんでしたわね。童貞には些か刺激が強かったようで』

そんな事無かったようだ。

と言うか16で卒業なんて正直まともじゃない…無いよね?

「お前も処女でしょうが…」

『いやですわ。うら若き乙女にそのような卑猥なお言葉、セクハラになりますわよ?』

「はいはい、乙女乙女」

ここの何処に乙女がいるって?

裏の無い純粋な乙女なら返答に困るどころじゃないがこいつなら全然気にならない。べっつに〜生で裸体見てるわけじゃないしぃ〜…生ってなんか言い方キモいな。

「ハァ〜、疲れてんだからこれ以上疲れさせんでくれ」

『では、一緒に入ればいいでは無いですか?疲れているのでしょう?労いますよ?』

「……断る」

『ちょっと考えましたね…』

本の数秒と言う葛藤の中で、八幡は自身の矜恃を捨てかけた。

肩の上で「行っちゃぇー!」と煽る、小町の顔をした天使が呟いできたが、反対の肩に現れた雪ノ下の顔をした悪魔が「有ってないような貴方の社会的地位が…」などと恐ろしいことを言ってきたのでなんとか踏みとどまったのだ。

「作業に入るから閉めるぞ…」

『えぇ』

チャポン…という音を立てて湯船に浸かりながらの気の抜けた間延びした返答が聞こえてくる。扉を見ればわざとらしく扉には着物の端が挟まれていた。俺はそれを払い、しっかりと扉を閉めると、そのまま炉の前に立ち作業を再開する。先程のままで火は入れられており既に充分な熱が蓄えられている。繰り返す作業の中、故郷にて今もご存命であろう師の言葉を思い出しながら……

「剣を鍛えてその身を鍛えろ。剣を磨いて心を磨け」

だが、悲しいかな。その言葉は今鍛錬のためでなく、煩悩を消し去るための心頭滅却の為に活用されているなんて、当人は知る由もない…

遅い…上がるのが遅すぎる。長風呂過ぎないか?いつもだったら精々長くて45分程度。しかし、輝夜が入ってもう既に2時間が経とうとしている。もう既に作業を終え、出来上がったものの品定めすらも終わっている。

「まさか…寝てんのか」

なんてねぇ…と思ってた時期がね俺にもありました。

明らかに異常事態ですよ、これは。

八幡は完成した剣を置き、脱衣所の戸を叩く。

「おい…おい、大丈夫か?輝夜?」

名前を呼んでも返事はない、まさか湯船に沈んでるんじゃないだろうな!

そう思い八幡は勢いよく扉を開け放つ。そこには…

「っ!」

そこには風呂場の横で体から湯気を出しながら仰向けに倒れている輝夜の姿。

その様子にどうしたものかとアワアワしていると、一刻を争うと思い。腹を決めることにした。

「これは不可抗力、これは不可抗力…あとで怒るなよ」

八幡は仰向けになっている輝夜を起こし、傍に駆けてあったタオルをコンマ1秒の制度で肢体にかけると、所謂お姫様抱っこで風呂場からだす。

「熱い…」

触れた体はとんでもなく熱かった、熱なのかとも思ったが額に触れると体よりは多少冷えていた。となるとかんがえられる結論は一つ。

「疲れてんのはどっちだよ…」

熱かったのは体、つまりのぼせていたと言うことだ。

そして、長湯に気づいた時には頭は茹っており、挙句疲れを実感してしまいそのまま気を失ったと言うことだ。結論を言おう、

「働き過ぎ良くない…絶対」

八幡はそのまま居間へと連れて行き囲炉裏の横に敷いてある1枚の布団へと寝かせる。流石に着物を着せるような度胸はないし、こういった際は無理に冷やさずゆっくり時間をかけて冷やしていく方がいいと聞く。取り敢えず俺今日はどこで寝ようかな…

