第1章 四節
第1章 四節
ホーム内で苛烈を極めた翌日の朝、八幡はバキバキに凝り固まった関節を回しながら、陽の差し込む庭にて伸びをしている。例のごとく分かり易い罰として軒下にて宙吊りにされるという、なんとも時代錯誤もいいところな罰を執行され、それは俺が脱出に成功する朝方の5時にまで伸びた。夜明け前の外気は何とも体に堪えお陰で布団に入る前は手先の感覚が無かった。危うく、鍛冶師にとっては命に等しい指先が壊死するところだった。
「あら、おはよう」
「...おはようさん」
現れたのは我らが団長、うるさいとうざいに定評があるアリーゼ・ローヴェルだ。さしもの彼女も寝起きは大人しいらしく、声量も少し控えめだ。いつもこれくらいだったら、もう少し威厳が出るというのに...そしたら、よそ様の猪さんと被るか...あれはあれでキャラとして成立してたんだな。
「よく眠れたかしら?」
「喧嘩売ってんのか?」
「貴方の自業自得よ...」
「俺に何の否があっての業なんだよ...」
「あら、渦中の魔女に遭ったことに対する私達への報連相が出来なかったと言うのが貴方が背負った業よ。お分かり?」
「分からん」
「はぁ~、唐変木...」
「はい?」
後半聞こえなかったが間違いなく悪口だろう。まぁ、そういうのは聞きなれてるから別に何とも思わんが、
「それで、一昨日まで何を作ってたの?」
「ん?」
「あのねぇ、私は団長なのよ?この有り余る知性を隠しているのはね、皆が気を張り詰め過ぎない様に演技しているからなのよ。おわかり?」
目玉に刺さりそうな勢いで人差し指を目の前に突き出してくる団長氏。
だが、一つ訂正させてもらいたい。
「...バカは素だろ?」
「イラッ(ニコ)」
「言動と顔が一致してないぞ」
「あったまきた!私に対する不敬罪として、今日の朝食当番は団長権限で八幡に変更します。おいしいご飯お願いね」
職権乱用とはまさにこのことだと思いながらも、言い出したら止まらないことを知っている俺は、あ~もういいや、と思い渋々と言った様子で厨房へと歩いて行く。
するとそこには先客が居た。しかし、おかしな話だった。彼女はファミリア内での話し合いから料理は愚か、厨房への接近すら禁じられている筈のエルフだからだ。
「おや、おはようございます」
「な、何してんのお前?」
「見てわかりませんか?料理の練習です」
違う、料理からはそこまで黒い煙は出ないんだよ。何より、皿に乗せられてるその炭は何だ?まさか出来上がりの品か?
「先ほどまではアリーゼが付き合ってくれていたのですが、庭で剣を振ってくると言ってしばらくです。そうです!ちょうどいいので味見をしてくれませんか?」
「!」
そう言ってリオンは俺の口元に炭化した卵焼き?を近づけてくる。男としては羨ましいい限りの光景だが。その結末を知っている俺としては、こう言わせてもらおう。
「(謀ったな、アリーゼ!)」
朝からダラダラと汗を流しながら、俺を此処に仕向けた張本人に恨むごとを心で叫ぶ。数分後起きてきた、他団員に憐みの目を向けられながら、だれがリオンに厨房に立つ許可を出したのか問い詰めてやると心に決めた。まぁ、十中八九あの馬鹿だろう...
朝食を終え、予定通り会議出席のためにギルドへ。唯一予定外なのは俺の胃がボロボロだという点だけだろう。それというのも、現在街にて巡回中のポンコツエルフのせいである。苦手を克服しようとする点は大変好ましい限りなのだが、練習の相手は選んで欲しい。そういった手合いは団長であるアリーゼに任せてある。だというのに何故今日その矛先が俺に向いたのか意味が分からない。....まぁ、いい。アストレア様が食べることにならなかっただけよしとしよう。
最も俺が今死にそうなのは、そのボロボロの状態で朝食を作ることになり、疲弊に疲弊を重ねた為というのもあるのだが、
「大丈夫?」
「誰のせいだと思ってやがる...」
「自業自得だバカめ」
「その場合、俺に業は一つもないと断言してやる」
「おら、会場に入んだから大人しくしろよ。お前ら」
「他二人に言え、主にアリーゼに」
「あら、それじゃ私がいつも騒がしいってことになるじゃない」
『え、違うんですか?』
「失礼ね!私だって淑女らしくできます!」
回収早いな。言われて三秒なかったぞ。その辺に関しては寧ろ流石だわ。行動力お化け、騒ぎの震源地、リアル爆弾だな。
「あ、ハチマンだ!」
「ん?」
ファミリアの面子で話していると入口の方から自分を呼ぶ声が聞こえてくる。八幡はその声に聞き覚えがあった、振り返るとそこには、
「ゴッフ!」
胸に飛び込んでくる金色を携えた小さな影、目をキラキラと輝かせ両腕を広げて受け止めろと言わんばかりに手を伸ばしてくる。俺はそれをしっかりと抱きとめるが勢いを殺しきれず、尻もちを搗きながら情けなく後方に倒れる、
「...久しぶりだなアイズ」
「うん!」
アイズは抱き着いたまま笑顔で顔を上げ、俺に純粋な笑みを向けてくる。可愛い、目に入れても痛くないくらいだ。本当に、何でこんないい子が俺に懐いてくれたんだろう。教えて欲しいものだが、初対面でもこの距離感なのできっとアイズは「なんとなく?」と誰かに聞くようにいうだろう。
「こらアイズ、そんなに急ぐな」
あまり怒ってはいないという雰囲気で保護者が小走りで近づいてくる。
理由もわかっている為かいつもより、アイズを見る目が保護者寄りだ...まぁ、保護者なんだが。
「すまんな、見つけた途端に走り出してしまったもので止める暇もなかった」
「だ、大丈夫ですよ。まぁ、俺の調子が良ければ吹き飛ばされずに済んだんでしょうけど...」
「八幡、痛い?」
「…大丈夫、気にすんな」
いつもなら華麗にターンしながら勢いを殺し、英雄譚のオーソドックスなハッピーエンドの絵の様に抱き留めるところだが、単純に体調が悪い、原因と解決方法はわかっているが、会議の為お預けである。何より、劇物に並んで俺を蝕んでいるのは昨夜の制裁という名の理不尽だ。まだ寒いな、インナーか何か着て来ればよかった。
「やぁ、来てくれて嬉しいよ八幡」
「焚きつけておいてよく言う、本性だけ見たらお前は間違いなく勇者じゃなくて狡猾な悪党だよ」
「誉め言葉として受け取っておくよ」
さらっと情報を渡されただけでここまであっさり出てきた俺も大概だが、他人の私情を利用するあたりこの男も大概ろくでなしだ。
「後は、他の皆が来るのを待つだけだ」
「他にはどこが来る」
「予想がついている筈なのに聞いてくる辺り相変わらずの慎重さだね」
「お前ほど周到でも狡猾でもないさ」
「僕にそこまで噛みつける若者は、後にも先にも君かアリーゼくらいだろうね」
「呼んだかしら!」
『何でもない』
あれが会話に混ざると余計ややこしくなって、フィンに逃げられかねない。こいつに浮いた話でもあれば手っ取り早く足を縛れるんだがな。悲しいかな、当人は探している筈なのに花嫁のはの字も見当たらないそうだ。取り敢えず「ざまぁ」と言っておいたが、ある意味当人にとって功を奏しているのだから面白くない。
「ほら、言ってるうちに来たよ」
「ん?」
そう言われたのでギルドの入口に視線を落とすと、そこには入口より背の高いガタイのいい猪族の大男を先頭に柄の悪そうな男たちがゾロゾロと入ってくる。勿論彼らを知っている。現オラリオ最強の戦力であるレベル6を擁する、内情がとんでもなく過激なファミリア”フレイヤ・ファミリア”の皆さんである。おぉ、怖。近寄らんとこ...
