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第百四十四話 沼地

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第百四十四話 沼地

転移した先の28階層は沼地が広がっていた。

俺たちが立っているのは沼地の上に建てられた木製の通路だ。

1.5メートル幅くらいあるその木製の通路がずっと先まで続いていた。

「この通路を行けってことだよな……」

『うむ。だが、ここを通れば魔物からは狙い撃ちだろう。我らのような強者で無い限り、通り抜けるのは困難ということだ』

……ホントにこのダンジョンどうなってんだ?

ダンジョンって、みんなこんなに意地の悪い造りしてるのかな?

フェルに聞いてみたら、こういう様相のダンジョンなど皆そんなもんだろうってことだった。

『さすがにこのような沼地だけが広がる階層は珍しいがな』

ああ、やっぱそうなんだ。

これって、ドラちゃんみたいに飛べるか、それこそ船でもない限りはこの木製の通路を通るしかないもんな。

こんなの襲ってくださいって言ってるようなもんだしさ。

フェルの言うとおり魔物からは狙い撃ちだよ。

『それにしても水場か……』

フェルが嫌そうな声でそう言った。

あー、フェルってば水が苦手だもんなぁ。

『このような場所は早く通り過ぎるに限る。今夜は夜通し走るぞ』

フェルは夜通しかけてこの沼地を駆け抜けるつもりらしい。

「今はまだ夕暮れ時だから何とか見えるけど、日が落ちてからの移動って大丈夫なのか?」

今のところ完全に日が落ちてないから辺りの景色も何とか見えているけど、日が落ちて真っ暗になったら通路の先も見えないし、そんな中の移動なんて危険なんじゃ……。

『心配いらぬ、我は夜目が利くからな。暗闇での移動など 容易 ( たやす ) いことよ』

『俺も夜目は利くぞ』

フェルとドラちゃんは暗くても大丈夫みたいだな。

「でも、一晩中移動なんて体力的に大丈夫か?」

『フンッ、一晩程度でどうにかなるほど柔ではないわ』

『そうだぜ。俺は3日間飛び続けた事だってあるんだからな』

体力的にも問題ないみたいだ。

スイは夜通し起きてるなんて無理だろうから、いつもの革鞄の中にいてもらうだろ。

そう考えると一番問題ありそうなの俺じゃねぇか。

少なくとも振り落とされないようにしっかりとフェルにつかまってないとな。

こんなところで振り落とされたら、何がいるやら分からない沼にボチャンと落ちることになるからな。

『出発する前に、まずは飯だ』

『そうだぜ。腹減った』

『スイもお腹へったー』

そう言われるけど、この木製の通路に魔道コンロ出すのは無理だろうなぁ。

重さで床が抜けるぞきっと。

『早くしろ。早く飯を食って移動するのだ』

フェルは、とにかくこの水場は早く抜けたいみたいだね。

うーん、どうしよ…… ネットスーパー ( 異世界 ) の食材は食わせないって思ったけど、ここはネットスーパーの惣菜でもいいか。

夜通し走るなら気力が 漲 ( みなぎ ) ってた方がいいだろうし。

暗闇の中で魔物の相手をするにしたって、その方が安心だよな。

よし、ここはネットスーパーの惣菜でいこう。

まぁ国産和牛ステーキとか食わせなければ大丈夫だろう。

ネットスーパーを開いて目に付いた惣菜類を買っていく。

焼き鳥、から揚げ、牛肉コロッケ、シューマイ、中華春巻、酢豚、ロースカツ丼、牛カルビ丼。

肉を使った惣菜を中心に購入して皿に並べて出してやると、みんなガツガツ食い始めた。

俺の分は海鮮ちらしとサラダを購入。

