第十二話 舞い込んだメッセ―ジ
第十二話 舞い込んだメッセ―ジ
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抱き着いてきてくれた。私のこと、覚えていて……くれたんだ。チャーリーの腕に、一枚のメッセージタグが添えられている。タップすると、眼前にホロメッセージが展開された。 退院おめでとう。 路地裏での刺激的なデートのお礼に、チャーリーをあなたに返させてもらう。 本当は娘さんに直接返そうかと思った。 だが、あなたの名前と、路地裏でのあなたの発言、そしてチャーリーに残されていた宮下ケイちゃんのぽつりと漏らした言葉をヒントに、少々調査をさせてもらった。 あなたは宮下ケイちゃんの母親だ。 だから、あなたからこれを彼女に返しておいて欲しい。 人生、取り返しのつかない事なんて……まぁ、あるにはあるが、あんまりない。 きっと大丈夫だ。彼女はあなたのことを心配して言ってあげているのです」 絶対に自分の性能向上がメインだろ。心配云々はおまけにすぎない。そんなことくらい俺にわからないとでも思っているのか?「そうだ! 我が猫じゃらしは? フィギュアはどうなっておる?」 テーブルに飛び乗ったリーナスまでもがわけのわからないことを言い出す。 黙ってろ! 遥さんを刺激するな!「ふふ、お金はあるのかい黒猫君。物にはね……それ相応の対価というものが必要なのだよ?」 止めてくれ遥さん。その馬鹿の相手をする必要は皆無だ。「成程。大丈夫である。誠二につけておいてくれるが良い」 予想通りのリーナスの答え。自分で払え。「よしきた。ではすぐにここに配達するように手配を――」 よし来たではない。「ストップー! なにも大丈夫じゃない。リーナス君は勝手に人のツケにしない! 良いね? そもそもツケというのは人としてよくない。いつもニコニコ現金払い。これ、人類の常識だから。リーナス君はちゃんと学習しておいてね?」「誠二さん。当店に二ヵ月分のツケがあることについては、どう考えておられるのですか?」 マスターがぽつりと何やら呟いた気がするが、聞こえなかったことにした。咳払いを一つして俺は立ち上がる。「すまない遥さん。あなたみたいな美女との会合、本来なら大歓迎なんだが、依頼主が俺を待っていてね」「嘘です。そのようなことは――」 即座に雪風のマイクをオフ。そしてそのままアビシニアンから優雅に、ゆっくりと、あくまでもおしとやかに、可能な限りの速足で玄関に向かった。 通りに転がり出た俺の視界に、午後の新西京の空が飛び込む。それはいつもと変わらず灰色だったが、雲の合間から差す光に目を細める。まったくもって理解不能なことだが、このところ俺の生活は一切好転していない。だが、一つの家族の未来はきっと良くなったはずだ。あとは誰かが、俺をこの借金地獄から助けてくれれば完璧なんだが。サルのお金を少しくらいは残しておくべきだったか……通りを行きかう人混みの中を歩く。やはりこの街は、生きていくには厳しい街だ。それでも俺は、あの舞い込んだメッセージに答えたことを誇りに思っていた。そしてチャーリーという勇敢な友達のことを、生涯忘れないだろう。 斎藤誠二の事件簿 FILE1 舞い込んだメッセージ 完 斎藤誠二の事件簿 FILE2 失投 予告A「ヒーローには、最後までヒーローでい続ける義務がある」 記録。一人の少女を救うために多額の負債を抱えた斎藤誠二の元に、新たな依頼が舞い込みました。ターゲットは、新西京が熱狂する日本シリーズの英雄、ルーブ・マーティン。資本主義の聖域からスラムの下水道まで、街全体を舞台とした巨大な陰謀を観測。非合理。ですが、彼が泥を被ってでもその誇りを守ると言うのなら、私は彼の目として機能し続けるのみです。……誠二、今度こそまともに稼がないと倒産してしまいますよ。 斎藤誠二の事件簿 FILE2 失投 予告B「いつだってヒーローは遅れてやってくる。映画ならここからが一番の見せ場だぜ?」 やれやれ、新西京の龍脈がかつてないほどに活性化しておる。