「む」
あ、こっち見た。てか、近づいてきた。
それも団長であるオッタルがだ。
「久しいな...ヒキガヤ」
「まぁ、そうっすね」
「あまり外に出ていないようだが、それでも衰えていないようだな」
「見てわかるもんかね?」
「そういうものだ」
「そういうもん、か…それで、なんかようか?」
この男がなんの用もなしに話しかけてくるとは思えない、何より下手をすれば俺より対人スキルが低い。よって何か要件があって俺に話しかけてきたと容易に考えられる。話題がないと会話どころか「よう」だけで終わりそうだからな。まぁ、その要件にも予想はついている。
「武装の整備を頼みたい...」
オッタルは、会話を読まれたことに不満を言うことなく、いつもの様な仏頂面で依頼をしてきた。
他派閥ゆえに受けないかと言えばそうではない。現に小遣い稼ぎ何度か彼の依頼を受けている。しかし、今後の予定が分からない為、
「悪いが今回はノーだ。この会議の内容によっちゃ、仲間たちで手一杯になる。...現に手一杯だ。」
「そうか、無茶を言った...」
「この状況が終わって暇になったらいくらでも受けてやるよ」
「そうか...」
心底残念そうにオッタルは呟くと、ひと言すまないと言って離れていった。そのまま先に会議場に入っていく。
「相変わらず、色んな方面で引く手数多で羨ましいね」
「そういうお前は、候補の一人でも見つかったのかよ?」
「そう返されると弱いね。けど、そういった話では君もいないだろ?」
「俺はそう言うの遠慮してんだよ」
オッタルが去ると、先程から静観していたフィンが再び会話を求めてくる。内容に関しては、この通りその手の話だ。フィンにとっては死活問題なのだろうが、俺にとっては必要のないものだ、親父やお袋には悪いが比企谷家は俺限りでおしまいにしようと思う。
何より、フィンの言う引く手数多は明らかに皮肉だ。
「良かったよ。剣が恋人だ、なんて悲しいテンプレートを言うんじゃないかと思って、慰めの言葉を用意していたのに」
「諦めてないようで何よりだが、そのおもったい”勇者”なんて御大層な旗のせいで遠慮されてるのにいい加減気づけよ?」
先程までの表上でのみの懇親的な空気から一遍、一気に険悪な空気に代わる。これはこれでいつも通りである。以前の誘いでこうならなかったのが寧ろ不思議なくらいだった。
「ねぇ、リヴェリア?」
「ん?どうしたアイズ?」
静かに牽制し合う二人を見て、アイズは一つ疑問を抱いた。
「二人は、仲良し?」
「あぁ…そうだな」
「流石だな、お嬢。あれをみて仲良しとは...」
腰に手を当てながら、年齢でこうも感じ方が違うもんかと思うライラ。
「一周回ればそうも見える。子供はやはり純粋だな」
「あら、私もそう思ったわよ!」
『...』
「本当よ!本当なんだから!」
全員が全員、冷たい目でアリーゼを見る。無垢なアイズの意見に乗ることで自分も純情ですアピールをする。汚い考え方に、なんとも言えない感情になる。
アリーゼの言い訳虚しく響く、分かった分かったと適当に宥めながら、そろそろだなと会議場に入っていく。
「各ファミリアの代表が揃ったな。それでは会議を始める」
ギルド本部の奥の奥、百人を有に抱え込めそうなほど広い会議場。此処の机硬くて寝辛いんだよなぁ~。と思っていると、頭の上でけたたましい声が響く。
「その前になんだこの現状は!貴様らの体たらくのせいで、オラリオはめちゃくちゃだ!」
いや、俺らのせいじゃないし、直接の原因は闇派閥だし。その辺、履違えないで欲しいもんだなギルド長さん?
「さっさと片付けんか、ダンジョンの攻略が滞って居るではないか!全く、嘆かわしい!」
なんとも耳に響く煩いだけの声だ。お陰で、どれだけ頑張ってこの机で休もうとしても、耳が起きてならない。
そう思っていると、俺らの反対側すなわちフレイヤ側の方から怒気を含んだ不機嫌そうな声が聞こえる。
「黙れ豚。のさばるだけの置物風情が俺の行動を評価するなど烏滸がましいにも過ぎるぞ」
先程アリーゼが輝夜たちから向けられていた残念なものを見る目ではなく。文字通り不機嫌そうな目をギルド長ことロイマンは向けられる。
「ひいぃぃ。し、仕方なかろう!現に街から去るものも増えておるし、奴らのせいでダンジョンの攻略は進んでおらんし!」
分かる、分かるぞ〜ギルド長。フレイヤ・ファミリアの番犬ことアレンの睨みは凄みがあるからな流石レベル5だけある。犬とは言ったが、種族的には猫人族だけど…
「アレン、やめよう会議が進まなくなる」
「あぁ!黙ってろよ、弱小種族が。勇者なんて祭り上げられて図に乗ってんじゃねえぞ!」
いつの間に怒りの矛先がフィンに向く。血気盛んなのは構わないが、地雷は踏むと痛いぞ?
