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第四話 探偵はアンティークショップにいる

新西京アンダーズ ―斎藤誠二の事件簿― 亜人と竜が住み弾丸と魔術が交差する都市で、正義を名乗らない探偵はサブカル狂いの黒猫と毒舌Aiと今日も理不尽を撃ち抜く。でもエルフの美女は勘弁な! — novel land.com · All chapters

第四話 探偵はアンティークショップにいる

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裏には工房が併設してある。今そこでドワーフの頑固な爺さんが加工を行っているはずだ。丁度後ろで扉が開き、野太い声がする。「小僧。来てたのか。出来たぞ。まったく、いきなり訳の分からん注文をするな」「すみません。お詫びにこれを」 斎藤誠二が手に提げていた焼酎のパックを爺さんに投げ渡す。「なかなか礼儀を弁えとる小僧じゃ」「無理を言っていますから」 礼儀正しいのは結構だが、私への礼儀とやらはないのだろうか?「おや、私には何もないのかい?」「……」 気まずそうに横を向く私立探偵。どうも私へのお土産は無いらしい。 つれないことだ。「まぁわしは疲れた。じゃあの小僧。雪風にもよろしくな。おっと! そいつは最長で十秒しかもたんぞ。意味は解るな?」「十秒ですか。永遠に等しい時間ですね。……もう一枚ありませんか?」 永遠に等しいと軽口を叩いておきながら、その直後にもう一枚をねだる。ふふふ、やはりこの坊やは面白い。「材料がない。それでなんとかせい。ま、その減らず口が叩ける間は大丈夫じゃろうて」 そう言い捨てると爺やはまた戻っていった。「久遠寺さん、料金は?」 料金か。さて、いくらにしたものか――私は彼の問いを無視して言いたいことを言い始めた。「斎藤君。君はね、今、逃げれば逃げるほど追いすがられる運命にある。相手は君という存在を『標』とし、そこに無理やりに道を繋げているのだよ。水が高いところから低いところへ流れるように、あるいは、炎が虫を引き寄せて焼き殺すように。それは執着だ。歪んだ愛と言い換えてもいい」 彼のもつパーマロイを煙管で指し示す。「だから君は、それを求めた」 赤いコートを着た男は面倒くさそうな顔をして聞いている。失礼な男だね。私の話はもっと嬉しそうに聞くものだよ。「これは『虚無』だ。あるいは『断絶』と言ってもいい。君に向けられた過剰な執着、その見えない糸を、この虚ろな器が吸い込み、迷わせ、そして霧散させる。道が途絶えれば、さしもの凶弾も行き場を失う。……違うかい?」「そうだな。あんたの話が長すぎるのはわかったよ。あぁ、後、金属製のペンダントと防弾用のセラミックブレストプレートはあるかい?」「ふむ。ペンダント……例えばこれはどうだろうか? つけたものが次々と非業の死を遂げるという呪いの――」「敵のストリートギャング団のボス、マーカス君は俺を視界に収めなければ魔弾を使えないってことだな?」 話を遮られたせいで不満げに尻尾を振り回しながらリーナスが頷く。 すまん、久遠寺さんの話が長かったのとお前がショーウインドーから離れなかったせいで時間が押しているんだ。「あっておる。だが、一度かけられたら話は別よ」「つまり俺は、三十人以上のオークの中からウォーリーを探せ! ならぬマーカスを探せ! をしなくてはいけない。名付けてマーカスを探してロックオンされる前に撃ち抜け大作戦だ」 腰のホルスターから雪風――ブラックスティール社製、アンダーテイカー・カスタム。10ミリオート、装弾数15発。俺は徹甲弾を主に採用。キャッチコピーは『二千百年のストリートで出会うどんな脅威もこの銃で切り抜けられる! 邪魔するあいつの葬式をこいつで挙げろ!』――を抜いて動作確認。「論理的判断です。あなたにしては素晴らしい。ほぼ不可能という一点を除けば。マーカスがあなたを視認して魔術をかければ後は視界外から撃てば良い。そこから導き出される結論は……俺は一方的に撃たれる可能性が高い。俺が勝つには俺の目の前にやつを引きずり出す必要がある。わかるな?」「当然スターバックスにいたときにそのリスクは把握していたのですよね? 私はそのリスクを理解していました。ですからあなたがたに冷静になるように伝えたのですが?」 またもや雪風の正論という名の暴力にさらされる俺。 左の太ももに装着してあるホルスターとバックアップ用の銃の確認。問題無し。「……。な、なので、俺が奴に勝つには、その一、目と目が合う瞬間撃ち殺す。その二、奴が弾を切らすまで逃げ回る。特注の弾丸だ、何百発も用意してない……かもしれない」「誘導弾相手にですか?」 そうそう、素直に心配したまえよ雪風君。 いや、心配していないなこれは。単なる質問にすぎんな。「明らかに無理ゲーではないか。そうだ! 倉庫ごと奴等を吹き飛ばせば良かろう。やってみせい!」「やってみせい! じゃないんだよリーナス君。今は大量の爆薬がない。そもそも行く必要はあるのですか? あなたは宮下ケイと会ったことすら――」「俺に苦しんで死んで欲しいのか? すまないが最高に幸せな死に方をするやつで頼む」「言われてみればツケを返す前に死なれたら困るね」 この返事。これだからこの男は面白い。やはり定命にしておくのはもったいない。機会があれば私の眷属に――「もう少しマイルドな奴で頼む」 斎藤誠二の声に、物思いに沈む私の想いが引き戻された。黒猫が私を見つめている。勘の良い子だ……いけないいけない、退屈がすぎるとどうも気の迷いが生じてしまう。「ふむ。ならこれでどうだろう?」 戸棚から安っぽいペンダントを取り出す。黒猫は再びショーケースの前で喉を鳴らしだした。「それには何の呪いがかかっているんだ?」「いや、これはそこいらで売っているものだよ」「なんだ、まともな物も置いてあるんだな。久遠寺さん、そういうのでいいんだよ。頼むから最初からまともなやつを出してくれ」「久遠寺だなんてよそよそしい。