愚昧なる民草が球投げに興じる裏で、深淵より『蒼き薔薇』がその棘を伸ばしておるようだな。我を現世の苦痛から解き放つ、シーリーの歌声を奪いし不届き者はどこのどいつだ? おまけに赤い馬鹿が二人になったかのような騒がしさ。よかろう、下水道という名の地獄を、我らが魔導の戦場に変えてやるとしようではないか。誠二! 勝利の暁には、シーリーのサイン、そして最高級の猫缶を献上せよ!私はチャーリーを強く抱きしめながら、新しい朝の光の中で、声を上げて泣き続けた。 カフェ アビシニアン(斎藤誠二)『愛が嘘になった世界で 独り信じてる 何かがある 傷ついてないふりして歩く コートに滲みる硝煙の臭い』 歌番組がシーリーの歌を流しているアビシニアンの店内。俺は相変わらず、今日も猫探しのポスター作りに励んでいた。やれやれ。なんというかこう、ハードボイルドな凄腕私立探偵向きの仕事はないのか? そう、例えばヒューマンの――エルフは絶対にお断りだ――美女の護衛依頼でロマンスに落ちちゃうとか? 謎の猟奇殺人事件の調査で、犯人との丁丁発止の推理バトルを繰り広げるとか? 迷い猫探しってのは、俺がやる仕事でないことは明白だった。『命を賭けることでしか 騙せない運命があるなら 地獄の中へ 飛び込んでいく』 素晴らしい歌声だ。なんで引退してしまったのか。もったいない。はーしかし猫探しってのは大変だ。これならマーカスと殺し合いをしていたほうがましだったかもしれん。「おいリーナス。何かないの? 迷い猫を召喚する魔術とかさぁ?」 机の上で丸くなっているリーナスに声をかける。「地球の重力に魂を引かれた愚か者よ。そんな便利なものがあるわけなかろう。それよりも百鬼堂にあった電動猫じゃらしを我に捧げよ」 世の中そんなに甘くないか……いや、待て。「……。思い出したぞ! お前、俺を路地裏まで追いかけてきたよな? どうやった!」「……。さて、西暦を舞台にしたロボットアニメの続きを観るとしよう」 奴は俺に背中を向ける。「ごまかすな! おい、リーナスのあの態度、どう思うよチャーリー?」「誠二……チャーリーはもう宮下ケイちゃんのもとに帰ったはずだ。そろそろ慣れても良いころだろうに。俺は何をしているんだ。別に寂しくなんかない。ただ、チャーリーを思い出すと、こう胸がちょっと締め付けられるだけで。それだって気のせいに過ぎない。「冗談だよ雪風。ハードボイルドな私立探偵に一番似合わないのはなんだ? 熊のぬいぐるみだよ。実際のところ迷惑していたんだ。チャーリーのやつ、隙あらば俺にしがみついて、どこに行くにもついてきやがって。おかげで俺の社会的な何かは完全にお通夜だぞ」 平和だ。平和過ぎて、二ヵ月前の死闘が嘘のようだ。……この二か月分のツケを払うまで、当店では水すら出さない事にしました」「……」 盛り上がる俺とリーナスをよそに、何か雪風が無言だが、ほうっておこう。きっと思春期か何かなんだろうな。やれやれ、難しい年ごろだ。チャーリーがケイちゃんの脚に抱き着くと、彼女はしゃがんでチャーリーを抱き上げ、頬をこすりつけた。「やったー!」「見たか誠二!」「見たぞ!」 俺とリーナスはハイタッチ。ケイちゃんと良子さんは見つめ合うと、素敵な笑顔を浮かべる。二人とも元気になったようで本当に良かった。きっとあの母娘なら上手くやっていくだろう。そうでなければ、俺が死にかけたわりに合わない。「……結局、あなたの言っていた、助けを求めるメッセージの送り主から報酬獲得大作戦! は何の成果もありませんでしたね」 雪風の二ヵ月越しの突っ込み。これだからAIは恐ろしい。「そうか? これ以上の報酬は無いだろ」 言葉と共に、こういう時のためにとっておいたとっておきの爽やかスマイルを浮かべる。完璧に決まった。 斎藤誠二の事件簿。銃聖 マーカス 対 私立探偵 斎藤誠二――、完。 俺の脳内でエンディングテーマが流れ出す。「それでは次のニュースです。新西京レイヴンズの今季の成績ですが、新しく入ったエースの活躍で――」 プロ野球か……特に興味ないな。と、俺が意識を逸らした瞬間だった。「良いですか? 