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第444話 優勝記念グッズ

やはり俺のスカウト人生は間違っている。 — www.pixiv.net · All chapters

第444話 優勝記念グッズ

エストレヤスタジアムの中では、まだ優勝セレモニーの余韻が続いていた。

金色の紙吹雪がピッチのあちこちに残り、スタンドでは帰ろうとしないサポーターたちが何度も選手の名前を叫んでいる。

郷田京が掲げた優勝トロフィー。

大型ビジョンに映し出された。

**2026 J2 LEAGUE CHAMPIONS ESTRELLA CHIBA**

その文字を写真に収めようと、多くのサポーターがスマートフォンを向けていた。

だが。

歓喜に包まれているのは、スタジアムの中だけではなかった。

◇

スタジアム外周。

試合前から設けられていたエストレヤ千葉の公式グッズ売り場では、試合終了直後からスタッフたちが慌ただしく動き始めていた。

「そっちの箱、全部開けてください!」

「優勝Tシャツはこちらです!」

「タオル、もう一箱あります!」

次々と運ばれてくる段ボール箱。

その側面には、大きく文字が書かれている。

**優勝決定時のみ開封**

当然だった。

今日。

エストレヤ千葉が北海道フェニックスFCに勝てばJ2優勝。

引き分け、あるいは敗れれば北海道が優勝する。

結果が出るまで。

表へ出すことのできない商品だった。

それでもクラブは。

勝った瞬間から販売できるよう。

準備だけはしていた。

そして。

その箱を開けられる時が。

本当に来た。

◇

最初に売り場の正面へ掲げられたのは、優勝記念Tシャツだった。

クラブカラーを基調とした生地の中央には、エストレヤ千葉のエンブレム。

その周囲へ大きく。

**J2 CHAMPIONS 2026**

さらに下には。

**ESTRELLA CHIBA**

その隣には、優勝記念タオルマフラー。

こちらにも大きく「CHAMPIONS」の文字が入っている。

記念キーホルダー。

ステッカー。

ペナント。

そして、今季の選手たちの名前が並んだ記念グッズ。

次々と商品が並べられていった。

「……え?」

最初に気づいたのは。

スタジアムから出てきた一人のサポーターだった。

まだ首には優勝記念でも何でもない、いつものクラブタオルを巻いている。

売り場を見て。

二度見した。

「もう売ってんの?」

その声で。

近くを歩いていた人たちも見る。

「え、マジ?」

「優勝グッズ?」

「早くない!?」

次の瞬間。

何人ものサポーターが売り場へ向かって歩き出した。

◇

「すみません、このTシャツください!」

「サイズは?」

「Lで!」

「俺も!」

「タオルまだありますか!?」

「あります! 順番にお願いします!」

ほんの数分。

それだけで。

売り場の前には列ができた。

しかも。

時間が経つほど。

その列は長くなっていく。

表彰式を最後まで見終えたサポーターたちが。

次々とスタジアムから出てきたからだった。

「うわ、やっぱりあった!」

「買う?」

「買うに決まってるだろ!」

「Tシャツとタオル両方!」

「俺も!」

少し前まで。

4対3という試合結果に興奮し。

戸部翔のフリーキックについて語っていた人たちが。

今度は。

財布やスマートフォンを片手に列へ並んでいる。

試合の興奮が。

まだ。

まったく冷めていなかった。

◇

列の中でも。

話題は当然。

今日の試合だった。

「いや、2対3になった時は本当に終わったと思ったわ」

「俺も。しかも引き分けじゃ駄目だったからな」

「そこから材木座さんだもんな」

「今季二点目があれってすごすぎるだろ」

「で、最後が戸部さん」

「あのFK、一生見るわ」

「分かる」

別の場所では。

親子で並んでいた二人が。

優勝記念Tシャツを見ながら話している。

「お父さん、これ欲しい」

「どれ?」

「優勝って書いてあるやつ」

「そりゃ全部優勝って書いてあるよ」

「じゃあ全部」

「それは駄目」

「えー!」

父親は笑いながら。

結局。

子ども用のTシャツと。

タオルマフラーを手に取った。

その子どもは。

買ってもらったばかりのタオルを。

すぐに頭上へ掲げる。

**J2 CHAMPIONS 2026**

まだ袋から出したばかり。

折り目すら残っている。

それでも。

嬉しそうだった。

◇

販売スタッフにとっても。

今日が。

特別な日であることは変わらない。

「Tシャツ、LとXL減るの早いです!」

「追加出します!」

「記念タオル、次の箱!」

「はい!」

倉庫側から。

さらに商品が運ばれる。

一人のスタッフが箱を開けながら。

思わず笑った。

「これ、本当に開けられてよかったですね」

隣にいたスタッフも。

手を止めずに頷く。

「ですね」

「途中、3対2になった時、これ全部どうするんだろって思いましたよ」

「俺も思ってました」

二人が顔を見合わせる。

そして。

ほぼ同時に。

笑った。

あの時は。

北海道がリード。

この箱を。

今日開けることはないかもしれなかった。

それが。

材木座の同点ゴール。

戸部の逆転フリーキック。

そして。

4対3。

今では。

開けても。

開けても。

商品が売れていく。

「はい、次出しましょう」

「はい!」

まだ。

列の最後尾は。

見えそうになかった。

◇

スタジアムの外には。

すでに新しい光景が生まれていた。

買ったばかりの優勝Tシャツを、その場でユニフォームの上から着る者。

新品の優勝記念タオルを掲げて写真を撮る者。

家族や友人同士で記念グッズを持ちながら、スタジアムを背景に写真へ収まる者。

そして。

何度も。

同じ言葉が聞こえてくる。

「優勝したんだな」

「本当に優勝したんだよ」

「J1だぞ、来年」

「その前に今日は優勝だろ!」

「そうだった!」

笑い声。

歓声。

歌声。

試合は。

もう終わっている。

表彰式も。

終わりへ近づいている。

それでも。

誰も。

すぐには帰ろうとしなかった。

◇

少し離れた場所では。

公式ショップの入口にも。

大きなパネルが設置されていた。

そこに書かれているのは。

たった一つ。

**J2 CHAMPIONS**

その前を通るたび。

サポーターたちが足を止める。

写真を撮る。

笑う。

そして。

また。

売り場へ向かう。

開幕五試合勝ちなし。

最下位。

そこから始まった一年。

その最後。

エストレヤ千葉が手にした。

王者という肩書き。

その証は。

トロフィーだけではない。

その夜。

スタジアムの外には早くも。

**J2王者・エストレヤ千葉**

その文字が入った品々が。

サポーターたちの手へ。

次々と渡っていった。