パーティー名
パーティー名
「霧吹き竜の群れが出た?」「ええ、ですので銀翼級の冒険者に召集がかかっています」「それは、合同討伐ってことかい?」 イルシュカの問いに受付嬢は頷く。霧吹き竜は文字通り、自分の霧の吐息を吐き出す竜で、そこに魔力をこめて不可視のブレスで人を害する。一頭ならそこまでの脅威ではないが、稀に群れを形成することがあり、今回は運悪くその進路に一つの村があるらしい。さらにその先にはロルッセアもあることから、ギルドは銀翼級の冒険者を集めて合同で討伐依頼を出してきたということらしい。 合同討伐は危険な任務が多いため強制ではないが、断るといい印象は持たれない。特に俺たちのような討伐を主としているパーティーはそうだ。「ふうん。だってさ、クロエ、トーヤ、どうする?」「別に、受けていいんじゃないか。計算ならそれで貢献値が貯まるだろ。報酬の割合も悪くないし」「私もいいと思う。それに霧吹き竜とイルシュカの魔術は相性がいいでしょう?」 そう、霧は風で吹き払える。霧吹き竜からすれば、イルシュカの魔術は天敵に近い。「それもそうだね。じゃあその合同討伐、このパーティー……ねえ、このパーティーの名前なんだっけ?」「別に決めてないな」 クロエを見ると、頷く。俺もクロエもそういう所にさして関心がないので、今まで特に決めていなかった。「じゃあ決めよう、今決めよう。なんか案だしなよ。ほら、アンタも」「え、私ですか?」 いきなり話を振られた受付嬢が眼を丸くする。「こういうのは大勢から募る方がいいのさ。妥当なところだと剣とか翼とか爪とか、それこそ竜とか入れるのが多いけど」「剣はいや」 クロエが即答する。確かグレンのパーティーが隼の剣だから、それを連想させる単語はつけたくないのだろう。「後は……自然現象も多いですね。嵐、風、雷、氷、炎とか」「風はちょっと……なんか私の自己主張が激しすぎやしないか?」 受付嬢の提案でイルシュカが笑う。まあ海風とまで呼ばれたイルシュカがいるパーティーに風を入れるとイメージが固定されるのは確かだ。「そうすると炎の竜とかそんなのか?」「そういうのが一般的だね。面白味はないけど」 ふむ、と考える。それほどこだわりはないが、それでも名付けるなら特徴のある名前にしたくなるのは人間のサガだ。 ふと、俺と同じように考え込んでいるクロエを見る。そう言えば、このパーティーにはこれ以上ないほど特徴を示す人が一人いる。「黒い森、でいいんじゃないか」「へっ!? トーヤ、なにを言ってるの!?」 急に自分の出身地を告げられたクロエが驚くが、それに構わず言葉を紡ぐ。「いや、なにも分からなかった俺に色々と教えてくれたのはクロエだし、このパーティーの要もクロエだし、だったらその名乗りをそのまま使ってもいいんじゃないかってね。それとも、そういう風に流用するのは駄目だったか?」「あれは……別に出身地を名乗る魔女の慣習ってだけで別に禁忌とかはないけど……」「ならいいじゃないか。イルシュカはどう思う?」 話を振ると、イルシュカは構わないとばかりに頷く。「私も異議はないよ。覚えやすいし、他にはないだろうし」「じゃあ決まりだ。黒い森で。で、合同討伐にも参加するでいいんだよね」「分かりました、クロエさん、イルシュカさん、トーヤさんのパーティーの名称を黒い森で登録いたします。あの……霧吹き竜討伐にはトーヤさんも参加するのですか?」 伺うような言葉に視線を向けると、受付嬢の視線は俺の胸、正確には銅石級のプレートに注がれている。「ああ、彼の心配ならいらないよ。火猿の群れをあっさりと撃退できるぐらいの腕はあるから。だから三人で参加するって手続きしておいてくれ」「……分かりました。それで合流は明日の朝、西門になります。こちらは割り符です。合同討伐参加と達成の際に必要ですので、なくさないようにお願いいたします」 どこか探るような視線だったが、それでも納得したようで頷く。まあ、例えば剣の達人が今日ギルドに登録したとして、それは銅石級だがそれ以上の力を持っているだろう。俺は達人ではなく異能を持っているだけだが、それに変わりはない。 参加の証である割り符をもらい、ギルドを出る。「さて、それじゃあ酒場で食事がてら、作戦をたてようか」「言っておくが、今日は酒は無しだからな。明日集合なんだから、万が一にでも二日酔いになられたら困る」「……分かってるよ」 一瞬の間を作ってからの返事にイルシュカの顔を見ると、あからさまに眼を泳がせて視線を逸らせていた。 このままだと、隠れて何杯も飲みそうだ。 火猿討伐からの帰り道、運良く馬車に乗ることができたので今日は時間的に余裕はある。 俺は小さく溜息を吐く。「三杯だけだ。それ以上は本気で駄目だからな」「ん、ん。分かってるよ! ふへへ、なんだかんだ言ってトーヤは優しいねえ」「……なんか手のかかる子供を持った気分だ」「子供はお酒を飲まないけどね」 クロエの突っ込みに二人で笑う。そんな俺たちの先を待ちきれないとばかりにイルシュカが早足で歩いていく。 なんにせよ、次の依頼が一区切りになりそうだった。