私と君の仲じゃないか。遥でいいよ。さて、まともな物とまともじゃない物。その本質は先ほどのペンダントもこのペンダントも変わりはしない。分かるかい? つまり――」「敵のストリートギャング団のボス、マーカス君は俺を視界に収めなければ魔弾を使えないってことだな?」 話を遮られたせいで不満げに尻尾を振り回しながらリーナスが頷く。 すまん、久遠寺さんの話が長かったのとお前がショーウインドーから離れなかったせいで時間が押しているんだ。「あっておる。だが、一度かけられたら話は別よ」「つまり俺は、三十人以上のオークの中からウォーリーを探せ! ならぬマーカスを探せ! をしなくてはいけない。名付けてマーカスを探してロックオンされる前に撃ち抜け大作戦だ」 腰のホルスターから雪風――ブラックスティール社製、アンダーテイカー・カスタム。10ミリオート、装弾数15発。俺は徹甲弾を主に採用。キャッチコピーは『二千百年のストリートで出会うどんな脅威もこの銃で切り抜けられる! 邪魔するあいつの葬式をこいつで挙げろ!』――を抜いて動作確認。「論理的判断です。あなたにしては素晴らしい。ほぼ不可能という一点を除けば。マーカスがあなたを視認して魔術をかければ後は視界外から撃てば良い。そこから導き出される結論は……俺は一方的に撃たれる可能性が高い。俺が勝つには俺の目の前にやつを引きずり出す必要がある。わかるな?」「当然スターバックスにいたときにそのリスクは把握していたのですよね? 私はそのリスクを理解していました。ですからあなたがたに冷静になるように伝えたのですが?」 またもや雪風の正論という名の暴力にさらされる俺。 左の太ももに装着してあるホルスターとバックアップ用の銃の確認。問題無し。「……。な、なので、俺が奴に勝つには、その一、目と目が合う瞬間撃ち殺す。その二、奴が弾を切らすまで逃げ回る。特注の弾丸だ、何百発も用意してない……かもしれない」「誘導弾相手にですか?」 そうそう、素直に心配したまえよ雪風君。 いや、心配していないなこれは。単なる質問にすぎんな。「明らかに無理ゲーではないか。そうだ! 倉庫ごと奴等を吹き飛ばせば良かろう。やってみせい!」「やってみせい! じゃないんだよリーナス君。今は大量の爆薬がない。そもそも一階建ての倉庫を改造した居住施設だ。崩落は無理だろ。だいたい俺達の目的を忘れていないか? 更に付け加えて言えば、アルゴス・セキュリティが駆けつけてくる可能性もある。いくら管轄から外れていても、あのでかめの倉庫が一つ吹き飛んだらアルゴス・セキュリティとしても知らぬ存ぜぬはできんだろう」「つまらぬ~つまらぬぅ!! アニメとかでよくある奴をやりたいだけなのである!!」 またごろごろしだすリーナス。もう俺は知らん。「その三、|決闘《デュエル》に持ち込む」 瞬間、空気が凍り付く。転がっていたリーナスが転がるのをやめる。吹き付けていた陸風も空気を読んだのか一瞬止んだ。「誠二、本気ですか? 相手が受ける理由がありません。あなたはさきほど相手が圧倒的優位にあることを説明しました。それを相手が捨てると?」「うむ。馬鹿だ馬鹿だとは思っておったがこれほどとは……」 君が勝手に境界線を引いているだけのことなのだよ。つまり君が勝手に区分けしているだけさ。その本質は観測者たる君が勝手に境界線を引いているだけのことなのだよ。つまり君が勝手に境界線を引いているだけのことなのだよ。つまり君が勝手に境界線を引いているだけのことなのだよ。つまり君が勝手に境界線を引いているだけのことなのだよ。つまり君が勝手に境界線を引いているだけのことなのだよ。つまり君が勝手に区分けしているだけさ。その本質は観測者たる君が勝手に区分けしているだけさ。その本質は先ほどのペンダントもこのペンダントも変わりはしない。分かるかい? つまり――」「わかった! わかったよ遥さん! また今度ゆっくり聞かせてもらうから! じゃあ料金はツケておいてくれ」「そうだね――料金は君の今の事件の顛末でどうだい? 私にはその方が価値があるからね」 そういいつつペンダントとセラミックでの胸部装甲をカウンターから押しやる。「俺のホームズ顔負けの名推理では……敵のボスの銃弾は目標を追う。つまり奴は魔弾の射手ってことだ」 ここ一番のキメ顔を出す。軽く目をつぶり口の端を軽く吊り上げる。 決まった。これ以上ないほどに。俺は今、ハードボイルドだ。「残された画像を見れば一目瞭然ですね」「なら七面鳥撃ちではないか? さらば誠二、安らかに眠るがよい」 人工知能と黒猫のふざけた発言に自分の頬がひきつった気がするが、ここで引いてはいけない。「魔術は相手を肉眼におさめなければかけられない、そうだな?」 念には念を入れ、一応自称|最高位魔術師《ウォーロック》らしいリーナスに確認を取る。「基本はそうである。だが、相手との縁を形成できる物質、例えば――」「必要はある。あるんだよ」 そう静かに答えた俺に、雪風はそれ以上何も言わなかった。ポケットに突っ込んであるパーマロイを確認。立ち上がって奴等の根城へと歩き始める。風は変わらず吹き続けていた。最低でも、見えないどこかから狙撃される、という事態は避けられる」「待て! そもそも貴様は常日頃から決闘をする者も観る者もアホだというておったが?」「まぁな。決闘において勝率は意味を持たない。どちらかの死でしか決着がつかないからだ。ルールでそう決まっている。こんなのやる奴はアホだろう?」「ならば……」「だが、今切れるカードの中で一番ましなのはコレしかない」「……。誠二、貴様、何故我に奴の魔術の解呪を頼まぬ? 我にできぬと?」「いや、できるだろう。だが、お前が解呪したら……マーカスはどうする?」「当然死ぬまで戦うであろう!」 何故こうもありえそうにない選択肢を誇らしげに胸を反らして言えるのか……「はい違います。先生が思うに……マーカス君は逃げると思います!」「更に誠二が敢えて指摘していない可能性があります。