次の日…俺は眠れる筈もなくずっと打った剣と向き合い起きていた。作業に関しては幸い後数日残っているので何とかなる。

現在輝夜はスゥスゥと寝息を立てている。寝てれば見てくれだけはいいんだけどな…と思って見ていると、布団から覗く鎖骨のチラリズムに目を奪われる。

「本当寝てればただの美人だな…。ま、そりゃうちの全員に言えることか」

「それはまるで全員の寝顔を見た事がある様な言い方ですわね」

「いや、そんな変態じみた事した記憶ねえよ。何より妹以外の女の寝顔なんて初めて見たはず、し…いつから起きてた?」

もしかしたら、さっきのはっずかしい感想を聞かれてたかもしれないと考えると…ヤバい死ねる。

「ふっ!最初からだ、このぶあぁぁぁかめ!」

「はぁぁぁぁぁぁ」

寝起き故か、それとも疲れと緊張が取れたのか、いつもの取り繕った猫の仮面がしっかりと剥がれている。

やはりだ、やはりと言わざるを得ない。こいつはやはり口を開くべきではない。猫を被っていても何処かしらでボロが出るし、素の会話なんて他人に聞かせられたもんじゃない。残念属性と言うやつだろうか…

「布団から出るなよ。訴えられたら俺が10割で負けるから」

幸いここは正義を掲げるファミリアのホームだ。

通報なら3秒で済む。

「ホームで死ぬほど見てきただろ?私の裸体なんざ。と言うか、寧ろ童貞がよく裸の女を運べたものだな」

「お前と違って頭は正常な方で使ってるからな。あと、俺がこっちに越した理由の八割は間違いなくお前だからな、童貞舐めてんのか?ぶっ殺すぞ」

「お前こそ、私を舐めるな。喰っちまうぞ」

お前は鬼か何かかと言いたいところだが、ここはどちらかが大人にならなければ終わりそうにないので引き下がることにしよう。

八幡はまたしても深く溜め息を吐き出すと、スっと立ち上がり簡易的な台所で水を用意する。

「…ほれ」

「あぁ、悪いな」

「気にすんな…」

汲んだ水を輝夜に渡すと、しっかり礼の言葉が返ってきた。こう言ったところは彼女の育ちの良さと、徹底が見て取れる。

しかし、カラカラの体でよくもまぁ、あそこまで元気に話せたものだと逆に感心してしまう。

「今日も、お前は休みだな」

「あぁ?」

「団長に相談しといてやるよ。巡回中に倒れられたら、そこに穴が出来ちまうからな、後はホームで半裸になるなり寝るなり好きにしろ」

「ご心配ありがとうございます。ですがもう大丈夫です。」

恥ずかしかったら猫を被ってしまうのは、輝夜の悪い癖だ。

「何も言いませんの?ほら、罰とか」

「必要あるかよ?」

迷惑は被ったが、それに対して罰を与える理由はない。ないよりこいつが倒れたのには正当な理由がある。遡れば原因は奴らにあるのだから、来たるのちにあいつらにまとめてぶつければいい。だから、こいつを咎める必要はない。

だが、それはそれとして俺の睡眠と精神を大きく削った罪は深い。だから、せめて少しだけ不快な気持ちになってもらおうか…

「それとも…」

「!」

「そんなに…お仕置が欲しいか?」

「っ!///」

その言葉に輝夜は、ビクンと生まれたままの姿で、その身を、その脳髄を震わせた…

柄にもなく、妖しい声で輝夜に呟く。耳元で堕とす様に、誘うように、鋭く劈い瞳でゆっくりと残る息遣いで……あれ、キャラ違くない?てか、自分でやってて気付いたけどキモくない?

理性が追いつき、羞恥が追いつき、それによって身体中の血流が加速していく。先程まで優位に立っていた筈の男の顔は、耳まで真っ赤に染まっていた。

「…こ、殺してくれ///」

「ぶっ!続かねぇのかよ!」

ケラケラと笑ってはいるが、内心輝夜は安堵していた。寝起きの精神は感動しやすい。実際言えば八幡があれ以上続けていた場合、輝夜は今日一日を棒に振るってしまいそうになるほどに、あの呟きは蠱惑的で、まるで毒のように精神を侵していった。

「(あ、あっぶねぇ///)」

侵食すること火の如しとは誰が言ったのだったか。そんな下らないことが頭を過ぎったが、それは瞬きの間に消えていった。何故なら現在輝夜の精神は絶賛炎上中、それこそ山火事ばりに消火に手がかかっている。

本能寺といい勝負である。

「ま、お前にしちゃ及第点だったぜ。(お、落ち着け、相手は八幡だぞ。あの八幡だぞ!何よりあんなはっずかしいセリフ…!頭の中とは言え何、生娘みたいな反応しかけてんだ、私は!///)」

