第445話 J2最終順位
第445話 J2最終順位
エストレヤスタジアムの外では、試合が終わってからかなりの時間が経った今も、多くのサポーターが帰ろうとせずに残っていた。
優勝記念グッズを販売する特設ブースには長い列ができ、マフラータオルや記念シャツを手にした人々が興奮した様子で先ほどの試合を振り返っている。
北海道フェニックスFCとの最終決戦。
4対3。
後半46分、戸部翔のフリーキックによる逆転。
そして、J2優勝。
エストレヤ千葉にとっては最高の形でシーズンが終わった。
だが、十一月二十八日に最終節を戦っていたのは彼らだけではない。
同じ時間帯、それぞれのスタジアムでも今季最後の試合が行われていた。自動昇格を巡る争いはすでに千葉と北海道によって決着していたが、プレーオフトーナメントへの進出争いもあれば、残留を懸けた戦いもあった。
そのすべてが終了し、一年間にわたって毎週のように動き続けてきた順位表が、ついに最後の形で止まった。
◇
エストレヤ千葉のクラブハウスでは、まだスタジアムから戻ってきていない選手も多かった。
優勝セレモニーや取材対応、サポーターへの挨拶が続いているためだ。
そんな中、スタッフルームの大型モニターには、全試合終了後のJ2最終順位が表示されていた。
部屋へ戻ってきていた八幡は、飲み物を片手に画面の前で足を止める。
「……本当に一番上だな」
隣にいた佐藤智成が笑った。
「さっきトロフィーまで掲げたのに、まだ疑ってるのか?」
「疑ってるわけじゃないですよ。ただ、こっちの方が妙に実感あるなと思って」
「順位表の方が?」
「一年間、ずっと見てましたからね」
開幕直後から、何度この画面を見ただろう。
最初の頃は、見るたびに気分が重くなった。
五試合を終えて二分三敗。
勝ち点2。
最下位。
首位との差を計算することさえ馬鹿らしく感じるほど、上は遠かった。
それが今。
十八クラブの一番上に、エストレヤ千葉の名前がある。
## 2026シーズン J2最終順位
| 順位 | クラブ | 勝点 | 成績 | 最終節・備考 |
| ------- | --------------- | -----: | ----------- | ------------------ |
| **1位** | **エストレヤ千葉** | **74** | **23勝6分5敗** | **勝利・8連勝・優勝・J1昇格** |
| **2位** | **北海道フェニックスFC** | **71** | **22勝6分6敗** | **敗戦・J1昇格** |
| **3位** | 岡山セルフィオFC | 60 | 18勝6分10敗 | 敗戦・プレーオフトーナメント |
| **4位** | 仙台アステルFC | 59 | 16勝11分7敗 | 勝利・プレーオフトーナメント |
| **5位** | 富山ベイウインズ | 56 | 16勝8分9敗 | 敗戦・プレーオフトーナメント |
| **6位** | 青森ブランシェFC | 55 | 17勝4分13敗 | 勝利・5連勝・プレーオフトーナメント |
| **7位** | 福岡レガーロ | 47 | 13勝8分13敗 | 勝利・プレーオフトーナメント |
| **8位** | 熊本アスフィーダ | 47 | 13勝8分13敗 | 引き分け・プレーオフトーナメント |
| **9位** | 愛媛サザンクロスFC | 46 | 11勝13分10敗 | 引き分け |
| **10位** | 相模原マンスリーFC | 44 | 12勝8分14敗 | 敗戦 |
| **11位** | 鹿児島レヴァンテFC | 43 | 13勝4分17敗 | 勝利 |
| **12位** | 横浜マンゲールFC | 41 | 11勝8分14敗 | 勝利 |
| **13位** | 山形ブリッツFC | 39 | 11勝6分16敗 | 敗戦 |
| **14位** | 伊勢シーガルズ | 37 | 8勝13分13敗 | 敗戦 |
| **15位** | CS栃木 | 37 | 9勝10分15敗 | 敗戦 |
| **16位** | 秋田ノルディアFC | 34 | 8勝10分16敗 | 勝利・プレーオフ |
| **17位** | 信州アルプスFC | 33 | 8勝9分17敗 | 敗戦・降格決定 |
| **18位** | 駿河ユナイテッドFC | 30 | 8勝6分19敗 | 勝利・降格決定 |
八幡が最初に目を向けたのは、当然一番上だった。
勝ち点74。