恐らくリーナスが最優先で狙われるでしょう。まずメイジやハッカーから殺せ。現代戦の基本です。逃走とリーナスの排除、どちらが優先されるかはわかりませんが」「ふっ……我の心配とは生意気な……だが……確かに撃たれたら我とて痛い。銃弾程度では死なぬとしても――痛いのは嫌だな?」「ウン。凄くわかるよその気持ち」 代わりに俺が撃たれるんだがな……だが、リーナスが撃たれるよりは良いだろう。「だからお前は目立たないように援護だ」「えー! つまらぬつまらぬぅ!」 こいつ、また寝転がってごろごろし始めた。相手してられん。「話聞いてた? こちらに魔術師の存在は伏せておきたいわけ。解呪するなら、決闘が始まって奴が銃を抜いた瞬間が望ましい。できるか?」「……多分?」 寝転がって横を向いた姿勢でリーナスが不安になることを言う。おい、多分って何だ。こっちは命がかかっているんだぞ? いや、まぁ、ちゃんとリーナス抜きで勝てるプランはあるから問題はないが、勝ち筋は多い方が良い。 「リーナス、今日は家にあがる前にお前、風呂な」 断固として拒否する! と騒ぐリーナスは無視。「いい加減にしろ。行くぞ。雪風、『呼び声』の予報は?」「今夜は『呼び声』の警報は発令されていません」 そうか、なら安心だな。俺は頷いた。「しかし誠二、そもそも行く必要はあるのですか? あなたは宮下ケイと会ったことすら――」「わかった! わかったよ遥さん! また今度ゆっくり聞かせてもらうから! じゃあ料金はツケておいてくれ」「そうだね――料金は君の今の事件の顛末でどうだい? 私にはその方が価値があるからね」 そういいつつペンダントとセラミックでの胸部装甲をカウンターから押しやる。「俺の話はシェヘラザード姫より面白いから、夜眠れなくなっても責任は取れないが?」「それは楽しみだね。君の話が気になって昼しか眠れなさそうだよ」 荷物を受け取った誠二は、電動猫じゃらしのショーケースの前で魂を奪われている黒猫の首根っこを掴んで、ドアへと向かう。 私は再び、煙管に火を点けた。あの男は、自分では気付いていないようだが、常に『境界』の上を歩いている。此岸と彼岸、秩序と混沌、科学と魔術。その境目をふらふらと彷徨う蝙蝠のような存在だ。だからこそ、私のような『あやかし』とも縁ができるのだ。さて、あの『虚無』の板――パーマロイが、どういう結末を描くのか。長生きの暇つぶしには、丁度いい余興かもしれないね。 午前一時二十分 新西京八区港湾区廃倉庫街 グリーンヴェノムの根城から徒歩五分地点(斎藤誠二) 人気の無い埠頭。 周囲はコンクリートで作られたコンテナを搬入するための倉庫が、忘れ去られた古代の遺跡のようにポツリ、ポツリと立っている。 海へ向かって吹きつける陸風が俺にしつこくまとわりつき、コートをはためかせる。正直、かなり煩わしい。俺達は適当な倉庫の影に座る。 事前の装備確認を行いながら、作戦を説明を開始する。「悪いニュースと哀しいニュースがある。どっちから聞きたい?」「誠二……それは悪いニュースでまとめられませんか?」 雪風め、お約束のわからんやつだ。 マガジンは十本。正直な話、重い。だが戦っているうちに軽くなるだろう。「では哀しいニュースから聞いてやろう」 毛づくろいをしながらリーナスが言った。さすがだな。伊達にアニメ狂いではない。「グリーンヴェノムと敵対しているストリートギャング団を探して、一緒に襲撃しようよ♪ って持ちかけようと思ったんだが……」「成程。数的不利を少しでも減らそうという作戦ですね。名案です」 もっと褒めて良いぞ?「ここらへんのストリートギャング……のきなみあいつらに潰されて吸収合併していたんだ。哀しいね」 胸に着用したセラミックブレストプレートがずれないように確認。 邪魔だ。だが今回ばかりは必須だ。その上からペンダントをかける。「成程。当然ありえる可能性ですね」 この人工知能……掌返しが速すぎる……「ふん。有象無象など所詮は弾避けよ」「その時のマーカス君の気持ちを想像したまえよ」 リーナスが答えた。「それは……自らの築いたギャング団が目の前で崩壊し、あまつさえ自らを見捨てて逃げるとなると……ブチギレるであろうな」「つまり冷静な判断力を欠いたマーカスは決闘を受けると?」「その通りだ雪風」「もしマーカスが受けなかったらどうするのですか? しかもあなたでは――マーカスを決闘に持ち込めたとしても勝てません」「そうは言うがな。じゃあその四。マーカスの射撃に合わせて電気を落としてもらう。俺はコンテナの上に飛び乗って発砲炎から奴の位置を割り出す。」「……。理論的には可能ですが、実際にやるとなると話は別です。そもそも一階建ての倉庫を改造した居住施設だ。崩落は無理だろ。だいたい俺達の目的を忘れていないか? 更に付け加えて言えば、アルゴス・セキュリティが駆けつけてくる可能性もある。いくら管轄から外れていても、あのでかめの倉庫が一つ吹き飛んだらアルゴス・セキュリティとしても知らぬ存ぜぬはできんだろう」「つまらぬ~つまらぬぅ!! アニメとかでよくある奴をやりたいだけなのである!!」 またごろごろしだすリーナス。もう俺は知らん。「その三、|決闘《デュエル》に持ち込む」 瞬間、空気が凍り付く。転がっていたリーナスが転がるのをやめる。吹き付けていた陸風も空気を読んだのか一瞬止んだ。「誠二、本気ですか? 相手が受ける理由がありません。あなたはさきほど相手が圧倒的優位にあることを説明しました。それを相手が捨てると?」「うむ。馬鹿だ馬鹿だとは思っておったがこれほどとは……」 雪風とリーナスが反論してくるが、丁寧に人間心理を教えてやることにした。「お前達は人間を理解していない。いいか? ストリートギャング団はそれなりに結束が強い……事が多い。あいつらもそうだといいな……で、俺達がメンバーをぶち殺して回るとどうなる?」「想定されうる通常の人間の感情の働きとして、怒りに移行する確率は高いでしょう」 雪風の推測は正しいが、まだ甘い。