口にした言葉とは裏腹に気が気では無い感情をなんとか押さえ付け、今すぐ掛かっているこの布団を取り払いたいという衝動を我慢する。

「そ、そんじゃいい加減着物を着るから出てけ!(頼む、少しでいいからこの防音性の高い部屋を私に明け渡してくれぇ!///)」

顔には出さないが、本当に気が気では無い。

目の前にこの男が居なければ顔は火が出るほど赤くなり、下手をすればオラリオ中に響きかねないほど大きな絶叫をあげてしまうだろう。

「分かった…アリーゼには俺から言っとく」

「あぁ、悪いな(あぁぁ、ヤバいな。何がヤバいって私のチョロさ加減だ。下手をすれば団長に並んじまうぞ。マジで、それだけは勘弁だわ)」

ある意味、このファミリアで最も恋愛脳であろう我等が団長様の、ことを思い浮かべてみる。

すると何故だろう、冷静になってくる。あいつの頭はいつも炎上してるようなもんだからか?

今にも灼熱、灼熱!と聞こえてきそうなほどうるさい顔が頭に描かれる。八幡が鍛冶場を出たのを確認すると同時に輝夜は大きくため息を吐き出す。すると同時に顔がポンと赤くなる。

そして、この鍛冶場が内側からの音に対して防音なことをいい事に、ため息で出した分を大きく超える程息を吸い込むと、

「アアアァァァァァァ!!!///」

仮にも好きな異性にあんな事をされたのだ、寧ろこの状況が出来上がるまで耐えたことを誰かに褒めて欲しい程だ。出来れば渦中の男に、頭を撫でられるなりしながら…

うら若き乙女、ゴジョウノ・輝夜は恋する乙女でもあった。その恋心は、我等が団長の情熱に並ぶ程燃え盛る赤い赤い焔のように熱く、固い。

実質寝ずの二徹目…八幡は、何故か震えている扉から離れ、外へと繋がる階段を登っていく。

「?」

扉の奥には輝夜しか居ないはず、にも関わらず扉の奥から鈍く振動と音が響いてくる。あの輝夜に限って、Gにビビるなんて事は無いだろう。それはそれで見たい気もするが…まぁ、居ないだろうけど…

犬小屋の出口を抜けると、そこには多少綺麗に手入れされた芝が広がっていた。八幡は何の気なしに空を見上げると、眩しい西日が披露しきった瞳に刺さり思わず顔を腕で覆い隠す。それと同時に一日中起きていたため時間の感覚が狂っていることに気が付く。

「…今、何時だ?」

誰に言ったでもなく、不意に口に出してしまった。

陽の光に目を奪われていた為か、横に近付いてきた1人に気づかなかった。

「7時よ…昨夜はオタノシミでしたね?」

横にいたのは我等が団長様。しかし、何故だ?その貼り付けられた様な笑顔に反してその声は背筋が凍りそうな程冷ややかだ。いつもの活発な彼女からは考えられないほどに……にしても、前者はともかく、後半はいつものごとく何を言ってるのか全く分からん。

「?」

思わず小首を傾げてしまうほどだ。

「あら?惚ける気?」

今の状況を整理しよう。

まず俺の現在地はアストレア・ファミリアホーム。星屑の庭の文字通り庭である。そして、現時刻はアリーゼの証言から7時で、俺の状況は輝夜のせいで寝不足どころか今日は寝てない。

…ん?輝夜のせいで?

「楽しくねえよ?」

「な!女を抱いておいて!…最低!女のテキ!腐れ外道!」

抱いて?まぁ、抱えはしたが…そこまで言われるいわれはないのだが?

「輝夜の清い体を汚しておいて…!アストレア・ファミリア団長として、貴方をここで…!」

「ちょ!」

昨日の朝と違って、ガチの形相でアリーゼは腰に携えた突剣を引き抜く。そのまま突き刺す構えで突進してくる。八幡は反射的に腰に挿してある刀を抜けかけるが、一瞬の所で踏みとどまり、間一髪横に避けることにする。

「避けるな!」

「いや、避けるだろ!」

身内同士で切り合うなんて、フレイヤ・ファミリアじゃあるまいしそんな趣味はない。

第一、相手はレベル3と俺よりも格上。まともにやり合って勝てるとは思っていない。

よって此処は対話の道を切り開くしかない!