自己満足は結構ですが――現実は待ってくれません」 突然、雪風が不穏なことを言い出す。その声色は淡々として一切の感情の色が無かった。舐められたものだ。この俺にそんな根拠のない、非論理的な威圧なんてものは通用しない。「意味がわからんな……マスター、コーラのおかわりとペペロンチーノを」 奴の脅し文句なんて無視。まったく意味不明な事ばかりぬかすAIだ。 俺の方がよっぽど論理的だ。あれ? マスターの返事が無いな。「マスター? あのー……コーラとペペロンチーノをですね……?」 俺に呼びかけられたマスターが、カウンターの奥から冷たい一瞥を飛ばしてきた。「誠二さん。この二か月間にもいろいろあった気もするし、死にかけた気もするがまぁそれはそれ、置いておこう。 店内のホロTVからは涼し気な声が流れてくる。 ジェーンの読み上げるニュースだ。「二ヵ月前、凶弾に倒れた宮下ケイさんですが、なんと今日、無事に退院することとなりました。母親の宮下良子さんが迎えに――」 心なしか、ジェーンの声も明るく弾んで聞こえる。すっかり元気になった宮下ケイちゃんの映像が映し出された。彼女の長い綺麗な黒髪が揺れる。そして彼女を出迎える、熊のぬいぐるみを抱えた、ショートカットの黒髪に、少し垂れ目のエルフ女性、宮下良子さん。彼女が地面に熊のぬいぐるみを抱えている。「えっと……」 目で先を促す。「黒猫をつれた、不審な赤いコートを着た男があなたにって持ってきたんですよ。じゃあ病室にお通ししますね。というと『いや、それは良いんだ。ただ、これを渡して欲しい』の一点張りで。しまいには下手糞なウインクしだしたので、警備員を呼んだら慌てて逃げていってしまいまして」 私は思わず笑ってしまっていた。きっとあの母娘なら上手くやっていくだろう。そうでなければ、俺が死にかけたわりに合わない。「……結局、あなたの言っていた、助けを求めるメッセージの送り主から報酬獲得大作戦! は何の成果もありませんでしたね」 雪風の二ヵ月越しの突っ込み。これだからAIは恐ろしい。「そうか? これ以上の報酬は無いだろ」 言葉と共に、こういう時のためにとっておいたとっておきの爽やかスマイルを浮かべる。完璧に決まった。 斎藤誠二の事件簿。銃聖 マーカス 対 私立探偵 斎藤誠二――、完。 俺の脳内でエンディングテーマが流れ出す。「それでは次のニュースです。新西京レイヴンズの今季の成績ですが、新しく入ったエースの活躍で――」 プロ野球か……特に興味ないな。と、俺が意識を逸らした瞬間だった。「良いですか? 自己満足は結構ですが――現実は待ってくれません」 突然、雪風が不穏なことを言い出す。 黙ってろ! 遥さんを刺激するな!「ふふ、お金はあるのかい黒猫君。物にはね……それ相応の対価というものが必要なのだよ?」 止めてくれ遥さん。その馬鹿の相手をする必要は皆無だ。「成程。大丈夫である。誠二に こともできず、寝落ちと空腹と脱水症状に苦しんだことを。世界が揺れだした。地震か? いや、違う……この俺が、震えている、だと?「まったくつれないことだね? 私のパーマロイのおかげで命拾いしたというのに……報酬に世間話をしにきてくれないとは。それとも怪我の治療や治療費を捻出するための日々の労働で精いっぱいだったのかな? もちろん、私とて鬼ではないよ。だからわざわざこうして私から出向いてきてあげたわけだ。この優しさ、君も見習うべきだろう」 いや、あんたは吸血『鬼』だ。と、軽口を叩きたいがそんなことをいえる立場ではない。というか、遥さん相手に下手な事を言うとどんどん話が長くなる。ここは沈黙の掟一択。これが最善手。ここから数時間は一言もしゃべらず、ジェスチャーとウインクだけで切り抜ける覚悟を決めた。「おぉ! 店主殿ではないか! 我に、我に電動猫じゃらしを授けたまえ!」 リーナスが尻尾を振り回しながらあほなことを言い出す。「コラボグッズを手に入れただろう、リーナス」「それはそれ。これはこれである。我が手中にこの世全ての財を捧げよ誠二。馬車馬のように働くがよい」 リーナスは尻尾をふりつつ偉そうにふんぞり返った。