【強い生き物】月(後編)
【強い生き物】月(後編)
その星に降り立った 僕の視点は 辺りをみまわした。 そこには 僕ら人類とさほど変わらない 文明的な暮らしがあった。 いわゆる平穏な暮らしだ。 ただ、その平穏さは 地球のものとは少し違っていた。 地球という星では 戦争、食糧、環境といった 様々な問題がありはするが その問題に直面しない限り 日々の暮らしといえば 思いのほか平穏だったりする そんな平穏さだ。 しかし、その星の平穏さは 戦争、食糧、環境といった 様々な問題が存在しない 根本的な平穏さ そんなものを感じさせた。 なぜ、戦争が存在しないのか? それは 戦争をする目的がないからだ。 戦争の目的のひとつには 相手の破壊というものがあるだろう。 ただ、彼らは 高温、高圧、放射線に 耐えうるのである。 核兵器を使ったところで 彼らを破壊することはできない。 「休眠状態」に入るだけである。 彼らの住む世界には 戦争という概念がない。 なぜ、食糧危機が存在しないのか? 戦争のない彼らの星では 地球でいうところの人口が 爆発的に増えていった。 当然、食料が足りなくなる この星でもそういうことはある。 ただ、彼らは 食料が足りなくなると 「休眠状態」に入る。 そして、食料が豊かに育つまで みんなで待つのである。 そのため 食糧危機という概念もない。 なぜ、環境問題が存在しないのか? 結論から言うと 「休眠状態」に入れるからだ。 地球でいうところの 温暖化などは大した問題ではない。 巨大な隕石が衝突しようと 氷河期になろうと問題にはならない。 「休眠状態」に入れば 何億年という長い間の危機も 乗り越えることができるのだ。 だから 環境問題という概念もない。 そして 彼らは繁栄を極めた。 そういった平穏さを 平和と呼ぶのかもしれない。 ただひとつ 不可解な点があった。 それは 危機がない時にも 休眠状態である者が存在したからだ。 それは彼らが 休眠状態という能力を 「身体」だけでなく「こころ」を 守るためにも応用させていたからだ。 彼らはもう虫ではない。 休眠状態を武器に 僕たち人類と変わらない 「こころ」を持つまでに進化した。 僕の視点は 山のように積み上がった 休眠状態の彼らを 上空から捉えていた。