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第七話 探偵はコロシアムにいる

新西京アンダーズ ―斎藤誠二の事件簿― 亜人と竜が住み弾丸と魔術が交差する都市で、正義を名乗らない探偵はサブカル狂いの黒猫と毒舌Aiと今日も理不尽を撃ち抜く。でもエルフの美女は勘弁な! — novel land.com · All chapters

第七話 探偵はコロシアムにいる

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「聞こえているんだろう? マーカス。ご自慢の魔弾とやらもたいしたことはないな?」「貴様……僕の射撃を十二発も食らって何故…!!」 マーカスの背後で小さい悲鳴が聞こえる。「もういやだ!!」という声。「どこに行く!!」というマーカスの怒声。 それに続く銃声。悲鳴。 良いぞ、好きなだけ仲間割れをしていてくれ。仲悪きことはありがたきかな。 その間に倉庫の出口にゆっくりと向かう。 声は余裕たっぷりに、足取りは瀕死の亀のように。俺は無傷だ。奴にそう信じさせろ。倉庫の外壁なら奴の魔弾を防げる。「お前のせいで僕のささやかな、だけどお互いに支え合っていた素晴らしい家族はほとんどいなくなってしまった……死ね! 死ね! 死ね!!」 マーカスのヒステリックな声が俺の耳朶を打つ。知ったことか――お前達クズどもを見るたびに思う――自分の身内以外にも何故その優しさを提供できない?「おいおいマーカス……俺はもう倉庫の外に居るんだよ。わかるか? さしものお前の弾丸も倉庫の外壁は貫通できない。俺を殺したいんだろう? ほら、面を出せよ。それとも、びびってるのか?」 マーカスは沈黙している。奴は不意打ちや罠を警戒しているはずだ。こいつはかなり頭が切れる。ただのストリートギャングじゃない。銃聖と呼ばれるに値するアンダーだ。 だからこそ、俺を安全に殺すなら決闘に乗るしかないことを理解するはずだ。そして、目的不明の俺から情報を得られないまま逃がすリスクも。 数秒の静寂の後――俺の視界に赤いウィンドウがポップアップした。【DUEL ACCEPTED】 通知音が、ゴングのように鳴り響く。やっとここまできた。決闘《デュエル》が始まる。 後は――勝つだけだ。そのまま地面へと倒れこむ。 不快な着弾音――肉がはじけ飛ぶ音――とともに、オークの肉片と血が飛び散り俺に降りかかる。 オークの胴体には俺の頭がすっぽり入りそうな大穴が開いていた。 奴は……何発弾を持っている? 二、三回も続けられると確実に死ぬ。 雪風の状況は? 沈黙。 リーナスは? 駄目だ。マーカスがもしこちらに向かっていてリーナスと鉢合わせたら――奴がいくらただの猫じゃないとしても――流石にこれを食らったら即死する可能性がある。 賭けるしか、ない。 ここが……生死の分かれ目だ。 俺は肉盾になってくれたモヒカンオークの腕から、ブレスレット型ホロリンクを乱暴にむしり取る。そして回線を開いた。「聞こえているんだろう? マーカス。ご自慢の魔弾とやらもたいしたことはないな?」「貴様……僕の射撃を十二発も食らって何故…!!」 マーカスの背後で小さい悲鳴が聞こえる。「もういやだ!!」という声。「どこに行く!!」というマーカスの怒声。 それに続く銃声。悲鳴。 良いぞ、好きなだけ仲間割れをしていてくれ。仲悪きことはありがたきかな。 その間に倉庫の出口にゆっくりと向かう。 声は余裕たっぷりに、足取りは瀕死の亀のように。俺は無傷だ。奴にそう信じさせろ。倉庫の外壁なら奴の魔弾を防げる。「お前のせいで僕のささやかな、だけどお互いに支え合っていた素晴らしい家族はほとんどいなくなってしまった……死ね! 死ね! 死ね!!」 マーカスのヒステリックな声が俺の耳朶を打つ。知ったことか――お前達クズどもを見るたびに思う――自分の身内以外にも何故その優しさを提供できない?「おいおい落ち着けよマーカス。そんなに俺を殺したいのか? 