第三百七十三話 恐怖の山登り
第三百七十三話 恐怖の山登り
朝食を済ませて、いざ山へとなったわけだけど……。
「これ、どうやって登るんだ?」
ゴツゴツとした岩肌がむき出した急斜面の山。
登山に縁のなかった俺にはこれを見たら登れる気がしないんだけど。
『フン、造作もないことよ。お前はいつものように我の背に乗っていればいい』
「まぁ、そういうことなら」
フェルが自信満々に言うから、いつもどおりフェルの背へ。
スイはもちろん革鞄の中だ。
『んじゃ、俺は先に行ってるかんな』
ドラちゃんはそう言って先に 件 ( くだん ) の洞窟へ向かうべく飛んで行った。
『我らも行くぞ』
そう言うと、フェルが勢いよく飛び出した。
「えっ、ちょ、ちょい待て……、ギャァァァァーーーッ、登るってこういうことぉぉぉぉぉっ」
フェルはフェルだった。
岩肌がむき出しの急斜面をものともせずに、平地を駆けるように猛スピードで駆け抜けていった。
………………
…………
……
「し、死ぬかと思った……」
ようやくフェルが止まったのは洞窟がある絶壁の手前だ。
『まったく、耳元で喚いてからに。うるさいぞお主』
「喚いてって、喚きたくもなるわっ」
『フン、情けないのう』
情けなくって悪うございました。
怖いものは怖いんだよ。
延々と上るジェットコースターみたいで生きた心地がしなかったんだからな。
ジェットコースターには絶対乗らない主義の俺に無理やりこんな経験させたんだから謝ってほしいくらいだぜ。
「ここまで来たのはいいけど、これはさすがに無理だろ」
目の前に立ちはだかるのは見事なまでの断崖絶壁。
麓から見るのと眼前で見るのとでは大きく違う景色に圧倒された。
『おーい、何やってんだー! ここだぞー! 早く来いよー!』
ほんのかすかな小さな粒にしか見えないドラちゃんからの念話。
『うむ、今行くぞ』
「ちょちょちょちょちょっ、今行くって、無理でしょこれは。諦めて帰ろう」
盗賊王の宝には興味あるけど、この断崖絶壁を目の前にしたら無理としか言いようがないでしょ。
『何を言っている? これだけ足場があるのだ、登るのは簡単だ』
…………は?
足場?
この断崖絶壁に?
「オイオイオイ、フェルってば目が悪いんじゃないか? この断崖絶壁のどこに足場があるってんだよ?」
『むぅ、あれほどあるだろうが。お主の目こそ節穴か?』
「えー、どこに?」
食い入るように見てもやっぱり断崖絶壁。
足場になるようなところなど皆無だ。
『ハァ、もういい。乗れ』
「エェ?」
『いいから乗れっ』
フェルの鼻先で押されて仕方なく再びフェルの背に乗った。
すると、フェルがピョンッと軽やかにジャンプした。
「え?」
10メートル近く跳び上がったところで、とても足場とは言えない小さな突起に器用に足をついてそこからさらに上へと跳び上がった。
「#$〇&♪×¥▲◎ーーー!!!」
驚き過ぎた俺の口から飛び出すのは声にならない叫び声。
そんな俺にはお構いなしで、フェルは同じようなジャンプを繰り返していく。
『やっと来たか』
ようやくたどり着いた洞窟の入り口でドラちゃんがお出迎えだ。
『待たせたな』
『おい、こいつ腑抜けた顔して、どうしたんだ?』
フェルの背の上で力なく臥せっている俺を見てドラちゃんがそう言った。
『此奴が根性なしというだけだ』
「うう……」
“フェル、それはないだろ。俺とお前らと同列に考えるなよな! 俺は普通の人間なんだからっ”
本当ならこう言いたいところだ。
でも今はそれを言葉にする気力もない。
『おい、早く降りろ』
そう言ってフェルが体を揺すった。
力の入らない俺がベシャッと落ちる。
痛い……。
もうちょっと優しくしてくれたっていいじゃないか。
「うう~……」
ああ、ダメだ動けない。
力が入らないよ。
『おーい、しっかりしろよなぁ』
『着いたのー?』
…………俺、一応お前たちの主なんだよな。
時々だけど、お前たちの俺への扱いがひどいときがあると思うんだけど。
スイちゃんも洞窟に夢中になる前に俺の心配してくれると嬉しいな。
『おい、何を腑抜けている。さっさと立て』
「う……」
そんなこと言ったって力が入らないんだって。
というか、俺の顔を踏むのはヤメレ。
『おい』
ムギュ―――。
「うぅ……、か、お、踏むな…………」
『ダメだこりゃ。こいつが復活するまでここで足止めだな』
『まったく此奴は』
『あるじー、大丈夫ー?』
全然大丈夫じゃないよ、スイちゃん。
結局俺が復活するまでには、しばしの時間を要した。
「ふぅ、やっと動けるようになってきた」
『やっとか。おい、お主のせいで時間を食ったおかげで、腹が減ったぞ』
『俺もだ』
『スイもお腹減ったー』
「俺のせいって、違うだろうが……」
『む、何か言ったか? 早く飯だ、飯』
そもそもは全部フェルのせいだろが。
あんな無茶な登り方してここまで来たお前が悪いんだからなっ。
「ぐぬぬぬぬ」
フェルのバカヤロー!
と言いたいけど、仮にも伝説の魔獣に向かっては言えない小心者の俺であった。
そんなやり取りのあと、再び急かされて飯の用意を。
作り置きしておいたピリ辛肉野菜炒めで丼を作る。
「はい、ピリ辛肉野菜炒め丼」
『お、美味そう』
『わーい』
『おい、我の分肉が少なくないか?』
「…………普通だろ」
今回も短いですが、キリのいいところだったので。
次回はいよいよ洞窟突入です。