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形見

Witch Craft Guardian~ヒーローを夢見た男が転生して魔女の護り手になるお話~ — novelup.plus · All chapters

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テッドとセリエは西地区のクランゴンに住んでいると言っていた。まだこのロルッセアに来て日が浅い俺には東西南北は分かっても細かい区分は分からない。なのでクロエの案内に従って西地区を歩く。「なんというか、のどかな所だねこの辺りは」「イルシュカもロルッセアに来てそこそこなんだろう? こちらには来ないのか?」「西地区なんて住宅街だろ? ここに用がある冒険者なんて家族持ちの奴らばかりだよ。私のような流れの冒険者はもっぱら東地区さ。アンタもそうだろう?」 ロルッセアを大まかに区分すると行政府が集まる北地区、住宅街が集まる西地区、ギルドや武具店、冒険者への店が連なる東地区、そして食料や服飾、その他生活品を扱う南地区となっている。「まあ、確かにな。俺はここに来て日が浅いけど、用事はなかったな」「二人とも、こっちよ。あの奥にある細工店がそうみたい」 俺たちが喋っている間にもクロエは通りすがりの主婦を捕まえ、セリエの父親がやっている細工店の場所を聞いていた。指さす方を見ると、確かに通りで一件だけ、商業用の看板を出している家屋がある。 ロルッセア、というかロルッセアを初めとするこのカリガンドルという国では種類に関わらず商業の店であれば看板を出さねばならないという法律がある。恐らくは脱税防止のためだろう。もしも看板を出さずに商売していてそれが露見すれば、重い処罰が待っているらしい。 目的の店の前に立つ。出ているのは細工を示す看板だけで、路面から中を覗けるような造りでもない。あまり商売っ気のない店のようだ。「……いらっしゃい」 店に入った俺たちを見て、カウンターの奥で細工を弄っていた男が怪訝な顔を向ける。冒険者が三人というのは、それだけ普段来ない客層なのだろう。広いとはいえない店内を見回しても、主婦向けの銀細工や銅細工などが並んでいる。「テッドに会うにはここを尋ねればいいってセリエに聞いたんだが、いるかな? トーヤが来たと言ってほしい」「テッドに……分かった。少し待っていてくれ」 そう言って奥へ引っ込む。察するにここはセリエの家のはずだが、それでもあっさりと通じるほど両家の仲はいいのだろう。 しばらくすると、慌ただしい足音と共にテッドとセリエの二人が現れる。二人とも冒険者の時とは違う、部屋着に着替えている。「ト、トーヤさんっ!」「やあ、テッド。こんにちは」 挨拶すると、二人も頭を下げる。そうして、ゴルザから奪い返した剣を取り出す。「テッド、奪われた剣っていうのはこれでいいのか?」「……っ!」 声もなく受け取り、鍔にはめ込まれている宝石を見る。そこには左向きの翼が刻印されている。「これ……これです! これが親父の形見です! ああ……!」「テッド……」 セリエが労るように背中へ手を当てる。「ありがとう……ありがとうございます……!」 テッドの眼には涙すら盛り上がっている。それだけ大切なものだったのだろう。剣の持ち主を冒険者としても父親としても尊敬していたに違いない。「無事に渡せてよかったよ。ところで、一つ聞きたいんだが、それを奪ったのは男の二人組だと言ってたな?」「え? ええ、そうですけど……」「そこにこの女はいなかったか? セリエも、どこか隠れて見ていたとか、そういう覚えはないか?」 言われて、二人はイルシュカを見る。形見の剣のことだっただけに、真剣な眼差しだったが、やがて二人同時に首を振る。「いえ、見覚えがないです」「私もないです。一応、探査の魔術は使っていましたけど、あの男たち以外に人はいませんでした」「そうか……分かった。疑ってすまなかった、イルシュカ。君の提案を受けよう」 いいさ、とイルシュカが肩をすくめる。「私からすれば、見逃してくれるだけでも御の字だからね。証言してくれるならこれ以上のことはないよ」「そうか……テッドとセリエも悪いが証言してくれないか。俺たちはこれからギルドへ向かって、ギルドへお前から剣を奪った男、ゴルザについての話をする。二人が剣を奪われたことを証言してくれれば助かる」 俺が言うと二人は揃って頷く。なんというか、随分と仲のいい反応だ。「あ、はい。じゃあ着替えてきますのでちょっと待っててください。テッド、行こう」「あ、ああ。あの、トーヤさん、クロエさん、本当にありがとうございます。これが戻ってくるなんて、思わなかった……」「いいさ、ある意味俺が原因でもあったんだ。それも道すがら話すよ」 手を上げると、二人とも奥へと姿を消す。それを見てから、今まで押し黙っていた男、セリエの父親が口を開く。「あんたら、ありがとうよ」「……どういたしまして、って言えばいいのかな?」 どうにも返す言葉が見つからず、おどけるとセリエの父親も苦笑する。「俺とルーク……テッドの父親は親友でな。冒険者であるルークの鎧や剣に細工を施してたのは俺だ。この魔除けがいい、あの幸運のしるしがいいってな」 どこか遠い眼をして語る。その瞳には、一言では表せない様々なものが湛えられている。「だが、その甲斐もなくルークは死んじまった。激戦だったらしく、無事に戻ったのはあの剣だけでな……まだ子供だったテッドを引き取って育てる内、テッドは冒険者を目指すようになった。まあそれは想像通りだったんだが、まさかセリエもとは思わなかったが」「子供なんてそんなもんだろう。全部知っていると思っていても、いつの日か親が全く知らないことをしでかして驚かせてくる」「子育ての経験が?」「まさか。一般論だよ。俺にはそんな記憶はない」 俺の答えにじっと見つめてくるが、やがて納得したのか一つ頷く。「だからこそあの剣は常に大事に扱っていた。武具店に行って手入れの方法を聞いて、小遣いで砥石やらを揃えて、きちんと振れるように鍛錬もして」 語る内、どこか楽しげな光が浮かぶ。きっと、色々あったのだろう。「俺もテッドにとってあの剣がどれほど大切なものか知っている。だから、ありがとう」「取り戻せたのはほとんど成り行きだ。だから、そこまで言われると少しむず痒いな」 俺が身体を掻く仕草を見せると、そこで初めて男の顔が笑みに崩れる。そうすると、セリエの親だと思う優しげな表情になる。「俺はエリアス。もし、なにか細工が必要になったら言ってくれ。できる限り安く請け負うよ」「俺はトーヤ。まあ、よろしく」 俺に続き、クロエとイルシュカの自己紹介が終わった所でテッドたちが姿を現す。その格好は林道で出会った時と同じ、冒険者として一般的な装備だ。 ただ、テッドの腰には剣が一振り、誇らしげに提げられている。「お待たせしました。行きましょう」 セリエの言葉に頷き、店を出る。 テッドの気分を現すかのように、空は雲一つない晴れ晴れとしたものだった。