1話目から読む
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「……よし、今日も完璧」
フェイスパウダーのパフを置いて、ドレッサーの鏡を覗き込む。一時間もかけて作った顔面は、もちろん今日も文句なしに可愛い。いや、今日の私は特別に可愛い。
「先輩も、そう思いますよね?」
ドレッサーの端に置いてある写真立てを見つめる。中に入っているのは、大好きな 衣織 ( いおり ) 先輩の写真だ。白と水色を基調としたバスケ部ユニフォームがよく似合っている。
切れ長の瞳が印象的な中性的な美人。長い下睫毛が 色っぽい衣織先輩は、昨日から私が通う 櫻庭 ( さくらば ) 高校の二年生であり、私の運命の人だ。
「やっと先輩と会える……この日を、ずっと待ってたんですよ」
写真の先輩は答えてくれない。でも、それを寂しく思う日々はもう終わりだ。これからはたっぷり、本物の先輩を堪能することができるのだから。
前髪をヘアアイロンで整えて、動かないようにスプレーで固める。バニラの匂いの香水を首筋に吹きかけて、鞄から一冊の手帳を取り出した。
ただの手帳じゃない。これは、私と衣織先輩の愛を綴っていく宝物だ。
ページをめくると『衣織先輩と 姫奈 ( ひめな ) の運命の出会い♡100選』と書かれたページがある。そこには、文字通り100通りの出会い方が記されている。
たとえば、校門の前で偶然ぶつかってしまうとか、私が落としたハンカチを先輩が拾ってくれるとか、私が転んだところを先輩が助けてくれるとか。
どんな出会い方をしたとしても、先輩との距離を縮めるための作戦を練ってある。私の春休みは、この作戦を立てるために費やしたと言っても過言ではない。
「それに、神様だって応援してくれてるんだもん」
昨日、恋愛運を司る神様がいる有名な神社に足を運んだ。ちゃんと恋愛運を上げるおまもりを買ったし、おみくじは大吉だった。まあ、大吉が出るまでに七回くらいおみくじを引くことになったけれど、たいした問題じゃない。
ていうか、何回もおみくじを引いちゃうほど頑張ってるんだから、神様だって私を贔屓したくなっちゃうはず!
「あっ、そうだ」
カレンダーのページを開いて、今日の日付に『衣織先輩と姫奈の運命の出会い♡』と書き込んでおく。これからたくさんの記念日をこの手帳に綴れるのだと思うと、胸が高鳴った。
「ふふ……」
いけない、いけない。先輩の前ではこんなにやけた顔、絶対しないようにしないと。
深呼吸をして、両手で頬を叩く。その後スマホで時間を確認すると、もう家を出る時間だった。
「やばっ、急がなきゃ!」
手帳を鞄に詰めて、慌てて立ち上がる。最後にもう一度だけ鏡でメイクと髪型を確認してから、私は写真の衣織先輩に挨拶した。
「行ってきます、衣織先輩」
早く会いたい。会って声を聞きたい。姫奈、と先輩の格好良い声で名前を呼ばれたい。
目を見て先輩とお話がしてみたいし、先輩の目に私を映してほしい。写真で見慣れた横顔だけじゃなくて、正面からもたくさん大好きな先輩の顔を見たい。
家を出て、駅までの道のりを早足で進む。鼓動がどんどん速くなっていくのは、急いでいるからじゃない。これからの日々にわくわくとどきどきがとまらないからだ。
ねえ、衣織先輩。私、知ってるんです。
先輩みたいに格好いい人こそ、本当はとっても可愛いんだってこと。王子様なんて呼ばれてる衣織先輩だって、ちゃんと女の子なんだってこと。
「覚悟しててくださいね、衣織先輩。私が先輩のこと、可愛い女の子にしてあげますから」