ペットと新居
ペットと新居
宿に戻ったアープショーとフェンリースは、その後、2日ほどほとんどの時間を部屋の中ですごしていた。 その部屋の中……「……た、確かに好きにしろと、申しましたけど……もぅ……」 ベッドの上で、少しすねたような表情をするフェンリース。「嫌な思いをさせたのなら謝るよ」「……いえ……むしろ嬉しい、と、申しますか……」 アープショーの言葉に、真っ赤になったフェンリースは、改めてアープショーの首へとその手を回していく。 そのまま2人は再び体を重ね合っていったのだった。 この時のアープショーは、魔法で変えている姿を解除し、本当の姿をフェンリースへと見せていた。 フェンリースは、「そこまで私を信用してくださるというのですか……」 そう言ながら、感動しきりなのであった。 結局2人は、食事以外ではほとんど部屋の外に出ることなく、その大半の時間をベッドですごしていた。 5日目の朝 ようやく2人は、連れ立って街へと出向いていった。 情報収集と仕事探しを兼ねて、冒険者組合へと向かう2人。 そんな2人が冒険者組合へ入っていくと、組合の中は、異様なざわつきに包まれていた。 皆、大きな声では話をしてはいないのだが、勇者の軍勢が壊滅したらしいとの噂でもちきりだったのである。 この話は、その行軍の参加者で生き残った者達全員に対して緘口令が敷かれたそうなのだが、人の口はそうそう塞げるものではない。「……まぁ、あの金髪の勇者では、当然の結果でしょう」「そう思うかい?」「はい。あの金髪の勇者は力を少しは有しておりましたが、勇もなく覇気もない。虚栄と虚構、見栄・プライド……そのようなものしか感じませんでした」 そう言うと、フェンリースは、チラっとアープショーを見上げる。 すると、少し頬を染め、顔を横に向ける。「……私と対峙した時のご主人様のお姿には、遠く及びません」 その様子に、アープショーはくすりとほほ笑むと「そう言ってもらえるのは光栄だけど、僕のことは「旦那様」にしてくれってお願いしたでしょ?」「…………」 アープショーの言葉に、フェンリースは真っ赤になりながらうつむいていたのだった。 フェンリースと名乗った場合、魔王の配下にばれる可能性や、人間にも彼女の名を知るものがいるかもしれないことを考慮し、彼女の冒険者の登録名をリースとし、呼び名もそうすることとした2人。 手始めに、何か仕事でも、と思って掲示板に移動しようとしたところで「緊急募集です! 街の北方に大量発生している 狂乱熊 ( サイコベア ) の大群の討伐をお願いします! 1匹あたりの討伐報酬が、今回に限り3倍になります!」 受付の女性が、声を張り上げたのだった。 組合の中に、一時歓声があがったものの、すぐにそれは水が引くように消えていく。 ……おい、あの依頼って、勇者一行が壊滅させられた、アレじゃねぇのか? ……俺もそう思う……報酬は良いが割にあわねぇんじゃねぇの? 組合の中には、そういったボソボソ相談し合う声が蔓延していった。 事実、この討伐依頼は、彼らが噂しあっていた通り、勇者一行を壊滅させた集団の討伐依頼なのであった。 勇者一行を壊滅させたことに味をしめた 狂乱熊 ( サイコベア ) らが、街の北方にある農村地帯を襲い始めており、被害が甚大になり始めていたのであった。……こういう時のための勇者様じゃないの?……なんでも、城に戻ったらすぐに南に旅立ったらしいぞ……魔王どころか、獣から逃げ出したっていうのか、おい…… 組合の中の声を聞きながら、アープショーは、建物の外へと出ていった。「いい稼ぎにもなりそうだし、ちょっと行ってみようか?」「 狂乱熊 ( サイコベア ) ごとき、ご主……だ、だ、だ、旦那様のお手を煩わせることもございません。私が狩ってまいります」「僕も魔法を試してみたいし、それに奥さんだけを戦わせるような真似はしたくないから」「お……奥さ!?」 不意に投げかけられた一言に、リースは瞬時に体中が熱くなるのを感じていた。「……僕の妻では、駄目だったかな?」「……い、いえ……あの……はい……むしろ、光栄といいますか、うれしいといいますか……」 リースはゆでだこのように、顔を真っ赤にしながら、小さく頷くのがやっとだった。 その後、街の武具屋へ向かった2人。 リースは、武具など無くても、俊敏性と殴打力だけで十分戦えると言っていたのだが、一応それなりの姿をしておかないと、後で他の冒険者達から怪しまれないとも限らない。 リースは、軽装のレンジャー風の出達にまとめ、武器はショートソードを選択した。 アープショーは、それまでの魔法使いの姿から、魔法剣士風に改め、簡易なロングソードを背負う恰好となる。「それと……大したものじゃなくて申し訳ないんだけど……」 そう言いながら、アープショーは、速さのスキルが付与された指輪を、リースの左手の薬指へとはめていった。「この程度の加護など無くても、私は問題にしませんが?」 左手にはめられた指輪を怪訝そうな表情で見つめるリース。 