最近ずっと肉ばっかりだったからな。

フェルとスイが何度かおかわりして満足したら飯タイム終了。

『それでは行くか』

『あるじー、スイ眠い』

あーやっぱりか。

お腹いっぱいだし暗くなったらスイは眠くなるよな。

スイは夕飯食ったら寝るの早いんだよ。

『スイは鞄に入って寝てろ』

『分かったー』

その言葉のあとにスイがするっと鞄の中に入る。

『お主は、我の背に乗れ。しっかりつかまっているんだぞ』

「わ、分かった」

俺はフェルの背に跨ると、しっかりつかまる。

「あ、そうだ。明かりは必要ないか?」

食事中にすっかり日も落ちて、辺りは真っ暗闇につつまれていた。

今の明かりは俺の懐中電灯のみの状態だ。

だけど、明かりが必要であればネットスーパーで購入可能だ。

確かランタン型のLEDライトとかあった気がする。

他にも懐中電灯の類は割と種類があった記憶が。

『いや、明かりはいらん。明るいと魔物をさらに呼び寄せるだけだからな』

ああ、確かにそれもそうか。

『我とお主、そしてドラには結界を張っておくぞ』

『おう、すまねぇな。そんじゃ俺は先行して邪魔な敵を蹴散らすとするわ』

『頼んだぞ』

『おう、分かったぜ』

こうして俺たちは暗闇の中の沼地に足を踏み入れた。

沼地の上に建てられた木製の通路を進む俺たちをすぐに魔物が襲ってきた。

30センチくらいのカエルとあんこうみたいな平べったい姿の魚だ。

沼地から飛び上がって俺たちに向かってくるが、フェルの結界に阻まれて弾き返されていた。

カエルの魔物のスワンプフロッグと魚の魔物のスワンプフィッシュは雑魚とのことで、そのまま放置。

いちいち雑魚はかまっていられないからね。

先行しているドラちゃんが戦ってるようで、何度か音が聞こえた。

ドロップ品が出ただろうなとは思うものの、こういう状況だからこの階でのドロップ品の回収は諦めている。

まぁ、今までの階で十分回収させてもらってるし。

この階では 階層主 ( ボス ) のドロップ品に期待したい。

途中は、先行しているドラちゃんが襲ってきた魔物は片付けてくれたし、木製の通路が途切れていたり、腐って板が抜け落ちそうになっていた箇所が何箇所もあったけど、すべてフェルが回避した。

俺たち一行は真っ暗闇の中をものすごいスピードで進んでいった。

日が昇る頃には、フェルが言うには 階層主 ( ボス ) まであと少しというところまで来ていた。

「ここら辺の通路はしっかりしてそうだし、ここで飯にするか」

『うむ、それがいいだろう』

『おー、やっと飯か』

場所が場所なだけにカセットコンロしか使えないし、すぐに出来るのがいいよな。

ここはみんなも大好きなステーキにしておくか。

ワイバーンのステーキが焼けたところで、スイも起こしてみんなに食わせていく。

朝からみんな何枚もステーキを食ってたよ。

俺は朝からステーキはちょっとキツイから別メニューだ。

黒パンにハムエッグを挟んだものとコーヒーをいただいたよ。

『夜通し走ったことで大分 階層主 ( ボス ) に近づいた。この分だと昼前には 階層主 ( ボス ) の下に着くだろう』

昼過ぎには 階層主 ( ボス ) とかち合うのか。

早いな。

『 階層主 ( ボス ) を降し、早く下の階層に行くぞ』

フェルは早く水場抜け出したいもんね。

『ああ、そうだな。夜中もよ、髭の生えたデカい魚やらヌルッとしたヘビみたいな気味悪いのが襲って来やがってよ。たいしたことはないけど、あの見た目は受け付けないわー』

ドラちゃんが嫌そうな顔でそう言った。

髭の生えたデカい魚ってナマズっぽい魔物で、ヌルッとしたヘビみたいなのってのはウナギの魔物か?

