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三人での冒険

Witch Craft Guardian~ヒーローを夢見た男が転生して魔女の護り手になるお話~ — novelup.plus · All chapters

三人での冒険

結論から言えばイルシュカの加入は大正解だった。「トーヤ、右方からでかいのがくる。クロエ、下がりながら援護してやって。左は私が牽制する!」「泥の泉は闇の沐浴!」 指示と共にクロエの呪術が発動する。燃えるような毛並みをもつ 火猿 ( かえん ) の前に不可視の膜ができあがり、その凶悪な爪の速度が鈍る。「っせい!」 その一瞬の遅延へ俺の斬撃が差し込まれる。刃は火猿の腕へ潜り込み、あっさりと通り抜ける。その隙を狙って左側から別の火猿が襲い来るが、イルシュカが放った風の刃で切り刻まれる。「距離を詰められてきてる。こっちは一旦下がるよ。トーヤも位置を下げてくれ」「了解!」 その風の魔術もさることながら、指示が的確なのだ。本人曰く「風で相手の位置が分かる」とのことだが、それだけではこの判断力は養えない。イルシュカの指揮能力は天性のものだろう。 今の所、俺は前衛での能力がメインだからイルシュカのこの指揮は非常に助かる。彼女がいれば、俺が戦っている間にクロエがゴルザに捕らえられるという状況はもう訪れないだろう。 今日受けた火猿の群れ退治も、銅石一人と銀翼二人であればかなり手こずる規模のものだろう。だが、フィーの加護を受けている俺と、元は金空級の力を持つイルシュカ、そして呪術の援護が際立っているクロエという組み合わせがこの上なく力を発揮しているのを実感する。 大小様々な火猿たちが俺たちを押し包もうとしてくるが、イルシュカの誘導でそれを回避していく。 基本的にイルシュカとクロエは引き気味で、突出してきた火猿を俺が削っていく。その戦法でかなりの成果を上げられている。 火猿はゴブリンやオークよりも知性があり、その素早さと強靱さ、なによりも常に十体前後の群れで行動することから中級冒険者にとっても難敵である。森の中を自在に飛び回るという機動性も、それを助長しているだろう。 それでも、この三人であればそう思えないほどの手際で討伐できている。火猿の群れもすでに半分以下になり、敵意は向けられているものの向かってこようとはしていない。 だが――。「この大きさ……群れの主が来るよトーヤ、気をつけて!」 轟音のような咆吼と共に火猿たちの背後から群れのリーダーが飛びかかってくる。木々をへし折りながら跳躍する速度は常人では捕らえづらい。 しかし、このパーティーにはクロエがいる。「茨の靴は暗い棘」 呪術がリーダーへまとわりつき、襲い来る速度が目に見えて鈍る。それを知覚したのかどうか、リーダーの腕が振りかぶられ、そこへカウンターを合わせる。「なにっ!?」 だがリーダーは長い足を伸ばして木を蹴り、強引に進路を変更する。そして即座にもう一本を蹴り、再度俺へと向かう。 そして、周りからは群れの別個体が攻撃を仕掛けてくる。 まずい、一撃もらうのを覚悟してリーダーに向き直り斬撃を放つ。「過ぎたる時の眠りし刃!」 リーダーの爪と俺の斬撃が交差し、互いの身体へ突き刺さる。同時に群れの爪が俺の身体へ食い込む。「ぐっ!?」 だが、思ったよりも痛みはない。致命傷どころか、無視しても差し支えのない程度の痛みだ。 火猿たちもそれを感じたのだろう。戸惑いの気配が相手側へ満ちる。 そしてそれを吹き飛ばすかのように、イルシュカの暴風が群れを吹き飛ばす。「ギアアアアアアアアッ!」 ただ一匹、その場で踏みとどまったリーダーが俺に飛びかかってくる。吼えるその口には鋭く尖った牙が剥き出しとなっている。「ぜいやあっ!」 気合一喝、その大きく開いた口へ刺突を放つ。日本刀の切っ先は真っ直ぐにその口内へと吸い込まれ、あっさりと頭蓋を貫く。 脳髄を破壊された火猿のリーダーがびぐん、と大きく跳ねる。素早く刀を引き抜き、果敢にも向かってきていた群れの一匹を斬り捨てる。「トーヤ、後ろっ!」 クロエの警告に振り向くと、脳を貫かれた火猿のリーダーがまだ動いて俺に襲いかかってきていた。口から血を撒き散らしながらも、俺だけでも殺そうと両手を振り上げる。 だが、それは遅すぎる動きだ。難なく攻撃をかわし、とどめの一撃を放つ。「ギッ!」 短い断末魔と共に、火猿の首が落ちる。ここに至ってようやく、群れの残りは背を向けて一目散に逃げ出していく。 無理には追わない。追ったところで追いつくのは困難だし、討伐の条件は群れの解散だ。全滅ではない。この辺り、ゴブリンやオークの群れでも変わらない。