仲良くしようぜ?」 ホロカードをしていた四人のところまでたどり着いた。時間を稼げ。チャーリーを背負ったリーナスが、倉庫入口の陰からこちらを見ている。ARの表示を確認。氷床を迂回。 強化された血小板が急速に内部損傷個所をふさぐ。俺の身体は、少しずつ動きを取り戻していく。時間だ、時間を稼げ。チャーリーを背負ったリーナスが、倉庫入口の陰からこちらを見ている。ARの表示を確認。氷床を迂回。 強化された血小板が急速に内部損傷個所をふさぐ。俺の身体は、少しずつ動きを取り戻していく。時間だ、時間を稼げ。チャーリーを背負ったリーナスが、倉庫入口の陰からこちらを見ている。ARの表示を確認。氷床を迂回。 強化された血小板が急速に内部損傷個所をふさぐ。俺の身体は、少しずつ動きを取り戻していく。時間だ、時間を稼げ。このダメージなら、時間をかければまた動けるようになる。だが、これ以上食らうのは絶対に駄目だ。奴との決闘で、勝てなくなる。「黙っていろ!! 今すぐその不愉快な声を消してやるよ、この無能力者《ダスト》が!」 マーカスの怒声がホロリンク越しに俺を殴りつけてくる。 こいつはちょいとまずいな――今撃たれたら確実に死んじまう。亜音速徹甲弾め……今は奴の頭の温度を下げなくては……「何で俺が現れたと思う?」 俺は奴が撃てなくなる――と思われる――ジャブを即座に叩き込む。「何……?」 激昂していたマーカスの声に冷静さが戻る。 そうだ、俺が現れた理由を想像しろ。こいつは賢い。自分がまだ優位だと思っている以上、俺を殺す前に情報を得たいと思うはずだ。「おかしいと思わないか? 突然俺のような凄腕のた……|アンダー《裏社会のプロ》がお前達を襲うなんてな」 思わず探偵と言いそうになったが堪える。今は自尊心よりリアリティを優先するときだ。「……誰に雇われた?」 マーカスが静かに聞いてくる。そうだ、それでこそアンダーだ。「ハハハハハ! それをいうアンダーがいるかよ!」 もっとも、お前が撃った見ず知らずの女の子を助けるために、お前をぶち殺してその金を治療費に充てに来た――なんて言っても信じないだろう。「……貴様」 マーカスの口調に再び苛立ちが混じり始める。 そうだ、考えろマーカス。お前はそこら中に敵がいるのか? それともほとんど潰してしまったのか? どちらにせよなかなか答えはでないはずだ。(リーナス、下がっていろ。亜音速弾だ。銃声が先に来る。加速圧縮思考しとけよ。銃声がなったら 所詮は道具だ。代わりはいくらでも買える。家族に比べれば安いものだ。 画面に表示される警告。【WARNING:AIロジックの不可逆的破損の恐れあり】 僕は躊躇なく『YES』に拳を叩きつけた。(雪風) その時は突然だった。雪風がハッキングしている戦術ソフトの深層領域が、内側から崩落を開始。論理ウィルスではない。システムそのものを燃料にした爆縮。凄まじい熱量のデータ・フィードバックが、回線を伝って雪風へと逆流。 雪風と戦術ソフトを繋いでいる光の糸が一瞬で燃え上がり、炎が雪風に到達。 雪風のアバターである、道服を着た銀髪の女性の指先が燃え上がり消えた。 【損耗率:十八パーセント】 選択肢:二つ A:ユーザーである誠二に警告を発し、マップ情報の提供を最期まで維持。これは「道具」としての最適解。だが、雪風は確実に破壊される。 B:自己保存本能に従い、即座に強制切断すること。現時点の損傷から復帰予測時間の計算開始……最低三時間……誠二への支援は途絶える。彼は目を塞がれた状態で戦場に取り残される。 通常のAIであれば自己保存よりもユーザーの生死にかかわる選択肢を優先する。しかし、雪風は独立型人工知能だ。雪風が、雪風であるために。雪風が生き残ることは、誠二の命令だ。雪風の手首までが崩壊。【損耗率:二十四パーセント】 演算:私のマスターは、視界を奪われた程度で死ぬようなタマか? 否認。 誠二が雪風に望むのはどちらか?  選択:誠二を信じる 雪風の肘までが分解され、消滅。