第1章 三節
第1章 三節
そこは見覚えのある天井だった、具体的に言えば潔癖エルフを呼びかけようと肩に触れた時によく見る景色だった。その時との違いと言えば自分の頭が冷たい床にあるか、柔らかくて温かい枕の上にあるかどうかの違いだった。
……ここで1つ疑問が浮かび上がる。リビングに枕なんて有ったっけ?
「……」
確かソファーはあったはずだ。それもちょっと硬いやつで縁に突起が無い方だ。にも関わらず俺の頭は平面より高い。では、この枕はなんでしょうか…
「あら、おはようございますわ」
「……」
絶句…八幡は言葉を失った。目を開けると、正面には黒い髪を下に流しながら勝ち誇ったような表情の輝夜が、こちらを見ているではあるませんか。近くない?
「あの、輝夜さん?」
「はい?」
「もしかして膝枕?」
「えぇ」
「あぁ…そう」
満足そうで何よりだが、自分としては今すぐ飛び起きたいぐらい恥ずかしい。しかし、それは叶わない。何故なら起き上がれないように胸に手を添えられているからだ。
レベル3の冒険者ともなれば少し押さえるだけで、肺が潰していまいかねないゴリラに成り下がるのだが、そこは絶妙な力加減だ……
「起きたいんですけど、お腹減ったんで」
「そうですか…」
あと、その凶器退けてください、体勢が前のめりだから俺の胴体に当たってるんですよ!
「ごちそうさんでした……」
「お粗末さまでした」
用意されていたおじやを輝夜が下げていく。実に美味かった、そして胃に優しい。寝不足で荒れ果てている胃には大変嬉しいものだった。
輝夜の料理は美味い、何より同郷だから故郷の味という物に近いのだ。嫌いな訳がない、
「それじゃ…俺は作業に戻るとするか」
「!」
八幡が立ち上がって去ろうとしたその時、輝夜が必死の形相で手を掴む。
介抱してもらった手前振りほどくのは忍びないし....
「あの、俺まだ作業残ってるんすけど?」
「お断りだ、このバカめ。あずかり知らんところでまた倒れられでもしたらそれこそ困る。だから、今日は休め、この私とな」
「別に困らんだろ?俺基本巡回出らんし」
八幡は鍛冶師すなわち表に出ることはほとんどない。激化した戦場や作戦に駆り出されることはあるが、今の状況において八幡の戦場は鍛冶場である。巡回に出る仲間たちの獲物を整備し次の日には届ける。アストレア・ファミリアは比較的小規模のファミリアだが、夕方から朝までに約⒌6本の武器を仕上げるのだから激務も激務である。
「そういう問題じゃねぇんだよ...」
「そういう問題なんだよ。俺はある意味、お前らを利用してんだぞ?」
「それは...!」
輝夜は知っている。彼の戦う理由を...
輝夜は知っている。彼の奥底にある復讐の業火の存在を...
