第1章 九節
第1章 九節
そこは人類技術の最先端....
そこは戦場の最前線...
そこは英雄が生まれる場所...
その都市の名をオラリオ。
多くの異名が伝わる世界の中心、輝かしき英雄譚が歌われ、そこで生まれる冒険者たちは多くの祝福と洗礼を受ける。住まう民達はそれを讃え、そして崇めた。下界へ降り立った神々の一部は、それを迷宮神聖譚と呼び多くの物語は下界の救済へと収束するだろうといった。
しかし...この惨状を見て、一体何人がそんな輝かしさを想像することが出来るだろうか。
建物や舗装されていた味のある街並みは燃え上がり、荒れ果て、砂地は血が滲み赤黒く踏み固められ、街中から悲しみの声や怨嗟の言が聞こえてくる。もはや、輝かしさとはかけ離れた暗く濁った空気と腐敗が立ち篭め漂う。
此処にはもはや秩序も繁栄もない...言うなれば、壊滅都市オラリオ。
しかし、秩序亡きところにも光は指す。
いいや...秩序亡き今こそ彼女たちは立ち上がる。正義の使徒として、未完の正義を貫かんが為に、その剣で人々を導く光になろうと足掻き奮い立つ。咲き誇る正華の如く。
そして、多くを託された賢者は立ち上がる。もう一度見つけた、自らの正義を胸に...かつての友に託された願いと誇りを両手に携え、その面を上げる。暗く濁った瞳で、その奥にある決意を秘めて。
アリーゼ・ローヴェル、そして彼女が率いるアストレア・ファミリアは、その夜崩壊した都市を走り続けた。より多くを救うために...これ以上取りこぼさないために...彼が言った言葉を遂行するために...
「大丈夫?立てるかしら?」
「団長、こっちの残党狩りは終わったぜ!」
「こちらも難民はもう居ません」
手を差し伸べ立ち上がるように促す。ここには数人ほどしかいないが、その脇には救えなかった者たちが多くいた。彼らをこうしたのは、撤退を宣言したにも関わらず憂さが晴れない闇派閥の構成員たちだ。アリーゼ、そしてフィンの予想に反して、邪神エレボスはあっさりと撤退を宣言した。あのまま攻め落とせばオラリオは愚かその中枢であるギルド、しまいにはおそらく彼らの一番の目標であろうバベル、即ちダンジョンの解放など、この一夜で完了してしまえるはずだというのに、それを行わなかったのはなぜか。
しかし、それでも撤退したのならば救助をする必要がある。少しでも救えるのなら手を伸ばさずにはいられないのがアリーゼという少女だ。
「ふぅ、次は何処だったかしら?」
額を伝い頬に流れる汗を拭いアリーゼ・ローヴェルは疲労を隠すようにわざとらしく息を吐き出す。しかし、隠したい相手は仲間達ではない、この隠蔽は自分自身への物だ。だがそれは元々、仲間達に気づかれないことが前提条件だ。
「待て団長」
「輝夜?」
「いい加減戻るぞ」
「まだ、回り切れてないわよ?」
輝夜は自らが危惧していたことがすでに起きていることに焦っていた。表には出ていないがアリーゼの精神はギリギリを保っている状態だ。その焦りを輝夜はおくびにも見せていないが、対処するためには一度戻り休息をとる必要がある。それからでなければ彼女の精神の回復は見込めない。
「これ以上動けばこの後に差し支える」
「ここを抑えなきゃ、都市は落ちるわ...」
「救助は他のファミリアにも要請すればいい」
「駄目よ...だって私は、私たちは八幡に救えって...」
「私たちは…救えているのでしょうか?」
「リオン?」
そして、これもまた危惧していたことだ。だが、この心配はこの抗争が始まってのものではない、彼女が正義の使徒として恩恵を受けたあの日からあった不安の種、それがこの出来事を皮切りに発芽する。
リュー・リオンは高潔で頑固、それでいて柔軟さに欠ける少女だ。アストレアに言わせれば最も精神が未熟で幼い正義、輝夜に言わせれば青く甘い。
