LNCrawler

第四百十二話 ペンタグラム

とんでもスキルで異世界放浪メシ — ncode.syosetu.com · All chapters

第四百十二話 ペンタグラム

「とんでもスキルで異世界放浪メシ」スピンオフコミックが8月25日よりコミックガルドにて新連載決定です!

担当は双葉もも先生で、主役は何とスイです!

本編コミックとはまた違ったスイが見られますので是非是非よろしくお願いいたします。

固まる俺と入ってきた冒険者たち。

す、すんません。

そりゃあダンジョンの中でコンロ出して料理してたら驚くよな。

それこそ最悪の場合は生きて出てこれない命のやり取りをする場所がダンジョンなのに。

そこでのほほんと料理して食う。

改めて考えると俺たちって非常識だったわ……。

うう、何だか申し訳ない気持ちでいっぱいです。

そんな状況でも空気を読まない誰かさんが声を発する。

『おい、早くしろ』

フェルに急かされて、ハッと我に返った。

入ってきた冒険者たちもフェルの声に我に返っている。

一応「どうも」と声をかけると、向こうからも「あ、ああ」なんて返事が返ってきた。

『おい、早くくれよ~』

今度は急かすドラちゃんの念話まで入ってくる。

まったくみんな空気を読むってことしないんだから。

ま、まぁ、とりあえずは空腹のみんなに食わせないといけないか。

出来上がった食パンピロシキをそれぞれの皿に大盛に載せていった。

「はい」

フェルとドラちゃんとスイの目の前に皿を置くと、腹を空かせていたトリオは勢いよく食パンピロシキにかぶりついた。

『ウメー! さっくり香ばしいパンの中にぎっしり肉が詰まってて美味いぞ! 今ならいくらでも食えるな!』

ドラちゃんは宣言通り、トリオの中では1番の小食ではあるが(それでも俺の3倍くらいは平気で平らげるんだけど)、その小さい体のどこに入るんだと疑問に思えるくらいにパクパクと食パンピロシキを平らげている。

『うむ、肉の中の細かい野菜はいらんと思うが、これはなかなかに美味いではないか』

フェルは細かいミックスベジタブルにまでいらんとか言ってるけど、その割にはバクバク食っている。

食パンを2枚合わせた食パンピロシキ1個を一口でモシャモシャしてるし。

ってか、食うの早すぎだろ。

『おいしー!』

スイは平常通りというか、いつもと同じく食欲旺盛に次から次へと食パンピロシキを体内に取り込んでいっている。

腹が減っていたのもあってみんな減りが速いな。

大量に作ってあとは焼くだけにしてあるからいいけどさ。

勢いよく食っていくみんなを見て、俺は食パンピロシキの第2陣をオーブンで焼き始めた。

パンの焼ける香ばしい匂いが漂い始めると、冒険者ご一行の視線がビシバシと突き刺さる。

い、いや、忘れたわけじゃないんだよ。

申し訳ない気持ちももちろんあるし。

だけどさ、フェルたちの飯は疎かにはできないし。

そんなことしたら非難轟々だし、何よりこうしてダンジョンの中でも安全でいられるのはフェルとドラちゃんとスイのおかげでもあるから、飯を十分に食わせないなんてことはできないわけよ。

っとと、もうそろそろいいな。

オーブンからこんがりと焼けた食パンピロシキを取り出すと……。

グ~―――。

グゴォォォ―――。

盛大な腹の虫の大合唱。

その音の発生源を目で追うと、冒険者の一団と目が合った。

「い、いやぁ、すまんな。あんまりにも美味そうな匂いがするもんだからよ」

大柄で何とも個性的?な冒険者が頬をポリポリかきながらバツが悪そうにそう言った。

その姿は、2メートルはありそうな身長に丸太のような腕で筋肉ムキムキ、髪はボサボサの長髪でもじゃもじゃの髭を蓄えて革鎧を着て大斧を持った姿は冒険者というよりはどこかの蛮族と言ったほうがしっくりくる風体だ。