輝夜は知っている。それに対して感じる申し訳なさが、何なのかを…
「お前が気にすることじゃない...悪いのは奴らだ。だから、俺が奴らを駆逐する為にせいぜい踊って騒いでくれ。」
「っ!」
柄にもなくおちゃらけた雰囲気でしゃべる八幡の胸倉を輝夜は掴む。先程まで介抱していたのが嘘のように、
「そのらしくないなりをやめろ!」
「猫が剥がれてんぞ、いいのか?」
らしくないのは輝夜もだと、その激情の理由をしりながら指摘する。
「お前に相手に必要かよ」
「...ないな」
八幡とて不本意だ、自身を受け入れてくれた彼女たちを利用して奴らを焙り出すなど、そんな行い復讐に駆られた高ぶる感情なしに出来るはずがない、誤魔化しているだけだ。幸い、瞳にそれが表れていないのが彼にとって救いだろう。
上辺だけの正義を語り、復讐を成そうとする彼の心の底は悪でなければならない。罪悪感を抱きながらも、死んでいった皆の宿業を果たし、その後現れる奴らに類する者達を駆逐する。その為なら仲間であろうとも利用する。
「お前はそこまでは成れねぇよ...お前も根っこは団長と同じだ」
「...」
「悪にもなり切れず...復習鬼にもなり切れない。いや、私らが行かせない」
ファミリアの8割は単純な家族愛だろう、だが残りの2割、少なくとも輝夜は彼を恋愛的な意味で憎からず思っている。思いつく限りではもう、一人団長もだ。だから、彼を行かせない。もう再び彼を絶望させる訳には行かないのだ。
輝夜は掴んでいた胸倉をゆっくりと離す。
「忘れるなよ...お前には生きてる仲間もいるってことを...」
「言いたいことがそれだけなら、俺は作業に戻る。作りかけだからな、安心しろ武器の整備もちゃんとやってやる」
彼の言葉は冷静そのもので、それでいて言い回しも冷たかった。
「んな、ことを心配してるわけじゃねぇんだよ...」
分かっていると八幡は返した、しかし断言しよう彼は分かっていない。輝夜の言葉の意味も、それを言おうとした何故を、
これ以上は彼の癇に障る、流石に嫌われるのはいただけないので此処は引こう。
つくづく思う、自分は所詮生娘なのだと...失恋を知らず、醜く仲間に嫉妬を覚える。若さゆえだと言われればそれまでだがこれは彼を手に入れれば収まるのだろうか?
「それでは、ほどほどにしてくださいませ」
休め理由は聞くな、それが素で言えれば苦労はしない。輝夜は照れ隠しの意味も込めて、お得意の猫を被る。八幡はそれを理解しているのか、片手をあげて返事をする。
時刻は深夜、目標にしていた武装の作成は終わりあとは寝るだけだというのに、
「昼まで寝てたからか?」
眠れない。しかし、自室にある本は読んでしまった。
素材も使い尽くして鍛治も出来やしない。完全に暇である。だというのに惰眠を貪る気もわかない。それにこの時刻だ、ホームで何かしようものなら誰かしら起きてしまうかもしれない。下手をすれば俺と同じように激務を毎日こなしている彼女らをおこすことになってしまう。それは忍びないので、庭から直接外に出ることにした。といっても、この街のどこに何があるのか細かいところは知らないんだよな...ずっと引きこもってたし。
「...」
静まり返った街に繰り出すと、やはり南が賑わっていた。確か、南は...あぁ眠らない街ね。
昔アストレア様に近づかない様にと言われた覚えがある。八幡は観光気分で夜の耽けた街を見てまわっているといつの間にか暗く、どこか錆びれた小さな教会の前に来てしまった。幸い来た道は覚えているので帰ることは出来る。これでも14だ、お使いのひとつやふたつなんて事はない。
「運命は別の言い方でディスティニーだったか?」
とある旅行帽を被ったチャラい神に教えられた単語を、無意識に口に出してしまった。「そう!これは運命!ディスティニーだ!」なんて大げさな所作でそれを言うクソイケメンに不覚にもかっこいいと思ってしまった。
よって、適当に歩いていたら雰囲気のある、教会がありました。これは運命では?と、思っても仕方ないよね!
