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第129話 下級吸血鬼と魔物部屋

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第129話 下級吸血鬼と魔物部屋

仕方がない。豚肉だ。

そう思って俺は魔法の袋からマルトホオノキの葉で包まれた豚肉……もとい、 豚鬼 《 オーク 》 の肉を取り出してぶん投げた。

鼠がダメなら豚肉でどうだという至極単純な作戦であったが、 豚鬼 《 オーク 》 肉は人間のみならず、魔物にとってもそれなりにごちそうのようだ。

鼻先を掠めて飛んでいく 豚鬼 《 オーク 》 肉の匂いを、すん、と嗅ぎ、一瞬、 森魔狼 ( フォレスト・ウルフ ) の注意が削がれた。

俺はその隙を狙い、地面を蹴る。

剣を振り上げて、今度は一撃で倒すべく強めに剣に魔力を込めた。

切り落とすなら、魔力の方が俺はやりやすい。

ただ、それなりに消費魔力が多くなるので、普段は節約気味だが、ここは少し節約精神には引っ込んでおいてもらおう。

どうしようもなくなったら帰ればいいのだから別にいい。

俺が 森魔狼 ( フォレスト・ウルフ ) たちの隙を狙っていることに気づいたのか、リーダー格の 森魔狼 ( フォレスト・ウルフ ) が、うぉんと三度吠える。

肉なんかに気を取られるなというわけだ。

自分もよだれを垂らしているくせに酷い奴である。

そんなにうまいのか、 豚鬼 《 オーク 》 肉。まぁ、うまいんだが。

ただ、警戒を促すのが遅かったな。

森魔狼 ( フォレスト・ウルフ ) たちの注意が俺に戻った時、すでに俺の剣は一匹の 森魔狼 ( フォレスト・ウルフ ) の首筋に食い込んでいた。

抵抗が強いな……。

やはり、耐久力が上層の魔物とは明らかに異なる。

ゴブリンや 通常豚鬼 ( ノーマル・オーク ) 程度であれば、これだけ魔力を込めればさっくり切れているところだ。

しかし、だからと言って切れないという訳でもない。

少しの魔力と技だけで乗り切れる甘い階層はもう、終わったと言うだけだ。

腕に力を込め、魔力も研ぎ澄ませていく。

すると、重く、固かった 森魔狼 ( フォレスト・ウルフ ) の肉がずずず、と切れていった。

刃は肉の中を抜け、するりとすべて抜けると、 森魔狼 ( フォレスト・ウルフ ) の首は地面に落ちる。

しかし、魔物の生命力はそれだけで絶命したりはしないのだ。

首がごろごろと転がりながらこちらを見ている。

体の方も、震えながら立っていたが、流石に首と体を切り離されて長い間生きていられるという訳でもないようだ。

数秒の後、どちらも全く動かなくなって、目を閉じ、また倒れたのだった。

――これで、一匹。

まだ残りは四匹いる。

戦いは全く終わったわけではないが、先ほどよりはずっと楽になった。

森魔狼 ( フォレスト・ウルフ ) 、彼らの戦いは、五匹で連携をとることを前提に組み上げられているらしかったからだ。

なぜそんなことが分かるかと言えば、今でも間断なく 森魔狼 ( フォレスト・ウルフ ) たちは俺に向かってきてはいるものの、タイミングの取り方に乱れが見えるのだ。

ほとんど隙が見えなかった先ほどまでと比べると、付け入るのは容易に見えた。

実際、攻撃と攻撃の間に僅かに空いた隙を狙って突っ込んだ俺に、 森魔狼 ( フォレスト・ウルフ ) たちは虚を突かれたように動けずに、またリーダー格の 森魔狼 《 フォレスト・ウルフ 》 はぎりりと歯ぎしりし、自分が向かって来た。