「私は多くを救ってきたつもりでした。悪を裁き正義を貫いてきたつもりでした。ですが...ですが、救えなかった...目の前にで倒れる彼の手を掴めなかった。隣で絶望する友を見ていることしかできなかった。悪を裁いて、多くを救うのが正義だというのに、私は、何も!誰も救えていない!」
「!」
彼女の表情は今にも泣きそうな迷子の子供のようだった。信じていたものを信じられなくなり、そして答えの一部を示してくれた友は自らの甘さに絶望し、未だ立ち直れて居ない、得たはずの答えに自信が持てずただでさえ噛みきれていない物が劇物に変わったからこそ彼女はその焦りから問わずにはいられなかった。いつも自分を導いてくれる彼女に、
「アリーゼ…正義とは、秩序とは何なのですか。教えてください、アリーゼ」
「…ごめんなさい、リオン。今の私には貴方が欲してる答えを示してあげられない」
二の腕を握られたアリーゼはそう言って、私から顔を逸らした。それを見ていた仲間たちは背けたその心にある、答えを与えてあげられない申し訳なさの他に、いよいよ自らを呪う無力感が彼女の逃げていた精神に追いついてしまったのだと分かった。瞳の奥に滲んだあの光景が彼女の心を蝕んでいることも…
背けられたリオンは揺れていた心が崩れ、裏切られたわけでもないのに打ちひしがれた。いつも導いてくれた、手を引っ張ってくれた彼女が今は私と同じように膝を抱えて止まっている。だったら、私はどうすればいい、何のためにこの剣を振ればいい。
「っ!」
「リオン!」
「っ青二才め」
少女は駆け出した、逃げるように...
しかし、その実探している。自らを納得させてくれる答えを、確固たる正義の意味を...
後ろで自らを呼ぶ仲間の声に背を向け、不安感からくる涙を堪えながら闇雲に暗い街中を宛もなく、疲労を押し殺し走った。
「(本当は知っていたのではないですか?貴方なら、私が求める答えを…貴方なら正義の答えを与えてくれるのですか。)八幡…」
名を呼んだ少年は今は物言わず眠り続けている。
そんな彼の名を呼ぶ中で少女はあの日、答えを濁した瞳の奥には何処か懐かしいものを見ているような感覚と、”分からない”という回答の後に続いた間は、明らかに別の回答を持っているような感覚があった。
あれからどれほど時間がたったのだろう、この空間では空腹も感じなければ、眠たくもならない。どうやら時間という概念が存在しないらしい。暗くシンとしたままの空気が延々と流れ、俺は正座のまま畳目を数え始めるほど時間を持て余していた。以前の俺はこんな時は何をして過ごしていたのだろう。
俺がそんな物思いにふけっている間、名称不明の彼女はぶつくさと考えながら、たまに頭を抱えて「でも、プライドがなぁ~...」と言いながら酒を飲み、酔いで気分がよくなったのか「まぁ、いっかぁ!」機嫌よさげに呟いたかと思うと、「でも、頼るのあの子なのよねぇ~」とごねて、また酒を飲んでそれを自己完結する。目の前で正座して見ているが情緒不安定を疑うレベルだ。まぁ、酒を飲みながら考え込んでる時点で酒豪なことは火を見るより明らかだ。にしても、
「俺は、後どれくらい待てばいいんすか?」
「もう少し待って、私にも矜持を乗り越える覚悟がいるのよ。何より、このまま現世に戻しても、記憶がない貴方は戸惑うだけでしょ?」
そう言いながら鬼神様はドーンとでも言うように指を指す。何故俺なんかのためにそこまで…ってそれはさっき聞いたか。しかし残念ながら記憶を失っているらしい俺には心当たりがない、というより思い出せないと言う方が正しいのだろう。
まぁ、酒入りの盃片手にそんなこと言われても説得力ないんすけど...
