パーフェクトスイート 10.5話
パーフェクトスイート 10.5話
第10.5話:大切にしたい場所
ソファの上で重なり合う身体。
指をしっかりと絡め合わせたまま、アレンは幾度も角度を変えて正宗の唇を貪り、愛おしそうにその凛とした顔立ちを撫で上げた。
「んっ……ふ、ぁ……っ」
呼吸が乱れ、正宗の胸元が激しく上下する。
アレンの大きな手が、正宗の着ているネイビーのジレのボタンへとゆっくり伸びた。
静かな部屋に、布地が擦れる微かな音が響く。
アレンは正宗の顔から視線を外さないまま、器用な指先でジレの小さなボタンを上からひとつずつ、丁寧に外していく。前が開かれたジレを肩から滑り落とすと、次は腕まくりされたグレーのドレスシャツのボタンへと指をかけた。
胸元から順番にボタンが解かれ、少しずつ正宗の引き締まった素肌が露わになっていく。
アレンの温かい手がシャツの隙間から滑り込み、熱を帯びた肌を優しく撫で上げた。胸元から首筋、そして引き締まった腰へと這う指先の心地よい刺激に、正宗の背筋に甘い痺れが駆け抜けた。
三十八歳という年齢相応に、正宗にも過去に付き合った恋人はいた。
だが、男性に身体を求められることも、ましてや男同士で肌を合わせることなど、これまでの人生で一度も経験がない。
アレンの手が、正宗の腰からスラックスのベルトやホックへと下がろうとしたその瞬間。
正宗の身体が、微かに、けれどはっきりと強張った。
キュッと肩をすくめ、息を詰める正宗。その涼しげな目元には、快感とは違う、どこか不安げで緊張した色が浮かんでいた。
「……正宗さん?」
その小さな変化を、アレンが見逃すはずもなかった。
アレンは動かす手を止め、体を少し引き上げると、正宗の表情を覗き込んだ。
耳の先まで真っ赤にし、視線を彷徨わせながら息を整えようとしている正宗。アレンは、その無防備でどこか怯えたような表情に胸をギュッと締め付けられる。
アレンは正宗の頬を優しく掌で包み込み、耳元で静かに、甘く問いかけた。
「……男性とこういうことするの……初めてですか?」
ピクッと眉を跳ねさせ、正宗は限界まで顔を真っ赤にした。
格好悪いところを見せたくないという上司としてのプライドと、愛する相手にすべてを委ねたいという衝動の間で揺れ動きながら、正宗は恥ずかしそうに目を伏せ——。
……コクッ。
と、小さく首を縦に振った。
そのあまりにも愛らしく、いじらしい反応に、アレンの心臓がど直球で撃ち抜かれる。
自分と出会うまで、正宗は他のどんな男性にも触れられたことがないのだ。
初めての相手が自分であり、今、自分の腕の中でこうして震えている。その事実が、アレンの胸を強烈な歓喜と、それ以上の深い愛おしさでいっぱいに満たしていった。
「……そっか」
アレンは愛おしさに耐えかねたように目を綻ばせると、正宗の額に、鼻先に、そして震える唇へと優しく短いキスを何度も落とした。
「大丈夫ですよ。……絶対に痛くしません。あなたが心地いいことだけ、しますから」
そう優しく囁くと、アレンはふわりと微笑んだ。
「ここでは少し狭いですから……ベッドに、行きましょう」
アレンは正宗を優しく抱き起こすと、「……寝室、あっちの奥の扉で合ってますか?」と甘く尋ねた。
正宗が顔を赤くして「あぁ……」と小さく返事をすると、アレンはそのまま彼をエスコートするように寝室へと足を踏み入れた。
広々としたベッドの上に正宗を寝かせると、アレンは正宗の警戒心を解くように、ゆっくりと時間をかけてスラックスや下着といった残りの衣服を丁寧に脱がせていった。
続いて、アレン自身も借りていたスウェットを素早く脱ぎ捨て、若く鍛え抜かれたしなやかな熱い身体を露わにする。
シーツの上で、互いの素肌が直接触れ合った。
アレンは露わになった正宗の肌に熱いキスを落とし、愛おしい宝物を扱うように、全身を優しく撫で上げていく。
やがてアレンは、「……さっきシャワーを借りた時、洗面所にあった無添加のローション、使わせてもらってもいいですか?」と耳元で甘く尋ねた。
その用途を察し、正宗が恥ずかしさで限界まで顔を赤くしてコクリと頷くと、アレンは一度立ち上がってそれを取りに向かった。
戻ってきたアレンは、とろみのあるローションを指にたっぷりと絡め、緊張する正宗の背中を抱き寄せるようにして、初めての場所へとゆっくりと指先を沈めた。
「あっ……ん、く……っ」
未知の感覚に、正宗がビクッと身を捩り、アレンの広い肩に爪を立てる。
アレンは「大丈夫、力抜いてください」と耳元で優しく囁きながら、こめかみや首筋に何度もキスを落とし、正宗が痛まないように、極限まで丁寧に時間をかけてそこを解していった。
焦らすような愛撫と、直接触れ合うアレンの体温の心地よさに、正宗の口から苦しげな声が、次第に甘い吐息へと変わっていく。
十分に準備が整ったことを確認し、アレンはゆっくりと正宗の腰を引き寄せた。
そして、自らの昂ぶりの先端を、熱を帯びた入り口へとそっとあてがう。
「っ……!」
「正宗さん、力を抜いて。ゆっくりいきますから……」