「奴らは結束は強いが、プロじゃない。恐らく三割から五割も殺せば逃げ出し始めるだろう」「確かに練度による反応の差を考慮すると……妥当な判断です」「その弾避けがね? 欲しかったんだよリーナス君?」「根性で耐えるが良い。で、悪いニュースは?」 銃弾を根性で耐えられるのはトロールとか巨人族くらいだと思うんだよ。まぁ、通常弾ならなんとでもなるが……そのためのブレストプレートだしな。「俺のホームズ顔負けの名推理では……敵のボスの銃弾は目標を追う。つまり奴は魔弾の射手ってことだ」 ここ一番のキメ顔を出す。軽く目をつぶり口の端を軽く吊り上げる。 決まった。これ以上ないほどに。俺は今、ハードボイルドだ。「残された画像を見れば一目瞭然ですね」「なら七面鳥撃ちではないか? さらば誠二、安らかに眠るがよい」 人工知能と黒猫のふざけた発言に自分の頬がひきつった気がするが、ここで引いてはいけない。「魔術は相手を肉眼におさめなければかけられない、そうだな?」 念には念を入れ、一応自称|最高位魔術師《ウォーロック》らしいリーナスに確認を取る。「基本はそうである。だが、相手との縁を形成できる物質、例えば――」「敵のストリートギャング団のボス、マーカス君は俺を視界に収めなければ魔弾を使えないってことだな?」 話を遮られたせいで不満げに尻尾を振り回しながらリーナスが頷く。 すまん、久遠寺さんの話が長かったのとお前がショーウインドーから離れなかったせいで時間が押しているんだ。「あっておる。だが、一度かけられたら話は別よ」「つまり俺は、三十人以上のオークの中からウォーリーを探せ! ならぬマーカスを探せ! をしなくてはいけない。名付けてマーカスを探してロックオンされる前に撃ち抜け大作戦だ」 腰のホルスターから雪風――ブラックスティール社製、アンダーテイカー・カスタム。10ミリオート、装弾数15発。俺は徹甲弾を主に採用。キャッチコピーは『二千百年のストリートで出会うどんな脅威もこの銃で切り抜けられる! 邪魔するあいつの葬式をこいつで挙げろ!』――を抜いて動作確認。「論理的判断です。あなたにしては素晴らしい。ほぼ不可能という一点を除けば。マーカスがあなたを視認して魔術をかければ後は視界外から撃てば良い。そこから導き出される結論は……俺は一方的に撃たれる可能性が高い。俺が勝つには俺の目の前にやつを引きずり出す必要がある。わかるな?」「当然スターバックスにいたときにそのリスクは把握していたのですよね? 私はそのリスクを理解していました。ですからあなたがたに冷静になるように伝えたのですが?」 またもや雪風の正論という名の暴力にさらされる俺。 左の太ももに装着してあるホルスターとバックアップ用の銃の確認。問題無し。「……。な、なので、俺が奴に勝つには、その一、目と目が合う瞬間撃ち殺す。その二、奴が弾を切らすまで逃げ回る。特注の弾丸だ、何百発も用意してない……かもしれない」「誘導弾相手にですか?」 そうそう、素直に心配したまえよ雪風君。 いや、心配していないなこれは。単なる質問にすぎんな。「明らかに無理ゲーではないか。そうだ! 倉庫ごと奴等を吹き飛ばせば良かろう。やってみせい!」「やってみせい! じゃないんだよリーナス君。今は大量の爆薬がない。そもそも行く必要はあるのですか? あなたは宮下ケイと会ったことすら――」「わかった! わかったよ遥さん! また今度ゆっくり聞かせてもらうから! じゃあ料金はツケておいてくれ」「そうだね――料金は君の今の事件の顛末でどうだい? 私にはその方が価値があるからね」 そういいつつペンダントとセラミックでの胸部装甲をカウンターから押しやる。「俺のホームズ顔負けの名推理では……敵のボスの銃弾は目標を追う。つまり奴は魔弾の射手ってことだ」 ここ一番のキメ顔を出す。軽く目をつぶり口の端を軽く吊り上げる。 決まった。これ以上ないほどに。俺は今、ハードボイルドだ。「残された画像を見れば一目瞭然ですね」「なら七面鳥撃ちではないか? さらば誠二、安らかに眠るがよい」 人工知能と黒猫のふざけた発言に自分の頬がひきつった気がするが、ここで引いてはいけない。「魔術は相手を肉眼におさめなければかけられない、そうだな?」 念には念を入れ、一応自称|最高位魔術師《ウォーロック》らしいリーナスに確認を取る。「基本はそうである。だが、相手との縁を形成できる物質、例えば――」「俺に苦しんで死んで欲しいのか? すまないが最高に幸せな死に方をするやつで頼む」「言われてみればツケを返す前に死なれたら困るね」 この返事。これだから 棚へと吸い寄せられた。 そこには――おお、見よ! あの『輝くトラペゾヘドロン』の模造品が! いや、待て。これは……違う。もっと邪悪で、もっと甘美で、もっと危険な香り。 微かで朧気ながら、あまりにも濃い血の匂い。いや、正確には――血を糧とする者の気配。 我は身を震わせた。あれは……吸血鬼。しかも、相当な長老。 店の奥、光を通さない暗がりの中から、赤いドレスを着た美しい黒髪の女性がその禍々しき紅き瞳で我らを見つめていた。しかしそんなことはどうでも良い。我は次なる至宝を探す使命があるのだ。セラエノの大図書館に匹敵する叡智の殿堂がまさかこのような地にあろうとは……我が興奮はやむことを知らぬ!(久遠寺遥) 私はカウンターの奥で古びた煙管を燻らせていた。 紫煙が、ホログラムの浮世絵――歌川国芳の『相馬の古内裏』を揺らめかせながら立ち昇る。 扉を開けて入ってきたのは、予想通り赤いコートの男だった。斎藤誠二。 元警官にして現私立探偵であり――銃豪。いや……私としたことが定命のくだらないカテゴライズに拘ってしまうとは。思わず苦笑を浮かべる。 そしてあの黒猫。商品を見ては喉をゴロゴロ鳴らし、尻尾を振り回していて可愛らしい。思わず目を細めてしまう――が、ふふ……あれは猫でもあり猫でもない。太古の――いや、詮索は無粋というものだ。そして斎藤誠二が腰に提げている銃。