「話にすらならないだなんて、神フレイヤの品性が疑われるな」
「何だと、羽虫風情が!」
そして、フィンもそれに乗るんじゃないよ。会議進まないだろ?早く終わらせて帰ろうぜ?
「あ〜あ、早くしてくんない?俺、こいつらのせいで疲れてんだけど?」
こいつらとは勿論アリーゼ達のことだ。理不尽に俺のまともな睡眠を奪い、尚且つアリーゼに関しては俺にバイオテロを仕掛けやがった。寧ろここに居られるだけで奇跡と言う他ない。
「なっ!///」
それに対して何を考えたのか、横に居るヘルメス・ファミリア団長代理のアスフィが恥ずかそうに顔を赤らめながらこちらを見てくる。
「そうですわね、昨日は激しい夜でしたわ。」
「そ、そういう事なのだな?」
今度はリヴェリアだ。いい歳してなんとも初心な反応だが一体何を考えているんだ?だか、断言してやる、確かに激しい夜だった。文字通り身の毛も夜立つ…
「えぇっと八幡?僕が言えた事じゃないかもしれないけど、会議中なんだ」
「あぁ、だから早く終わらせてくれよ?そしたらそこの猫戦車の不機嫌も治るだろうし」
「誰が不機嫌だと?てか、猫戦車ってなんだ!」
「お前だお前。あと一々噛み付くな、リアクションに困るだろうが」
「チッ、レベル2の雑魚風情が、」
舌打ちされたが話し合いに戻れそうだ。
仮にも主催した側であるフィンが逸れたら、軌道修正に時間がかかる。寧ろ、時短で済ませた俺に感謝して欲しいくらいだ。
「あれに割り込めるなんて...」
「ちげーよ、ありゃただ帰りてえだけのバカだ」
「失礼な。俺はここにいる大半の総意を代弁しただけだ。決して俺だけの意見じゃない」
今度は俺のせいで話がずれそうなので早急に会話を切り上げたが。文句に関してはまだ言い足りない。寧ろ、日頃の苦情も兼ねれば一晩かかるまである。
「ではまず、近々の襲撃についてだがまず当日の警護担当のファミリ、その代表として奴らに対して遅れをとったことを謝罪したい」
「待て待て!それをせねばならんのは儂のはずだ。先の襲撃を防げなかった責は儂にある。申し開きの使用もないわい」
そう言って、頭を下げたフィンに反応勢いよく机にぶつけながら頭を下げたのは先日の襲撃の際に警備を任されていたガレスだ。
「往来で堂々と起こったことだ。寧ろ、それを読んで事前にガレスを立てていなかったら、被害は更に広がったはずだ。ましてや、殺帝が相手ともなれば」
フィンたちを擁護するようにシャクティが続ける。
「フィンや憲兵団が警戒していたのは、爆発物だ。その手の不審物に注意していた分、視野が狭まったのだ」
「爆発物?」
「お前も一回、やられかけたでしょうが...」
シャクティが言っているのは、俺たちが仕掛けられた自爆テロの事だろう。
だが、フィンたちは爆発物と言った。
となると、フィンは俺とは別の見方をしたようだな。
「出所が分かったのか?」
疑問を呈したのはシャクティだ。
「あぁ。八幡、襲撃された場所に関連性があったのは気づいているね?」
「魔石加工の工場だろ?」
報告書を読んで第一に気づいたが、襲撃には二パターンあり。一つが単なるガス抜きとしか思えない雑な襲撃、もう一つがそれを囮にした工場の襲撃だ。そして、襲撃した工場も複数あるが、具体的に略奪を行っているのは、魔石加工の工場だけだ。他にも日用品を加工している工場を襲撃しているが、それはおそらく街の市民に節制を強いることで圧をかける為だろう。
「そこで作られている撃鉄装置が爆弾の正体だ」
『!』
「...」
俺が遭遇した自爆信徒を軽く検視したところ、人体のパーツとは思えない金属体があったので、持ち帰って解体してみたところ。案の定俺たちが関節的によく使うもの、撃鉄装置だった。
「これは八幡からもたらされた情報だ」
「おいおい、あたしら何も聞かされてねぇぞ?」
「僕が頼んだんだ、内密にってね」
「なんでよ?」
「機密性を保つめだ。お前らを疑うわけじゃないが、たまに口が緩いじゃねえか?」
「それでもアリーゼくらいには伝えても良かったんじゃないかな?」
「そーよそーよ!」
「!」
『?』
「…いや、何でもない」
扉の向こうに1人、気配を感じる。
ロイマンはおそらく人払いをしている筈、となると一応予想はしていたが、そういうことだろう……
「続けよう…」
「ギルド長」
「なんだ」
「魔石製品の生産を止めるのは可能か?」
「ふざけるな!魔石加工は現状オラリオの特産品、輸出による利益は街の生命線だ!止められる訳がなかろう!」
「だよな…」
これ以上奴らに爆弾を握られない為にも、生産を止めた方が為だと思ったが、利益的にも街の為にも止めない方がおそらく懸命だ。
「はいはーい、この話やめやめー。街の利益とか、ギルド長の椅子とか誰のせいだとか、そんな話はやめて、これからを考えましょ?その為に来たんでしょ?」
『!』
「クックック、流石...」
突然会話を切り出した団長様に八幡は思わず感嘆の声を上げる。アリーゼのこういった性格や、軍を率いる長としての心構えはやはりこういったお堅い会議には必要不可欠だ。
俺では戻すのに時間がかかるが、アリーゼならこうしよう!というだけで場の空気が切り替わる。それは彼女の持つ美点であり、確固たる長所だ。何よりそれは年長者や頑固者にすら重たい腰を上げさせるほどだ。
「ガハハハッ、相変わらず物怖じを知らん娘よ。しかし、言っとることはここにおる誰より正しい」
「チッ、正論ばかり...」
「言い返せない辺り、アリーゼの勝ちだな...」
「やったー、私の勝ちね。見た八幡!私の精錬さに皆が納得した瞬間よ!」
「団長頼むからこの場で調子に乗るのだけはやめてくれ...私らがはずい...」
流石我らが団長様だ。彼の神フレイヤの犬こと猫戦車君を撃沈したのだ。いや、乗れないノリでごり押して挙句の果てに、読めない思考と言動で再起不能にしたの方が正しいだろう。
最もダメージを受けたのは誰かと言えば、おおよそまともな思考をお持ちの身内こと、輝夜とライラだろう。
「こほん...それでは改めてこれまでの襲撃の報告に入りたいと思う。、まずはシャクティたちが制圧した....」
それから先日の襲撃の詳細やそれ以前の略奪行為、そして確認されている敵幹部連中、以前アリーゼ達がダンジョンで遭遇したヴィトーなど様々だ。
「それでは報告会は以上だけど、他に共有しておきたい情報がある者は言っておいてほしい」
そう聞いたフィンに対しておもむろに口を開いたのは以外にもオッタルだった。
「...奴らの一団の中に少なくとも一人手練れが居る。それも生粋の戦士だ」
「あぁ、あの超硬金属の壁を破壊したってやつ?でも、直接遭遇したわけじゃないんでしょ?」
「お前はこう言いたいんだろ?破壊だけなら例の爆弾でも出来るんじゃないかって」
「そう、流石八幡私の事わかってるぅ~」
付き合いが長いと考えていることの一つや二つ容易に想像できる。最も、こういったまじめな話をしている時に限るが...
