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第二百五十四話 黒光りしたアイツ

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第二百五十四話 黒光りしたアイツ

※ 254話の中に特大のゴキブリが出てきます。死ぬほどゴキブリが嫌いな方はご注意願います。

16階にいたのは、ムカデの魔物だ。

イシュタムの森で出会ったジャイアントセンチピードとその半分の大きさのヴェノムセンチピード。

エルランドさんの話ではこのヴェノムセンチピードは強毒持ちで、噛まれると痛みにのたうち回った後に死に至るとのことだった。

ヴェノムセンチピードはジャイアントセンチピードより小さいとはいえ、当然、日本で見るムカデとは比べ物にならないほどにデカかった。

しかしながら、フェルとドラちゃんとスイの猛攻にジャイアントセンチピードもヴェノムセンチピードも蹴散らされていった。

おかげで16階層は最初からスイスイ進んで行った。

途中、俺もちょこちょこ戦闘に参加させてもらった。

さすがにジャイアントセンチピードは無理だから、ヴェノムセンチピード目掛けてファイヤーボールを撃って攻撃したんだけど、コイツがやけにしぶといんだ。

ファイヤーボールが命中してもなかなか死なないでやんの。

それでも弱っているから、噛まれないように注意しながら近づいていってミスリルの槍を脳天に突き刺した。

そんな感じで俺は俺で少しずつレベルアップを図っていった。

最後のボス部屋も、壁や天井に張り付いたのも含めて気持ち悪いほどうじゃうじゃジャイアントセンチピードとヴェノムセンチピードがいたけど、それもフェルとドラちゃんとスイにかかればパパッと片付いてしまった。

エルランドさんはといえば、ずっとドラちゃんを見て 恍惚 ( こうこつ ) としてたよ。

あの表情はヤバかった。

さすがに近寄れないからソッとしておいたよ。

”君子危うきに近寄らず”だな、うん。

そんなこんなで16階も無事に進んで大量のドロップ品をゲットした俺たちは、蟲ゾーン最後の階の17階へと足を進めた。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「あれ? この階なんか広くなってますね」

階段を下りて17階の通路に出ると、今までの倍くらいの広さになっていた。

「そうなんですよね。ここの階から広くなっているんですよ。とは言っても、私もここのダンジョンはこの階までしか知らないのですが」

エルランドさんは確か現役時代に17階まで来たことがあるんだったな。

次の18階が厄介なアンデッド階層だっていうんで、パーティーメンバーと話し合って戻ることにしたって言ってたな。

「ここに出る魔物は蟲型の魔物の中でも最上級に危険な魔物です。気をつけてください」

ここに出る魔物は相当危険なのか、エルランドさんがいつになく真剣な顔でそう言った。

「ドラちゃんたちがいるのでそれほど心配はないでしょうが」

エルランドさんがそう付け加えて言うが、辺りをうかがうその目は鋭い。

『来たぞ』

フェルが気配を察知したのかそう声を上げた。

カサッ。

カサカサカサカサ。

黒光りした魔物が通路の床、壁、天井にびっしり張り付いていた。

ん?

あれは、まさか……。

「ぬぉぉぉぉぉぉッ!!!」

「わッ?! い、いきなり叫んだりして、どうしたんですか? ジャイアントコックローチは確かに危険な魔物ですが、ドラちゃんたちがいます! 気をしっかり持ってください!」