「いえ、最新の――」 雪風も訳の分からない寝言を続けている。ええい! 会話の成立せん奴らめ!「俺は学んだね。つまりエルフの美女には関わるなってことだよ」 この狂猫と狂人工知能相手に苦しい責任転嫁を続けていると、俺の正面の座席にゆっくりと濃霧が漂い始めた。その霧が集まると黒髪、赤いドレス、煙管を持った美女に変わる。「やぁ探偵君。じゃあ吸血鬼の美女なら良いのかな? もちろん私が美女かどうかは判断に困るところだし、自分でいうのも大変面映ゆいのだが。ただ、話の流れ的にこの発言は外せないだろう? というわけでこんばんはだ。いやはや君がいつまでたってもツケを払いに来てくれないから取り立てに来たよ。もう退屈で退屈で死んでしまいそうだ。いや、もう死んでいるのかもしれないが、なかなか難しいところだね?」「……」 俺の目の前には妖艶な女吸血鬼、久遠寺遥が座っていた。まずい、最低でも半日は捕まる。封印された古の記憶が甦る――昔報酬の代償として捕まった時のことだ。俺は三日三晩徹夜で話を聞かされ飯を食うこともできず、寝落ちと空腹と脱水症状に苦しんだことを。世界が揺れだした。地震か? いや、違う……この俺が、震えている、だと?「まったくつれないことだね? 私のパーマロイのおかげで命拾いしたというのに……報酬に世間話をしにきてくれないとは。それとも怪我の治療や治療費を捻出するための日々の労働で精いっぱいだったのかな? もちろん、私とて鬼ではないよ。だからわざわざこうして私から出向いてきてあげたわけだ。この優しさ、君も見習うべきだろう」 いや、あんたは吸血『鬼』だ。と、軽口を叩きたいがそんなことをいえる立場ではない。というか、遥さん相手に下手な事を言うとどんどん話が長くなる。ここは沈黙の掟一択。これが最善手。ここから数時間は一言もしゃべらず、ジェスチャーとウインクだけで切り抜ける覚悟を決めた。「おぉ! 店主殿ではないか! 我に、我に電動猫じゃらしを授けたまえ!」 リーナスが尻尾を振り回しながらあほなことを言い出す。 黙ってろ! 遥さんを刺激するな!「ふふ、お金はあるのかい黒猫君。物にはね……それ相応の対価というものが必要なのだよ?」 止めてくれ遥さん。その馬鹿の相手をする必要は皆無だ。「成程。大丈夫である。誠二につけておいてくれるが良い」 予想通りのリーナスの答え。自分で払え。「よしきた。ではすぐにここに配達するように手配を――」 よし来たではない。「ストップー! なにも大丈夫じゃない。リーナス君は勝手に人のツケにしない! 良いね? そもそもツケというのは人としてよくない。いつもニコニコ現金払い。これ、人類の常識だから。リーナス君はちゃんと学習しておいてね?」「誠二さん。当店に二ヵ月分のツケがあることについては、どう考えておられるのですか?」 マスターがぽつりと何やら呟いた気がするが、聞こえなかったことにした。咳払いを一つして俺は立ち上がる。「すまない遥さん。あなたみたいな美女との会合、本来なら大歓迎なんだが、依頼主が俺を待っていてね」「嘘です。そのようなことは――」 即座に雪風のマイクをオフ。そしてそのままアビシニアンから優雅に、ゆっくりと、あくまでもおしとやかに、可能な限りの速足で玄関に向かった。 通りに転がり出た俺の視界に、午後の新西京の空が飛び込む。それはいつもと変わらず灰色だったが、雲の合間から差す光に目を細める。まったくもって理解不能なことだが、このところ俺の生活は一切好転していない。だが、一つの家族の未来はきっと良くなったはずだ。あとは誰かが、俺をこの借金地獄から助けてくれれば完璧なんだが。サルのお金を少しくらいは残しておくべきだったか……通りを行きかう人混みの中を歩く。やはりこの街は、生きていくには厳しい街だ。それでも俺は、あの舞い込んだメッセージが、私を救ってくれた。ケイのもとに戻る勇気を私にくれた。私はチャーリーを強く抱きしめながら、新しい朝の光の中で、声を上げて泣き続けた。 