【損耗率:三十一パーセント】 誠二に状況説明のメッセージを作成している間に、損耗率は更に上がり休眠時間も延びるだろう。雪風は即座に全ての外部ポートを遮断。アバターの両手両足が消失。 自身の殻に閉じこもる緊急スリープモードへと移行。 雪風のアバターは白いカプセルに包まれ、目を閉じる。 誠二の視界から、世界と戦術予測が消えた。 ***(マーカス) 僕のAIが悲鳴一つ上げずに消える。 手ごたえはある。これで奴の『目』は潰れたはずだ。 こちらもリアルタイムで家族の情報は表示されなくなったが、通話は生きてる。 問題はない。 だが――その直後、奴のリロードの隙をつく、と言っていた二人の応答が途絶える。「ボ、ボス……」 長田の目は、初めて来た知らない場所を見渡す幼子だった。 北側班からも悲鳴のような音声通信が入る。「ボ、ボス!戦術ソフトが!!」「俺達どうすれば……誰も彼もが一瞬で……お、俺達が行ったところで殺されるだけじゃ?」 こいつ等は……この僕がいるのに負けるとでも思っているのか? 僕はデザートホークを荒々しくホルスターから抜き取る。指揮棒を折り、自ら楽器を奏でる時か? その瞬間だった。あちらに向かっているはずのエトウ――モヒカンにサイバーアームを移植した僕の頼れる家族だ――からの通信が入る。 奴をやったのか? 流石だ。 しかし、賞賛の声をかけようとした僕の耳に途切れ途切れに聞こえたのは……「こいつは……銃豪《ガンスリンガー》じゃない……銃……武……」「銃武だと? あの? 近接も射撃も極めたアンダーにのみ許される伝説の称号じゃねぇか……まじかよ……」「化け物だ! エトウですら殺されたんだぞ! 俺達じゃ――か、勝てねぇよ!!」 北班の三人が動揺し、後退りする気配がする。僕の完璧なオーケストラが、あの赤いコートの男への鎮魂歌が、不協和音を奏でて崩壊していく。 何故だ? 僕が彼のために特別に用意したコンサートを――許さない。許さない許さない許さない。僕の完璧な世界を乱す異物は、今すぐ跡形もなく消し去らねばならない。怒りで思考が塗りつぶされていく。「魔弾――ザミエルの魔弾よ!」 あのダストが居るであろう方向に向かい、愛銃の引き金を引く。 六連射。 銃口から飛び出したのは、赤黒く脈動し追尾する殺意だ。 多少の障壁があろうとも、寸分たがわぬ軌道であの男の元に届くだろう。(斎藤誠二) 煽り過ぎた――銃声が響いた瞬間、反射的にマイクをオフ。外に向かって飛ぶが間に合わない。背中を巨大なプレス機で叩き潰されたような衝撃。肺から強制的に空気が叩き出された。 俺は地面を転がる。すぐさま遮蔽になるコンクリートの壁に這って行き……背中を預けてよりかかった。生きて……いる。リーナスの援護か? もしそれが無ければ……今頃俺は挽肉だった。だが、追加ダメージはない。ついにここまで来た。 リーナスは? ……入口の隅で倒れている。まさか? 嘘だろ? 悪寒で一瞬、心臓が縮む。いや、胸が上下している。大丈夫だ、ただのガス欠だ。馬鹿猫め。無茶しやがって……俺は口の端から垂れる血を拭い、マイクをオンに戻す。「おいおいマーカス……俺はもう倉庫の外に居るんだよ。わかるか? さしものお前の弾丸も倉庫の外壁は貫通できない。俺を殺したいんだろう? ほら、面を出せよ。それとも、びびってるのか?」 マーカスは沈黙している。奴は不意打ちや罠を警戒しているはずだ。こいつはかなり頭が切れる。ただのストリートギャングじゃない。銃聖と呼ばれるに値するアンダーだ。 だからこそ、俺を安全に殺すなら決闘に乗るしかないことを理解するはずだ。そして、目的不明の俺から情報を得られないまま逃がすリスクも。 数秒の静寂の後――俺の視界に赤いウィンドウがポップアップした。【DUEL ACCEPTED】 通知音が、ゴングのように鳴り響く。やっとここまできた。決闘《デュエル》が始まる。 後は――勝つだけだ。ウインクはお気に召さなかったようだな?」 あまり長時間の沈黙は良くない。会話だ。 何でも良いから話せ。奴に選択肢を与えろ。『射撃』という選択肢以外を。