第二話 勝敗の裏側で
第二話 勝敗の裏側で
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届いたのは――ボールがミットを殴りつける暴力的な音ではなく ――硬質な金属がボールに衝突する快音。 馬鹿な……俺の完璧な計算が……? 愕然とする俺――そして吹き飛ばされたボールは吸い込まれるようにスタンドの向こうへ消えていく。 リーナスの逆転ツーランホームランだった。【YOU LOSE】「ふっ、我のサヨナラ勝ちよ」 尻尾を振りながら黒猫――リーナスが勝ち誇った声を赤い首輪から発する。「クソゲーが!!」 俺はホロゲームの電源を叩き切る。「悔しさは解析できますが、負けるたびにクソゲーと言うのはどうかと思いますよ。次は私とプレイするのはどうです?」 クソゲーをクソゲーと呼ぶ当たり前の行為に文句をつけてきたのは――俺の腰に提げた銃――アンダーテイカー・カスタム――に巣食う、独立型人工知能である雪風だ。「雪風、強いものいじめをして楽しいのか?」 自分でも正直何を言っているのか良くわからない――が、言われっぱなしでは人類代表としての沽券にかかわる。「大丈夫です。私の論理演算機能を五%に制限し、適度に手を抜くシミュレーションを行います」 それはそれで致命的に馬鹿にしすぎでは? いや、光栄なのか……最早何もわからん。「そもそもね? 俺は野球に興味無いんだよ。玉遊びは銃でやる派でね」 俺はそう言うと、ゲーム中に突然やってきた男に視線を転じた。 ヒューマン。男。五十代、褐色の肌、豊かな肥満体型に、見事なまでに磨き上げられた禿頭。白いダブルのスーツを纏ったその男は、新西京の裏側を繋ぐ仲介屋、トルネロだ。「久しぶりだねトルネロさん。景気はどうだい?」 このおっさんがわざわざこんなところに顔を出すということは……俺の鼻は早くもトラブルの臭いを嗅ぎつけていた。「おぉ、ワシか? こっちは忙しいぞ! ミサイルからおしゃぶりまで、飛ぶように売れとるからな! 商売繁盛待ったなしよ!」「自慢話をしにきたのか?」 古今東西、自慢話というのはたいして喜ばれないことを知らないらしい。「おいおい誠二よ! ワシがお前に賭け事なんてもちかけたことがあるか? 元手がないやつに賭けを勧めるほどワシも馬鹿じゃないぞ? 魔都東京タイタンズの連続優勝記録が今、八連覇に王手をかけているのは知っているな?」 この野郎――やはり帰れと言いたくなるが――ピザの恩がある俺はギネス級の忍耐力を発揮して耐える。「いや、知らん」 俺の発言を完全にスルーし、卑劣な買収を試みたのであった。 数分後――テーブルに冷えたビールが置かれ、俺の前には熱々のピザが届く。 大豆肉と人工チーズの暴力的な香りが鼻を突く。 ……食い物の恨みは恐ろしいが、食い物の恩もまた重い。 しかたがない、このピザを食べ終わるくらいまでは話を聞いてやろう。俺は恩義に厚い男だからな。「いいか誠二。昨今の不穏な世界情勢――ほら、先日も何か中東の方でプルトニウムが盗まれたとか?」「世界はいつも滅亡の危機か。正義のヒーローは世界を救うのに大忙しだろうな。いっかいの私立探偵には関係ない話だが」 こっちは人一人救うだけで手一杯なんだよ……俺はピザの端を齧りながら、聞き流す準備をする。「新西京レイヴンズが日本シリーズで戦っているのは知ってるな?」 これが本題か――俺は目を細めた。「どうせ賭けろって 言っていないが――トルネロが勝手な事を言い、ニヤリと笑った。『日本シリーズは明日にもつれ込むこととなりました。果たして勝つのはどちらか!果たして勝つのはどちらか!果たして勝つのはどちらか!果たして勝つのはどちらか!果たして勝つのはどちらなのかーっ!』 興奮したアナウンサーの声が俺達の座席の周囲を渦巻く。「まず依頼料を言うのがマナーじゃないのか?」 その指摘に対しトルネロが提示した金額は――俺の生活費三ヶ月分を余裕で賄うものだった。「……ちっ、仕方がないな。新西京の住人として、セール開催と――何より明日の生活のために、一肌脱いでやるよ」 俺はピザの最後の一切れを口に放り込み、腰の得物《雪風》を確かめて立ち上がった。 どうやら、バットの代わりに銃を振るう時間が来たようだ。 しかし、タイムリミットは明日の試合開始くらいか……二十四時間切っている――こいつはヘビーな依頼になりそうだ。「行くぞリーナス」「我はもっとピザを食べたいのだが?」 何て食い意地のはったやつだ。「後で買ってやる」 多分な。と小声でつけくわえる。「忘れるでないぞ?」「もちろんだ」 そして俺は赤いコートを翻し、|横を歩く黒猫《リーナス》と共に『アビシニアン』を後にした。街の盛り上がりを観ろ!!」「ふむ。確かに新西京の龍脈の活性化を感じるな。それが原因であったか。新西京スタジアムを中心に、領域が形成されておる」 リーナスが何やら俺の足元でほざいているがとりあえず無視。 俺はちょっとからかってみることにした。「……日本シリーズ? 何だそれは?」「お前はそれでも日本人なのか誠二!! 簡単に言うとその年度の野球日本一を決めるための決戦だ。先に四勝した方がその年の日本一ってわけよ。今レイヴンズが三勝、タイタンズが二勝よ」 ……冗談にマジレスされてしまった。「で、俺に何をして欲しいんだ? 賭けはしないぞ」「元手も怪しいですしね」 うるさいぞ雪風。 するとトルネロがホロTVのチャンネルを変えた。 ホロTVに映し出されたのは野球の試合中継だった。『二アウト――!』 実況の絶叫が響く。舞台は新西京スタジアム。 この試合――レイヴンズが勝てば優勝。新西京が狂乱の夜に包まれる瞬間だ。「アレか。レイヴンズが勝ちそうだな。新西京レイヴンズ優勝割引セールとかしてくれるなら俺は俄然応援するぜ」 ホロTVを顎で示す。「そのセールを守るための仕事よ。実はな……八百長疑惑が持ち上がっとる。医療技術の発展は絶対的な守護神を持ったチームに圧倒的な優位性を与えるに至ったのは周知の事実だが……その守護神たるレイヴンズのリリーフエース、神様仏様ルーブ・マーティン様が『わざと』打たせているという疑惑よ」 何やら声をひそめて意味深に語りだすトルネロ。「でももう勝ちそうだが? これで勝ったらレイヴンズの優勝だろ?」 そも
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