その中には独立型人工知能である雪風が棲んでいる。本当に興味深い組み合わせだ。「いらっしゃい、お客さん。当店はトイレットペーパーから核弾頭まで取り揃えているよ」 私は、ゆっくりと煙管の灰を落としながら歓迎の言葉を投げかけた。「随分と、血生臭い夜をお過ごしのようだね斎藤君」 斎藤誠二は、私を一瞥すると、にやりと笑った。「おいおい、久遠寺さん。今日の俺はシャネルの五番をつけてきたんだぞ?」「私には硝煙の臭いしかしないがね。それとも硝煙の香りにもシャネルブランドが存在するのかい? どこのメーカーの弾薬かな? 今度仕入れておくとしよう。女性の銃豪に売れそうだ。で、今夜は何の用かね、探偵さん」「メールを送ったでしょう。パーマロイ。ポケットに入るサイズ。極小の電源とコイルを内蔵させたもの」「あぁ、それなら奥で爺やが加工中さ」 百鬼堂の裏には工房が併設してある。今そこでドワーフの頑固な爺さんが加工を行っているはずだ。丁度後ろで扉が開き、野太い声がする。「小僧。来てたのか。出来たぞ。まったく、いきなり訳の分からん注文をするな」「すみません。お詫びにこれを」 斎藤誠二が手に提げていた焼酎のパックを爺さんに投げ渡す。「なかなか礼儀を弁えとる小僧じゃ」「無理を言っていますから」 礼儀正しいのは結構だが、私への礼儀とやらはないのだろうか?「おや、私には何もないのかい?」「……」 気まずそうに横を向く私立探偵。どうも私へのお土産は無いらしい。 つれないことだ。「まぁわしは疲れた。じゃあの小僧。雪風にもよろしくな。おっと! そいつは最長で十秒しかもたんぞ。意味は解るな?」「十秒ですか。永遠に等しい時間ですね。……もう一枚ありませんか?」 永遠に等しいと軽口を叩いておきながら、その直後にもう一枚をねだる。ふふふ、やはりこの坊やは面白い。「材料がない。それでなんとかせい。ま、その減らず口が叩ける間は大丈夫じゃろうて」 そう言い捨てると爺やはまた戻っていった。「久遠寺さん、料金は?」 料金か。さて、いくらにしたものか――私は彼の問いを無視して言いたいことを言い始めた。「斎藤君。君はね、今、逃げれば逃げるほど追いすがられる運命にある。相手は君という存在を『標』とし、そこに無理やりに道を繋げているのだよ。水が高いところから低いところへ流れるように、あるいは、炎が虫を引き寄せて焼き殺すように。それは執着だ。歪んだ愛と言い換えてもいい」 彼のもつパーマロイを煙管で指し示す。「だから君は、それを求めた」 赤いコートを着た男は面倒くさそうな顔をして聞いている。失礼な男だね。私の話はもっと嬉しそうに聞くものだよ。「これは『虚無』だ。あるいは『断絶』と言ってもいい。君に向けられた過剰な執着、その見えない糸を、この虚ろな器が吸い込み、迷わせ、そして霧散させる。道が途絶えれば、さしもの凶弾も行き場を失う。……違うかい?」「そうだな。あんたの話が長すぎるのはわかったよ。あぁ、後、金属製のペンダントと防弾用のセラミックブレストプレートはあるかい?」「ふむ。ペンダント……例えばこれはどうだろうか? つけたものが次々と非業の死を遂げるという呪いの――」「わかった! わかったよ遥さん! また今度ゆっくり聞かせてもらうから! じゃあ料金はツケておいてくれ」「そうだね――料金は君の今の事件の顛末でどうだい? 私にはその方が価値があるからね」 そういいつつペンダントとセラミックでの胸部装甲をカウンターから押しやる。「俺のホームズ顔負けの名推理では……敵のボスの銃弾は目標を追う。つまり奴は魔弾の射手ってことだ」 ここ一番のキメ顔を出す。軽く目をつぶり口の端を軽く吊り上げる。 決まった。これ以上ないほどに。俺は今、ハードボイルドだ。「残された画像を見れば一目瞭然ですね」「なら七面鳥撃ちではないか? さらば誠二、安らかに眠るがよい」 人工知能と黒猫のふざけた発言に自分の頬がひきつった気がするが、ここで引いてはいけない。「魔術は相手を肉眼におさめなければかけられない、そうだな?」 念には念を入れ、一応自称|最高位魔術師《ウォーロック》らしいリーナスに確認を取る。「基本はそうである。だが、相手との縁を形成できる物質、例えば――」「俺に苦しんで死んで欲しいのか? すまないが最高に幸せな死に方をするやつで頼む」「言われてみればツケを返す前に死なれたら困るね」 この返事。これだからこの男は面白い。やはり定命にしておくのはもったいない。機会があれば私の眷属に――「もう少しマイルドな奴で頼む」 斎藤誠二の声に、物思いに沈む私の想いが引き戻された。黒猫が私を見つめている。勘の良い子だ……いけないいけない、退屈がすぎるとどうも気の迷いが生じてしまう。「ふむ。ならこれでどうだろう?」 戸棚から安っぽいペンダントを取り出す。黒猫は再びショーケースの前で喉を鳴らしだした。「それには何の呪いがかかっているんだ?」「いや、これはそこいらで売っているものだよ」「なんだ、まともな物も置いてあるんだな。久遠寺さん、そういうのでいいんだよ。頼むから最初からまともなやつを出してくれ」「久遠寺だなんてよそよそしい。私と君の仲じゃないか。遥でいいよ。さて、まともな物とまともじゃない物。その本質は先ほどのペンダントもこのペンダントも変わりはしない。分かるかい? つまり――」「必要はある。あるんだよ」 そう静かに答えた俺に、雪風はそれ以上何も言わなかった。ポケットに突っ込んであるパーマロイを確認。立ち上がって奴等の根城へと歩き始める。風は変わらず吹き続けていた。 そこには――おお、見よ! あの『輝くトラペゾヘドロン』の模造品が! いや、待て。これは……違う。もっと邪悪で、もっと甘美で、もっと危険な香り。 微かで朧気ながら、あまりにも濃い血の匂い。いや、正確には――血を糧とする者の気配。 我は身を震わせた。あれは……吸血鬼。しかも、相当な長老。 店の奥、光を通さない暗がりの中から、赤いドレスを着た美しい黒髪の女性がその禍々しき紅き瞳で我らを見つめていた。