「待て待て団長!話をしよう、お前絶対何か勘違いしてる!?」

「してない!そこにあるのは真実だけでしょ!」

今度は縦に振り下ろされ、俺は横に飛ぶ。俺がたっていた場所の芝は焦げながら切り裂かれていた。

アリーゼの攻撃が今より激化する前にこいつがここまで怒っている理由を見つけださなければ、待っているのは…死!

「(なんだ?俺はアリーゼのどんな地雷を踏んだ?)」

ここまでの怒りは正直、闇派閥相手にすら滅多に見せないものだ。

だと言うのに、身内である俺に対してぶつけているこの状態は異常だ!

取り敢えず落ち着いてもらわないことには話にならなそうだが…

「修正してやるゥゥ!」

「危な!」

不味いギアがどんどん上がっている!剣速と動きのキレが一撃ごとに上昇している。このままでは…切られる!

「ふぁ〜…」

『!』

振り下ろされた腕を何とか掴みながら、拮抗状態を生み出していると、犬小屋から輝夜が体を伸ばし欠伸をしながら出て来る。先程の様な無防備を絵に描いて飾った様な格好(全裸)から、いつものしっかりとした着物姿で、

「輝夜!こいつに昨日の出来事を説明して差し上げて!」

「ん?」

切ってくる神あれば救ってくれる神も居るはず。

良かった~、これで助かる。

輝夜は頬を手に載せ、小首を傾げながら状況を整理した。

切られかけている我がファミリア唯一の男、それを切ろうとしている団長様。

「っふ!」

「!」

掴んでいた腕を振り切られ、挙句今度は横に振られる。八幡はそれを屈むことで避ける。

殺意が上がっている、マジで危ない。

この光景を見て輝夜は事情を理解した、それと同時にこれは面白い方向に持っていける、とも。

「あぁん///いやですわ。昨日床で呼んでくださった様にハニーと呼んで下さいな、ダ・ン・ナ様」

輝夜はそのまま頬に手を添えてうっとりした表情で、そんな文字通り殺し文句を述べる。

「ん?」

「確定、ね…」

そう言ってアリーゼは剣の腹を縦に掌にバシバシと叩きつけながら、満面の笑みを此方に叩きつけてくる。

「…い、生きたい」

「フフ」

八幡は呟いた、切実な願いを。

輝夜はそんな事はさせないと、八幡を絶望の底へと突き飛ばす。

最も、完全に落とすのではなく片足にのみ紐を付けた地獄のバンジーである。

あの野郎、俺の命より自分の愉悦を優先しやがったゆるざん…

という、気持ちを最後に比企谷八幡の目の前は真っ白になった。

「私、最初から信じてたわ!だって、八幡だもの!チキンを絵に書いて飾って挙句の果てに立体的にする様な臆病者のあの八幡だもの!」

「謝罪の言葉が出ないのがおかしいなぁ…」

あぁ、泣きそう。一応古参に当たるんだからもうちょっと信用してくれてもいいじゃん?なのに、暴漢扱いされて挙句の果てに殺されかけたんですけど?

「ぶはははは!傑作だったぜ八幡!お前最高だ!」

なんてこちらに人差し指を指しながら、腹を抱えて男勝りに豪快に笑っているのは、騒動を聞きつけて起きてきたライラだ。止めてくれてもいいのに、その小さい体を上手く使って傍観、所謂修羅場を見て、笑いそうになるのを堪えていたが、事が丸く収まった瞬間これだ。趣味が悪いったらありゃしない。

「全く、輝夜も輝夜だ。大人しく、本館の風呂に入ればいいものを…」

冷静に、且つ冷ややかに聞き及んだ状況を評価しているのは、おそらくこの場に置ける唯一の良心リオンだ。

流石、皆の妹(俺は違う)だ。純粋過ぎて、今度は別の意味で涙が…

「あたしがそういう気分だったんだ。自由にして何が悪い、言ってみろ?青二才」

「では、遠慮なく…」

珍しく言い返せるだけの言葉があるのか、リオンは徐ろに席を立ち、座っている輝夜の横に立つ。輝夜もそれに応えるように立ち上がると、それに伴ってリオンが大きく息を吸い込む。

