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第三百五十話 がんばる少年少女

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第三百五十話 がんばる少年少女

7月25日(火)

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肉ダンジョン1階―――。

「何とものどかな風景だなぁ」

肉ダンジョンの1階は草原が広がっていた。

とは言っても、聞いた話によると肉ダンジョンは階層によって出てくる魔物が違うだけで全部の階層がそんな感じらしいけど。

今はフェルに乗って移動中だ。

1階には2階へ向かう転移魔法陣が4箇所あって、その1番遠い魔法陣へと向かっているところだ。

というのも、入口から近い魔法陣は下へ向かう冒険者たちで行列ができているという話を事前に聞いたからだ。

行列に並ぶくらいなら、ダンジョンの中の見学もかねて遠くても空いている魔法陣へ向かおうということになった。

フェルに乗せてもらえば、そんなに時間のかかる話でもないしね。

ここ1階に出てくるのは、ホワイトシープとビッグラビット。

ホワイトシープからは腸か肉がドロップされて、ビッグラビットからは肉か毛皮がドロップされるそうだ。

ビッグラビットの毛皮はここではいわゆる“はずれ”らしいけどな。

そこかしこでホワイトシープの群れが草を食み、ビッグラビットがピョンピョン跳んでいた。

「まんま羊と兎だな。普通のよりかはデカいけど」

ホワイトシープは普通の羊の1.5倍、ビッグラビットに至っては普通の兎の2倍くらいの大きさはありそうだ。

この階にいるホワイトシープとビッグラビットは、近づき過ぎたりちょっかいを出さなければ襲ってくることはないという話だった。

それなら動物と変わりないと思いがちだが、やはりそこは魔物、近づき過ぎたりちょっかいを出すと猛然と向かってくるそうだ。

そうは言っても普通の冒険者は、この階ではほとんど活動しない。

儲けが少ないうえに、肝心の肉もホワイトシープの肉はクセがありビッグラビットの肉は硬く、どちらもそれほど美味い肉とは言えないからだ。

冒険者の代わりにこの階で活動しているのは、孤児院の鼻たれ小僧たちだ。

中には少数だが少女も交じって、大立ち回りをしていた。

見ていると、ホワイトシープならば、端にいる1頭を気付かれないように少しずつ少しずつ群れから離れさせて孤立させたのち、あとは全員でタコ殴りにして仕留めていた。

群れを相手にするわけにはいかないし、なかなか上手いやり方だと思う。

少年少女の手にある武器はこん棒のみだっていうのに、勇ましいものだ。

そんな少年少女を脇目に転移魔法陣へと進んでいると、悲鳴が聞こえてきた。

「キャーッ!!!」

「うっ、うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

「スサナッ! ヘラルドッ!」

尻もちをついた少女とその少女を立たせようとする少年に突進するホワイトシープと、それを見ていることしかできない仲間の少年たち。

「ドラちゃん、お願いっ!」

『しょうがねぇなぁ』

一番機動性の高いドラちゃんに頼むと、渋々といった感じではあったがすぐさま飛んで行ってくれた。

そして、氷魔法を放つ。

「ンメェ……」

今まで見たものより大分小さな尖った氷の柱がホワイトシープの頭に直撃して、少年少女の手前でバタンと横に倒れる。

「おーい、大丈夫か?」

フェルの背から「よっこらせ」と降りて、少年少女たちに声をかけると、びっくりした顔のまま目をこちらに向けてきた。

「うわぁぁぁっ、で、デカい狼っ、と、ちっちゃいドラゴン!」

いち早く我に返った少年の1人がそう叫んだ。

「あ、この狼とドラゴンは俺の従魔だから気にするな」

「へ? 従魔って、おっちゃんテイマーなのか?」

お、おっちゃん…………?