しかしそんなことはどうでも良い。我は次なる至宝を探す使命があるのだ。セラエノの大図書館に匹敵する叡智の殿堂がまさかこのような地にあろうとは……我が興奮はやむことを知らぬ!(久遠寺遥) 私はカウンターの奥で古びた煙管を燻らせていた。 紫煙が、ホログラムの浮世絵――歌川国芳の『相馬の古内裏』を揺らめかせながら立ち昇る。 扉を開けて入ってきたのは、予想通り赤いコートの男だった。斎藤誠二。 元警官にして現私立探偵であり――銃豪。いや……私としたことが定命のくだらないカテゴライズに拘ってしまうとは。思わず苦笑を浮かべる。 そしてあの黒猫。商品を見ては喉をゴロゴロ鳴らし、尻尾を振り回していて可愛らしい。思わず目を細めてしまう――が、ふふ……あれは猫でもあり猫でもない。太古の――いや、詮索は無粋というものだ。そして斎藤誠二が腰に提げている銃。その中には独立型人工知能である雪風が棲んでいる。本当に興味深い組み合わせだ。「いらっしゃい、お客さん。当店はトイレットペーパーから核弾頭まで取り揃えているよ」 私は、ゆっくりと煙管の灰を落としながら歓迎の言葉を投げかけた。「随分と、血生臭い夜をお過ごしのようだね斎藤君」 斎藤誠二は、私を一瞥すると、にやりと笑った。「おいおい、久遠寺さん。今日の俺はシャネルの五番をつけてきたんだぞ?」「私には硝煙の臭いしかしないがね。それとも硝煙の香りにもシャネルブランドが存在するのかい? どこのメーカーの弾薬かな? 今度仕入れておくとしよう。女性の銃豪に売れそうだ。で、今夜は何の用かね、探偵さん」「メールを送ったでしょう。パーマロイ。ポケットに入るサイズ。極小の電源とコイルを内蔵させたもの」「あぁ、それなら奥で爺やが加工中さ」 百鬼堂の裏には工房が併設してある。今そこでドワーフの頑固な爺さんが加工を行っているはずだ。丁度後ろで扉が開き、野太い声がする。「小僧。来てたのか。出来たぞ。まったく、いきなり訳の分からん注文をするな」「すみません。お詫びにこれを」 斎藤誠二が手に提げていた焼酎のパックを爺さんに投げ渡す。「なかなか礼儀を弁えとる小僧じゃ」「無理を言っていますから」 礼儀正しいのは結構だが、私への礼儀とやらはないのだろうか?「おや、私には何もないのかい?」「……」 気まずそうに横を向く私立探偵。どうも私へのお土産は無いらしい。 つれないことだ。「まぁわしは疲れた。じゃあの小僧。雪風にもよろしくな。おっと! そいつは最長で十秒しかもたんぞ。意味は解るな?」「十秒ですか。永遠に等しい時間ですね。……もう一枚ありませんか?」 永遠に等しいと軽口を叩いておきながら、その直後にもう一枚をねだる。ふふふ、やはりこの坊やは面白い。「材料がない。それでなんとかせい。ま、その減らず口が叩ける間は大丈夫じゃろうて」 そう言い捨てると爺やはまた戻っていった。「久遠寺さん、料金は?」 料金か。さて、いくらにしたものか――私は彼の問いを無視して言いたいことを言い始めた。「斎藤君。君はね、今、逃げれば逃げるほど追いすがられる運命にある。相手は君という存在を『標』とし、そこに無理やりに道を繋げているのだよ。水が高いところから低いところへ流れるように、あるいは、炎が虫を引き寄せて焼き殺すように。それは執着だ。歪んだ愛と言い換えてもいい」 彼のもつパーマロイを煙管で指し示す。「だから君は、それを求めた」 赤いコートを着た男は面倒くさそうな顔をして聞いている。失礼な男だね。私の話はもっと嬉しそうに聞くものだよ。「これは『虚無』だ。あるいは『断絶』と言ってもいい。君に向けられた過剰な執着、その見えない糸を、この虚ろな器が吸い込み、迷わせ、そして霧散させる。道が途絶えれば、さしもの凶弾も行き場を失う。……違うかい?」「そうだな。あんたの話が長すぎるのはわかったよ。あぁ、後、金属製のペンダントと防弾用のセラミックブレストプレートはあるかい?」「ふむ。ペンダント……例えばこれはどうだろうか? つけたものが次々と非業の死を遂げるという呪いの――」「わかった! わかったよ遥さん! また今度ゆっくり聞かせてもらうから! じゃあ料金はツケておいてくれ」「そうだね――料金は君の今の事件の顛末でどうだい? 私にはその方が価値があるからね」 そういいつつペンダントとセラミックでの胸部装甲をカウンターから押しやる。「俺の話はシェヘラザード姫より面白いから、夜眠れなくなっても責任は取れないが?」「それは楽しみだね。君の話が気になって昼しか眠れなさそうだよ」 荷物を受け取った誠二は、電動猫じゃらしのショーケースの前で魂を奪われている黒猫の首根っこを掴んで、ドアへと向かう。 私は再び、煙管に火を点けた。あの男は、自分では気付いていないようだが、常に『境界』の上を歩いている。此岸と彼岸、秩序と混沌、科学と魔術。その境目をふらふらと彷徨う蝙蝠のような存在だ。だからこそ、私のような『あやかし』とも縁ができるのだ。さて、あの『虚無』の板――パーマロイが、どういう結末を描くのか。長生きの暇つぶしには、丁度いい余興かもしれないね。 午前一時 入ってきたのは、予想通り赤いコートの男だった。斎藤誠二。 元警官にして現私立探偵であり――銃豪。いや……私としたことが定命のくだらないカテゴライズに拘ってしまうとは。思わず苦笑を浮かべる。 そしてあの黒猫。商品を見ては喉をゴロゴロ鳴らし、尻尾を振り回していて可愛らしい。思わず目を細めてしまう――が、ふふ……あれは猫でもあり猫でもない。太古の――いや、詮索は無粋というものだ。そして斎藤誠二が腰に提げている銃。その中には独立型人工知能である雪風が棲んでいる。本当に興味深い組み合わせだ。「いらっしゃい、お客さん。当店はトイレットペーパーから核弾頭まで取り揃えているよ」 私は、ゆっくりと煙管の灰を落としながら歓迎の言葉を投げかけた。「随分と、血生臭い夜をお過ごしのようだね斎藤君」 斎藤誠二は、私を一瞥すると、にやりと笑った。「おいおい、久遠寺さん。