第13話 上の空
第13話 上の空
久愛 ( くう ) は 普段 ( ふだん ) なら 忘 ( わす ) れることのない 塾 ( じゅく ) の 日 ( ひ ) を 忘 ( わす ) れていた。(今日、 塾 ( じゅく ) だったよね。 塾 ( じゅく ) なんか 行 ( い ) ってる 場合 ( ばあい ) じゃない 気 ( き ) もするけど、 休 ( やす ) めないもんなぁ……) 久愛 ( くう ) は、 勉強 ( べんきょう ) がかなり 苦手 ( にがて ) で 嫌 ( きら ) いだった。 ただ、 洸 ( こう ) とは 違 ( ちが ) って、 国語 ( こくご ) だけは 得意 ( とくい ) 。 とりわけ 語彙力 ( ごいりょく ) に 長 ( た ) けていて、 洸 ( こう ) にも 言葉 ( ことば ) の 意味 ( いみ ) をよく 教 ( おし ) えてあげていた。「 行 ( い ) かないと、 叱 ( しか ) られるもんね……」 VR ( ブイアール ) システムを 利用 ( りよう ) した 塾 ( じゅく ) や、オンライン 個別 ( こべつ ) 指導 ( しどう ) を 利用 ( りよう ) する 生徒 ( せいと ) が 多 ( おお ) い 中 ( なか ) で、 根強 ( ねづよ ) く 残 ( のこ ) る 従来型 ( じゅうらいがた ) の「 実際 ( じっさい ) に 通 ( かよ ) う」ライブ 塾 ( じゅく ) 。 親 ( おや ) の 反対 ( はんたい ) を 押 ( お ) し 切 ( き ) って 通 ( かよ ) う 久愛 ( くう ) には、その「 実際 ( じっさい ) に 通 ( かよ ) う」ライブ 塾 ( じゅく ) に 通 ( かよ ) いたい 理由 ( りゆう ) が一つだけあったのだ。 洸 ( こう ) と 同 ( おな ) じ 塾 ( じゅく ) に 通 ( かよ ) いたい──。 塾 ( じゅく ) では 洸 ( こう ) とクラスが 異 ( こと ) なるけれど、 授業 ( じゅぎょう ) の 前後 ( ぜんご ) や、 行 ( い ) き 帰 ( かえ ) りに 会 ( あ ) えたら 話 ( はな ) せる。 家 ( いえ ) が 隣 ( となり ) で 幼馴染 ( おさななじみ ) とはいえ、 別 ( べつ ) の 中学校 ( ちゅうがっこう ) に 通 ( かよ ) うと 話 ( はな ) せる 機会 ( きかい ) は 減 ( へ ) っていた。 久愛 ( くう ) にとって 塾 ( じゅく ) は 洸 ( こう ) と 会 ( あ ) えるかもしれない 貴重 ( きちょう ) な 時間 ( じかん ) だった。(こんな 寝不足 ( ねぶそく ) の 顔 ( かお ) で 行 ( い ) きたくないなぁ……) ある 意 ( い ) 味 ( み ) 不 ( ふ ) 純 ( じゅん ) な 動 ( どう ) 機 ( き ) で 両 ( りょう ) 親 ( しん ) にお 願 ( ねが ) いした 久愛 ( くう ) は、 塾 ( じゅく ) を 欠席 ( けっせき ) したことはなかった。 皆勤 ( かいきん ) 賞 ( しょう ) だけはずっと 欠 ( か ) かさずもらっている。
「では、 本日 ( ほんじつ ) の 授業 ( じゅぎょう ) はこれで 終 ( お ) わります」「「「ありがとうございました」」」 塾 ( じゅく ) 講師 ( こうし ) と 生徒 ( せいと ) たちの 挨拶 ( あいさつ ) の 声 ( こえ ) が 響 ( ひび ) く。 同時 ( どうじ ) に、 教室 ( きょうしつ ) から 次々 ( つぎつぎ ) と 出 ( で ) ていく 生徒 ( せいと ) たち。
普段 ( ふだん ) なら 洸 ( こう ) に 会 ( あ ) えるか 気 ( き ) にかける 久愛 ( くう ) も、 終始 ( しゅうし ) 上 ( うわ ) の 空 ( そら ) だった。 いつもなら 仲 ( なか ) の 良 ( よ ) い 友達 ( ともだち ) と 行 ( こう ) 動 ( どう ) を 共 ( とも ) にしているが、 今日 ( きょう ) はひとりで 帰 ( かえ ) るつもりでいた。 バンッ! 久愛 ( くう ) がロビーを 抜 ( ぬ ) け 建物 ( たてもの ) から 出 ( で ) た 矢先 ( やさき ) 、 何者 ( なにもの ) かに 肩 ( かた ) を 小突 ( こづ ) かれる。「い、 痛 ( いた ) っ。えっ?」「 久愛 ( くう ) ! 元気 ( げんき ) ?」