これまで知らなかった男の圧倒的な熱量と硬さに、正宗の体がビクッと震える。アレンは正宗を安心させるように、その形の良い唇を塞ぎ、甘く深いキスを落としながら、ミリ単位で自らの熱を進めていった。
半分ほどが正宗の奥へと沈み込んだところで、アレンは一度動きを止めた。
「ぁ、んっ……んぅ……っ」
「痛くないですか?」
正宗は切なげに眉を寄せ、苦しげに息を詰まらせた。未知の満たされる感覚と、内側を押し広げられる確かな圧迫感。経験したことのない重い熱に翻弄されそうになりながらも、正宗はシーツを強く握りしめ、ふるふると首を横に振った。
「大丈夫だ……っ。だから……」
正宗は自らアレンの首に腕を回し、すがるようにその背中を引き寄せた。
そのいじらしい仕草に、アレンは限界まで張り詰めていた理性の糸がちぎれそうになるのを必死に堪え、再びゆっくりと腰を進める。
そして、最も深い場所まで、余すところなくその熱を沈めきった。
「あ……ぁっ、あ、れん……っ」
「っ……、正宗さん……全部、入りました……っ」
完全に繋がった圧倒的な質量と、隙間なく満たされる感覚。
アレンは額に汗を滲ませ、熱を逃がすように荒い息を吐きながら、正宗の顔を覗き込んだ。正宗の涼しげな目元は熱で潤み、今まで見たこともないほど無防備で妖艶な色香を放っていた。
「……動いて、いい……っ、お前が……気持ち良くなるなら……」
その言葉が引き金となり、アレンの理性のタガが外れた。
アレンは正宗の腰をしっかりとホールドし、熱の奥底へと深く、正確なストロークを刻み始める。
「あっ、あ……っ!んぁっ……!」
「正宗さん……っ、すごっ……締めつけて……、気持ちいいです……!」
初めて知る強烈な快感に、正宗の身体が弓なりに跳ねる。
アレンが優しく、けれど力強く熱を打ち込むたび、正宗の口から隠しきれない甘い声が溢れ出した。部屋の中に響く水音と、交じり合う熱い吐息。
正宗の理性の壁は跡形もなく崩れ去り、ただ目の前にいる愛しい男が与えてくれる快楽と愛情の波に、身を任せて翻弄されていた。
やがて、二人の熱量が同時に限界を迎え、アレンが最も深い場所で、その熱を解き放った。
「はぁっ……ぁ、ん……っ!!」
「っ……!正宗、さん……っ」
目の前が真っ白になるほどの絶頂。
静まった部屋の中で、二人はしばらく荒い息を整えながら、すがるように強く抱き合い続けた。
数十分後。
心地よい疲労感に包まれながら、正宗は大きな掛け布団の中で、自らの胸に顔を埋めているアレンの柔らかい桃色の髪を、不器用な手つきで撫でていた。
「……痛く、なかったですか?」
アレンが上目遣いで、少しだけ心配そうに尋ねてくる。
正宗は顔を赤くし、視線を泳がせながら、ポツリと呟いた。
「……お前が、馬鹿みたいに丁寧に準備をするから……その、悪くは……なかった」
「ふふっ。本当ですか?すっごく可愛い声、出てましたよ」
「なっ、からかうな!忘れろ!」
照れ隠しに怒ろうとする正宗を、アレンは愛おしくてたまらないというように強く抱きしめ直した。
誰にも見せたことのない無防備な素顔と、初めての熱。そのすべてを自分が手に入れたのだという事実が、アレンの胸を強烈な歓喜で満たしていた。
「あなたの初めてを、ボクが全部もらえて……本当に幸せです。もう絶対、逃がしませんからね」
「……全く……バカか、お前は」
正宗は呆れたように息を吐くと、自らアレンの引き締まった肩に顔を埋めた。
その後、汗を流すために正宗が一人でバスルームへ向かった。(アレンは「一緒に入りましょうか?」と目を輝かせたが、正宗が顔を真っ赤にして全力で拒否して追い出したのだった)。
温かいシャワーを浴びながら、正宗はふうっと長く息を吐き出した。
濡れた肌には、アレンが残した赤い痕がいくつも咲いている。腰の奥には確かな熱と微かな気怠さが残っていたが、それは決して不快なものではなかった。
(……一回りも年下の男に、ここまでされるなんてな)
呆れたようにひとりごちてみるが、正宗の口元はどうしようもなく緩んでいた。
雨に濡れたアレンの絶望した顔を見た時は、胸が引き裂かれそうだった。だが今は、彼が自分に向けてくれた狂おしいほどの情熱と、どこまでも優しい愛情で、心がひたひたに満たされている。
両手で顔を覆い、正宗はシャワーの音に紛れさせるように、ポツリと呟いた。
「……あぁ、ダメだな。……怖いくらい、幸せだ」
今まで築き上げてきた完璧な係長としてのプライドも、大人の男としての意地も、すべてあいつに溶かされてしまった。だが、不思議と後悔は欠片もなかった。
シャワーを止め、軽く髪を拭いて寝室に戻ると、大きなベッドで、アレンが愛おしそうに布団の中で正宗を待っていた。
「おかえりなさい、正宗さん」
とろけるような甘い笑顔。
正宗は小さく笑みをこぼすと、もう迷うことなく、その愛しい腕の中へと戻っていった。
冷たい雨の降る夜。
しかし、深く繋がり合った互いの体温と、心を満たす確かな熱は、二人を優しく、どこまでも幸せに包み込んでいたのだった。