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第426話 最後の十一人

やはり俺のスカウト人生は間違っている。 — www.pixiv.net · All chapters

第426話 最後の十一人

11月28日。

エストレヤスタジアム。

キックオフの時刻が近づくにつれ、広大なスタンドは少しずつ紺と金で埋まり始めていた。

朝からスタジアム周辺で行われていたイベントは、まだ一部が続いている。それでも、時間が進むにつれてサポーターたちの意識は外の広場からスタジアムの中へ移っていた。

今季最後の一戦。

エストレヤ千葉は勝ち点71。首位の北海道フェニックスFCと勝ち点では並んでいるものの、得失点差によって二位につけている。

来季のJ1昇格は、すでに決まった。

だからこそ。

今日、欲しいものは一つしかない。

J2優勝。

そのタイトルを懸けて最初にピッチへ立つ十一人が、間もなく発表されようとしていた。

◇

大型ビジョンの映像が切り替わった。

それまで流れていた今季のハイライトが消え、中央にエストレヤ千葉のエンブレムが大きく浮かび上がる。

同時に、スタジアム内の照明がわずかに落ちた。

すぐにスタンドのざわめきが大きくなる。

「来るぞ」

「スタメンだ」

「ああ」

ホーム側では、クラブ公式の発表を確認しようとスマートフォンを構えるサポーターの姿も多かった。

ここ数試合、エストレヤ千葉は対戦相手によって先発メンバーや配置を大きく変えている。

前節の仙台戦では、小林庄雅をアンカーへ置き、公式戦出場経験のなかった十九歳の宍道務をCFでいきなり先発させた。

その二つの起用は、試合前には大きな驚きをもって受け止められた。

そして結果として。

二人とも、勝利の中で明確な役割を果たした。

だからこそ今日も。

何かあるのではないか。

そんな期待と警戒が、スタンドには少なからずあった。

やがて。

場内アナウンスが響き渡る。

『お待たせしました!』

歓声が上がった。

『本日のエストレヤ千葉、スターティングメンバーを発表します!』

大きな拍手がスタジアム全体を包み込んだ。

◇

最初に大型ビジョンへ映し出されたのは、ゴールキーパーだった。

**背番号21 玉縄幸三。**

「玉縄!」

「今日も玉縄か!」

前節の仙台戦に続き、最終節でもゴールを任されたのは玉縄だった。

ベンチには背番号1、郷田京がいる。

クラブの主将であり、長年エストレヤ千葉のゴールを守ってきた絶対的な存在。

それでも。

優勝が懸かった最終節で先発に選ばれたのは、玉縄幸三だった。

仙台戦では無失点。

前半終了間際、フォーレンの縦パスから生まれた決定機でも鋭く反応し、右腕一本でシュートを止めている。

その結果と内容を受け。

今日も。

玉縄が最後尾に立つ。

名前が読み上げられると、スタンドから大きな拍手が送られた。

◇

続いて。

最終ライン。

右サイドバック。

**背番号6 毛利良一。**

「毛利!」

二十一歳。

若さを感じさせない対人守備の強さを持つ右サイドバック。

前節は安原翼が先発していたが、今日は毛利が右へ入る。

大型ビジョンには、腕を上げた毛利の写真が映し出される。

そしてセンターバック。

一人目。

**背番号26 長谷川智樹。**

その名前と同時に、画面の横へ大きく表示された。

**CAPTAIN**

「長谷川!」

歓声が一段大きくなる。

三十三歳。

長年、エストレヤ千葉の最終ラインを支えてきたベテラン。

今日。

今季最後の一戦でキャプテンマークを巻くのは長谷川智樹だった。

その隣。

**背番号5 宇津木健太。**

「宇津木!」

三十歳。

空中戦。

対人守備。

力強さを武器とするセンターバック。

最終節で組むのは。

長谷川と宇津木。

経験豊富な二人だった。

「ここでこの二人か」

「最後は経験ある二枚で来たな」

「でも最近、この二人が揃って先発ってそこまで多くなかったよな」

スタンドのあちこちから、そんな声が聞こえてくる。

橋本翔。

坂本湊。

今季は若いセンターバックたちも大きく出場時間を伸ばした。

若手の台頭がはっきりと見えたシーズンだった。

だからこそ。

その最後の一試合で選ばれた長谷川と宇津木という組み合わせに、意味を感じるサポーターも多かった。

そして左サイドバック。

**背番号33 葉山隼人。**

「葉山!」

また大きな拍手が起こった。

豊富な運動量を武器に、左サイドを何度も上下してきた葉山。

今季最後の一戦でも。

その左サイドを任された。

毛利。