そんなリースに、アープショーは「人族には、結婚の証としてお互いの左手の薬指に、夫婦で同じ指輪をはめる風習みたいなものがあるんだよ」 そう笑いながら、アープショーは自分の左手の薬指にも同じ指輪がはまっているのを、リースへと見せていった。「そうなんですか? へぇ……って……結婚の……あか……あか……はぁ!?」 その言葉の意味をようやく理解したリースは、その顔を瞬時に真っ赤にし、店のど真ん中で、素っ頓狂な声を上げていった。 その声に、周囲の客らが、なんだなんだ? と、怪訝そうな表情を浮かべながら集まってくる。 その場を「お騒がせしてすいません」と、謝罪しながら抜けていく2人。 そんな中、リースはアープショーからはめて貰った指輪を嬉しそうに見つめながら、アープショーにぴったりと寄り添って店を出て行ったのであった。 その足で北へと向かった2人は、すぐに出くわした 狂乱熊 ( サイコベア ) を瞬殺した。 アープショーが、重力場を展開すると、リースに放った際よりも相当に微弱な段階で、 狂乱熊 ( サイコベア ) は地面に突っ伏し、全身の骨が砕けて絶命した。 その後、少し進んだ先にあった無人の民家を中心にして、周囲の畑跡や林の中に生息していた 狂乱熊 ( サイコベア ) を次々に討伐していく2人。 半日ほどで、20頭近くを倒した2人は、街へ運ぶ手間を考えてここで一度狩りを打ち切った。 そんな狩りの最中で、1匹奇妙な行動をとった 狂乱熊 ( サイコベア ) がいた。 どうも、アープショーとリースに勝ち目がないのを即座に悟ったらしく、その場に、自ら仰向けに寝転がり、降参の意思表示をしてきたのである。「……ある意味、潔いですね」 リースが、敵意のない相手を殺すのは忍びないと言ったこともあって、アープショーはその 狂乱熊 ( サイコベア ) を自分たちのペットにすることにした。 調教師のスキルを発動し、 狂乱熊 ( サイコベア ) を支配化登録し、念のために、 ・凶暴化禁止 ・命令絶対服従 などの魔法を施し、街中でも一緒に行動できるように手をうった。 ただ、熊の姿のままで……となると何かと問題もあるなぁ、と考えた結果、大型のオーバーオールを魔法で作成し、それを着せることで、さも 熊人 ( ベアピープル ) っぽくしてみた。 名前は、2人で考えた結果、サベアとしたのだった。 無人の民家は、誰も住んでないのか夕方まで待ってみても誰も戻ってこなかったため、その日はここで一泊することにした2人。 サベアを連れて宿で一泊と言うわけにもいかないための措置でもあった。 家の周囲には防御魔法を展開しておいたのだが、翌朝2人が目覚めてみると、17匹もの 狂乱熊 ( サイコベア ) が罠にかかって死んでいたのだった。 アープショーは、森の木を魔法で組み合わせて、大きな荷馬車を作成すると、昨日狩った獲物と、今朝罠にかかった 狂乱熊 ( サイコベア ) を積込み、サベアに引かせて街へと向かった。 あまりにも頭数が多いため、重力軽減の魔法などを展開したため、サベアはご機嫌で荷馬車を引いていったのだった。 冒険者組合に到着すると、荷馬車の周囲にすごい人だかりが出来ていった。「……こんな数の 狂乱熊 ( サイコベア ) を……お、お2人で狩られたのですか?」 受付の女性に、ニッコリほほ笑みながら「少々魔法が得意なもので」 と、ほほ笑むアープショー。 今回の成果だけで、かなりの儲けを手にしたアープショーは、「そう言えば、北の森のあたりに無人の民家がいくつかあったのですが、あのあたりの家の所有権とかはどうなっているんです?」 と、受付の女性に聞いてみる。「あのあたりは、今回の 狂乱熊 ( サイコベア ) 騒動で集落全員が逃げ出していますから、多分、その方々の物ではないかと思われます」「あのあたりを拠点にして、北の獣狩りをしたいと思っているのですが、あの民家を買い上げる……なんてことは可能ですかね?」「そうですね……少し調べてみましょう。 あのあたりを、あなた方のような強力な冒険者が拠点としてくださると、組合としても非常にありがたいですので!」 そう言うと、受付の女性は大急ぎで役場の方へと駆けていった。 組合の食堂で食事をした後、冒険者らと雑談をしつつサベアの相手をしていると、受付の女性が結構な勢いで走って戻って来た。「役場で確認しましたところ、すでに放棄の手続きがなされていましたので、アープショーさん名義で登録させていただいてきました。登録料は組合がサービスさせていただきますので、今後のご活躍をよろしくお願いします!」 そう言って、満面の笑みを浮かべていったのだった。 組合としても、勇者一行ですらかなわなかった 狂乱熊 ( サイコベア ) が集団で住んでいる地域に居を構え、なおかつ、それを排除出来るだけの実力を兼ね備えた2人からの申し出だけに、気が変わらないうちに即決してもらおう、と、必死だったのである。「じゃあ、新居に必要そうな物を買ってから帰ろうか」 アープショーの言葉に、笑顔で頷くリースだった。