というか、何気に都市最強相手に物怖じせずに話しかけられる団長パネェー...
「精査するまでもないような離れ業だった。それだけだ。少なくとも今出た幹部連中じゃ無理だ。それだけにたかが爆弾なんぞじゃ話にならん」
「前に見に行っただろ?」
「あぁ、あれね?」
「見に行ったのか...」
「素材狩りのついでにな」
自爆信徒に遭ったその日、あらかじめ先を読んで武装の作成のためにその階層へとおもむき、めっちゃ危なかったけど一応見てきた。
「というか、お前もその時いたでしょうが」
「あれ?そうだったかしら」
「では、八幡。鍛冶師として検視した報告を聞かせてほしい」
そう言ってきたのは、現状議長状態のフィンだ。
「ん、まずあれはアレンの言う通り、人の手によってつくられたもんだ。そして、何よりもあの跡から分かるのはたったの一撃で空けられたものってことだ」
『!』
「そこそこどでかい穴だったからな、アレンの報告から大体二日立ってその状態から逆算してオッタル位のサイズの人間が通れる穴が人の手で一撃で作られたことになるな」
淡々と述べたが自分で言ってってもとんでもないことだ。超硬金属は通常それ相応の手順を踏まなきゃ溶かして鍛える事も難しい特殊な金属だ。それをまるで丸太を刈るような感覚で破壊するなんて、
「オッタル、お前にその芸当は可能か?」
八幡は少し恐々としながら述べる。この返答によっては、これから起こる抗争の激しさは段違いになる。
「...不可能だ」
「...つまり、下手をすれば。オッタル以上の力のステータスを持つ敵。もっと最悪を考えればレベル6以上が敵に居ると考えられる」
オッタルの返答により、俺の仮設は最悪のケースで立証されることとなった。
「...そうか、ありがとう。他にはあるかな?」
フィンもこれ以上は指揮に関わると判断したのか、それ以上の詮索はなかった。
しかし、俺はここに更なる劇薬を投下することになる。
「いいか」
「今度は八幡か、嫌な予感がするけど言ってくれ」
「悪いな...俺からは簡単に、敵の自爆に気を付けてくれ。以上だ...」
『!』
「待て八幡!まさか、奴らはそこまで堕ちたというのか⁉」
反応したのはリヴェリアだ。会議場の机を叩き割らんばかりの力で飛び上がり、俺に檄を飛ばしてくる。
その様子に真っ先に怯えたのは、同じエルフのギルド長ロイマンだ。
「堕ちたも何も、奴らに最初からその手の常識はなかったと考えてる。じゃなきゃ、爆弾なんてふざけた物使うわけないでしょ」
「だが、奴らとて仮にも人の子だ。であれば、死への恐怖ぐらい...!」
あるわけがない、奴らにそんな大層な物。あっても俺が認めない...奪っておいて奪われる覚悟も、失くす覚悟もないというなら俺はそいつらに一切の容赦をする気はない。
八幡の瞳が知らぬ間に紫に染まっていく。濁り、光も移さなくなったはずの瞳に怪しい紫の焔が灯る。それを見たリヴェリアはバツが悪そうに視線を逸らし、ゆっくりと座る。理由を知る者の内アリーゼを除いた者のほとんどがそうだった。
「...すまない」
「いえ、俺も私情は控えます」
会議場がシンとなる。あのアレンでさえも大人しく、舌打ちもせず静観しているだけだ。
しかし、そうも言っていられないとフィンが再び指揮を執る。
「これで以上かな?さて、最後になるけど”本題”に入らせてもらう」
長くなったがここからが本題だ。ただの近況報告なら、手紙で十分なはずだ。それをせず直接全員集めたってことはいよいよってことだろう。
「ヘルメス・ファミリアによって敵の新たな拠点が見つかった」
フィンがそういうと、参加者たちは分かり易く反応を示した。
そして、事前に打ち合わせていたのか団長代理として出席していたアスフィが立ちあがり、持参していたメモを読み上げる。
「廃棄されていた施設を利用しているようです。そして、規模も三つと多い。一般人を装った見張りの数からも相当に臭う、これらの点から本拠地ではないかとにらんでいます」
マジかぁ…優秀だな、ヘルメス・ファミリア。主神はロクでなしだけど…あ、団長もか
「ヘルメス・ファミリアと精査し、ギルド上層部も本拠地であると判断した。そこで三つの拠点を同時に叩く。」
話の入り、そしてフィンが態々直接俺に来いと言った。そして、奴らの動きの活発化に伴っての本格的調査の結果、それらを加味してこの展開は読んでいた。それでも、アリーゼや仲間たちに言わなかったのは、
「一つは私達アストレア・ファミリアが行くわ!」
信じていたからだ、俺にはない”正しい正義”というものを。彼女ならそう言うだろうと、そして彼女らは付いて行くだろうと、アストレア様への恩を返す為にも俺はファミリアの全員を無事に返す。その上で復讐も果たす。そして全てを終わらせる...
