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オーク討伐

Witch Craft Guardian~ヒーローを夢見た男が転生して魔女の護り手になるお話~ — novelup.plus · All chapters

オーク討伐

林道から外れて奥へ入り、少し進んだ場所の先から焦げた匂いが漂ってくる。木々に身を隠しながら観察すると、崖の下、開けた低地でオークとゴブリンがなにかの肉、恐らくは村からさらった牛を焼いているのが見えた。 クロエによると、火を使う程度の知恵はあるらしい。また、見張り役なのかいくつかの岩の上にはゴブリンが立っているのが見える。あちらからは、高台と木々に紛れてこちらの姿はまだ見えないだろう。 ゴブリンとオークは殺しあうことも協力しあうこともあるらしい。今回のパターンは、協力しあっている群れのようだ。恐らくはリーダーであるオークとその取り巻きが合計で三匹いて肉を喰らい、その周りで十匹程度のゴブリンが余りの肉を喰っている。 二人で討伐する規模としては、そこそこ大きい。さらわれた人間がいないのは幸いだ。「どうする、クロエ?」 この場合はやるかやらないかではなく、どれを最初に狙うかの問いだ。リーダーを狙うのか、その取り巻きを狙うのか、見張りを狙うのか。広域攻撃の手段は持ちあわせていないので、雑魚を一気に殲滅という選択肢はない。「私はリーダー格を狙うのがいいと思う。振る舞いを見ていると、あの群れはある程度統率されているわ。だからこそ頭を叩けば私の呪術もあって混乱するはず」「そうだな、俺もそう思う。ならクロエが呪術を仕掛けた瞬間に俺が撃つ。その後は位置がばれたら俺が突撃、クロエは木々に隠れながら援護してくれ。もしクロエが見つかって危なくなったら、俺の方へ来てくれ。援護するから合流しよう。もしもクロエが直接来られないなら、ヴェルが伝達役を頼むぞ」「了解」 クロエとヴェルが頷いたのを確認して、弓を展開する。急ぎの時は出っ張りを押せば一瞬で展開できるが、今のようなときは引っかかっている金具を外すだけで静かに弓の形へ戻せる。 そうして力をこめると魔力の弦と矢が形成される。 試し撃ちして気付いたが、この矢は風や重力の影響を受けない。長弓というよりは、クロスボウに近い軌道を描く。曲射は難しいが、その分狙った場所へ着弾させやすい。 くくっと弦を引く。狙いは中央で牛の頭へかぶりついている、一際大きなオークだ。 クロエの方を見ると、もう一度頷いて杖を掲げる。「月光の水よ、夢へ誘え」 クロエから魔力が放出され、群れの辺りを包み込む。変わらず肉を食べているように見えるが、どこかその動きは鈍い。子供が眠いけど食事をしているような、そんな動きだ。 例に漏れず、リーダー格のオークも朦朧とした動きで頭を振る。その顔がちょうどこちら側を向いた瞬間、矢を放つ。「グルァァアアアアアアアッ!」 真っ直ぐ射出された矢は、狙い違わずリーダー格の右目へ深々と突き刺さる。「うっそだろおい!」 だが、予想とは違って息絶えず、右目を押さえながら怒りの咆吼を響かせてこちらを向いて棍棒を振り回す。とんでもない生命力だ。「もう場所がばれた! クロエ、さっきの打ち合わせ通りで頼む!」「気をつけてね、トーヤ!」 クロエの言葉を背に受けながら崖を駆け下りる。そうしながら一射、二射、矢を放ってゴブリンを仕留める。 だが、崖から降り立った瞬間、首筋に殺気を感じて身を屈める。「くおっ!」 見張りのゴブリンから放たれた矢をかわし、お返しとばかりに撃ち返す。横っ飛びになりながら撃った矢はゴブリンの胴体を貫き、絶命の叫びを上げさせる。 もう一匹、雄叫びを上げながら向かってきたゴブリンを撃ち殺す。だが、距離の有利はそこまでだ。もう矢をつがえている暇はない。弓を放り投げて刀を抜き放つ。 踏み込んで迎撃しようとして、思いとどまる。ゴブリンが妙に輪を広げて、俺を中央へ誘導しようとしている。目線だけを動かすと、三匹のオークが三角の位置を保ちながらこちらを睨んでいるのが見える。 罠という概念があるのかどうかは分からないが、自分たちの有利な場所へ引き込もうとする知性はある。 足を止めた俺に焦れたのか、向かってきた一匹を斬り捨てる。