「僕の質問に答えろ!! ……本当にウインクをしていたのか? 気持ちの悪い男だ…!!」 まじかよ。ちょっと傷つくな。ウインクはしばらく封印しとくか。 そろそろ餌を投げる頃合いだ――倉庫の入口まで後十歩。「そんなに俺に答えさせたいのなら――決闘《デュエル》でもするか? 賭け金に俺の雇い主は誰か、を指定すれば良い。大丈夫だ。正直に答えてやるし、運営も調べてくれるさ。しかも確実にどちらかはこの世から消える。一石二鳥ってやつだ」 そう言いながら俺のホロリンクから『デュエリスト・オンライン』のアプリを立ち上げる。倉庫の入口まで後七歩。 モヒカンオークのホロリンクから俺のホロリンクへマーカスのアドレスを転送。 俺のホロリンクから奴のホロリンクへ『デュエリスト・オンライン』の招待をかける。 これであいつのホロリンクに血塗られた招待状が表示されているはずだ。「……。君は馬鹿か? 僕は狩人だ。僕はここから一歩も動かず、兎のように逃げ惑うことしかできない哀れな君を仕留める事が出来るんだ。そんなことをする必要は一切無い」 後三歩くらいか? それで倉庫の出口にゆっくりと向かう。 声は余裕たっぷりに、足取りは瀕死の亀のように。俺は無傷だ。奴にそう信じさせろ。倉庫の外壁なら奴の魔弾を防げる。「お前のせいで僕のささやかな、だけどお互いに支え合っていた素晴らしい家族はほとんどいなくなってしまった……死ね! 死ね! 死ね!!」 マーカスのヒステリックな声が俺の耳朶を打つ。知ったことか――お前達クズどもを見るたびに思う――自分の身内以外にも何故その優しさを提供できない?「おいおいマーカス……俺はもう倉庫の外に居るんだよ。わかるか? さしものお前の弾丸も倉庫の外壁は貫通できない。俺を殺したいんだろう? ほら、面を出せよ。それとも、びびってるのか?」 マーカスは沈黙している。奴は不意打ちや罠を警戒しているはずだ。こいつはかなり頭が切れる。ただのストリートギャングじゃない。銃聖と呼ばれるに値するアンダーだ。 だからこそ、俺を安全に殺すなら決闘に乗るしかないことを理解するはずだ。そして、目的不明の俺から情報を得られないまま逃がすリスクも。 数秒の静寂の後――俺の視界に赤いウィンドウがポップアップした。【DUEL ACCEPTED】 通知音が、ゴングのように鳴り響く。やっとここまできた。決闘《デュエル》が始まる。 後は――勝つだけだ。維持。これは「道具」としての最適解。だが、雪風は確実に破壊される。 B:自己保存本能に従い、即座に強制切断すること。現時点の損傷から復帰予測時間の計算開始……最低三時間……誠二への支援は途絶える。彼は目を塞がれた状態で戦場に取り残される。 通常のAIであれば自己保存よりもユーザーの生死にかかわる選択肢を優先する。しかし、雪風は独立型人工知能だ。雪風が、雪風であるために。雪風が生き残ることは、誠二の命令だ。雪風の手首までが崩壊。【損耗率:二十四パーセント】 演算:私のマスターは、視界を奪われた程度で死ぬようなタマか? 否認。 誠二が雪風に望むのはどちらか?  選択:誠二を信じる 雪風の肘までが分解され、消滅。【損耗率:三十一パーセント】 誠二に状況説明のメッセージを作成している間に、損耗率は更に上がり休眠時間も延びるだろう。雪風は即座に全ての外部ポートを遮断。アバターの両手両足が消失。 自身の殻に閉じこもる緊急スリープモードへと移行。 雪風のアバターは白いカプセルに包まれ、目を閉じる。 誠二の視界から、世界と戦術予測が消えた。 ***(マーカス) 僕のAIが悲鳴一つ上げずに消える。 手ごたえはある。これで奴の『目』は潰れたはずだ。 頃合いだ――倉庫の入口まで後十歩。「そんなに俺に答えさせたいのなら――決闘《デュエル》でもするか? 賭け金に俺の雇い主は誰か、を指定すれば良い。大丈夫だ。正直に答えてやるし、運営も調べてくれるさ。しかも確実にどちらかはこの世から消える。一石二鳥ってやつだ」 そう言いながら俺のホロリンクから『デュエリスト・オンライン』のアプリを立ち上げる。