予想していた俺とは違い、突然とんでもないことを言い始めたアリーゼにアスフィはぎょっとした表情を浮かべる。
「僕はまだ何も言ってないよ?」
「結局そういうことだろ?アリーゼごときに先を読まれるなんざまだまだだな、フィン。」
「フレイヤとロキは分かれるとしてあと一つは私達が行くわ。無謀でもなんでも上等よ!」
あ、ちゃんと無謀だって自覚はあんのね。
「であれば、ガネーシャ・ファミリアもアストレア・ファミリアと共に向かおう。それなら頭数も十分だろう」
あれよあれよの間に話はまとまっていく。議長であるフィンからすれば楽でありがたい限りだろう。
だが、俺としてはシャクティの申し出は有り難い限りだ。何しろ、縛った後がちょっと楽になる。
「分かったよ。なら、予定通り僕達が一つを受け持とう、もう一つをオッタル頼めるね?」
「いいだろう...」
フィンの要請にオッタルがうなずく。これにより、決行の際の分配は決まったな。
そこで、この会議においてのまとも枠であろうアスフィが意見を述べる。
「話の腰を折るようで恐縮ですが、罠の可能性は」
「それを込みで決行する。実働隊に十分な人員を割くのは勿論、他の区画にも目を光らせる」
フィンはその知恵をいかんなく発揮し、事前に考えていたであろうプランを述べていく。
「ヘファイストス、イシュタル、ディオニソス...他の有力派閥にも協力を要請する。ロイマン伝達は任せるよ」
「仕方あるまい。都市の繁栄のためだ」
「ヘルメス・ファミリアには街の監視を強化してほしい、異常があればすぐに伝達を」
「了解しました。構成員に通達しておきます」
フィンからの指示によりロイマンとアスフィが頷く。よかったなロイマン頑張りと次第によってはお前の功績も上がるかもな、
「......分かっている通り、これは大規模な掃討作戦になる。拠点が発覚した以上放置の選択肢はない、これまで後手に回っていた以上これより反撃に出る!」
指揮を上げる為の勇者のセリフが円卓に集った冒険者たちに響く。
「作戦決行は三日後とする」
その一言に、そこにいた数人は息をのみ、数人は静かに瞠目した。
「敵に気取られないよう準備には最新の注意を払って欲しい...最も、それを察してもう終わらせているものもいるようだけどね」
オイ、こっち見んな。お陰で視線がこっちに向いちまっただろ!
「フフーン、すごいでしょ。うちの八幡はフィンが来た二日後にはもう準備を始めてたんだから」
「ハハ、それは気が早すぎるんじゃないかな」
何故か他人事なのに自分の事の様に自慢するアリーゼを、それを聞いて俺を少し笑うフィン。そしてそれにつられてか空気が少し軽くなる。
歴戦の冒険者たちも一人の少女の一方的なやり取りによって、気を変えられてしまったのだ。
「それでは解散!」
フィンのその一言で、冒険者たちは一斉に立ち上がり会議場を出ていく。その目はやる気に満ちていたり、先の不安に震えていたりしたが、それでもやるという意思は固かった。
だが、その中で一人立ち上がらなかった者が一人、
「八幡どうしたの?帰るわよ?」
「先帰ってていいぞ、俺はちょっと用がある」
『八幡に用?』
「お前ら酷くない?俺にも野暮用の一つや二つありますけど?」
「そうか、気を付けて帰って来いよ?」
「遅過ぎたら夕食もお願いしますね?」
待て待て最後脅しじゃねえか!
そう言って俺を除いた他三人はホームへと帰って行った。聞き分けが良くて本当に助かる。
「それで、僕に何の様かな?」
「...場所を変えるぞ」
座っていた背後に立っていたのはフィンだ。黙っていても、俺は顔に出やすいらしいのでそれを逆に利用させてもらった。俺はフィンを引き連れて会議場を出る。別にこの会議のハイライトを語ろうなんて趣味はない。
「それでアイズを差し置いて話すのは少し申し訳ないから手短に頼むよ?」
会議場を出てすぐ、ギルドホームの待合室にて八幡は要件を話すことにした。
「要件は二つだ」
「あぁ」
「一つ目、お前はアイズをこの作戦に参加させるつもりか?」
俺に懐いてくれた優しい少女アイズ・ヴァレンシュタイン、彼女については少しだけアイズ本人とそのママことリヴェリアから聞いた。それを聞いて八幡は自分と似ているようで少し違うと感じた。だが、それでも彼女には人を殺してほしくない。彼女はそれを望まないかもしれない。けれど、アイズには俺と同じようになって欲しくない。
「ないよ...今のところはね」
「今のところはか」
それを聞いて八幡は安堵した、つまりこの作戦の戦況次第ではアイズの実装を打診するということだろう。であれば、作戦をそのまま成功させればそれは起こらないということだろう。
「じゃあ、二つ目だ。お前気づいてるか?」
「何にだい?」
「内通者にだ」
「...詳しく聞こうか」
そして俺は、この会議の裏で暗躍していたおそらく闇派閥の内通者について説明をした。
これはおそらくロイマンの落ち度だ。...使えるな。
「なるほど、それで君ならどうする?」
「何もしない。」
「それはどうして?」
分かっているのに聞くのはフィンの悪い癖だ。曰く、当人の口からきくことが出来るのならそれがいちばん説得力があるからだそうだ。
「ロイマン、ひいてはギルドを後々揺するネタになりそうだから」
「言えてるね。それを僕に教えるメリットは?」
敵対こそしていないが、俺とフィンは別派閥だ。それこそ、この情報を使えばギルドを利用してロキ・ファミリアの立場を破壊することもできないことはない。しかし、それでは意味がない。