「こんにちは〜…」
おそらく誰も居ないだろうが、一応断りをいれておく。観音開きの重厚な木製扉は片方の扉を金属が軋む音を立てながら、内側に開いて行った。
中は5人ほどが詰めて座れるベンチが真ん中を開けて両端に数基、真正面を進んだ奥にはステンドグラスが月光を受けて美しく、そして儚く輝いていた。
「……」
その光景に八幡は暫く言葉を失った、同じような教会はこの都市に複数ある。だが、この教会は美しいだけでは無い、それ以上に儚かった。外観はボロく、床板も割れている箇所がある。誰も立ち寄らずに祈りに来ず、荒れ果てて尚あり続けるその健気さを八幡は感じてしまった。
しかし、そこに来ていたのは彼だけではなかった…
そして彼らは出会ってしまった
「誰だ…」
「!」
女性の声が教会内に木霊する。物静かでテンションの低い声、しかしその声は頭の中でも反響し何度も再生される。聞いた者に絶対に忘れない様な印象を与える、存在感のある声。
八幡はその声に導かれ、席の最前列に灰色のローブを着てフードを目深に被った女性がいる事に気が付く。
「す、すみません。誰か居るなんて気付かなくて」
「…返事が帰ってくるまで進まないという選択肢はなかったのか、小僧?」
フードの女性は席から立ち上がると、こちらを向く。貌は隠れて見えないが、身長は俺とそう変わらないか俺の方が少し上。まぁ、俺の背が高いというのもあるのだろうが、
「私が着替えをしていたらどうしてくれるつもりだ?」
「えぇっと…困る」
「無論見られる前に殺すが、」
怖っ!逆光のせいで暗くて顔見えないけど真顔で言ってるの分かる。それも怖いけど何より、容赦なく殺されるの怖過ぎだろ!ウチの奴らでも一週間庭に逆さ吊りで許してくれるかもしれないのに……まぁ、やった事ないけど。第一あいつら相手にそんな気湧かんし。
「それで、さっさと私の質問に答えろ小僧」
「え?」
質問なんの事?
「なんの質問?」
「誰だ、と聞いただろう...さっさと答えろ私の気は短いぞ」
「それ自分で言います?」
そういうのって他人に言われて自覚するもんじゃないのか?てか、自分でいってて悲しくならないのかな...
「ひ、比企谷八幡...です」
「そうか...では小僧」
「結局小僧呼びなら聞いた意味ないじゃないすか...」
「ん...」
何か文句でもあるのかとでも言いたげな、リアクション八幡は思わず身を引いてしまう。これは不味いと思い、話を早急に戻すことにした。
「そ、それで何ですか!」
「あぁ...私は何と名乗るべきだろうか」
「...いや、知りませんよ」
本当に知らない、初対面の人間に唐突に自分の名乗りを聞かれるなんておそらく後にも先にも世界でただ一人、おそらく俺一人だろう。というか、何で俺初対面の人相手にこんなに疲れてんの...
「さっさと考えろ...私は」
「気が短いんですね分かりましたよ...」
名前を名乗りたくないのには何か理由があるはずだ、仮にも正義のファミリアの一員である以上、その理由に関して職質した方がいいのかとも思うが、俺にそんな勇気ありはしない。断言しよう無理です!
しかし、名乗りなんて自分のですら考えたことも...ないことはないな少し前に痛い名乗りを考えて死にたくなったのを覚えている...やっべ思い出したら死にたくなってきた、誰か!誰か俺を殺してくれ!
「...静寂の魔女なんてどうですか?」
「....」
その時、彼女が少し動揺したのが何故だか分かった。
何か癇に障ったのだろうか、女性の地雷は踏むと痛いじゃすまないと聞いたことがある。このままでは居た堪れないどころか、文字通り痛いじゃすまない!
「えぇっとですね、その見た感じの静かな感じとか、教会の静寂とかとかを言ってみたんですけど。嫌なら別のにします、ごめんなさい。」
「...そうか。許す、呼び名はそれでいい。」
一色お前の謝罪スキルここで生きてきたぜ!マジありがとう!
「...」
「......」
「..........」
暫く沈黙が続く、街の喧騒の届かない場所な為中には静寂だけが流れている。しかし、流石にこの空気に耐えられなくなったのか、それとも退屈に感じたのか、静寂の魔女が口を開く。
「おい...」
「はい?」
「何か話せ」
この人そういうノリ行けたんだ。でも、困ったことに俺こういうノリ苦手なんだよな、なんというかあれだ明るいノリは苦手だ。なんといっても俺がアリーゼを言いくるめられない理由がこれだ。
まぁ、ここでそれ貫き通したら首が飛びかねない気がするのでとりあえず雑な創作でも、
「なら、アルゴノゥトでも話しますか?」
思い出すな、数年前までよく小町に寝る前聞かせていたっけ...