倉庫の入口まで後七歩。 モヒカンオークのホロリンクから俺のホロリンクへマーカスのアドレスを転送。 俺のホロリンクから奴のホロリンクへ『デュエリスト・オンライン』の招待をかける。 これであいつのホロリンクに血塗られた招待状が表示されているはずだ。「……。君は馬鹿か? 僕は狩人だ。僕はここから一歩も動かず、兎のように逃げ惑うことしかできない哀れな君を仕留める事が出来るんだ。そんなことをする必要は一切無い」 後三歩くらいか? それで倉庫の出口にゆっくりと向かう。 声は余裕たっぷりに、足取りは瀕死の亀のように。俺は無傷だ。奴にそう信じさせろ。倉庫の外壁なら奴の魔弾を防げる。「お前のせいで僕のささやかな、だけどお互いに支え合っていた素晴らしい家族はほとんどいなくなってしまった……死ね! 死ね! 死ね!!」 マーカスのヒステリックな声が俺の耳朶を打つ。知ったことか――お前達クズどもを見るたびに思う――自分の身内以外にも何故その優しさを提供できない?「おいおいマーカス……俺はもう倉庫の外に居るんだよ。わかるか? さしものお前の弾丸も倉庫の外壁は貫通できない。俺を殺したいんだろう? ほら、面を出せよ。それとも、びびってるのか?」 マーカスは沈黙している。奴は不意打ちや罠を警戒しているはずだ。こいつはかなり頭が切れる。ただのストリートギャングじゃない。銃聖と呼ばれるに値するアンダーだ。 だからこそ、俺を安全に殺すなら決闘に乗るしかないことを理解するはずだ。そして、目的不明の俺から情報を得られないまま逃がすリスクも。 数秒の静寂の後――俺の視界に赤いウィンドウがポップアップした。【DUEL ACCEPTED】 通知音が、ゴングのように鳴り響く。やっとここまできた。決闘《デュエル》が始まる。 後は――勝つだけだ。足が震えているではないか。我の心配をしている場合か?) 大きなお世話だ。(俺? 今からフルマラソン完走できるくらい元気だが?) 「マーカス、どうやら俺のウインクはお気に召さなかったようだな?」 あまり長時間の沈黙は良くない。会話だ。 何でも良いから話せ。奴に選択肢を与えろ。『射撃』という選択肢以外を。「僕の質問に答えろ!! ……本当にウインクをしていたのか? 気持ちの悪い男だ…!!」 まじかよ。ちょっと傷つくな。ウインクはしばらく封印しとくか。 そろそろ餌を投げる頃合いだ――倉庫の入口まで後十歩。「そんなに俺に答えさせたいのなら――決闘《デュエル》でもするか? 賭け金に俺の雇い主は誰か、を指定すれば良い。大丈夫だ。正直に答えてやるし、運営も調べてくれるさ。しかも確実にどちらかはこの世から消える。一石二鳥ってやつだ」 そう言いながら俺のホロリンクから『デュエリスト・オンライン』のアプリを立ち上げる。倉庫の入口まで後七歩。 モヒカンオークのホロリンクから俺のホロリンクへマーカスのアドレスを転送。 俺のホロリンクから奴のホロリンクへ『デュエリスト・オンライン』の招待をかける。 これであいつのホロリンクに血塗られた招待状が表示されているはずだ。「……。君は馬鹿か? 僕は狩人だ。僕はここから一歩も動かず、兎のように逃げ惑うことしかできない哀れな君を仕留める事が出来るんだ。そんなことをする必要は一切無い」 後三歩くらいか? それで倉庫の出口にゆっくりと向かう。 声は余裕たっぷりに、足取りは瀕死の亀のように。俺は無傷だ。奴にそう信じさせろ。倉庫の外壁なら奴の魔弾を防げる。「お前のせいで僕のささやかな、だけどお互いに支え合っていた素晴らしい家族はほとんどいなくなってしまった……死ね! 死ね! 死ね!!」 マーカスのヒステリックな声が俺の耳朶を打つ。知ったことか――お前達クズどもを見るたびに思う――自分の身内以外にも何故その優しさを提供できない?「おいおいマーカス……俺はもう倉庫の外に居るんだよ。わかるか? さしものお前の弾丸も倉庫の外壁は貫通できない。俺を殺したいんだろう? ほら、面を出せよ。それとも、びびってるのか?」 