「お前に恩を売っとけば俺が再起不能な時にあいつらが危なくなった時助けてくれそうだから」
「はっは、君は僕を買い被りすぎだよ。知っている筈だよ?僕は民衆が思うほどの善人ではないという事くらい」
「義理は果たすだろ」
「!...やはり買い被っているよ。分かった、きっとそんな状況はないと思うけど、任されるよ」
これでアストレア様への恩を少しでも返せるだろう。最も、これだけで返しきれるかと言えばノーだ。なんといっても相手は女神、買った恩は死ぬまで返し続けなかれば俺が納得しない。
「じゃあ、俺は帰る」
「アイズと遊んでくれないのかい?」
「今の俺のバイタルを事細かに説明してやろうか...」
「え、遠慮するよ」
そう言われた八幡は疲労で重たい足を引きずりながら愛しの我が家へと帰って行った。
そのまま、リビングを通り仲間たちから暖かい声をかけられる中、八幡は回復のためにすぐさま床に入った。
外から雀の鳴く声が小さく聞こえてくる。地下室、それも防音性の高いこの部屋に少なからず響いているのだ。おそらく犬小屋の屋根にでも止まっているのだろう。そこで八幡は布団が恋しくないということに気付く、
「おかしい、俺の体はどれだけ寝ても寝たりないぐらい疲れていたはず…」
しかし、彼の眠ろうという意思に反して八幡の目は覚めてしまった。仕方なしに、布団から立ち上がり鉄製の扉を開け外に出る。そこには案の定雀が止まっていた。八幡が犬小屋を出ると雀は飛び去り、今度は本館の高い屋根に止まる。陽の光が寝起きの目に刺さる中、八幡は庭を見渡す。そこには、朝食前だというのに団員のほとんどが集まり互いに鍛錬をしていた。おそらく、昨日の会議の内容をアリーゼから聞いたのだろう。少し殺気立っていて怖いまである。
「あ、八幡!おはよー!」
「お前にしては早いんじゃねぇか?」
「ソワソワして起きてしまったのですか?あら、お子様ですわね」
「お前らには言われたくない」
『輝夜以外言ってないだろ』
「おしゃる通りで」
「ふっ!こんな簡単な駆け引きに騙されおってぶぁぁぁぁかめ」
「ガキか?」
「ガキはライラだろ?」
「あぁ?喧嘩なら買うぞ、極東の姫様?」
朝から元気なことだが、忘れてはいけないのが一応作戦期間中なのだが、ここまで露骨だとバレやしないだろうか?
まぁ、内通者の時点で大して意味はないか。
「はぁ...まぁ、頑張れや」
「あぁ?なんだお前混ざらないのか?」
「八幡ちゃんくらいなら増えても大丈夫だよ?」
「地味に傷つくなそれ...」
確かに俺はこの中でも比較的弱い部類に入るのだろうが、忘れてもらっては困る。俺には切り札が二つもある。まぁ、片方はまだしももう片方は余り気乗りしない。
「後30分ぐらいは頑張っとけよ...」
「あぁー!八幡が朝ごはん作ってくれるの⁉」
「何!八幡の飯だと!」
「おっしゃー!頑張るぞー!」
『オー!!』
「ん?昨日もじゃなかったか?」
んな、大げさなと当人は言うが、実際のところ八幡の料理の腕はアストレア・ファミリアきっての腕前だ。どれほどかというと、彼の手にかかればあの雑草汁でさえ美味しいスープに代わるほどだ。
厨房に向かう為にリビングを通るがそこには、庭にて鍛錬を行うメンバー達を優しく見守る女神(文字通り)が佇んでいた。
「おはようございます。アストレア様」
「おはよう、八幡。スッキリした顔をしていてよかったわ」
「ご心配おかけしました」
「それで今日は八幡が料理するのよね!」
「え、えぇ。あの近いです///」
先程のやり取りを見ていたのか、アストレアは食い気味で八幡に聞きこむ。それこそ鼻と鼻が触れてしまいそうなほど。それに思春期真っ只中の少年は視線を逸らすことで事なきを得ようとする。鼻孔をくすぐる花の様な匂いも、真下で揺れる二つの丘も彼にとっては血圧を上げかねない劇物だ。それが女神であればなお...
「あら、ごめんなさい。はしたなかったかしら?」
「いえ、ごちそうさまです」
「正直ね。じゃあ、お願いね」
「任せてください」
その姿は先日彼の勇者と対等に話していた少年とは思えなほど従順であった。相手が女神であれば仕方のないことだが、
「よし、これだけあれば十分だろ。そろそろ......ん?」
八幡が朝食を作り終え、そろそろ鍛錬を終えて向かって来るころだと思ったその時リビングの床が揺れ始める。食器がカタカタと音をたて、床がギシギシと不快に鳴いているのが聞こえる。すると、庭に続く廊下の方から叫び声が聞こえてくる。
「ちょっ!私団長、みんな譲る!」
「知ったことか団長!あいつの料理の前では立場も仲間もあるか!」
「ハッハッハー!こんな時は小さい体は有利なんだよ!」
「あ!ライラちゃん卑怯!」
「待て、お前らあたしの分も残しとけよ!」
「待って下さい。私も」
「ぶあああかめ!青二才、お前の物は私の物だ!」
「な!ふざけるな輝夜、そんな暴論まかり通ってなる者か!何より、八幡の料理だけは譲らない!」
そこにはどこかのめでたい人を選ぶお祭りのごとく我先にと他人を押しのけ、我先にと席につき手を合わせ用意された料理に食らいつくうら若き乙女達の姿...乙女、か?
「はぁ...おかわりは作るからいくらでも食え」
因みに今の俺の姿はというといつもの着流しの袖を縛り上げ、片手にはお手製の包丁と臨戦態勢だ。
あらかじめ明日のために下処理をしておいて正解だったな。まぁ、流石にあそこまで過激なことになるとは思っていなかったが、おいしいと言いながら食ってくれるのはやはり嬉しい。
あいつらにも食わせたかったな...