今日の俺はシャネルの五番をつけてきたんだぞ?」「私には硝煙の臭いしかしないがね。それとも硝煙の香りにもシャネルブランドが存在するのかい? どこのメーカーの弾薬かな? 今度仕入れておくとしよう。女性の銃豪に売れそうだ。で、今夜は何の用かね、探偵さん」「メールを送ったでしょう。パーマロイ。ポケットに入るサイズ。極小の電源とコイルを内蔵させたもの」「あぁ、それなら奥で爺やが加工中さ」 百鬼堂の裏には工房が併設してある。今そこでドワーフの頑固な爺さんが加工を行っているはずだ。丁度後ろで扉が開き、野太い声がする。「小僧。来てたのか。出来たぞ。まったく、いきなり訳の分からん注文をするな」「すみません。お詫びにこれを」 斎藤誠二が手に提げていた焼酎のパックを爺さんに投げ渡す。「なかなか礼儀を弁えとる小僧じゃ」「無理を言っていますから」 礼儀正しいのは結構だが、私への礼儀とやらはないのだろうか?「おや、私には何もないのかい?」「……」 気まずそうに横を向く私立探偵。どうも私へのお土産は無いらしい。 つれないことだ。「まぁわしは疲れた。じゃあの小僧。雪風にもよろしくな。おっと! そいつは最長で十秒しかもたんぞ。意味は解るな?」「十秒ですか。永遠に等しい時間ですね。……もう一枚ありませんか?」 永遠に等しいと軽口を叩いておきながら、その直後にもう一枚をねだる。ふふふ、やはりこの坊やは面白い。「材料がない。それでなんとかせい。ま、その減らず口が叩ける間は大丈夫じゃろうて」 そう言い捨てると爺やはまた戻っていった。「久遠寺さん、料金は?」 料金か。さて、いくらにしたものか――私は彼の問いを無視して言いたいことを言い始めた。「斎藤君。君はね、今、逃げれば逃げるほど追いすがられる運命にある。相手は君という存在を『標』とし、そこに無理やりに道を繋げているのだよ。水が高いところから低いところへ流れるように、あるいは、炎が虫を引き寄せて焼き殺すように。それは執着だ。歪んだ愛と言い換えてもいい」 彼のもつパーマロイを煙管で指し示す。「だから君は、それを求めた」 赤いコートを着た男は面倒くさそうな顔をして聞いている。失礼な男だね。私の話はもっと嬉しそうに聞くものだよ。「これは『虚無』だ。あるいは『断絶』と言ってもいい。君に向けられた過剰な執着、その見えない糸を、この虚ろな器が吸い込み、迷わせ、そして霧散させる。道が途絶えれば、さしもの凶弾も行き場を失う。……違うかい?」「そうだな。あんたの話が長すぎるのはわかったよ。あぁ、後、金属製のペンダントと防弾用のセラミックブレストプレートはあるかい?」「ふむ。ペンダント……例えばこれはどうだろうか? つけたものが次々と非業の死を遂げるという呪いの――」「必要はある。あるんだよ」 そう静かに答えた俺に、雪風はそれ以上何も言わなかった。ポケットに突っ込んであるパーマロイを確認。立ち上がって奴等の根城へと歩き始める。風は変わらず吹き続けていた。なると……ブチギレるであろうな」「つまり冷静な判断力を欠いたマーカスは決闘を受けると?」「その通りだ雪風」「もしマーカスが受けなかったらどうするのですか? しかもあなたでは――マーカスを決闘に持ち込めたとしても勝てません」「そうは言うがな。じゃあその四。マーカスの射撃に合わせて電気を落としてもらう。俺はコンテナの上に飛び乗って発砲炎から奴の位置を割り出す。」「……。理論的には可能ですが、実際にやるとなると話は別です。そもそも行く必要はあるのですか? あなたは宮下ケイと会ったことすら――」「敵のストリートギャング団のボス、マーカス君は俺を視界に収めなければ魔弾を使えないってことだな?」 話を遮られたせいで不満げに尻尾を振り回しながらリーナスが頷く。 すまん、久遠寺さんの話が長かったのとお前がショーウインドーから離れなかったせいで時間が押しているんだ。「あっておる。だが、一度かけられたら話は別よ」「つまり俺は、三十人以上のオークの中からウォーリーを探せ! ならぬマーカスを探せ! をしなくてはいけない。名付けてマーカスを探してロックオンされる前に撃ち抜け大作戦だ」 腰のホルスターから雪風――ブラックスティール社製、アンダーテイカー・カスタム。10ミリオート、装弾数15発。俺は徹甲弾を主に採用。キャッチコピーは『二千百年のストリートで出会うどんな脅威もこの銃で切り抜けられる! 邪魔するあいつの葬式をこいつで挙げろ!』――を抜いて動作確認。「論理的判断です。あなたにしては素晴らしい。ほぼ不可能という一点を除けば。マーカスがあなたを視認して魔術をかけて物陰に隠れる時間を……長く見積もって二秒としましょう。あなたは知らない人だらけの卒業写真を見て、その中から特定の一人を二秒以内に見つけ出せるのですか? しかも銃を向けて狙って撃って命中させなくてはならない」「あぁ、お前を海に沈めたくなったがその通りだ。かなりの運が必要になる」 丁度手に持っている雪風―――ブラックスティール社製、アンダーテイカー・カスタム――を海に向かって持ち上げる。「それは脅迫でもあり、またあなたの生存確率を著しく低下させます」「本当にするわけないだろうが! で、あの手の倉庫を居住区に改造しているということは、多分コンテナを部屋代わりにしていると思うんだよ。恐らくは迷路状態。音も反響するだろう」 俺はホルスターに雪風を戻した。 切り札として煙幕グレネード、スタングレネード、破片手榴弾を各一個。 だが今回は使う事は無いだろう。 過剰な火力を見せつけると敵のボスが逃げる可能性が高い。俺が勝つには俺の目の前にやつを引きずり出す必要がある。わかるな?」「当然スターバックスにいたときにそのリスクは把握していたのですよね? 私はそのリスクを理解していました。ですからあなたがたに冷静になるように伝えたのですが?」 またもや雪風の正論という名の暴力にさらされる俺。 左の太ももに装着してあるホルスターとバックアップ用の銃の確認。問題無し。