まるでこれから起こる、騒動の徐行のように、

「貴方という人は!毎回毎回、正義の使徒として節度と秩序を守る気はあるのですか!ホームを下着姿でウロウロする件といい!」

「さっき!言ったはずだぞ!わ・た・し・の自由だ!それになんの問題がある!こんな、いい女を前にイッキ出来ないようなやつを相手に私が何をしても対して変わりゃしねぇだろが!かんっぜんに問題ないね!」

「ちょっと待て、どさくさに紛れてなんで俺のこと貶してんの?傷つくぞ、傷付いて良いんだな?」

それはそれで男としての威厳を傷付けられた気がして、めっちゃ傷つくんですけど?てか、喰われかけた覚えはないんだが?

話の流れによると、どうやら輝夜が昨夜帰って来なかった理由を、俺と一夜を過ごした為。と、勘違いしたらしい。それで斬りかかって来るのはだいぶ頭がおかしいと思うのだが…と言うか、俺にそんな勇気ある訳ないだろ。何処の小人族だよ!

「まぁまぁ、ここは私の美しさに免じて場を納めましょう」

『免じられるか!』

こいつほんとどの面下げて、ここを収めようとしてんだ?この話の元凶殆どお前だよ?冷静になれ?

「酷い!この燃え盛るように美しい赤髪と澄んだ大海を移したようなエメラルドの瞳が見えないの?」

「この前、文字通り燃えてた奴が言うと説得力が違うな…」

「全くですわ…」

この場の良心に期待は見込めず、おそらくこの場で最も正当なのは俺と輝夜位だろう。と言うか、団長は何故キレた?そこが一番疑問なんだが…

「まぁ、それは置いといて…」

「なんかあるのかよ?」

「何も?」

『…』

時刻は朝、街も起き始める時間にアストレア・ファミリアホームにはなんとも言えない空気が漂っていた。ここには必要だ!外の空気を新鮮な空気を入れてくれるような、そんな人が!

「あら?おはよう、皆早いわね」

『アストレア様!おはようございます』

「おはようございます…」

来たァァァ!我等がファミリアの空気清浄機こと、皆のアストレア様だ。これでこのいたたまれない空気は救われた。あわよくば俺の不名誉も払拭してくれたらとっても嬉しい。

「八幡も早いだなんて今日は大雨ね」

「まさかのアストレア様にも切られるとは思わなんだ…」

良心とはごく一部にのみ向けられるものらしい、泣いていいかな?いいよね?

「フフ、冗談よ。早い時間に貴方に会えて嬉しいわ」

「あ…堕ちそう」

『…キモ』

「酷い…」

今度は集中砲火だ。俺が何したってんだ!

謝るからその冷ややかな目を俺に向けないで!何かに目覚めそう…

「よし、今日の朝飯はお前だ!」

「いいえ…今日は私がしますわ」

「あら、珍しいわね。輝夜が料理なんて」

「今のこの男に料理をさせたら。そこの妖精さんより酷いことになりそうなので」

「どう言う意味だ。輝夜?」

「文字通りの意味ですわ。リオン」

あぁ〜あ、また長くなりそうだ。こりゃ、今日の当番はライラの言う通り、お…れ

それ以降八幡の思考は続かなかった。頭の中で言い終えることは無く。瞼を閉じるのと同じく、体は地面へと吸い込まれるように倒れていった。

『!』

それにはその場に居た全員が、八幡の姿を見た。地面に激突する寸前で、反応したアリーゼが跳ねる様に八幡の横に着くと、片腕を抱えて八幡の体を支える。

「八幡!」

「オイオイオイ」

「アリーゼ、八幡は!」

アリーゼは慎重に八幡の体を、上に向けると口元に手を翳し呼吸を確認する。

「…寝てるだけみたい」

「何だよ…ビビらせやがって」

汗が一滴ライラの額を伝うと、その横で輝夜が少し気まずそうに顔を逸らす。

「別に輝夜のせいじゃないわ」

「アストレア様…」

「八幡はいつも疲れているのよ。それが限界になってしまっただけ、寧ろいい事よ」

申し訳なさげな輝夜の顔を見てか、アストレアは安心しろと笑った。

闇派閥の活動が活発化している今、それに対抗する為の武器の整備というのは欠かしてはならないものだ。しかし、都市有数の鍛治系ファミリアである。へファイストス・ファミリアやゴブニュ・ファミリアは現在、激務をこなしているところだろう。