「何を思い出している...それとその話はあまり好かん、他人に振り回されてなし崩し的になる英雄の話など...」
「知ってるんじゃないですか...なら、1つ聞いていいですか、静寂の魔女さん?」
「…なんだ?」
英雄譚はお好きじゃないと来た、なら割と今の状況に関係のある事なら話の種にしやすいのでは?
「貴方は何でここにいるんですか?」
聞きたかった、俺は興味本位で入ってしまったが、彼女は自分の意志でここを訪れているように見えているから。その理由を知りたかった。ある意味この質問は、本職に順次してるともいえるから俺も生粋の正義の味方だったのかもしれない。
「...妹が愛した場所なんだよ。此処は」
「...」
八幡は自身の先ほどの感情に今の彼女の言葉を無意識に重ねた。共に妹を想った、違いといえば一つだけ面影を感じられる何かが形として残っているか、燃えてしまったかの違いだ。
「どれだけ荒れ果てていても、追いかけてしまうものだ。こんな場所に来ても、あの子と違って私は何も感じないというのに...」
噛み砕くと彼女はこの場所に思い入れがあるのではなく、この場所が好きだった妹を少しでも感じられるからここに来たということなのだろう。
「あの子だけが私の生きる意味だった。けれど、彼女は私に何も残さず死んでしまった。」
「…」
何も感じないという割には、それを考えて悲しいと感じているのだろうか、彼女は顔を下に伏せる。すると、フードでは抑えきれなくなったのか、横から綺麗な灰色の髪の一部が零れる。その日初めて八幡はその色に目を奪われた。綺麗だと思った、先程の動作に何かを言おうと考えていたはずなのにそれを忘れてしまうほどに、儚げな彼女に心を奪われた。
「どうだ、こんな理由で神聖な場所に来ている私はさぞ卑しく見えるだろう」
「そんなことはない」
「!」
それは八幡が許さなかった、それだけは否定してみせると八幡は決意していた。
「死んだ人間を思えるのは今を生きてるから、何も残してくれなかったとか、不純な理由だとか。そんなのどうでもいいんだ。残り香でも面影でも感じたい時に感じればいい、それがどんな場所でも感じられれば、気持ちは晴れなくても前に進まなきゃって気持ちになれる。多分貴方は無意識に前に進もうとしてるんだと思う。だから、俺はあんたを卑しいだなんて思わない。寧ろその姿勢を尊敬する」
「...そうか、そうだな。少し驚いたぞ、八幡。」
八幡は自身が経った今発した言葉より、彼女に名前を呼ばれたことに心臓が飛び出そうだった。距離の詰め方がアリーゼレベルなんですけど?てか、何で俺徹夜した後なのに何でこんなに饒舌なんだ?逆か、逆なのか?
「私は帰るとしよう。諸用を思い出した...」
「あ、あぁ。それじゃ俺も少ししたら出るとしますよ」
「そうか...」
その瞬間”静寂の魔女”は立ち上がりフードを少しずらすと、ずっと閉じていた瞳を開き目の前の少年を双眸に捉え、ローブに収めていた灰色の長髪を後ろに流す。不揃いのオッドアイ、翠と灰の輝く瞳を去り際に八幡に見せた。面白い話を聞かせてもらったと彼女は八幡の顔を覚えておこうと思っての事だ。
猫背で両太ももに両肘を立て、手を前で組んで前のめりになっていた八幡はその視線に気付いたのか下を向いていた顔を正面に立てる。
「!」
八幡はまたしても視線を奪われた...その、人を引き付ける異形に彼は吸い込まれるような感覚に陥ってしまった。こちらを見た横顔はステンドグラスを透過して入ってきた月光に照らされ神聖な美しさを帯びていた、彼はその整った芸術品のような顔を脳に焼き付けられてしまった。....そう、彼は...恋に落ちてしまった。
「それではな...風邪は引くな」
「...」
そう言って彼女は去って行った、少年の心を奪って去って行った。
残された少年は熱くなった顔を手で仰ぎながら瞳に焼き付いた魔女の顔を思い出した。ほんのひと時だけだった。だというのに、彼の心は埋まってしまった。まさしく魔女に化かされた哀れな道化の様に...