カフェ アビシニアン(斎藤誠二)『愛が嘘になった世界で 独り信じてる 何かがある 傷ついてないふりして歩く コートに滲みる硝煙の臭い』 歌番組がシーリーの歌を流しているアビシニアンの店内。俺は相変わらず、今日も猫探しのポスター作りに励んでいた。やれやれ。なんというかこう、ハードボイルドな凄腕私立探偵向きの仕事はないのか? そう、 脚に抱き着くと、彼女はしゃがんでチャーリーを抱き上げ、頬をこすりつけた。「やったー!」「見たか誠二!」「見たぞ!」 俺とリーナスはハイタッチ。ケイちゃんと良子さんは見つめ合うと、素敵な笑顔を浮かべる。二人とも元気になったようで本当に良かった。きっとあの人だ。よく覚えていないのだけど。「とりあえず、これ。渡しておきますね」 看護師さんが熊のぬいぐるみを抱えた、ショートカットの黒髪に、少し垂れ目のエルフ女性、宮下良子さん。彼女が地面に熊のぬいぐるみを抱えた、ショートカットの黒髪に、少し垂れ目のエルフ女性、宮下良子さん。彼女が地面に熊のぬいぐるみを渡してくる。それに触れた瞬間、私の指先に温かいものが込み上げた。これ……チャーリーだ。私が娘に贈った、あの子のヒーローになれるよう、もう一度やり直そう。一通の舞い込んだメッセージに答えたことを誇りに思っていた。そしてチャーリーという勇敢な友達のことを、生涯忘れないだろう。 斎藤誠二の事件簿 FILE1 舞い込んだメッセージ 完 斎藤誠二の事件簿 FILE2 失投 予告A「ヒーローには、最後までヒーローでい続ける義務がある」 記録。一人の少女を救うために多額の負債を抱えた斎藤誠二の元に、新たな依頼が舞い込みました。ターゲットは、新西京が熱狂する日本シリーズの英雄、ルーブ・マーティン。資本主義の聖域からスラムの下水道まで、街全体を舞台とした巨大な陰謀を観測。非合理。ですが、彼が泥を被ってでもその誇りを守ると言うのなら、私は彼の目として機能し続けるのみです。……誠二、今度こそまともに稼がないと倒産してしまいますよ。 斎藤誠二の事件簿 FILE2 失投 予告B「いつだってヒーローは遅れてやってくる。映画ならここからが一番の見せ場だぜ?」 やれやれ、新西京の龍脈がかつてないほどに活性化しておる。愚昧なる民草が球投げに興じる裏で、深淵より『蒼き薔薇』がその棘を伸ばしておるようだな。我を現世の苦痛から解き放つ、シーリーの歌声を奪いし不届き者はどこのどいつだ? おまけに赤い馬鹿が二人になったかのような騒がしさ。よかろう、下水道という名の地獄を、我らが魔導の戦場に変えてやるとしようではないか。誠二! 勝利の暁には、シーリーのサイン、そして最高級の猫缶を献上せよ!私の退院日。でも……退院してどこにいこう。何をしよう。今更、私に帰る場所なんてないのに。いっそのこと、あのまま死んでしまったほうがよかった。ぼんやりと、そう思う。……胸の奥が重い。目じりに涙が浮かぶ。 実のところ、私がここに入院した経緯はよく覚えていない。仕事が忙しくて夫とすれ違いが増えてたとき、友達に勧められた覚せい剤キャンディ。本当に軽い気持ちだった。だけどそこからは早かった。あっという間に私は引き返せなくなっていた。 その後のことは朧げな夢のようだ。私が娘に贈った、あの子の親友。チャーリーは私に抱き着いてきてくれた。私のこと、覚えていて……くれたんだ。チャーリーの腕に、一枚のメッセージタグが添えられている。タップすると、眼前にホロメッセージが展開された。 退院おめでとう。 路地裏での刺激的なデートのお礼に、チャーリーをあなたに返させてもらう。 本当は娘さんに直接返そうかと思った。 だが、あなたの名前と、路地裏でのあなたの発言、そしてチャーリーに残されていた宮下ケイちゃんのぽつりと漏らした言葉をヒントに、少々調査をさせてもらった。 あなたは宮下ケイちゃんの母親だ。 だから、あなたからこれを彼女に返しておいて欲しい。 人生、取り返しのつかない事なんて……まぁ、あるにはあるが、あんまりない。 きっと大丈夫だ。彼女はあなたのことを心配して言ってあげているのです」 絶対に自分の性能向上がメインだろ。心配云々はおまけにすぎない。