と、干渉に浸っていると、次々に皿が空になって行く。
「八幡!おかわりもってきて!」
「ヘイヘイ」
ありふれた日常。これがおそらく、戦いのない世界で常に流れるべき時間なのだろう。
なお、昨日より絶賛だった理由に関しては言うまでもなく当人のコンディションによる出来の差だろう、
「あー、腹一杯だっつーの」
大きく膨れた腹を撫でながら、ライラは満足そうに呟く。
その様子に八幡もまた満足そうにお茶を啜っている。絵に描いたような平和、闇派閥が蔓延ったことによって暗黒期などと呼ばれているオラリオの一画とは思えない情景。
「それで、当日までこの調子か?」
「うぅーん、それもどうかと思うのよね~」
腕を組みながら考えこむアリーゼ、その様は珍しく団長らしくそれなりに様になっていた。
どうやら鍛錬詰めの日々は流石に御免なようだ。俺も嫌だ、今日は気持ち良く起きれていい感じだったから作ったがこの調子で毎日よろしくなどと言われようものなら、作業に回す時間を考え直さなければならない為面倒だ。
「私たちの武器の整備っていつもどれくらいかかってるの?」
「あ?...そうさな、全部一括で来たとしたら。損傷と消耗の具合によるが半日とちょっとぐらいか」
「なら、あんまりしないわ」
それは有り難いがどうしてと思った。今日はこのままいつもの巡回に入るようなので、皆の武器の整備はまた夜だ。先の鍛錬によって生じた損傷をざっと見たところ今日一日は持ちそうなのでいいだろうと言ってある。何故俺が毎日武器の整備を請け負っているのかというと、常に万全の状態の武器で最悪のケースを抑制するためだ。
「それは助かるが、流石に前日は全員出してもらうぞ?」
「えぇ、よろしくね」
「では、団長いつも通り」
「なんだ、いよいよかっこいいと思い始めたのか?極東の姫様」
「バカ言えライラ、そこの青二才じゃあるまいし」
「毎度毎度、貴方は二言目には青二才と...」
一触即発のムードに成りかけているがこういった場合は皆のお姉さんことマリューが納めてくれるので心配などない。まぁ、居ないときは戦争だけど...
ぐだぐだと言っているが、全員が迅速に陣を組む。流石に俺がやると俺も恥ずかしいし、何より絵面が痛いので俺は観覧だ。少女たちが円陣を組み終わると、団長であるアリーゼがその眩い赤髪を揺らし手を前に突き出す。
「使命を果たせ!天秤を正せ!いつか星となるその日まで。」
歌われるのは聞き慣れた誓いの詩。思いを奮い立たせ彼女たちを正義たら占める心の芯、女神アストレアの眷属たる証明。
「天空を駆けるがごとく、この大地に星の足跡を綴る!」
団長である、アリーゼの声はよく響く。
「正義の剣と翼に誓って!」
『正義の剣と翼に誓って!』
アリーゼの声と皆の声が重なる。なんとも美しい光景だが意地でも口に出しても言わない。調子に乗るのが目に見えているのが二名いるからだ。
「それじゃ、行ってら」
そう言って八幡は皆を見送った。残ったのは夜間の巡回を控えている者とアストレア様そして八幡だけだ。
そして、三日後はあっさありとやって来た。今にも降り出しそうな切れ間一つない鈍色の曇天。不吉だが、出来るだけの対策はしてきたつもりだ。なに、こういった作戦行動は初めてじゃない。俺から見ても慣れたものだ。
「いい八幡、先走っちゃだめよ?分かった?」
「団体行動ですよ?」
「何お前ら俺に過保護過ぎない?てか、輝夜それ他のやつらにも言えよ」
整列して隠密の状態で現地に向かっている者の相手もおそらく臨戦態勢に入っていることだろう、少なくとも幹部の一人はいると考えている。そうでなければ拠点を三つ分けてただ戦力を分散するだけという愚行をあのヴァレッタが冒すとは思えない。
「もうすぐで指定の地点だ。全員武器を構えろ...」
シャクティのその日ひと言に部隊の全員が殺気立つ。かく言う俺がそうだ、奴らを狩れる、奴らから奪えるそう考えるだけで柄にもなく体の芯が熱を持つ。着流しの下につけてある小手に熱が篭もって熱が増長される中、俺は魔法発動の準備を始める。
「突撃ィィィ!」
シャクティのその一言からコンマ一秒と待たずに俺は飛び出した。先の二人の忠告を真正面から無視し、誰よりも早く飛び出した。
「ちょ!八幡!」
『【天の鎖よ】』
八幡は突撃と同時に魔法を起動する。事前に準備しておいてので詠唱は不要だ。
魔法円は八幡の周囲に待機し、敵の出現を待っている。
一つ目の角を曲がった瞬間、見張りがこちらに気づき各々武器を構えてこちらに向かって来る。
好都合だ...