コックローチ……やっぱりアイツだ。

しかもデカくなってやがるなんて。

「何でこんなとこでゴキが出てくるんだよーーーッ?! あんなデカいゴキなんてあり得ないだろッ! 無理! 絶対無理ッ! 無理無理無理無理ィィィィィッ」

全長1メートル半はあろうかという超特大のゴキブリが、カサカサカサっとあの特徴のある動きでこちらに向かって来ている。

「うぉぉぉぉッ! 攻撃だッ! 殺す ( ヤル ) んだッ! あいつらを生かしておくなッ! 殲滅だーッ!!!」

『お主、うるさいぞ。言われんでも彼奴等など捻り潰してくれるわ』

『お、何かこいつノッてきたな。もちろん行ったるぜ! ヒャッハーッ!』

『スイ、あるじの言うとおりにするよー! ビュッビュッってしていっぱい倒すもんねー』

フェルとドラちゃんとスイがゴキ共に容赦なく攻撃を加えていった。

そのおかげで数分も経たずにゴキ共は一掃された。

『おい、終わったぞ』

「ムコーダさん、顔色が悪いですけど大丈夫ですか?」

「ええ……」

そう言って頷いたものの、全然大丈夫じゃない。

何で異世界に来てまでアイツ……あの憎っくきゴキと対峙せねばならんのだ。

ゴキだけはあかん、あれだけはダメなんだよ。

あれは俺が大学に入って1人暮らしを始めたばかりのころだった。

暑い夏が過ぎて、少し涼しくなり始めた 初秋 ( しょしゅう ) 。

夜寝ていると、頬の辺りに痒みを感じた。

蚊でもいるのかと無意識にパチンっと頬を叩いたんだ。

すると、グシャリと何かが潰れた感触がした。

何かと思って眠い目をこすり、枕元にあった電気スタンドを点けた。

そして明かりの下で手を開いてみると……。

グチャッと半分潰れた黒いゴキがいた。

しかも、半分潰れてるのにピクピク動いてたんだ。

それを見た俺は夜中にもかかわらず大声で叫んじまったよ。

そのことがあって以来、俺はゴキにはトラウマがな……。

アイツらに出会わないよう、アイツらの餌になりそうなものはちゃんと密閉容器に入れたり、常に部屋も清潔に保つよう心掛けていた。

それでもアイツらはどこからともなく現れる。

その時は軍手・眼鏡・マスクの完全防備のうえ、常備しているゴキ用殺虫剤で即抹殺だ。

ゴキ用殺虫剤と厳重に捨てるため専用の黒いビニール袋は常備していた。

1匹見たら100匹いると言われるほど繁殖力が強いアイツらだ。

常に気を配っている俺の部屋での繁殖はあり得ないが、外からいくらでも入ってくる恐れは十分にあった。

ゴキ用殺虫剤と黒いビニール袋はストック分も常に置いて、いざという時に備えていたくらいだ。

備えあれば憂いなしだからな。

…………ハッ、繁殖力が強いということは……。

「エルランドさん、この魔物ってもしや繁殖力が強いってことないですか?」

「お、知ってましたか。元々の個体数は少ないんですけど、どうやら繁殖の周期があるらしく、その時には爆発的に増えるんですよね。そのせいで130年前の”ラッカムの悲劇”のようなことも起こっています」

ゴクリ……”ラッカムの悲劇”って?

「その”ラッカムの悲劇”って何ですか?」

「ああ、長命種の我々の中では知ってる者も多いですが、そうでない人たちの中ではあまり知られていませんか。”ラッカムの悲劇”というのはですね……」

エルランドさんの話によると、130年前の当時クラーセン皇国にあったラッカムという中規模の街がジャイアントコックローチの大群に襲われて一夜にして滅んだそうだ。

それなりにいた街の住民が一夜にして無人となり、人っ子一人というか飼われていたであろう馬なども含めて生き物は一切残っていなかったらしい。

その後、クラーセン皇国軍と冒険者たちが大量に投入されて、ジャイアントコックローチの討伐に当たったらしいが、多大な犠牲者を出してようやく成し遂げられたそうだ。

「ジャイアントコックローチ自体、Bランクの中でも上の方の魔物ですからね。強靭な顎を持ち足にも鉤爪がある。しかも、麻痺毒の毒霧を噴射するとなれば、かなりの苦戦を強いられます。私も知り合いから聞いただけですが、かなりの激戦だったようですよ」