長谷川。

宇津木。

葉山。

その後ろに玉縄。

守備陣五人の顔が大型ビジョンに並んだ。

◇

続いて中盤。

まず読み上げられたのは、ダブルボランチの一角だった。

**背番号18 戸塚彩加。**

「戸塚ー!」

歓声が一段大きくなる。

危険を察知し。

相手の攻撃の芽を摘む。

今季も何度、戸塚の守備にチームが助けられたか分からない。

そして。

その隣。

**背番号7 エミリオ・アルバレス。**

「エミリオ!」

戸塚とエミリオ。

今季のエストレヤ千葉にとって、最も見慣れた中盤の組み合わせの一つだった。

前節の仙台戦では、小林をアンカーへ置く特殊な形を採用したが、試合終盤に小林が下がったあとは、この二人がいつものダブルボランチへ戻っている。

今日は。

最初からその形だった。

「今日は戸塚とエミリオか」

「小林じゃなかったな」

「まあ仙台戦が特殊だったんだろうな」

そんな会話に、周囲の何人かも頷いていた。

小林庄雅のDMF起用は大きな話題になった。

しかし。

一試合で成功したからといって、毎試合同じ戦い方をするわけではない。

相手が変われば。

やることも変わる。

それこそ。

今季のエストレヤ千葉が何度も見せてきた姿だった。

◇

次は両サイド。

左。

**背番号10 森川佑。**

「森川!」

大歓声が起こった。

二十九歳。

元日本代表。

今季も何度となく左サイドから攻撃を作り続けてきた。

仙台戦では後半三十八分から途中出場し、消耗していた安西清勝の前へ投入された。

フレッシュな状態で何度も仕掛け。

守備では前を向かせず。

終盤の流れを完全に千葉側へ固定した。

今日は。

その森川が最初から左に入る。

続いて反対側。

右サイド。

**背番号19 川崎大志。**

「大志ー!」

こちらにも大きな声が飛ぶ。

左右両足を使える。

単純なスピードだけで抜き去るタイプではない。

独特のテンポ。

身体の使い方。

ボールを置く位置。

それらを組み合わせ、相手の重心を少しずつずらしながら前へ進んでいく。

右に川崎。

左に森川。

今日の両サイドが決まった。

◇

そして。

トップ下。

その名前が大型ビジョンへ映し出された瞬間。

スタジアムの空気が変わった。

**背番号14 ダニエル・ロドリゲス。**

「ダニエル!」

大歓声。

夏に加入した選手でありながら。

今ではもう。

エストレヤ千葉の攻撃を語る上で欠かすことのできない存在になっていた。

前節の仙台戦。

前半三十八分。

小林のインターセプトから始まったカウンター。

エミリオを経由したボールを右で受けると、中央へ運び。

最後は低いシュートをゴール左へ流し込んだ。

先制点。

そのダニエルが。

今日は中央。

OMF。

攻撃の中心に立つ。

ダニエルの名前が読み上げられたあと。

スタジアムは。

最後の一人を待った。

CF。

大型ビジョンに背番号9が浮かび上がる。

**マティアス・ベニテス。**

「ベニテス!」

「来た!」

一気に歓声が広がった。

二十四歳。

アルゼンチン。

夏加入。

裏への抜け出し。

一瞬の加速。

左右どちらの足からでも放てるシュート。

そして。

ゴール前での決定力。

仙台戦ではベンチスタートだった。

だが。

最終節。

優勝が懸かった一戦。

その最前線を任されたのは。

マティアス・ベニテスだった。

◇

大型ビジョンに、先発十一人が並ぶ。

**GK 21 玉縄幸三**

**RSB 6 毛利良一**

**CB 26 長谷川智樹 CAPTAIN**

**CB 5 宇津木健太**

**LSB 33 葉山隼人**

**DMF 18 戸塚彩加**

**DMF 7 エミリオ・アルバレス**

**LSH 10 森川佑**

**RSH 19 川崎大志**

**OMF 14 ダニエル・ロドリゲス**

**CF 9 マティアス・ベニテス**

基本布陣は4-2-3-1。

今季。

千葉が何度も使ってきた形だった。

だが。

その十一人を一人ずつ見ていけば。

ここまでのシーズンそのものが詰まっている。

ベテラン。

中堅。

若手。

夏加入。

クラブで長く戦ってきた選手。

途中から流れを変えた選手。

様々な立場の選手たちが混ざり。

エストレヤ千葉は。

ここまで来た。

◇

だが。

発表はまだ終わらない。

続いてベンチメンバー。

一人ずつ名前が紹介されていく。

まず。

**GK 背番号1 郷田京。**

名前が出た瞬間。

先発選手にも負けないほどの歓声が起きた。

「郷田ー!」

三十五歳。