――ここで決める。

そう思った俺は、リーダー格の 森魔狼 ( フォレスト・ウルフ ) の首を狙って強く魔力を剣に込める。

ここで引かれて体勢を整えられると、今は存在している隙すら埋められそうな気がしたからだ。

五匹から四匹になり、リズムがとれていない今こそが最大のチャンスだった。

向こうにとっては、俺がそう思って突っ込んできている状況こそがチャンスなのかもしれない。

もう一度下がれば、俺は俺で防御を主体にして戦い始めるだろうからな。

そうなると、決着がつくのは時間がかかるだろう。

森魔狼 ( フォレスト・ウルフ ) はどちらかと言えば瞬発力が武器の魔物であり、スタミナはそれほどではない。

もちろん、普通の動物と比べれば段違いなのだが、それでも魔力を持つ冒険者と何十分、何時間と戦い続けられるほどではないのだ。

つまり、ここで決着をつけなければ早晩、勝敗が決まってしまうのはむしろ向こうの方なのだ。

さぁ、やるぞ。

俺は剣を振りかぶり、リーダー格の 森魔狼 ( フォレスト・ウルフ ) に向かって振り下ろす。

森魔狼 ( フォレスト・ウルフ ) の方も、体に魔力を取り入れ、僅かに毛皮が緑に光り出している。

本気という訳だ。

いや、今の今まで使ってこなかったことを考えると、切り札かもしれない。

威圧感が増している。

リーダーとしての矜持が、その 森魔狼 ( フォレスト・ウルフ ) をより大きく見せていた。

けれど、俺とてこんなところで負けるわけにはいかないのだ。

まだ銅級、登るべき坂はまだまだある。

これくらいの敵、鼻歌を歌うように簡単に倒せなければならない……。

そう強く心に思って力を込めた剣は、 森魔狼 ( フォレスト・ウルフ ) の首筋に強く食い込む。

抵抗が最初に倒した 森魔狼 ( フォレスト・ウルフ ) のときほどではないのは、魔力をそのときよりも五割増しで込めているからだ。

流石に、リーダー格の魔物を、同じだけの力で倒せるとは思っていない。

その判断は功を奏し、剣はするりと 森魔狼 ( フォレスト・ウルフ ) の首筋を抜けていった。

首が、落ちる。

――勝った……。

そう思った瞬間、落ちていく首、 森魔狼 ( フォレスト・ウルフ ) の口から、緑に輝く刃が、ふおん、と放たれ、俺に飛んでできた。

やばっ!

と思い、慌てて体を捻るも、風の刃は俺の頬を掠めて通り過ぎていく。

背後からごごごん、という何かが崩れるような音がし、振り返ってみるとそこには幹を切り落とされた大木の姿があった。

まだ生きていた。

最初の 森魔狼 ( フォレスト・ウルフ ) のことを考えれば、それくらい考えておくべきだった。

しかし、流石に魔術を放つとは……。

今はもう完全に沈黙しており、最後の一撃だったと察せられるが、もう油断はしない。

まだ生き残っている三匹も、絶命を確認するまでは気を緩めてはならない、と心を改めて俺は向かう。

と言っても、リーダー格を失った 森魔狼 ( フォレスト・ウルフ ) の動きは読みやすく、連携などあったものではなかった。

ただただ、俺に噛み付くべく直線的に向かってくる彼ら。

向かってくる順番に切り付け、倒していくのは容易であり、先ほどまでとは難易度がまるで違う。

結局、すべての 森魔狼 ( フォレスト・ウルフ ) を倒すのにはほんの数分しかかからず、あのリーダー格の 森魔狼 ( フォレスト・ウルフ ) と、群れをなした 森魔狼 ( フォレスト・ウルフ ) こそが恐ろしかったのだと理解して、戦いは終わりを迎えたのだった。

◇◆◇◆◇

森魔狼 ( フォレスト・ウルフ ) で使える素材は、魔石はもちろんだが、それ以外に毛皮がある。

生きているときは、体に取り入れた魔力によって限界まで耐久力が強化され、鋭い剣で切り付けても傷がつくかどうか、といった堅固さを見せる 森魔狼 ( フォレスト・ウルフ ) の毛皮であるが、絶命した後に触れてみるとその意外な柔らかさに驚く。

ふわりとして触り心地が良く、寄りかかってみても包み込むような温かさが眠気を誘う。

主にコートや敷物としての需要が高く、結構な値段で売れるため、しっかりと剥いで持っていきたい。

武器や防具にはならないが……貴重な収入源である。

爪や牙は工具などの材料として使えるため、これも確保だ。

毛皮はともかく、それ以外はあまり嵩張らないのでありがたい素材であった。

あらかた素材を取り終えると、余った部分は穴を軽く掘ってそこに埋めておく。

そのまま放置でもいいのだが、流石に下層に降りる階段の前でそれをやってしまうと下から上がって来た冒険者や、ここにやってきた冒険者たちのために良くない。

階段を上ったらそこはモンスターハウスでした、というのは笑えないのである。

あたりに充満する血の匂いは上に向かって風の魔術をエーデルに使ってもらい、適度に散らしておく。

あとは染み込んだ血液や散らばってる肉片などだが、流石にこれはどうしようもない。

まぁ、これくらいで数十匹も魔物が寄ってきたりはしないだろう。

十匹くらいならありえそうだが、下層に降りられる冒険者なら十分注意して上に上がってくるだろうし、それだけ沢山魔物がいたら遠くからも見えるから、倒せそうもない冒険者なら帰るはずだ。

問題ない。

俺もこれから四階層に降りるわけだが、ここのことはしっかりと覚えておかないとな……。

自分で作った弱モンスターハウスになりかけの場所を忘れて飛び込み死にましたというのは流石にあほすぎる。

三階層はモンスターハウス、三階層はモンスターハウス、三階層はモンスターハウス。

よし、三回唱えたな。

そう思った俺は、ぶつぶつとまた呟きながら、四階層に続く階段をゆっくりと降りていった。