そんなことくらい俺にわからないとでも思っているのか?「そうだ! 我が猫じゃらしは? フィギュアはどうなっておる?」 テーブルに飛び乗ったリーナスまでもがわけのわからないことを言い出す。その声色は淡々として一切の感情の色が無かった。舐められたものだ。この俺にそんな根拠のない、非論理的な威圧なんてものは通用しない。「意味がわからんな……マスター、コーラのおかわりとペペロンチーノを」 奴の脅し文句なんて無視。まったく意味不明な事ばかりぬかすAIだ。 俺の方がよっぽど論理的だ。あれ? マスターの返事が無いな。「マスター? あのー……コーラとペペロンチーノをですね……?」 俺に呼びかけられたマスターが、カウンターの奥から冷たい一瞥を飛ばしてきた。「誠二さん。この二か月間にもいろいろあった気もするし、死にかけた気もするがまぁそれはそれ、置いておこう。 店内のホロTVからは涼し気な声が流れてくる。 ジェーンの読み上げるニュースだ。「二ヵ月前、凶弾に倒れた宮下ケイさんですが、なんと今日、無事に退院することとなりました。母親の宮下良子さんが迎えに――」 心なしか、ジェーンの声も明るく弾んで聞こえる。すっかり元気になった宮下ケイちゃんの映像が映し出された。彼女の長い綺麗な黒髪が揺れる。そして彼女を出迎える、熊のぬいぐるみを抱えた、ショートカットの黒髪に、少し垂れ目のエルフ女性、宮下良子さん。彼女が地面に熊のぬいぐるみを抱えている。「えっと……」 目で先を促す。「黒猫をつれた、不審な赤いコートを着た男があなたにって持ってきたんですよ。じゃあ病室にお通ししますね。というと『いや、それは良いんだ。ただ、これを渡して欲しい』の一点張りで。しまいには下手糞なウインクしだしたので、警備員を呼んだら慌てて逃げていってしまいまして」 私は思わず笑ってしまっていた。きっとあの人だ。よく覚えていないのだけど。「とりあえず、これ。渡しておきますね」 看護師さんが熊のぬいぐるみを抱えた、ショートカットの黒髪に、少し垂れ目のエルフ女性、宮下良子さん。彼女が地面に熊のぬいぐるみを持っていた男。赤いコートを着た男があなたにって持ってきたんですよ。じゃあ病室にお通ししますね。というと『いや、それは良いんだ。ただ、これを渡して欲しい』の一点張りで。しまいには下手糞なウインクしだしたので、警備員を呼んだら慌てて逃げていってしまいまして」 私は思わず笑ってしまっていた。きっとあの人だ。よく覚えていないのだけど。「とりあえず、これ。渡しておきますね」 看護師さんが熊のぬいぐるみを渡してくる。それに触れた瞬間、私の指先に温かいものが込み上げた。これ……チャーリーだ。私が娘にプレゼントしたのと似た熊のぬいぐるみを抱えた、ショートカットの黒髪に、少し垂れ目のエルフ女性、宮下良子さん。彼女が地面に熊のぬいぐるみを抱えた、ショートカットの黒髪に、少し垂れ目のエルフ女性、宮下良子さん。彼女が地面に熊のぬいぐるみを抱えた、ショートカットの黒髪に、少し垂れ目のエルフ女性、宮下良子さん。彼女が地面に熊のぬいぐるみを抱えた、ショートカットの黒髪に、少し垂れ目のエルフ女性、宮下良子さん。彼女が地面に熊のぬいぐるみを抱えた、ショートカットの黒髪に、少し垂れ目のエルフ女性、宮下良子さん。彼女が地面に熊のぬいぐるみを持っていた男。赤いコートを着た男があなたにって持ってきたんですよ。じゃあ病室にお通ししますね。というと『いや、それは良いんだ。ただ、これを渡して欲しい』の一点張りで。しまいには下手糞なウインクしだしたので、警備員を呼んだら慌てて逃げていってしまいまして」 私は思わず笑ってしまっていた。きっとあの人だ。よく覚えていないのだけど。「とりあえず、これ。渡しておきますね」 看護師さんが熊のぬいぐるみを持っていた男。赤いコートを着た男があなたにって持ってきたんですよ。じゃあ病室にお通ししますね。というと『いや、それは
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