「……。な、なので、俺が奴に勝つには、その一、目と目が合う瞬間撃ち殺す。その二、奴が弾を切らすまで逃げ回る。特注の弾丸だ、何百発も用意してない……かもしれない」「誘導弾相手にですか?」 そうそう、素直に心配したまえよ雪風君。 いや、心配していないなこれは。単なる質問にすぎんな。「明らかに無理ゲーではないか。そうだ! 倉庫ごと奴等を吹き飛ばせば良かろう。やってみせい!」「やってみせい! じゃないんだよリーナス君。今は大量の爆薬がない。そもそも誘導弾を撃たれているのに自分から遮蔽の無い場所に飛び出してどうするのですか? 自殺したいのですか?」「だからその四なんだよ。そしてその五。ジャジャ~ン! 古のハリウッド映画とか小説のように都合よく――なんか知らないけど生まれついてのラッキーハンサムガイの斎藤誠二は運命の導きでマーカスの位置がわかったり、偶然鉢合わして倒せちゃう! 的な☆」「……」「……」 二人とも、いきなり黙るのはやめろ。俺だって辛いんだ。「オホン。だからまぁ……決闘が一番ましだろ? 少なくとも勝てる可能性は他よりはある。最低でも、見えないどこかから狙撃される、という事態は避けられる」「待て! そもそも貴様は常日頃から決闘をする者も観る者もアホだというておったが?」「まぁな。決闘において勝率は意味を持たない。どちらかの死でしか決着がつかないからだ。ルールでそう決まっている。こんなのやる奴はアホだろう?」「ならば……」「だが、今切れるカードの中で一番ましなのはコレしかない」「……。誠二、貴様、何故我に奴の魔術の解呪を頼まぬ? 我にできぬと?」「いや、できるだろう。だが、お前が解呪したら……マーカスはどうする?」「当然死ぬまで戦うであろう!」 何故こうもありえそうにない選択肢を誇らしげに胸を反らして言えるのか……「はい違います。先生が思うに……マーカス君は逃げると思います!」「更に誠二が敢えて指摘していない可能性があります。恐らくリーナスが最優先で狙われるでしょう。まずメイジやハッカーから殺せ。現代戦の基本です。逃走とリーナスの排除、どちらが優先されるかはわかりませんが」「ふっ……我の心配とは生意気な……だが……確かに撃たれたら我とて痛い。銃弾程度では死なぬとしても――痛いのは嫌だな?」「ウン。凄くわかるよその気持ち」 代わりに俺が撃たれるんだがな……だが、リーナスが撃たれるよりは良いだろう。「だからお前は目立たないように援護だ」「えー! つまらぬつまらぬぅ!」 こいつ、また寝転がってごろごろし始めた。相手してられん。「話聞いてた? こちらに魔術師の存在は伏せておきたいわけ。解呪するなら、決闘が始まって奴が銃を抜いた瞬間が望ましい。できるか?」「……多分?」 寝転がって横を向いた姿勢でリーナスが不安になることを言う。おい、多分って何だ。こっちは命がかかっているんだぞ? いや、まぁ、ちゃんとリーナス抜きで勝てるプランはあるから問題はないが、勝ち筋は多い方が良い。 「リーナス、今日は家にあがる前にお前、風呂な」 断固として拒否する! と騒ぐリーナスは無視。「いい加減にしろ。行くぞ。雪風、『呼び声』の予報は?」「今夜は『呼び声』の警報は発令されていません」 そうか、なら安心だな。俺は頷いた。「しかし誠二、そもそも一階建ての倉庫を改造した居住施設だ。崩落は無理だろ。だいたい俺達の目的を忘れていないか? 更に付け加えて言えば、アルゴス・セキュリティが駆けつけてくる可能性もある。いくら管轄から外れていても、あのでかめの倉庫が一つ吹き飛んだらアルゴス・セキュリティとしても知らぬ存ぜぬはできんだろう」「つまらぬ~つまらぬぅ!! アニメとかでよくある奴をやりたいだけなのである!!」 またごろごろしだすリーナス。もう俺は知らん。「その三、|決闘《デュエル》に持ち込む」 瞬間、空気が凍り付く。転がっていたリーナスが転がるのをやめる。吹き付けていた陸風も空気を読んだのか一瞬止んだ。「誠二、本気ですか? 相手が受ける理由がありません。あなたはさきほど相手が圧倒的優位にあることを説明しました。それを相手が捨てると?」「うむ。馬鹿だ馬鹿だとは思っておったがこれほどとは……」 雪風とリーナスが反論してくるが、丁寧に人間心理を教えてやることにした。「お前達は人間を理解していない。いいか? ストリートギャング団はそれなりに結束が強い……事が多い。あいつらもそうだといいな……で、俺達がメンバーをぶち殺して回るとどうなる?」「想定されうる通常の人間の感情の働きとして、怒りに移行する確率は高いでしょう」 雪風の推測は正しいが、まだ甘い。「奴らは結束は強いが、プロじゃない。恐らく三割から五割も殺せば逃げ出し始めるだろう」「確かに練度による反応の差を考慮すると……妥当な判断です」「その時のマーカス君の気持ちを想像したまえよ」 リーナスが答えた。「それは……自らの築いたギャング団が目の前で崩壊し、あまつさえ自らを見捨てて逃げるとなると……ブチギレるであろうな」「つまり冷静な判断力を欠いたマーカスは決闘を受けると?」「その通りだ雪風」「もしマーカスが受けなかったらどうするのですか? しかもあなたでは――マーカスを決闘に持ち込めたとしても勝てません」「そうは言うがな。じゃあその四。マーカスの射撃に合わせて電気を落としてもらう。俺はコンテナの上に飛び乗って発砲炎から奴の位置を割り出す。」「……。理論的には可能ですが、実際にやるとなると話は別です。そもそも誘導弾を撃たれているのに自分から遮蔽の無い場所に飛び出してどうするのですか? 自殺したいのですか?」「だからその四なんだよ。そしてその五。ジャジャ~ン! 古のハリウッド映画とか小説のように都合よく――なんか知らないけど生まれついてのラッキーハンサムガイの斎藤誠二は運命の導きでマーカスの位置がわかったり、偶然鉢合わして

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