「ん?」
「!」
俺がツッコミを口にしようとしたその時だった。目線が少し下に落ちているように感じる。思わず立ち上がってしまい、足元を見ると薄紙一枚程度ずつだが畳に沈んでいっている。彼女の領域に入ってからは進行しないと思っていたが、どうやら違うらしい。
「え、何これ?こわ」
「…不味いわ、流石に時間の問題みたい…四の五の言ってる場合じゃなさそうね」
「っ!…感触水なのに見た目畳だからなんか気持ち悪いなっ!」
「あら、仮にも私の領域よ?なんて事を言うのよ。っと、それより」
会話に耽っている暇はないと鬼神その身に淡い赤の光を纏い自らの神威を上げ、領域の強度を上げた。すると、俺は畳から弾かれ先程の沼のような畳ではなく、しっかりと感触のある畳に着地する。流石に動揺したが、それ以上に聞きたいことができた。
「あの、時間の問題って、何の話です?」
「...そうね。貴方は今死にかけている。それはさっき言ったわね?」
「はい」
「じゃあ、一つ質問するわね。貴方は生きたい?」
「...」
その言葉に俺は即答できなかった。
常識的に考えれば、死んだ人間は未練が残り、それを叶えるためにもう一度生きようと即答できるものだ。それにこんな黎明の時代に未練なく満足して死ねる人間など一握りもいない。
...だが、問題はそこでは無い。今の彼には記憶がない、それまで何に縋って生きてきたのか、何のために足掻いてきたのか、何をやり残したのか、誰に必要とされてきたのか、その全てを覚えていない。故に、彼が”生きたいか”という質問に対して返せる答えは
「分からない」
「そう...そうよねぇ~」
未練や生きる意志というのはそれまでの価値観をもとに成り立っているものがほとんどだ。欲望、願望、そして憧憬。生きる目標が志半ばで潰えるからこそ未練が残り、亡霊となってでも生きようとする。俺が記憶している未練や生きる力とはそういう物のようだ。
「そりゃ、ここじゃ無抵抗な状態にもなるわよねぇ。寧ろ、丸ごと持ってかれなかっただけほんとにファインプレーね私の抜け殻」
そういうと目の前の鬼神は盃を呷りながら畳の向こう側、即ち底の見えない水面の向こう側を静か睨んでいた。寛いでいるように見えて、考えていることは考えてくれているようだ。
神の考えを読もうなど到底考えようなど到底思わないが内容はおそらく先ほどから唸っているプライドがどうの事だろう。どっちにしろ半分死人である俺には何もできないし、何をしようとも思えない。というより思いつかないというのが正しい。何か大切なことをしていた気もするがまるで思い出せない。押してだめなら諦めろ。誰の言葉だったかは忘れたがなんとなく浮かんだ言葉だ。なんて分かりやすくて合理的な考え方だ、これを考えた人間には栄誉を与えるべきだと俺は思う。
「よし!決めた!」
「何をです?」
「次が来る前にあの娘を呼ぶわ」
「誰を呼ぶって?」
「大神に認められた不滅の聖火を」
「だから...誰のこと?」
「じゃ、まずは下準備ね。呼ぶって言ってもこっちが行くんだけど、良いわよね?まぁ、拒否権とか無いけど?」
「え?だから何、っを」
その言葉から先は続かなかった、思考や文句を上回る
衝撃が少年の服部を走ったのだ。
「…」
目の前の鬼神は無言だった。何も言わず、ごく自然な動作で俺の服部を突き刺した。いつ取りだしたのか俺の身の丈程ある大太刀を正面から土手っ腹に深々と突き刺し、終始無言のまま俺の顔を見ている。その目は先程のようにおどけた物ではなく、恐ろしい程冷静なものだった。
「あっ、あぁ…」
「大丈夫…痛みはほんの一瞬だけのはずよ。そして、これが条件1つ目」
「じょう、けん…?」