沼地を 階層主 ( ボス ) に向けて進んだことで、ドラちゃんが言っていた魔物が何なのかが分かった。

通路を進んでいると、沼からデカいナマズが大きな口を開けて俺たち目掛けて跳んできた。

「うおぉッ」

ドシュッ―――。

デカいナマズは俺たちに到達する前にドラちゃんによって胴体に風穴を開けられた。

『これだよ、これ。夜中に散々襲って来たんだぜ』

ドラちゃんの言うとおり、あれはキモいわ。

ナマズなのに鋭い歯がびっしり生えてたぜ。

『あとは、あれだよ』

そう言ったドラちゃんが見てる方を見ると、丸い口に鋭い歯が重なるように生えた、細長いヘビみたいな魔物が俺たちを襲おうと頭をもたげていた。

これもデカいな、あの見た目はウナギはウナギでもヤツメウナギっぽい感じだ。

ドシュッ―――。

ヤツメウナギの魔物も俺たちに到達する前にドラちゃんに突っ込まれて、胴が引き千切れていた。

『これも夜中に散々襲って来たんだぜ』

うん、ドラちゃんの言うとおり、あれもキモいわ。

その後もナマズとヤツメウナギの魔物は度々襲ってきたけど、ドラちゃんがことごとく撃破した。

フェルは、とにかく早く進むことを優先したみたいで手を出さなかったよ。

移動優先ってことでスイも革鞄の中にいた。

早く進んだことで、フェルの言うとおり昼前に 階層主 ( ボス ) の下へ。

『あれが 階層主 ( ボス ) だな』

フェルが前方を見つめる。

その先にいたのは……。

「あ、あれか? で、デカ過ぎないか」

おそらく観光バスに匹敵する大きさのワニがいた。

鑑定してみると……。

【 ギュスターブ 】

Sランクの魔物。

26・27階層の 階層主 ( ボス ) がSランクだったんだから当然ここもSランクだよな。

それにしても、デカい。

あんなん大丈夫なのか?

『よし、行くぞ』

『おうっ! ヒャッハーッ!!』

『スイもやるよー』

って、え、ちょっと待てっ。

俺を乗せたままだぞっ。

「お、おいっ、フェルッ! 俺を乗せたまま行くのかッ?!」

『ここに置いて行ってもいいが、魔物に襲われるぞ。それにあいつもあんな 形 ( なり ) をしてるが動きは割と速い。お前だけだと食われるぞ』

げっ……。

食われるのだけは勘弁だ。

「し、しょうがないっ。このまま行ってくれっ」

俺の声を聞いたフェルがギュスターブ目掛けて走りより、その背中に飛び乗った。

『ドラッ、こいつの皮は硬い。目を狙えッ』

『分かったぜッ』

ギュスターブが頭をもたげて頭の周りを飛ぶドラちゃんに噛み付こうとする。

ガチンッ、ガチンッと歯のぶつかる音がこちらまで聞こえてきた。

ギュスターブの背中に飛び乗ったフェルは、ギュスターブの頭を狙って風魔法を撃ち出す。

ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ―――。

「ゴォォォッ」

フェルの風魔法によってギュスターブの頭にザックリ斬り込みが入る。

『ドラッ、今だ目を狙えッ』

ドラちゃんの周りに先が尖った氷の柱が5本できた。

ドシュッ、ドシュッ、ドシュドシュドシュッ―――。

氷の柱がギュスターブの目に次々と刺さっていく。

「ゴゴォォォッ」

ギュスターブが暴れている。

俺は振り落とされないように必死にしがみついた。

「あっ、スイッ?!」

スイがスーッとギュスターブの口元に移動して、口の中に入って行ってしまった。

「ゴゴォォォーッ」

バッシャーンッ。

暴れていたギュスターブが一鳴きした後、力なく動きを止めた。

シューシューと音がすると思ったら、ギュスターブの脇腹が溶けて穴が開いていく。

その穴からピョコンとスイが出てきた。

『あのね、お腹の中でビュッビュッっていっぱいしたのー』

…………腹の中で酸弾を撃ちまくったんだね。

うん、いくら強い魔物でも腹の中までは鍛えられないもんね。

腹の中で酸弾……ある意味スイが最凶だな。

『身の内から酸で攻撃か。敵ながら哀れだな』

『腹の中で酸かよ……。スイって案外えげつねぇな』

フェルとドラちゃんが小声でそんなことを言い合っている。

ゴホンッ、君たちちょっと黙ってなさい。

「ス、スイ、よくやったぞ」

『えへへ~』

スイは褒められたのが嬉しいのか俺の胸に飛びついてくる。

ギュスターブが消えた後に残ったのは、皮とデカい魔石そして牙と背骨だった。

そのドロップ品を拾い、ギュスターブの後ろにあったこの階唯一と思われる陸に上がる。

「それじゃ、29階層行くか」

『うむ』

魔法陣に魔力を流し、俺たちは29階層へと転移した。