であれば、せめて整備くらいは自前でと八幡がかって出ているのだが。アストレア・ファミリアは少数で巡回をこなしつつ鎮圧もこなし、挙句に戦力増強の為にダンジョン探索も行なっている。

少数故に数こそ少ないが、彼の気質により時刻は早朝にまでいたり睡眠時間が3時間以下など、彼にとってほぼ日常も同じである。

「偶には、しっかり寝なさいと言っているのに」

「アホ野郎が…言ってる事とやってることが違えんだよ」

当の本人は現在アリーゼの膝の上で健やかに寝息を立てている。この状況を本人が俯瞰して見ていた場合悶絶待ったなしだろうが、周囲の仲間達は正直寝息を立てていることに安堵を隠しきれていない。

「…暗い顔をしないの、そんなに心配なら輝夜。八幡のお世話を今日一日貴方に任せます」

「ですが!」

「あら、嫌かしら?」

「!…い、嫌じゃ、ないです///」

アストレアが少し意地悪をする様に問うと、輝夜は食い気味に否定する。

「おい、なんでそこで赤くなる⁉︎」

「輝夜、敢えて言っておきますが節度ですよ、節度」

「ちょ!此処は私じゃないですか!?今の状況的に!」

アリーゼは抗議を申し立てると手を挙げる。現に、八幡を介抱しているのは彼女だ。合理的に見て私の方が早いとアリーゼは言っているのだが。その後ろにある下心が他のみんなに透けて見えている。

もちろん、八幡が心配なのは嘘では無い。しかし、この場においてはアリーゼもまた恋する乙女である為、これ以上、輝夜に差をつけられるのは宜しくないと本能が告げているのだ。

「まぁまぁ、団長様。貴方は今日の巡回がある筈なので、彼は私が引き受けますわ」

輝夜は自分には主神からの仰せがあるからと、アリーゼの膝にて寝息を立てている八幡の体を強引に引き寄せ、自身の横に座らせそのまま膝に頭を乗せる。

流石に主神命令には逆らえないのか、アリーゼは「グヌヌ!」と言いながら引き下がる。

それに先程八幡の話を聞いているので、輝夜の非番には正当性がある。これなら昨日私達も倒れて置けば八幡に介抱したもらえたのだろうか。まぁ、そうした場合八幡の疲労がマックスになって今以上、それこそアミッドのお世話になるレベルになってしまう。なら、せめて輝夜で良かったと考えよう。

「ハァ〜、分かった、分かりました!輝夜に任せるわ…その代わり、絶対!手を出しちゃダメよ!」

「ハッ!極東の処女姫様にそんな度胸あるとは思えねぇなぁ」

「何だとライラ!私にもこいつを襲う度胸の一つ位!」

「だから!節度を、と言ったでしょう!」

流石にリビングで介抱と言うわけにはいかない。即ち、輝夜か八幡の部屋でと言うことになるのだが、リオンの言った通り、男女が同じ部屋でと言うのは節度が乱れる行為が起こりかねないのだ。

「あら、ちゃんと私が見てるわよ?」

「アストレア様…」

「なら、安心だな」

「それと…もう少し、声を落としましょうね」

アストレアは八幡の顔を少し覗くと、眉を少し顰めながら困った様な声色でその場にいるかしまし娘達を少し咎める。

アストレアがそう言うと、八幡が少し身じろぎをする。

『は、はぁ〜い』

八幡の身じろぎが収まるのを見て、全員が溜飲が下がり、しっかり寝たのを確認して輝夜は自室のベッドに寝かせ、起きた際の食事の準備を行うのだった。

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時間がな〜い!受験内容ヘビーすぎー!面接の前にプレゼン付きとか恐ろし過ぎだろ。戦々恐々としながら、と言うわけで投稿が遅れた理由はサボりじゃないです(此処大事)。

多分12月までこんな感じです、ご了承下さい。

さて、本編的には平和な時間もこれで終わりになりそうです。俺の平和もあと半月無いです。

あ、あと皆様の応援によりいつの間にか一周年です。これからも頑張っていきますので応援よろしくお願いします。それでは生きてまた会いましょう。