「そ、貴方をちゃんと地上に返すためには記憶を戻してあげる必要がある。生き返らせる為には手順が多々あるけど、そこは私がもうお膳立てしてあるから大丈夫。けどその前に貴方の記憶を戻してあげたい、それには条件があるの……1つ目の条件は貴方をもっと中途半端な状態にする事。精神と魂だけの存在が霊体で、今の貴方は精神の比重が下に傾いてる。なら生を実感させれば一時的とは言え精神をより強く自覚せられる。そうすれば2つの比重がより五分に近づくこれが1つ目。そして、条件2つ目。私はこの都合上ここを離れられない。そうでなくてもあそこに入れるのは今の天界ではあの神だけ。そこから先は貴方とあの娘達次第、案内役は強引に任せてあるからその後は頑張りなさい」
「ちょ!」
「じゃ、行ってらっしゃーい」
俺の腹に剣を刺したまま鬼神はニコリと笑った。
彼女のその言葉をきっかけに少年は光の柱に包まれる。それは天からの光でなく送るための足元から立ち上る光。それに包まれると共に少年は自らの精神を自覚し、見つめることで一つ見えたものがあった。それはなくした記憶、空いた穴、そこにあった筈の物がないという自覚。パズルで言う、無くしたピース。その形を少年は朧気ながらも自覚したのだ。しかし、空いた穴のおおよその形は分かっても色や角度を自覚できたわけではない。だからこそ、彼女は...女神は天界へと八幡を送った。望まれた再会が彼を呼び起こしてくれることを願って。彼が求めるものを再び与えてくれることを信じて。
少年の霊体が天へと昇る数刻前、夜明けの近くなったオラリオの一画、被害の中心から外れたアストレア・ファミリアの拠点、星屑の庭には重たい空気が立ち籠っていた。申し訳程度の明かりの中、リビングに大半の団員が集まっていた。しかし、その輪には四人足りなかった。
一人は神であるアストレアだが、彼女は現状安全な場所にいるからいないだけだ。だが、他の三名。致命的な負傷を受けていた八幡はアストレアと同じく安全な場所で療養している。そして、もう一人は家出中のリュー・リオン。
「なぁ、リオンの家出いつまで続くと思う...」
「...さぁ、な」
「リオンも問題だが...もう一人重症がいるじゃねぇか」
リュー・リオンの家出の理由が自分探しだというのなら、もう一人...アリーゼ・ローヴェルもまた自分探しのために引きこもっていると言えるだろう。
「...一個だけその両方が一発で解決する方法があるぜ」
「えぇ...一つだけ」
『八幡(ちゃん)が帰ってくれば』
彼女たちが出した結論は同じだった...彼は成していたのだ。このファミリアの柱と言う役割を
アリーゼと言う頭目を先頭に私達が鏃を果たす中で彼は
傍から見れば彼は装備の整備をしていただけだろう。だが、彼はただ真っすぐだった、動機や根幹が正しくなくとも淀み一つない彼の在り方は団長であるアリーゼも憧れた。そうでなくても彼との会話は彼女らの憂いを裁ち支えていた。冗談も、皮肉も、卑屈も、意見も、その全てが今の彼女たちに必要なものだった。
微弱な明かりの中、少女たちの乾いた笑いが響く....悲壮感が流れ、その多くは自分たちの正義を疑い自問自答し続けていた。自分たちが貫いてきた正義は正しいものだったのか、街の惨状とそのたびに浴びせられてきた住民たちの罵声がフラッシュバックする。救えなかった命の代価を求められ剰え石を投げつけられる始末だ。確かに自分たちは救えなかった。だが、その中で一つ自分たちの中に疑いが生まれる。
”自分たちは見返りや信頼を得るために人々を守ってきたのか?それは正義と言えるのか?”という疑いに嵌ってしまっているのだ。
「やはり堪えているようですわね...」
「そういうお前はどうなんだよ...極東の姫様」
「...」
「団長と同じ...いや、それ以上に堪えてんじゃねぇのか?」
「...そうかもな。今まで色々しんどい思いをしてきたつもりだったが、このしんどさは初めてだ。案外堪えるものだな。あわよくば私も団長と同じくふて寝したい気分だ」