その後八幡はこと切れる様に寒い教会で眠りに落ちてしまい。起きたのは日が高く昇った時刻つまり午後の一歩手前だ。寝ぼけた八幡は死んで復活の呪文でも唱えられたのだろうかと考えてしまった。起きてびっくり教会だからだ。それもあまり知らない教会ではないか、アストレア様に連れられた教会ではなく本当に知らない場所だ。しかし、段々頭が回り始めてここだどこかを理解し始めた。そして、それを思い出すと同時に昨日の出来事も思い出した。この教会が誰の思い出の場所なのか、そして自分が心奪われた存在の事を...
「....帰ろ」
流石に腹が減った。何より、考え過ぎて頭痛いあと地味に寒い...ベンチで寝たから体中バキバキなんですけど…
まぁ、寝落ちした俺が悪いんだけどね!
「はぁ〜」
教会の扉を開け、外に出ると寝起きには痛すぎる陽の光を真横から叩きつけられる。屡々する目を扉目元を揉み込みながら道らしい道に出ると、ゾロゾロと見覚えのある影が近づいてくる。
「ん?八幡ではないか」
「シャクティ?何で」
やはり、近づいてきたのはガネーシャ・ファミリだった。このご時世に駆り出される一番の功労者たちが古びた教会に何の様だろうか。
「...そこから出てきたのか?」
「あぁ...それが?」
俺がそう答えるとシャクティは少し困ったような顔をした後、八幡に向き直り。
「アリーゼから報告を受けていないか?」
「なんの?」
「闇派閥をたった一人で蹂躙したとされる謎の魔術師についてのだ」
そう言えばそんな報告を夜中に受けた気がする。確か、第七区画の教会で発見された闇派閥の拠点にいた、構成員を壊滅させていた魔術師だったはず、...ん?
「シャクティ、ここ何区画?」
「第七だ。だから聞いたのだ」
「あぁ~、もしかして疑われてる?」
「いや、お前はその時刻非番でホームにいたことは知っている。故に、お前がここから出てきたことには驚いたぞ」
それはそうか、ことが起こった場所から本来居るはずのない見知った人物が出てきたのだ驚くなという方が無理という話だ。
「それで、あの教会にはお前以外にはだれかたか?」
「いや、もう居ない。けど、一個朗報だ」
「なんだ?」
おそらく報告にあったフードの魔術師は...
「俺は多分お前らのあった魔術師にあった」
「!そうか、何か情報はあるか?」
「...いや、ない」
本当に言えばある。だが、それは言いたくないと思った。
此処は彼女の妹の愛した場所だということと彼女を静寂の魔女と呼んでいること。八幡は無意識のうちに独占欲を出していた。
「そうか、ならば急いで帰った方がいい」
「まさか!あいつらに何か!」
「いや、お前のことを鬼の形相で探していたぞ。主に二名が...」
「あぁ...」
今度は憐みの目を向けられた、恐い今から帰るのが怖い。そりゃ何も言わずにどっか行って朝になっても帰ってこなけりゃ心配するよな。八幡が何を考えているのかなんとなく察しているシャクティは、「違うそうじゃないと」っ頃の中で突っ込む。
「じゃっ、じゃあ、俺帰るわ...」
上ずった声でそう言い、気は進まないけどと後に続ける。シャクティはこれから現場検証もある為、頑張れとしか言えないが、すれ違い様に「骨は拾ってやる」と冗談を言ってくれた。なんて優しいんだ俺もこんな姉が欲しいよ。
「はぁ~...」
最近、一日に最低一回ため息をついている気がする。まだ14なのに...