崩れ落ちた死体を全力で蹴飛ばし、奥で待ち構えているオークへと射出する。「グアアアアッ!」 あからさまな挑発だが、それでもオークには堪えられなかったらしい。周りのゴブリンを弾き飛ばしながら、三匹同時に向かってくる。この辺りはやはり人間よりは単純なようだ。 だが、それでも三匹はそれぞれわずかにタイミングをずらして俺を攻撃してくる。 正面を受ければ左右のどちらか。左を止めれば正面と右。右を防げば正面と左。オークなりの必殺の陣なのだろう。 まともに受ければただではすまない。 しかし――「ゴアッ!?」 目に見えて棍棒の速度が遅くなり、オークが戸惑いとも聞こえる呻きを漏らす。クロエの呪術が放たれたに違いない。 その隙に右側のオークを斬りつけ、腕を飛ばす。そのままさらに右側へ周り、正面にいたオークの脚を斬る。俺の弓で右目を潰されているリーダー格は、その動きに反応できない。「ブギイイイイイッ!」 そこへ左側のオークが突進してくる。上段から振り下ろされる棍棒を無理には受けず、刀身を使って斜めへ受け流す。「ブゴゴッ!?」 体勢を崩したオークに向かって回転しながら斬撃を放つ。煌めく刃が胴体に吸い込まれ、手応えと共に抜けていく。「ゴオオオオオオオッ!」 だが、三匹のうちどのオークも倒れない。腕を飛ばしたオークは転がった自分の手から棍棒をむしり取り、脚を斬ったリーダー格は普通に立って棍棒を振り下ろしてくる。胴体を斬ったオークはゴブリンならとっくに死んでいる深手だが、再度こちらに突進してきている。 矢を当てたときから思っていたが、なんという生命力だ。もしかしたら、痛覚も鈍いのかもしれない。 となれば、無力化するのは即死攻撃しかない。しかし対複数で心臓への刺突は危険だ。 で、あるならば――「ゴアッ、ゴアアアアアアアアアアッ!」 叫びと共に棍棒が横薙ぎに振るわれ、下がってかわす。また呪術が放たれたのか、残り二匹の動きが鈍る。「ブギイイイイイイイッ!」 よほど苛立ったのか、先頭のオークが喚きながら棍棒を振り下ろす。そして、その動きを待っていた。俺より頭二つ分は背が高いオークの首を斬るには、屈ませるしかない。「でええええいっ!」 オークの喚きに負けない声を張り上げ、刀を下から斜め上へ斬り上げる。肉と骨を断つ感触と共に、刃が振り抜かれる。 声もなく倒れたオークを見て、もう一匹の動きが一瞬だけ停止する。その瞬間、跳ねるように前進して飛び上がりながら横薙ぎの斬撃を放つ。「ピ……ギッ!」 短い悲鳴と共に、同じように首と胴が別れを告げる。二体の断面から噴水のように赤黒い血が噴き出し、それを吹き飛ばすような勢いでリーダー格の棍棒が叩きつけられる。「グルッ! グオッ! グガッ!」 続けざまに叩きつけられる棍棒はしかし地面を吹き飛ばすだけだ。当たればただでは済まないだろうが、当たらなければどうということはない。「ブモオオオオオオオオオオッ!」 苛立ちの呻きと共に両手で棍棒を持ち、俺の脳天へ全力で振り下ろす。だが、大振りすぎてかすりもしない。右側へ回り込んだ俺は屈んでリーダー格の両脚を切り落とす。「グゴオオオオオッ!」 強制的に膝をつかせたオークの頭は、ちょうど俺の胸辺りの位置になる。そこから今度は俺が最上段から刀を振り下ろす。 だん、と肉を斬る感触が伝わってくる。リーダー格の頭が地面へ落ち、転がっていく。 オークは倒した。だが、まだ終わりではない。ゴブリンたちがいる。 そう思って周りを見渡すと、すでにゴブリンたちは逃げ去っていた。戦いの邪魔をされなかったことからして、あるいはクロエがそういう呪術を使っていてくれたのかもしれない。 それでも気は抜かず、構えは解かない。やがて呼吸が整い始め、昂奮が醒め始めたころ、ようやくゆっくりと息を吐く。「ん……ヴェル、どうした!?」 黒の精霊が俺の所へ飛んで来て、縦に八の字を描く。これはセリエとテッドの時の警戒ではなく、緊急事態のサインだ。 まさか、ゴブリンたちがクロエへ向かったのか――そう思って崖上へ一歩を踏み出した瞬間、その森からクロエが現れた。「よう、トーヤ。奇遇だな」 そしてその後ろから髭面の冒険者が出てくる。クロエを後ろ手に拘束しながら、にやにやと下卑た笑みを浮かべている。「……てめえ」 歯を軋らせながら呻いた俺の声を、髭面は心地よさそうに聞いていた。