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第12話 それぞれの夜

やはり俺のスカウト人生は間違っている。 — www.pixiv.net · All chapters

第12話 それぞれの夜

### 葉山家

午後九時過ぎ。

葉山隼人はマンションの玄関を開けた。

「……ただいま。」

返事はない。

リビングの電気だけが点いている。

ダイニングテーブルには夕食が並び、ラップが掛けられていた。

葉山はネクタイを緩める。

寝室の扉が開いた。

雪乃だった。

「おかえり。」

「ああ。」

それだけ。

雪乃は冷蔵庫から水を取り、一口飲む。

「夕食。」

「作ってある。」

「ありがとう。」

葉山は椅子へ座る。

雪乃は向かいには座らない。

ソファへ腰掛け、本を開いた。

同じ空間にいる。

しかし、それだけだった。

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電子レンジの音だけが部屋に響く。

葉山は静かに食事を始めた。

十分ほど経った頃。

「次は福岡だったわね。」

雪乃が本から目を離さず言う。

「ああ。」

「左サイドバックがいい選手らしい。」

「……。」

葉山の箸が止まる。

「もう知ってるのか。」

「ニュースで少し。」

再び沈黙。

葉山は小さく息を吐いた。

「今日。」

「比企谷に言われた。」

雪乃は本のページをめくる手を止める。

「何を?」

「今の実力なら。」

「風間の方が俺より上だって。」

「そう。」

雪乃の返事は短い。

驚きも慰めもない。

「悔しかったよ。」

葉山は笑う。

「でも。」

「攻撃では負けてないとも言われた。」

雪乃は本を閉じた。

「比企谷君は。」

「必要以上に人を持ち上げる人ではないでしょう。」

「ああ。」

「だから。」

一拍置く。

「その評価が今の実力なんでしょうね。」

葉山は苦笑した。

「容赦ないな。」

「事実を言っただけよ。」

雪乃は再び本を開く。

---

食事を終えた葉山は食器を流しへ運んだ。

「洗っておく。」

「お願い。」

「……。」

「……。」

食器を洗う音だけが響く。

夫婦の会話は、それで終わった。

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寝る前。

葉山はベランダへ出る。

夜風が頬を撫でる。

(風間の方が上、か。)

否定できない。

だからこそ悔しい。

(追い越してやる。)