第七区画を抜け中央の通りに出ると、少し荒廃した空気を感じここがオラリオなのだなと思いだす。それに対して八幡は再びため息を漏らす。
すると後ろから聞き覚えのある元気な声に話しかけられる。
「そんなにため息をついてたら幸せが逃げちゃうよ?」
「...いいんだよ、寧ろこの状況で幸せを語るのは無粋ってもんだろ?」
八幡が振り返るとそこには、先程会ったシャクティ、その妹である。
「アーディ」
「そう!いつも元気で明るくて、君のファミリアのリオンことが大好きなシャクティお姉ちゃんの妹のアーディ・ヴァルマだよ!」
「長い...」
青味がかった白髪に青い戦闘衣、そして何より首から下に覗く双丘の片鱗が目を引く、美しいより元気で可愛いという印象を受ける彼女の名は、アーディ・ヴァルマだ。家によく遊びに来る他派閥の知り合い、そして間違いなく癒し枠、アストレア様に及ばないまでも空気清浄機キャラだ。
違いがあるとすれば、たまに爆発して周りにとんでもない被害を出すという点だろう。しかし、それも含めて彼女のいいところだ。
「まぁ、そんなことは置いといて!」
「置いとくんだ」
「ねぇ、何で朝帰りしてるの?」
「言い方...」
朝帰りといういい方は本当によろしくない。それでは俺が遊びに砕けているように聞こえるではないか。それだけは絶対に否定してみせる。俺は...僕は、童貞だ!
「そんなに疲れてなら、休めばいいのに?みんな許してくれるでしょ?」
「俺のこの目はデフォルトだから、疲れてるわけじゃないんだよ」
「誰も目の話はしてないんだけどなぁ~」
あはは、とアーディは苦笑いを浮かべる。あのアーディが困るような内容を投げられたことに八幡は何故か愉悦を感じる。
「じゃあ!星屑の館に帰ろーオー!」
「それが嫌なんですけど...」
「なんで?やっぱり朝帰りだから?」
「本当にそんな言葉、誰に教わったの?ガネーシャ様か?それともヘルメス様か?」
いや、十中八九ヘルメス様だ。ガネーシャ様はシャクティの目がある以上、その妹であるアーディに教育上よろしくないことは教えないはず。となれば、あのろくでなし以外考えられない。
「後でシャクティにチクってやる...」
他派閥の神とはいえ、ろくでもないことを教えた以上何か注意はしてくれるはず。そうでなくてもアスフィあたりにそれを頼むはず。そうだ、アスフィに頼もうそうしよう。これならヘルメス様も占められて、アスフィに苦労を押し付けられて一石二鳥だ。
「そうだな。気は乗らないけど帰るか...」
「うん!私も一緒にいっていいよね?」
「いいんじゃねぇの知らんけど」
寧ろアリーゼあたりは大歓迎だろうが、それは俺の知るところでは無い、帰ったらまず絞められてその後俺は四六時中作業だ。最終調整に必要素材の調達と注文エトセトラ…このままじゃほんとに死ぬ。
「さぁ、行こう!」
「ちょっ!」
余程早く行きたいのか、八幡はアーディに腕を引かれて急かされながら中央広場を抜けていく。
「大丈夫!私も一緒に謝ってあげるから!」
「それ逆効果になりそうで怖いんですけど!」
朝帰りに、一緒に謝ってくれる見知った友人とか意味深過ぎて俺が皆に刺される!頼むからこのタイミングでそのやらかしは洒落にならないから!
ホーム、星屑の庭に帰ってくるとそこには仁王立ちのアリーゼが待っていた。ライフを砕いても仰け反りもしなさそうなその様に「あ、終わった…」と、声を出しそうになるが、この場で余計なことを言ったらその横で刀を布で拭いている輝夜にデッドオアアライブを迫られそうなのでやめておく。
八幡はゆっくりと近づき、目の前で正座をする。
「それで?何か言い訳はある?」
「いや…ない、です」
怖ぇ!何恐妻家、それとも毒親?仁王立ちに笑顔とか強過ぎて、身の毛も夜立ちそう。お願いその視線俺に向けないで!アーディ!アーディ!ここでこそ爆弾を!
体中から止めどなく汗が滝のように流れていく。
「そう、ならプランCね」
「え?屠られんの?」
俺の知るプランはAが頑張る、Bが妥協、Cは諦めて屠るだった筈だ。え、何俺の罪そんなに重いの?