もちろんできるならば全滅させることが望ましいが、最低限リーダー格を倒して群れを維持できなくさせれば成功と認められる。 今回は群れの半分以上を倒し、リーダー格も討伐できているので充分だろう。これでこの森の側にある、依頼を出してきた村も安全になるだろう。 あとは討伐の証、火猿の場合は中指の爪を切り取ってもっていけばいい。「いやあ、危なかったねえ。でもトーヤ、あまり傷を受けてないのかい?」「ああ。クロエの呪術が効いていたようだ。消毒だけしておくけど、大した傷じゃないよ」「へえ、まともに攻撃を受けたように見えたのにねえ。話には聞いていたけど、魔女の呪術ってのはたいしたもんだねえ」「大したことじゃないわ」 イルシュカの感心にクロエは謙遜を返すが、それを吹き飛ばすように背中を叩く。「いやいや、大したもんだよ。さっきのあれは普通ならトーヤは下手したら重傷を負うかもしれなかったよ。それを軽傷に留めたんだ。胸を張りなって」「大したものと言えばイルシュカ、君も冷静で的確な判断だったな。助かったよ。俺はどうにも突っ込んで刀を振るしか能がないからな」「いやいや、それこそ後ろにいるからできることだよ。前線にいたら自分の戦いに精一杯であんな風に指示できないさ。トーヤが暴れて敵を乱して、クロエが補助して、私が戦場を把握する。なんだかいい組み合わせだと思わないか、私たち」 イルシュカが嬉しそうに言うその顔で、俺たちもつい笑ってしまう。 確かに何回か依頼をこなした限りではかなりの相性の良さを実感しているし、だからこそ銅石級では絶対敵わない火猿の討伐を受けたのだ。 多少のミスはあったが、それでもほぼ完璧に依頼をこなした。この実績は大きい。「しかしあれだね、グレンっていう勇者パーティーがどうしてあんなに躍進していたのか不思議だったけど、クロエがいたからなんだろうね。知ってるかい、今あいつら今まで完遂できていた依頼を半分だけの達成だったりと、微妙に翳りが見えてるって」「へえ、そうなのか?」 なんでもギルドと国に認められる勇者という称号は、貢献値の他にどれだけの依頼を完璧にこなしたかという達成率も条件になるらしい。例えば今回の火猿であれば、群れの全滅をできるかどうかということだ。 俺たちはリーダー格を倒して群れを解散させた。これではおそらく八割の達成だ。完璧を目指すなら、火猿全てを討伐することが求められる。「金空級の時に何度か合同討伐で見たけど、グレン自体は強いけど勇者といわれるまでかなと思っていたんだけど、クロエの呪術があったからこそなんだね。納得したよ」「でも……私はグレンから追放されたわ」 パーティーを組むときにその辺りの経緯は話してある。俺たちと組む以上、グレン――勇者――とも関係が冷えることになる。だがイルシュカは「ギルドから降格された時点で今さらだよ」と笑って手を振るだけだった。「あいつらの見る眼がないだけさ。私だったらなにがなんでもクロエを引き止めるよ。あんたの呪術にはそれだけの価値はある。現に今日トーヤがそれを示したじゃないか」「……ん、ありがとう」 イルシュカの忌憚のない褒め言葉に、クロエは少し顔を赤らめて頷くだけだ。俺も何度か同じように賞賛したが、その時も似たような反応だった。どうやらグレンに追放されたという事実は、クロエに大きな傷を残しているらしい。 それで今、イルシュカの言うように依頼に苦労しているのなら自業自得だが。 はっきり言ってクロエの呪術はかなりの効力を発揮している。敵の動き、思考、攻撃、守備を弱体化できるのだ。全てを同時にではなく、どれか一つしかという制限はあるが、クロエの判断力が的確なので今回のように最高率ので効果を見せている。 はっきりいって、フィーの加護を得ている俺と同じぐらいの異能だと思う。直接の攻撃力がないこととグレンに追放されたことで本人が過小評価しているが、イルシュカの言う通り、パーティーの要といってもいいぐらいだ。 なにしろ、クロエのお陰で討伐対象の難易度が低下するのだから。 これでこちらを強化するメンバーがいれば、このパーティーは完璧になるだろう。「さて、爪も切り取ったことだし、村に報告してからロルッセアに帰還しようじゃないか。今からならちょうど晩飯時だ。今日は働いたし、おいしい酒が飲めそうだ」 期待をこめたイルシュカの言葉につい顔を顰めてしまう。「飲むのはいいけど、泥酔するなよ。イルシュカを引きずって歩くの、結構大変なんだからな」「そんなつれないことを言わないでくれよ。うっかりに見せかけて胸ぐらい揉んでいいかあさあ」「トーヤ?」「……今ので俺を責めるのは理不尽だと思う」 クロエの鋭い視線に晒された俺をイルシュカが笑う。 まったく、この深酒癖がなければ完璧なんだが。