その頃。

室内では雪乃が静かに本を閉じた。

葉山を見ることはない。

声を掛けることもない。

同じ家に住み、同じ名字を名乗る二人。

しかし、その関係は夫婦というより、互いの生活を尊重する同居人に近かった。

これが、葉山隼人と雪ノ下雪乃。

**世間には見えない"仮面夫婦"の日常だった。**

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### 戸塚家

午後七時三十分。

千葉県内。

戸塚彩加の自宅。

「ただいま。」

玄関の扉が開く。

すぐに小さな足音が聞こえてきた。

「パパー!」

一歳になる息子が、よちよちと歩いてくる。

戸塚は自然と笑顔になり、しゃがみ込んだ。

「ただいま。」

息子を抱き上げると、リビングからエプロン姿の川崎沙希が顔を出す。

「おかえり。」

「うん、ただいま。」

「今日は少し早かったね。」

「ミーティングだけだったから。」

戸塚は息子を抱いたままリビングへ入る。

食卓には夕食が並び、湯気が立っていた。

「今日も美味しそう。」

「栄養士だからね。」

沙希は少し照れくさそうに笑う。

「それに、あんたたちの健康管理も仕事だし。」

「ありがとう。」

戸塚は素直に頭を下げた。

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三人で夕食を囲む。

息子はまだ離乳食。

沙希がスプーンでゆっくり食べさせている。

「今日は何やったの?」

沙希が聞く。

「福岡戦のミーティング。」

「相手、強い?」

「うん。」

「左サイドバックがすごくいい選手なんだ。」

「へぇ。」

「八幡がかなり警戒してた。」

沙希は少しだけ笑う。

「八幡がそこまで言うなら、本当にいい選手なんだろうね。」

「そうだと思う。」

戸塚は頷く。

「八幡って、人を褒める時はちゃんと理由があるから。」

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食事が終わると、戸塚は息子をお風呂へ連れて行く。

「よーし、お風呂入ろうか。」

楽しそうな笑い声が浴室から聞こえてくる。

その声を聞きながら、沙希は食器を洗っていた。

しばらくして、風呂から上がった戸塚がタオルで息子の髪を拭いている。

「今日はご機嫌だったね。」

「うん。」

「ずっと笑ってた。」

二人で顔を見合わせ、自然と笑みがこぼれた。

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息子を寝かしつけた後。

リビング。

沙希がお茶を淹れてきた。

「はい。」

「ありがとう。」

戸塚は湯飲みを受け取る。

「そういえば。」

「何?」

「去年の代表の人から連絡来た。」

「代表?」

「うん。」

「今度みんなで集まろうって。」

沙希は嬉しそうに微笑んだ。

「良かったじゃない。」

「せっかくだし行ってきなよ。」

「でも休みが合うかな。」

「そこは何とかしなさい。」

二人は小さく笑う。

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少し間が空く。

沙希が真剣な表情になった。

「彩加。」

「ん?」

「最近、相手を潰しに行く場面増えてるよね。」

「……見てた?」

「当たり前。」

「毎試合見てる。」

沙希は栄養士としてだけでなく、妻としても試合を見ている。

「怪我だけはしないで。」

その言葉に、戸塚は少し照れたように笑う。

「大丈夫。」

「カードも貰ってないし。」

「それとこれとは別。」

「お願いだから、無茶はしないで。」

戸塚はゆっくり頷いた。

「約束する。」

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時計は午後十時。

寝室へ向かう前、戸塚はリビングを見渡した。

妻がいて。

子どもがいて。

帰る場所がある。

代表を目指す理由も、戦う理由も、この家にある。

明日もまた、チームのために。

そして家族のために。

戸塚彩加は静かに灯りを消した。

人物紹介

葉山雪乃

**24歳 1月4日生まれ**

**旧姓・雪ノ下雪乃**

葉山隼人の妻。

子供はいない。

普段は隼人と冷え切った仮面夫婦として生活している。

お互いを愛しているものの、本音を隠したまま日々を過ごしている。

現在は**雪ノ下建設 営業部長補佐**として勤務。

仕事では冷静沈着で高い能力を発揮し、社内からの信頼も厚い。

# 戸塚 沙希(とつか さき)

**旧姓:川崎 沙希**

**24歳 10月29日生まれ**

**エストレヤ千葉専属管理栄養士**

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## プロフィール

エストレヤ千葉の選手たちのコンディションを、**食事と栄養の面から支える専属管理栄養士**。

高校時代から**戸塚彩加**と交際を始め、長い交際期間を経て、**20歳で結婚**した。

現在はクラブに所属し、選手一人ひとりの体格やポジション、運動量、コンディションに合わせた食事管理や栄養指導を担当している。

練習量や試合日程に応じたメニューの調整だけでなく、選手から食生活について相談を受けることも多い。

若くしてクラブの食事管理を任されているが、仕事に対する責任感は強い。

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## 性格

しっかり者で、面倒見のいい性格。

必要なことは遠慮なく口にするタイプで、食生活が乱れている選手には年上であろうと容赦なく注意する。

一方で、ただ厳しく管理するのではなく、選手それぞれの好みや生活環境まで考えながら現実的な改善方法を提案する。

そのため選手たちからの信頼も厚い。

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## 戸塚彩加との関係

高校時代から交際している夫婦。

彩加のことを選手としてだけでなく、一人の人間として長年支え続けてきた。

クラブでは管理栄養士と選手という立場を崩さず、彩加だけを特別扱いすることはない。

家庭では夫婦仲が良く、二人で協力しながら息子を育てている。

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## 家族

### 夫

**戸塚彩加**

エストレヤ千葉所属のプロサッカー選手。

高校時代から沙希と交際し、20歳で結婚。

家庭では穏やかな夫であり、息子にはとにかく甘い。

### 長男

**2歳**

沙希が**22歳の時に誕生した第一子**。

戸塚夫妻にとって何よりも大切な存在。

彩加は息子を溺愛しており、クラブで見せる選手としての姿とは違い、家ではすっかり優しい父親になっている。

沙希も仕事と子育てを両立しながら、家族三人の生活を大切にしている。