大柄な冒険者の言葉にパーティーメンバーだろう他の冒険者たちもバツが悪そうに目を逸らしながら「だよね」なんてつぶやいている。

「い、いえ、こちらこそこんなところで料理しててすみません」

「いやぁ、しかしよ、冒険者生活が長い俺でもダンジョンの中でそんなデカい魔道コンロを出して料理してるヤツは初めて見たぜ。ガッハッハッ」

そう言って大柄な冒険者が豪快に笑った。

「いやいや、噂にあったじゃん」

そう言ったのは、剣を携えた20代中ごろで180センチくらいはありそうな犬耳とフサフサの尻尾を持ったつり目イケメンの細マッチョ冒険者だ。

噂って、どんな噂だよ?

気になるな。

「えーと、あなたはフェンリルと小さいドラゴンとスライムを従魔にしたSランク冒険者のムコーダさんですよね?」

17、8歳くらいのクリッとした目がかわいいおかっぱのローブを羽織った魔法職だろう女の子がそう聞いてきたから「はい、ムコーダです」と笑顔で答える。

かわいい子には自然と笑顔になっちゃうね。

金髪でクリっとした青い瞳はフランス人形と見紛うばかりのかわいさだけど、薄い胸がちょっとばかり残念だ。

「従魔連れの冒険者は、従魔にやるにはもったいないくらいの食事をせっせと作って与えてるんだって噂にあったじゃないか、アンタ」

大柄な冒険者を肘で突きながら、20代後半くらいのこげ茶色のショートカットに日に焼けた肌がまぶしいまるでアスリートのような長身で筋肉質な体型の槍を持った美女の冒険者がそう言うと、大柄な冒険者が「ああ、そういやそういう話もあったな」と今思い出したように頷きながらそう返す。

食事をせっせと作って与えてる……、そんな噂あったんだ。

いや、間違ってないけど、間違ってないけどさぁ。

フェルもドラちゃんもスイも食いものに釣られて俺の従魔になったようなもんだからそうせざるを得ないというかさ、とにかく美味いものを出さなきゃいけないわけよ。

『おい、おかわりはまだか』

『俺もおかわり!』

『スイもおかわりー』

あっと、もう終わったのね。

俺はフェルとドラちゃんとスイの皿に食パンピロシキの追加を載せていった。

「それにしても美味そうじゃのう~」

冒険者一団の中、最後にそう声をあげたのは巨大ハンマーを背負った髭もじゃのドワーフのおっさん冒険者だ。

冒険者一団の目がトリオの皿の上の食パンピロシキに釘付けだ。

『フン、そんなにもの欲しそうに見ていたってやらんからな』

「フェ、フェルッ」

そんなこといちいち言わなくっていいんだよー、ったくも~。

「え、ええと、たいしたものじゃありませんが、いります?」

申し訳ない気持ちもあったのでそう聞くと、みんなイイ笑顔で頷いた。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「いや~、ウメェなぁ」

大柄な冒険者、アレクサンドロフさん(通称アレクさん)が4つ目の食パンピロシキを頬張りながらそう言った。

「ちょっとアンタ、少しは遠慮しなさいよ! ムコーダさん、うちの旦那がすみませんね~」

アレクさんの胸を叩いて申し訳なさそうにそう言うのは、アスリート美女冒険者のファティマさんだ。

ファティマさんの「うちの旦那」発言のとおり、アレクさんの奥さんだ。

その関係を知ったとき、本気でアレクさんに面と向かってもげろと言いたくなった。

何でこんな蛮族みたいな人にこんな美人な奥さんがいるんだよ……。

不条理極まりないと思う。

「ダンジョンでこんな美味いもんにありつけるとは思わなかったな」

そう言いながら、こちらも3つ目の食パンピロシキを頬張る犬耳つり目のイケメン細マッチョ冒険者のアクセル。

「あ、こぼれてるよ」

そう言ってアクセルの胸元に散らばる食べこぼしを取ったりと、甲斐甲斐しくアクセルの世話を焼くのはおかっぱクリ目のかわいい女の子冒険者アデルミラちゃんだ。

これを見れば誰に言われなくても分かる。

アデルミラちゃんはアクセルに惚れていることがな。

やっぱり顔かっ? 顔なのかっ?!