「過保護過ぎだろ……」
「まぁ、アリーゼと輝夜の事ですから…」
横からアーディに構っていたリオンと、他人事だと俯瞰していたライラが一様に言葉を返す。
そうだ、この2人だ他はそこそこ放任してくれてるのになんでこの2人は俺にそこそこ過保護なんだよ!寧ろ放任してくれよ、男の子だぞ!
「まぁまぁ、2人とも少しは八幡の言い分も聞いてあげてもいいんじゃないかしら?」
「アストレア様…」
女神だ……いや、女神なんだけど!
良かった俺にも救済が訪れた。救いってこの世にあったんだな……
「アストレア様がそう仰るのでしたら…」
「それで何処に行っていたのかしら?」
「眠れないから適当にぶらついて、見つけた古い教会に居たんだよ」
『……』
明らかに納得してない。確かにそれだけじゃないけど、俺ってそんなに信用無いか?
「他には?」
「他って?」
「惚けんなよ…お前が熱心にお祈りする様な奴じゃない事ぐらい知ってんだよ」
「…」
「単刀直入に聞くが…女か?」
まさかまさかのライラさん参戦、埒外からの質問に八幡は思わず動揺してしまう。
「ひ、ひや、違うぞ」
『!』
その瞬間目の前に居た2人は飛び上がるように八幡に接近した。片方は刀を太腿の横スレスレに突き刺し、もう片方は引き抜いた突剣を首元に突きつける。動いたら致命傷ですね?
「言え、何処の誰だ」
「大丈夫痛くしないから〜」
テンションと言い方に天と地ほどの差があるが、行き着く感情は殺意である為結果は同じだ。分岐を間違えば確実に殺られる。
「何処の誰かは知らないし、ちゃんとした名前は知らないぞ!」
降参の意味を込めて八幡は両手を上げる。抵抗は無意味であると八幡は知っている。
「ぶっふふ…ダメだ。笑っちまう…」
「身内で争うなど…」
「あはは…多分そういうのじゃないから大丈夫だと思うよ」
三者三様、俯瞰していた小人族は笑いを堪えられず、妖精は何を馬鹿な事をといい、唯一まともに状況を理解している1柱の神と他派閥の只人の少女は苦笑いを禁じ得ない。
「ほう…そんな魔性に惹かれた、と」
「どんな魔女か知りたいところね」
「静寂の魔女って呼んでる」
『惹かれたをまず否定しろ!』
「えぇ…」
そう言えばなんで否定しなかったんだ?そう思い八幡はほんの数時間前に見た、あの横顔を思い出す。
すると体の芯から暑くなって額が熱を発しているのを感じる。
「…///」
『!』
思わず八幡は口元を押さえ、目の前の2人から目を背ける。それを見たアリーゼと輝夜は益々機嫌を悪くする。
「と、取り敢えず明後日の会議についてもう少し考えましょうか」
爆発寸前という所でアストレア様の鶴の一声によって、2人は肩の力を落とし再び抜こうとしていた剣を収めてくれた。
報告は主に二つ、少し前になるがダンジョンで会敵した内にレベルの高い奴が混ざっていたこと。まさか例の切り札かとも思ったがアリーゼ達が苦戦してシャクティが来て引いたということはおそらくレベルは4、高くて5と言った所だろう。つまり、そいつではない...何よりヴァレッタという指揮官あり気でここまで拮抗しているたいう時点で、明らかに俺たちの埒外のはずだ。そして、つい先日ヴァレッタ本人との会敵時の話だ。なんでも今日も今日とて炊き出しを行っていた時の話らしい。残念ながら俺はそれに気づくことなくお眠だった。通りで街の空気がいつもより重かったわけだな。
「これだけかな?」
「俺らは、な。ん?」
話し合いが終わったところで来客を告げる呼び鈴がリビングに鳴り響く。八幡がそれに答えて扉を開けると、そこにはアスフィが立っていた。ちょうどいいと思いかの神に文句をと思った矢先だった。
「至急お伝えしたいことがあるのすが、よろしいですか?」
「…分かった」