ライラから見ても分かりやすいほど疲弊している。
これまで見てきてこいつのこんな様子は初めてだ。こうも簡単に猫が剥がれていることから良く分かる。
「そうかよ...」
「まぁ、私まで折れちゃ誰がこの団を纏めるんだって話になるからな...意地ってやつだ。意地」
「そりゃ助かるぜ」
ライラは笑った。彼女はこの状況でも笑えるほどの精神状態を保っているのだ。それでもから元気のように見えたのは自分だからだろうか、
外の薄明りだけが差し込みそれ以外の明かりのない閉鎖的な印象を受ける部屋、その扉に背中を預け膝を抱えて座り込む少女が一人。その表情は暗く、片眼には雫が一滴残っていた。
目の前で大切な人が戦っていたというのに何も出来ず、自分を慕って着いてきてくれていた仲間の信頼に応えることが出来なかった。
「考えるのそこまで得意じゃないんだけどなぁ...」
彼女はポツリと呟いた。団長として指揮を執ることはあっても自分が掲げる正義を疑ったや考えたことなどなかった。けど、問われると考えてしまう。だが考えていることはもう一つ”あの時何をするのが正しかったのか”と...私はあの時無力だった、あの時立っていた私は彼を慕うだけの無力な小娘だった。
いいや、違うあの時無力でも動くべきだったんだ。あたしが団長だからなんて自分に言い訳しなければ、少なくとも八幡は立っていられたかもしれない。
「私は...何をすればよかったの?教えてよ...八幡」
彼の名前を吐き出すとともにアリーゼは自らの膝の間に顔を埋めた。夜明けの弱い光がカーテンの隙間から彼女を照らしている。しかし、どうやら今日の天気は雨のようだ。朝の雲雀にしてはいつもより弱すぎる。
曇天が見下す中、疾風のごとく駆ける影が一つ。夜明け近い空は雲が見えるほどには明るくなってきていて、足元が多少見えやすくなってきていた。休むことなく走り続けたためか身なりは煤けて所々傷がついていた。当然だ、走れば砂埃や煤が舞い、壊れた建物や街路の破片を踏んで走ってきた。何より、あの夜から家に立ち寄ってすらいない。完全なノープランで逃げてしまったのだから当然と言えば当然なのだが。
「私は何をしているのでしょう...」
ここに来るまで、愉快犯的に市民を襲っていた闇派閥を見つけ次第撃退してきた。その際、多くの住民とすれ違ったがそのいずれもが私に対して難色もしくは侮蔑の目を向けていた。それはきっと私がエルフだからではない。私が...いいえ、私たちが冒険者だからだろう。理由など街を走っていれば嫌でも耳に入る。オラリオの一代を築いた大英雄たちは報復を果たさんと闇派閥に加担し、その原因を作ったのが今の時代を築いているファミリアだ。そして何より、私たちは期待させておいて守れなかった。後ろ指をさされて当然だ。
だが、論点はそこじゃない、私にとっての論点はそこじゃないのだ。
「私は何から逃げている?」
市民からか、それとも仲間たちからか...それとも彼がいないあの家に帰るのが怖いのか。
いや...その全て、あるいは一つ認めたくない理由があるのだろうか。
「私は何のために...!」
ボロボロの、もはやただの棒切れに成り果てた自らの獲物を握りこむ。
目の前に敵はいないというのに、憤りから力が入り、ミシミシと音を立てている。
だが、そんな自分が虚しくなり握る力が緩む...分かっている。分かっているんだ...。
「今の私を導いてくれる人は...」
私のあの一言はアリーゼを悩ませていることは分かっている。それでも、私は縋らざるを得ない。正義という自らの過去の行いに...不甲斐ないことは分かっている、依存しているということに気づいてもいる。
だが...だからこそ私は求めざるを得ない。その答えを...