「これで酒があれば最高なんじゃがのう、ガハハハハハハッ」

酒と言えばドワーフ。

そう言ったのは当然ドワーフのおっさん冒険者のサムエルさんだ。

この5人は “ペンタグラム” ( 五芒星 ) というAランクの冒険者パーティーで、ここ2年はこの街を拠点にしてダンジョンに挑んできたという。

「ついこの間Aランクパーティーになってなぁ。もうそろそろ挑んでも大丈夫だと思ったんだが……」

話によると、アイアンゴーレムの欠片がどうしても欲しくて32階、33階層へと挑んだのだそうだ。

何でもサムエルさんの巨大ハンマーはアイアンゴーレムの欠片を素にした魔鉄製で、普通の魔鉄製よりも硬く頑丈で魔力のとおりが良い愛用の巨大ハンマーをことあるごとに自慢され、特に大斧を得物にするアレクさんとバスタードソードを得物にするアクセルにとっては傍で見ていてもその性能は喉から手が出るほど欲しいものだったそう。

それは他のパーティメンバーも知っていたことで、Aランクに上がったこともあって挑もうという話になった。

ストーンゴーレムについては問題もなく余裕を持って倒すことも可能になっていたため、アイアンゴーレムが相手でも遅れを取ることはないだろうというのがメンバー全員の大方の予想だった。

何よりも、ストーンゴーレムもそうだがアイアンゴーレムも動作が遅いことは調査済みだったから、いざというときは逃げの一手で対処できると思っていたということだった。

事実、ストーンゴーレムとアイアンゴーレムが混成して出てくる32階層では、ストーンゴーレムだけでなくアイアンゴーレムも3体倒して問題なく進むことができていた。

そして33階層へとやってきたわけだが……。

「アイアンゴーレムが同時に3体も4体も現れやがって、アホかってんだ」

アクセルがそう吐き捨てるように言った。

「俺たちでもさすがに3体も4体もを同時には相手にできなくてなぁ」

悔しそうにアレクさんがそう言う。

そんなわけでこの階では逃げに徹したのだという。

「ったく、結局手に入ったのは上の階で狩った3体分のアイアンゴーレムの欠片だけだもんなぁ。これじゃあ全然足りないぜ」

アイアンゴーレムの欠片でバスタードソードを新調するつもりのようだったアクセルがそう言って不貞腐れた。

「まぁ、そう腐るなって。上の階でコツコツ溜めりゃあいいってことよ。な、そうだろ」

同じくアイアンゴーレムの欠片で大斧を新調するつもりのようだったアレクさんが自分にも言い聞かせるようにそう返す。

「アンタ、そうだけどさ、その前に上の階に戻れるかが問題だよ」

「地図もこの階になるとはっきりしてませんからね……」

ファティマさんとアデルミラちゃんがそう言うと、ペンタグラムの全員がため息を吐いた。

何でも、アイアンゴーレムとの追いかけっこで上へと続く階段がある元の場所へと中々戻ることができずにいるということだった。

体感だが丸2日くらいこの階で彷徨っているらしく、食料は十分持ってきてはいるが、大分疲労が溜まり始めているところだったそうだ。

「でも、ムコーダさんの飯で大分回復したな。本当に感謝するぜ。やっぱ温かくて美味い飯を食うと違うな」

アレクさんのその言葉に同意したペンタグラムの面々からお礼の言葉が返ってくる。

食事を少し分けたくらいで手助けになったのなら良かったと思う反面、あれっと思うことが。

ここってさ……。

『なぁ、フェル。ここってこの階のボス部屋の近くだよな?』

念話でフェルにそう確認すると『うむ。此奴らまったく逆方向に来とるな』と返って来た。

やっぱり~。

言い難いけど、これ教えた方がいいんだろうなぁ。

意を決してペンタグラムの面々に話をする。

「えーと、あの、言い難いんですが……、ここボス部屋の近くですよ」

俺の言葉に全員が目を見開いたあと、ガックリと肩を落とした。

気持ちは分かるけど、ガンバレとしか言いようがないね。

ご愁傷様です。