しかし、八幡は以外にも冷静だった。”賢者”の効果による抑制もなしにだ。
「邪魔だ...」
その一言が聞こえた瞬間には、敵は全てを貫かれていた。鎖の先に備えられていた楔が敵構成員の肩を、足を容易に貫き鎖が血を滴らせながら通って行く。全員を貫いても鎖は消えることなく寧ろ地面に体を縫い合わせ身動きを封じていた。
更には鎖は口に挟まるように絞まっている為声を発することも出来ない。完璧な拘束を一瞬にして行われたのだ、縫い付けられた構成員達は痛みをじっくりと味わう事になる。
「…」
八幡は痛みに声を上げようともがく虫を横目に見て、感情が昂って行くのを感じる。何故、これだけ痛め付けているのに寧ろ気が立って行くのだろう…………決まっている。闇派閥にまだ形が残っているからだ。
八幡は再び加速する、現れる敵を次々に拘束し、時には切り捨てる。道には大量の血飛沫が散り、あっという間に赤い道路が出来上がる。しかし、その全員が絶妙な手加減で生かされている。
孤立した八幡は誰よりも早く拠点の中枢に到達する。そこは静かで数日前の教会を思わせるようだった、決定的な違いがあるとすれば、彼の魔女が居ないことともう一つ差し込む光があまりに悲しかったことだ。
「っ!」
「はっ!」
すると暗闇から一閃が光る、それに反応出来たのは八幡の持つレアスキル”怒りの眼”の疑似的なステータス上昇によるものだろう。剣筋の主は聞き覚えのある狂気的な笑いを浮かべながら八幡の剣を押し返していく。八幡は押し合いによって間合いを潰される前に後方に退避し、敵の目の前を鎖で遮る。
「なんだ、腐り目てめぇ一人か!ほかの雑魚どもはどうした」
「後ろを任せてあんだよ。お前みたいに味方を味方と思わねぇようなことはしねえんだよ」
「あぁ?何あまちゃんみてぇな事言ってんだ。お前はあたしらを根絶やしにすんだろ?だったら...」
心底つまらないとでも言いたいのか、ヴァレッタは顔を下に伏せた様に見せた。しかし、その次の瞬間にはこちらに間合いを詰めて彼女の剣先は八幡の胸に向かっていた。
八幡はそれを剣で逸らすと、刀を振り下ろす。
ヴァレッタは突き出していた剣を強引に振り上げ刀を弾く、そのまま八幡は上へと飛ばされ。それを視認したヴァレッタは猟奇的に笑いながら剣を振りかぶり跳躍する。
「おらよっと!」
「...」
いっちょ上がりとでも言いそうなヴァレッタを他所に八幡は窓の外の様子を見ながら、足元に鎖を出現させそれを足場に蹴り上げる。剣を空ぶったヴェレッタは体勢崩すことなくただ舌打ちをしながら、レベル5の体を用いて苦も無く着地する。二人が地面へと到着した瞬間、入口から複数人の足音が聞こえる。
「八幡!」
「無事か」
「おう...」
到着したのは突入時の半分ほどだった、おそらくその半分は拘束した構成員の処理だろう。
殺しはせず、牢屋に入れる。俺としては嫌だが、逆にそれをアリーゼたちは余り望まない。
「殺帝!」
「よぉ、正義の派閥に憲兵共。」
「何故バレて...」
「内通者だ」
『!』
「何処に」
「今はいい、目の前の敵に集中しろ」
ここでネタばらしは無茶だ。仮にやったら集中できなくなる。
何より相手はㇾベル5、ここにいる誰よりもレベルが高い。
唯一シャクティならワンチャンあるが、それでも束でかかった方が確実だ。
「おいおい、誰が一人で相手してやるって言ったよ。」
ヴァレッタがそういうと後ろの暗がりから、白装束の見慣れた構成員がゾロゾロと出てくる。面倒だなある程度は覚悟していたが、予想より多い。混戦になれば間違いなく面倒なことになる。幸い全員が戦っても広さには多少余裕がある。なら...
八幡はシャクティにアイコンタクトを行う。そして、その意味が伝わったのかシャクティもそれに頷く。
同時に敵の一人が雄たけびを挙げ開戦となった。
それと同時に俺はシャクティと入れ替わる。熟練度もレベルも俺より上だ、おそらく互角に戦ってくれるはず。ならば俺たちに出来る最善はたった一つ、他の構成員を制圧し、シャクティの支援を行うことだ。
それは、リューやアリーゼ達にも伝わっているのか。皆、それに専念している。
「たあぁぁ!」
敵の数は多く視認した端から叩かなければネズミ算式に増えていきそうだ。幸い、まだ魔法は展開中だ。”怒りの眼”によってステータスが上昇し続けているお陰だろう。
魔法円を上に複数展開することで、雨の様に鎖を降らせ。肩から脇にかけてを貫きそのまま動きを封じる。一応ヴァレッタにもおこなったが、片手間に弾かれ鎖は別の構成員の脇腹に刺さった。
俺がやった訳じゃないからセーフだよな?
混戦の中、誰もが戦闘にのみ思考を先相手を蹴散らす事しか考えていない。謂わば、最も思考が原始的になるこの局面において。あまりにも場違いな声が響く...
「やあぁぁぁ!」
それは子供の声だった。恰好は闇派閥と同じ白装束、目は見たところ虚ろで生気は感じるがまるで何かに魅入られたような印象を受けた。
「待って!」
それに真っ先に反応したのは、この戦場にて闘争に囚われていなかった者の一人、アーディだった。八幡はそれを見て何をバカなことをと思った。子供とは言え敵、手心を加えては跡がどうなるかとも思った。
「ダメだよ。子供が戦場に来ちゃ。」
しかし、突き立てられていたナイフは余りにあっさりとアーディに取り上げられ。そのまま、アーディに肩を掴まれ身動きを制限される。その時、俺はその様子を見る殺帝の顔を見逃さなかった。
狡猾に笑っていたのだ、
「フヒ...」
そして、その子供も...
八幡はその笑い方に覚えがあった。それこそ一週間近く前のあの出来事で、
その瞬間八幡の脳を最悪が過ぎった状況証拠が揃い過ぎていたのだ。少年の狂ったような笑い方、ヴァレッタの計画通りとでも言うような笑い、そして危惧されている自爆。
八幡は頭が一気に冷えるのを感じると同時に魔法を切り、アーディに方へ駆け出す。
「神様...お父さんとお母さんに会わせてください...」
「え?」
「アーディ!」
八幡は子供から背を向ける形で間に割り込みアーディを突き放した。
そして、「カチッ」という簡素な音と同時に剣戟のみが響いていた戦場に、空気が乱雑に切られ鉄の球体が内側から弾ける激しく耳障りな爆音が木霊していく。
アーディはその熱を一人の少年を隔てて感じることとなった。
「え?」
残響が響く中、アーディを含めた掃討隊は唖然とした。人はこうも簡単に命を投げられるものなのかと、そして何よりも...アリーゼ達アストレア・ファミリは、シャクティ達ガネーシャ・ファミリアは瞠目した。
「八、幡?」
名を呼ばれた少年は力なく前に倒れその体はアーディの肩に預けられている。
...背中なら滝の様に血を流し、関節のままならない木人形の様に倒れる八幡の姿に、
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皆さんお久ぶりです。遅くなって申し訳ない、内容をあーでもないこーでもないと頭のなかでシミュレーションしていたら、いつの間にか年が明けていました。本当に申し訳ない。他のも絶賛シミュレート中なので期待して待っていてもらいたい。
さて、アニメ5期?4期2クール目も始まったことですし。アニメでしゃべって動くアストレア・ファミリアを見れると考えると拙僧昂ってまいりました。新年早々幸と不幸の上がり下がりの激しさに風邪ひきそうですが、まぁ当たるまで引けば負けじゃないでしょ!(末期)
それでは次回「八幡死す」デュエルスタンバイ!
さよーならー