うつむく彼女の背を静かに降り始めた雨が濡らしていく、当たる雨水は冷たく体温を容赦なく奪っていく。だがぞれでも、彼女はゆっくりと路地の暗がりに歩いて行った。探し物を見つけるために、彼女は亡霊のように歩みを進める。
目を開けた先にはこの世の物とは思えない美しい光景が広がっていた。
新品同然のような美しいクォーツの柱、不規則な模様だというのにそれまでも素晴らしいと思える大理石の天板、踏んでいることに罪悪感すら感じる赤いカーペット、ここはどうやらなんらかの神殿らしい。そして、柱の間から見える景色からしてこの世ではない。
そうか...ここがきっと。
「天国ってやつか?」
「違うよ」
「え?」
「はぁ、まったく丸投げにもほどがあるだろう。確かにここは天ではあるけど、極東で言うあの世ではないぜ少年」
後ろから聞こえてきた幼声に振り向くと、誰もおらず。
...気のせいかと思い軽く捻った腰を戻し、天国じゃなければここは何処なのかという思考にもど、
「下を向け下を!」
「え?」
と言われたので素直に真下を見てみると、そこには先ほど見た赤い絨毯があるだけだ。それとも屈まないと見えらいレベルの小ささなのだろうか。そんな神様もいるんだろうと腰を折ろうとすると、
「ちがーう!後ろだよ後ろ!てか、ほんの一瞬目が合ったの知ってるんだぞ!」
「あ、ばれてたんすね」
「当然さ、君が来るって押し付けられたから急いで来たんだからね」
「!」
確かに、光に包まれる中で”任せてある”と鬼神様は言っていた。
ということは彼女が、その案内役なのだろうか、にしては
「子供?」
「あぁ!言ったなあ!よりにもよって一言一句間違いなく僕の地雷をここまで綺麗に初見で踏み抜いたのはこの長い長い神生で君が始めただよ!」
「え、なんかごめんなさい」
てか無理じゃないたった二文字で一言一句間違いなしって地雷簡単すぎでしょ。もはや子供の合言葉レベルですけど。
「謝るなー!悲しくなるだろー!」
見た目もだが、ノリも子供だな...
しかし、目の前の少女はその一部を除いて少女ではなかった。背格好、声色、テンション等は明らかに子供のそれだが、その胸部装甲に関しては大人のそれ以上と言わざるを得ないレベルの物だった。すっげーんだよでっけーんだぜ!
「...何て分かりやすい子だ、まったく」
「え?」
その言葉そのまま返すと言おうと思ったが、呆れたように肩を降ろされた。
「はぁ...本題に入るけどいいかい?」
「...その前にあなたの名前を聞いてもいいですか?」
質問に質問で返すようで恐縮だが、俺はこの人を知らなければここは何処で、俺は此処で何をすればいいのか分かっていない。今の所それを教えてくれるであろう人物は目の前の少女だけだろう。
「そうだ、そういえば自己紹介がまだだったね。ごめんよ少年」
何も悪くないのに優しく謝ってくれる当たり良心的なのだろうか?
「僕の名前はヘスティア、不滅の聖火を司る神様さ。よろしくね少年」
その女神は身を焼き焦がす炎ではなく、優しい炎で慈愛を感じさせる包み込む炎のような温かさを感じさせる。彼女の名はヘスティア...大神に認められた不滅の聖火。
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大変お久しぶりです。
長らくお待たせしてしまい申し訳ない。免許取ってたら時間取れませんでした。
これからは多少ペースが上がると僕自身も信じたいところです。
それでは失礼します。