強靭な顎に鉤爪、毒霧まで噴射するのか。

こ、この世界のゴキ共凶悪過ぎるだろ……。

「それで、このダンジョンのジャイアントコックローチなんですが、繁殖の周期があるかまでは不明ですが卵を産んで増えているのは確実なようです。前にこのダンジョン関連の書物で読んだのですが、15階のキラーキャメルクリケットは卵の産み付け行為はするもののその卵で数を増やすわけではないようだとあったんですが、この階のジャイアントコックローチはダンジョンから湧いてくる個体のほか独自に繁殖して増えていってるようだと書いてありました。何でもその本の著者が、このダンジョンを踏破した冒険者から聞いた話ではジャイアントコックローチが卵から孵化するところを見たそうです」

ナ、ナニソレ……。

ダンジョンからも涌いて増えて、卵からも孵って増える。

増えるだけじゃねぇか。

この階にはいったいどれだけのゴキがいるんだよ?

ブルッ。

考えるだけでも恐ろしい。

「話はこれくらいにして、ドロップ品を拾って先に進みましょう」

…………ドロップ品って、あのゴキ共から出たものだよな?

「あ、あの、ドロップ品は十分あるから、この階のはいらないかなぁ、なんて……」

ドロップ品が金になるのは分かるけど、ゴキ共から出たものなんて触りたくないんだよ。

「何を言ってるんですか。先程も言った通り、ジャイアントコックローチは繁殖期でもない限り元々個体数が少ないんです。その素材は武具の良い材料にもなり、高値で取引されるのはもちろん、武具に使われるということは冒険者のためにもなるものです。これを持っていかないなんてとんでもないことですよ。それに、そんなことをしたらこの街のギルドマスターのナディヤさんに大目玉を食らいますからね」

グゥ……そう言われると。

ナディヤさんか、あの女傑は怒るとめちゃくちゃ怖そうだしな。

「ささ、もたもたしてないで早く拾っちゃいましょう。みなさんも焦れてらっしゃるようですしね」

そう言ってエルランドさんがジャイアントコックローチのドロップ品の触覚やら胸部の外殻やら鉤爪、小瓶に入った麻痺毒、数は少ないが小さい魔石も落としているので、それをせっせと拾い始めた。

『うむ。早くしろ。ほれ』

『そうだぜ。仕方ねえから俺も手伝ってやるよ』

『スイも手伝うよー』

みんながせっせとドロップ品を拾い集めて俺のところに持ってきた。

ありがたいけど……むっちゃ触りたくねぇ。

しかし、そんなことも言ってられない。

でもなぁ、素手で触るのはなぁ…………あ、確かあれがあった。

俺はBBQのときに使った軍手をアイテムボックスから取り出した。

軍手をしたけど、ゴキのドロップ品なんてやっぱりあんまり触りたくはない。

人差し指と親指で摘まみながら素早くドロップ品をアイテムボックスに収納していった。

「ふぅ~、ようやく終わった……」

ドロップ品をどうにかこうにか拾い集めて終わると、思わずそんな言葉が漏れた。

この階は俺にとって非常によろしくない。

あのデカいゴキ(俺命名デカゴキ)はいろんな意味で俺の精神をゴリゴリ削っていく。

「さて、行きましょうか」

エルランドさんがこともなげにそう言った。

「……やっぱり、行きますか」

「ん? どうしました?」

「いやね、今までの階でドロップ品も十分手に入れましたし、もう地上に戻ってもいいかなぁなんて……」

『フンッ、何を言っているのだ。ここまで来て戻るわけがなかろう。馬鹿なことを言ってないで行くぞ』

呆れたようにそう言い捨てたフェルが歩き出した。

その後にドラちゃんもスイもエルランドさんも続いた。

そうだよねー。

ハァ~、ダンジョン大好きなみんながここまで来て戻るわきゃないわな。

この後もあのデカゴキを相手にしなきゃいけないと思うと憂鬱でたまらないけど仕方がない。

俺は進んで行くみんなの後を追った。