元日本代表。

そしてクラブ主将。

今日、ゴールを守るのは玉縄だ。

それでも。

ベンチには郷田がいる。

長いシーズンを支えてきた主将が。

最後の試合でもチームとともにいる。

続いて。

**DF 背番号34 黒崎隼吾。**

十九歳。

右サイドバック。

左サイドバック。

センターバック。

DFラインなら、ほぼすべてをこなせる若手。

さらに。

**DF 背番号4 鬼塚純一郎。**

三十六歳。

右。

左。

中央。

どこでもできる。

元日本代表。

経験という点では、チーム内でも屈指の存在だった。

次は中盤。

**背番号3 笹森正義。**

二十歳。

DMFだけではない。

右SH。

左SH。

右SB。

左SB。

一人で複数のポジションを高いレベルで担える。

試合中にアクシデントが起きても。

フォーメーションを変更しても。

笹森一人が入るだけで、いくつもの修正が可能になる。

そして。

**背番号20 戸部翔。**

OMF。

正確なパス。

試合を作る技術。

さらに。

最大の武器。

フリーキック。

最終節。

一つのセットプレーが優勝を決めるような展開になれば。

その右足が必要になるかもしれない。

続いて。

**背番号22 中田正和。**

三十五歳。

DMF。

クラブ一筋。

ゲームの流れを見る力。

ポジショニング。

試合を落ち着かせる経験。

長くこのクラブを知るベテランだ。

さらに。

**背番号8 塩川康文。**

「塩川!」

また大きな拍手。

前節の仙台戦。

後半二十八分。

宍道務とのワンツーで左から抜け出し、貴重な追加点を決めた。

今日はベンチスタート。

それでも。

試合の途中から左サイドへ変化を加えられるカードとして控えている。

そして前線。

**背番号11 材木座義輝。**

CF。

身体を使って前線でボールを収める。

味方を押し上げる。

仙台戦の終盤でも、相手陣内でボールをキープし、ファウルまで獲得した。

攻めるためにも。

試合を終わらせるためにも。

使い方のある選手。

そして。

最後。

大型ビジョンに背番号25が表示された。

**小林庄雅。**

スタンドが少しだけざわついた。

だが。

すぐにそれは大きな拍手へ変わる。

「小林!」

「今日ベンチか!」

「またDMFで使う可能性あるのかな」

「どうだろ」

前節。

仙台戦。

小林は公式戦で初めてDMFとして先発した。

何度も中央への縦パスを読み。

フォーレンを中心とした仙台の攻撃を。

一人で潰すのではなく。

戸塚やエミリオ、最終ラインと連動しながら機能させなかった。

たった一試合。

だが。

その一試合によって。

小林庄雅という選手には。

今までになかった新しい選択肢が加わった。

大型ビジョンの小林の名前。

その横には。

**DMF**

と表示されている。

長くFWとして生きてきた選手が。

最終節。

ベンチに。

守備的MFとしての選択肢を持って座っていた。

◇

ベンチは九人。

郷田。

黒崎。

鬼塚。

笹森。

戸部。

中田。

塩川。

材木座。

小林。

並んでいる選手を見れば。

かなり幅がある。

守備を変えられる。

中盤を変えられる。

サイドも変えられる。

前線も変えられる。

試合を締めることもできる。

前へ出ることもできる。

セットプレーで勝負を決めにいくこともできる。

スタンドの一人が、メンバー表を見ながら呟いた。

「これ、交代読めないな」

隣の男も頷く。

「笹森と黒崎と鬼塚がいるから、後ろはかなり動かせる」

「塩川もいる」

「戸部もいるし」

「小林もDMFで入ってる」

「材木座もいる」

誰を使うのか。

いつ使うのか。

どこへ入れるのか。

それは。

試合が始まってみなければ分からない。

今季。

何度もそうだった。

先発だけでは。

エストレヤ千葉が九十分をどう戦うのかまでは読み切れない。

◇

大型ビジョンに、スターティングメンバー十一人の顔がもう一度並んだ。

スタジアムDJが力いっぱい声を張り上げる。

『以上! 本日のエストレヤ千葉、スターティングメンバーです!』

大歓声。

拍手。

無数のフラッグ。

タオルマフラー。

紺と金が一斉にスタンドで揺れた。

今季最後。

ホーム。

J1昇格は、すでに決まっている。

だが今日最初にピッチへ立つのはこの十一人。

目指すものはもう一つしかない。

首位、そしてJ2優勝。

勝ち点71。

七連勝。

長かったシーズン。

最後の九十分。

その幕がもうすぐ上がろうとしていた。