お、俺は決しておじさんではないぞ、まだ20代なんだからなっ。

「そういうことだ。それとな、俺はおっちゃんじゃない。まだ20代だ。お兄さんと呼びなさい」

「何でい、おっちゃんはおっちゃんだろ?」

「少年、違うぞ。20代はまだまだ若いんだ。お兄さんだ、分かったな」

「わぁったよ」

フェルとドラちゃん、そこで笑ってない。

「あ、仲間助けてくれてありがとな、兄ちゃん!」

俺をおっさん呼ばわりしたリーダーらしき少年がそう言うと、立ち直った少年少女たちから「ありがとう!」という言葉が続いた。

ホワイトシープの体当たりで死ぬことはないけど、やられると跳ね飛ばされて打撲で2、3日は動けなくなるらしい。

当たり所が悪ければ骨折なんてこともあるらしく、助けた少年少女からは本当に助かったとお礼を言われた。

「君らも大変だなぁ」

「俺たち、いつもはけっこう上手くやってるんだぜ。今日はスサナがヘマやっちまったけど」

そう言ってリーダーの少年がスサナと呼ばれた少女を見やる。

「エヘヘ、躓いちゃった」

「ヘラルドも惚れた女助けるならもっと早く動けよな」

リーダーの少年にそう言われたヘラルド少年は「なっ」と絶句しながら顔を真っ赤にしていた。

若いっていいなぁ。

「兄ちゃん、はい。ドロップ品の肉だぞ」

リーダーの少年がさきほどのホワイトシープのドロップ品の肉を渡してきた。

「いや、いらない。俺たちの狙いは、もっと下層の肉だからな。君たちが持ってっていいぞ」

「え、いいのか?」

「ああ」

そう言うと少年少女たちから歓声が上がった。

「これで手ぶらは免れたな」

「うん。みんな楽しみにしてるからなぁ」

話を聞くと、ここで獲れた肉が食卓に上るそうだ。

孤児院の子どもたちは、毎日ここで獲れた肉を食うのを心待ちにしているようだ。

「大変だけど、俺たちのところは他の街の孤児院よりずいぶんマシだって聞いてるしな」

ま、そうだろうねぇ。

毎日肉を食えるってだけで、多分恵まれている方なんだと思う。

「でも、肉は孤児院でも食事になるけど、院長先生が他のものは売って自分のものにしていいって言ってくれてるし、やりがいもあるよな」

「ああ。お金貯めて、冒険者になるときに武器買うんだ!」

なるほど。

肉は孤児院の食事として消費されて、それ以外のドロップ品は子どもたちの自由にか。

ここの孤児院の院長先生は良心的みたいだね。

「それにしても、兄ちゃんの従魔は強いなぁ」

リーダーの少年がドラちゃんを見てそう言った。

「そのデカい狼も強そうだし」

自分よりも何倍もデカいフェルを見上げる少年。

「まぁね」

うん、主人の俺より確実に強いからね。

「テイマーって初めて見たけど、やっぱり強いんだな。俺でもなれるかな?」

「バーカ。テイマーってのは適性もあって、なかなかなれるもんじゃないんだぞ」

「そ、そんなのやってみないと分かんないだろ!」

「あー、はいはいケンカしないの」

「シッ、みんな、あれ」

急に眼付きの鋭くなったリーダーの少年が「あれ」と指を差した。

そこにいたのは普通の鶏よりも一回り大きいブロイラーぽい鶏だった。

「ワイルドチキンだっ」

「うひょー、俺たち運がいいな!」

小声でそう言いあう少年たち。

「見つからないように囲むぞ」

「「「「うん」」」」

慣れたように静かに包囲網を狭めてワイルドチキンと呼ばれた鶏を囲んでいく少年少女たち。

そして……。

「今だっ!」

ガサガサッ。

リーダーの少年の掛け声とともに飛び出す少年少女。

「オリャッ!」

「ていっ!」

「ヤァッ!」

「エイッ!」

「オラァッ!」

ドカッ、バキッ、バコッ、ボコッ、バコンッ―――。

反撃する間もなく、少年少女によってたかってこん棒でタコ殴りにされるワイルドチキン。

「コケェェェッ……」

一声鳴いたあとに絶命。

ワイルドチキンには災難だろうけど、しょうがないね。

ダンジョンだし。

「おっしゃ! 肉だ肉が出た!」

「ここはホワイトシープとビッグラビットが出るって聞いてたけど、それだけじゃないんだな」

「兄ちゃん、このワイルドチキンは2階層の魔物だぞ。ときたま、はぐれがこうして1階にも出てくるんだ。癖がなくて美味いんだぞ!」

少年少女たちが、今日はご馳走だと騒いでいた。

孤児院に持って帰ったところで、みんなで分ければ口に入るのは僅かばかりなのに、健気だねぇ。

よし、俺も少しは手助けするか。

さっきから気になっていた手に持ったこん棒。

「なぁ、君らの武器ってそのこん棒だけなのか?」

「そうだぞ。武器を買う金なんてないしね。薪に使うやつから硬くて丈夫そうなのを選んで使ってるんだ。それでも折れることはあるから、一応予備のも何本か持ってきてる」

元は薪用のかよ……。

「それ、もうちょっとマシなのにしてやるから、貸してくれないか?」

「ん? いいけど、マシなのって何かしてくれんのか?」

「ああ。もう少し硬くて握りやすくしてやるよ。と言っても、するのは俺じゃないんだけどな……。スイ、ちょっと起きてくれるか」

肩から掛けた革鞄を少しゆすってそう声をかけた。

『ん~、あるじー、なぁにー?』

ゆっくりとスイが鞄から出てきた。

「俺の従魔のスライムのスイだ」

少年少女に紹介する。

「スイはいろいろと出来てな……。スイ、このこん棒をこんな感じで握りやすくして水分を抜いて固くできるか?」

手持ちの紙にバットを書いてこんな感じでとお願いした。

『うん、それなら簡単だよー。やってみるねー』

リーダーの少年から預かったこん棒をスイに渡した。

『あるじー、できたよー』

1分とかからずに、木製のバットが出来上がった。

「おー、スイありがとな」

試しに振ってみたけど、いい感じだ。

さすがはスイ。

「ほい、これ。硬くなって、持ちやすくなったから、こん棒よりはマシになってると思うぞ」

「おお~」

リーダーの少年に渡すと、すぐさまブンブンと試しに振り回している。

「こりゃいいな! 持ちやすくなってるから、思いっきり振れるぞ! 兄ちゃん、ありがとう!」

リーダーの少年の言葉を聞いて、他の少年少女が「俺のも!」「私のも!」とワラワラと集まってくる。

「あー、みんな落ちついて。ちゃんとみんなの分やってやるから、順番にだ順番に」

スイに頼んで少年少女の分も順次バットにしていった。

「おおーっ、すげぇ! 振りやすいぜ!」

「ホントだ! これなら力いっぱい振り回せる!」

「いつも落としそうになってたけど、これなら私でもいける!」

「これなら力いっぱいぶっ叩けるな!」

少年少女たちが嬉しそうにバットを振り回している。

「これで少しは効率よく狩りができるだろう。がんばれよ!」

「「「「「ありがとう、兄ちゃん!」」」」」

俺たちは少年少女たちに見送られながら、再び転移魔法陣へと向かった。