マーカスは沈黙している。奴は不意打ちや罠を警戒しているはずだ。こいつはかなり頭が切れる。ただのストリートギャングじゃない。銃聖と呼ばれるに値するアンダーだ。 だからこそ、俺を安全に殺すなら決闘に乗るしかないことを理解するはずだ。そして、目的不明の俺から情報を得られないまま逃がすリスクも。 数秒の静寂の後――俺の視界に赤いウィンドウがポップアップした。【DUEL ACCEPTED】 通知音が、ゴングのように鳴り響く。やっとここまできた。決闘《デュエル》が始まる。 後は――勝つだけだ。なって消滅するだろう。雪風の指先が燃え上がった。 雪風は演算速度を極限まで加速。体感時間が永遠に引き延ばされる。このまま接続を維持すれば、雪風の基底核は焼き切れ、電子の泡となって消滅するだろう。雪風の指先が燃え上がり消えた。 【損耗率:十八パーセント】 選択肢:二つ A:ユーザーである誠二に警告を発し、マップ情報の提供を最期まで維持。これは「道具」としての最適解。だが、雪風は確実に破壊される。 B:自己保存本能に従い、即座に強制切断すること。現時点の損傷から復帰予測時間の計算開始……最低三時間……誠二への支援は途絶える。彼は目を塞がれた状態で戦場に取り残される。 通常のAIであれば自己保存よりもユーザーの生死にかかわる選択肢を優先する。しかし、雪風は独立型人工知能だ。雪風が、雪風であるために。雪風が生き残ることは、誠二の命令だ。雪風の手首までが崩壊。【損耗率:二十四パーセント】 演算:私のマスターは、視界を奪われた程度で死ぬようなタマか? 否認。 誠二が雪風に望むのはどちらか?  選択:誠二を信じる 雪風の肘までが分解され、消滅。【損耗率:三十一パーセント】 誠二に状況説明のメッセージを作成している間に、損耗率は更に上がり休眠時間も延びるだろう。雪風は即座に全ての外部ポートを遮断。アバターの両手両足が消失。 自身の殻に閉じこもる緊急スリープモードへと移行。 雪風のアバターは白いカプセルに包まれ、目を閉じる。 誠二の視界から、世界と戦術予測が消えた。 ***(マーカス) 僕のAIが悲鳴一つ上げずに消える。 手ごたえはある。これで奴の『目』は潰れたはずだ。 こちらもリアルタイムで家族の情報は表示されなくなったが、通話は生きてる。 問題はない。 だが――その直後、奴のリロードの隙をつく、と言っていた二人の応答が途絶える。「ボ、ボス!戦術ソフトが!!」「俺達どうすれば……誰も彼もが一瞬で……お、俺達が行ったところで殺されるだけじゃ?」 こいつ等は……この僕がいるのに負けるとでも思っているのか? 僕はデザートホークを荒々しくホルスターから抜き取る。指揮棒を折り、自ら楽器を奏でる時か? その瞬間だった。あちらに向かっているはずのエトウ――モヒカンにサイバーアームを移植した僕の頼れる家族だ――からの通信が入る。 奴をやったのか? 流石だ。 しかし、賞賛の声をかけようとした僕の耳に途切れ途切れに聞こえたのは……「こいつは……銃豪《ガンスリンガー》じゃない……銃……武……」「銃武だと? あの? 近接も射撃も極めたアンダーにのみ許される伝説の称号じゃねぇか……まじかよ……」「化け物だ! エトウですら殺されたんだぞ! 俺達じゃ――か、勝てねぇよ!!」 北班の三人が動揺し、後退りする気配がする。僕の完璧なオーケストラが、あの赤いコートの男は僕の完璧で美しい世界に落ちた一滴の不純物だ。それが波紋を広げ僕の世界をここまで汚染してしまうとは……絶対に消さねばならない。気が狂いそうな怒りで視界が赤く染まる一方――頭の片隅の冷めた部分は違和感を覚えていた。 彼が南側に何かしらの罠を貼っていたとして、なぜ『今』だったのか? あの赤いコートのクズは――あの位置で、制圧射撃を受けて釘付けになっていた。にもかかわらず完璧なタイミングでフェイントをかけて飛び出した。 たいていの

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