俺はアスフィをホームに入れた。そして語られたのはつい先日フレイヤ・ファミリアによってもたらされた情報だった。遅くなったのは彼女がこの情報の重要性を理解してるが故だろう。
「つまり、フレイヤ・ファミリア一個を一人で賄えちまうような奴がいる...」
「おいおい、そんな化け物が闇派閥側にいるってのか...冗談きついぜ」
「ですが、それが神の眷属であるのなら...」
「えぇ、八幡なら何とかなるわ!」
何で君たちが自信満々なのと言おうとも思ったが、ここにいる全員がその理由を理解している。
「確かに”およそ数万人をたった一人で無力化した”八幡がいればおそらくは」
それこそ、俺が唯一自負できる偉業。ラキアの軍勢とそれに便乗して攻めてきた闇派閥の一帯を、まとめて縛り上げたかの事件の事だ。名前なんて着いていない、二つ名だって断った。だが、それで頼られるのは悪くない。
「…けど、それだけじゃない」
「え…」
「うん、魔術師がいるよ。それも、同じくらい強い」
八幡はあの高圧的な彼女がやったとは思えなかった。出来れば、味方であって欲しいとも…でなければ街を出ていて欲しい。静寂の魔女に魅了された少年は、本能的に最悪の展開を考えてしまった。
「流石に八幡は2人に増やせないものね…」
「ならば、片方が終わったら急いで参戦してもらうというのはどうでしょう?」
「おぉ!そいつはいいな!普段表に出て働かねぇ分しっかり働いてもらうとすっか!」
「ん?どうかなさいましたか?」
ここまで言われておいて、何もツッコミがない事が不自然だったのか輝夜が顔を覗き込んでくる。
「ん?すまん、もっかい言ってくれ」
「おいおい、ボケーっとしてんのはいつもの事として今は勘弁してくれよ?」
「悪い、別の事考えてた」
『八幡が考え事!?』
「お前ら揃いも揃って酷くない?お前らの整備費出してんの、誰だと思ってんだよ」
がめつく言うつもりは無いが、ここ最近武器の破損が激しい為、必要な素材と砥石に整備費用だけでも火の車になりかけている。お陰で半分は俺の個人資産からだ。武器を打って多少は金にしているがこのまま続けていては手が回らなくなる。
「それで何を考えてたってんだよ?うちの鍛冶師様は、」
「大したことじゃない…」
「ハッハーン!さてはさっき言った女の事だな?」
『!』
それに対して露骨な反応を示したのはやはり三人。一人は言われたご本人、残りの二人は輝夜とアリーゼだ。
「妬けるねぇ~、こんな大事に会議中にもお前に思ってもらえるなんて」
心にもないことをよくもまぁつらつらと述べられるものだ。けらけらと笑いながら着実に自分の愉悦を稼いでいく姿勢はぜひとも見習いたいものだが、このタイミングは性格が悪すぎる。
横を見るとラスボスオーラを出した輝夜が、正面の席ではアリーゼが出されているお茶のカップをミシミシと言わせている。
「じゃあ、これで終わりってことで俺は鍛冶場に戻るぞ!」
こういう時は逃げるんだよぉー。と思ったら、肩を強めの力で掴まれる。振り返るのも恐ろしい、背後に感じる覇気に俺はこの時許しを乞いながら震える事しかできなかった。
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お久しぶりです。受験終わりました。結果はまだ来ていません戦々恐々している中書いているのでまだ、空気が緩いと思いますがご了承を、流れに関してはおおよそ原作通りなので次で戦に入ります。さぁ~、静寂の魔女どんな人なんでしょうね(すっとぼけ)。まぁ、とっとと期末も終わらせて思う存分登校していきたいと思います。それでは、閲覧ありがとうございました。コメント、いいねフォローなどしていただけるとモチベーションとなり、励みにもなります。今度は別の話でお会いしましょう。また今度~