二十三勝六分五敗。
そして、八連勝。
シーズン終盤の千葉は、最後まで一度も止まらなかった。
「八連勝で終わったか」
佐藤が腕を組みながら言う。
「ですね。北海道戦が八つ目」
最終節を迎えた時点では、北海道と千葉はともに勝ち点71だった。
得失点差によって北海道が首位。
千葉は二位。
条件は最初から明確だった。
勝てば優勝。
引き分け以下なら北海道が優勝。
そして、その直接対決を千葉は4対3で制した。
勝ち点71から74へ。
北海道は71のまま。
最後の九十分だけで、首位と二位の名前が入れ替わった。
「ずっと追いかけてた北海道を、抜いたのが最後の最後っていうのもすごいですね」
八幡が言うと、佐藤がモニターを見ながら頷いた。
「しかも直接だからな。他会場頼みでも何でもない。自分たちで勝ってひっくり返した」
「その代わり、心臓には悪かったですけど」
「3対2にされた時は俺も終わったかと思ったよ」
「言わなかっただけで、俺も似たようなもんです」
「お前、顔変わらないから分からないんだよ」
八幡は返事の代わりに肩をすくめた。
結果だけを見れば一位と二位。
勝ち点差は3。
だが、その3ポイントが生まれたのは今季最後の試合だった。
それまで首位だった北海道を、千葉は最後の最後で追い越したのだ。
◇
二位となった北海道フェニックスFCも、J1昇格を失ったわけではない。
最終勝ち点は71。
二十二勝六分六敗。
長いシーズンを通して首位争いを続け、最終節を迎える前には自動昇格を決めていた。
今日失ったのは優勝というタイトルであって、来季戦う舞台ではない。
「来年も北海道とはやるんですよね」
八幡が言った。
「ああ。今度はJ1でな」
今日で決着したように見えても、対戦そのものが終わったわけではない。
佐々木俊郎。
林卓也。
林達也。
神谷直人。
カサーツノ。
カストロ。
石原一成。
あの強力なチームと、来季は一つ上のカテゴリーでもう一度戦うことになる。
「向こうも今日のこと、絶対忘れないでしょうね」
「そりゃそうだ。俺たちだって逆なら忘れないだろ」
「でしょうね」
J2では千葉が最後に勝った。
だが、次も勝てる保証などどこにもない。
来季になれば、新たな補強もある。
戦術も変わる。
J1のクラブとの対戦を挟みながら、北海道もさらに変わっていくだろう。
八幡は北海道の名前をしばらく見たあと、その下へ視線を移した。
三位には岡山セルフィオFC。
勝ち点60。
十八勝六分十敗。
最終節には敗れたが、三位を守ってプレーオフトーナメントへ進んだ。
そのわずか1ポイント下には仙台アステルFCがいる。
「仙台、最後勝ったんですね」
「ああ。59まで来た。ただ岡山には届かなかった」
「前節でうちが勝ったの、大きかったでしょうね」
「向こうからすればな」
第33節。
バーバリスタジアム。
千葉は仙台を2対0で破った。
あの敗戦がなく、仙台が勝ち点を積み上げていれば、最終順位も違っていた可能性がある。
リーグ戦では、一試合の結果が何節もあとになって意味を持つ。
それを改めて感じさせる数字だった。
五位は富山ベイウインズ。
勝ち点56。
シーズン終盤まで自動昇格争いに絡み、千葉とも激しい順位争いを続けていたクラブだった。
万条富隆。
ライアック・フォーン。
チョウ・ウンソウ。
個性的な選手を揃え、一時は千葉より上にいた。
それでも最終節では敗れ、五位でリーグ戦を終えている。
「富山も、まだ終わりじゃないか」
「プレーオフがありますからね」
自動昇格は逃した。
それでもJ1への道そのものが閉ざされたわけではない。
そして、その富山のすぐ下まで一気に上がってきたクラブがあった。
「青森、五連勝ですか」
八幡も思わず目を止める。
六位、青森ブランシェFC。
勝ち点55。
十七勝四分十三敗。
シーズン最終盤に五連勝を記録し、プレーオフトーナメント圏内へ滑り込んだ。
「終盤だけなら、うちの次くらいに勢いあるんじゃないか?」
「五連勝でプレーオフに入ってくるのは嫌ですね。短期決戦ですし」
さらに七位の福岡レガーロは勝ち点47で最終節に勝利。
八位の熊本アスフィーダも同じ勝ち点47でリーグ戦を終え、この二クラブもプレーオフトーナメントへ進むことになった。
千葉と北海道によって自動昇格の二枠は埋まった。
だが、それ以外のクラブにとっては、まだ今季が完全に終わったわけではない。
岡山。
仙台。
富山。
青森。
福岡。
熊本。
残された昇格への可能性を懸けて、ここから別の戦いへ入っていく。
◇
八幡の視線が、順位表の下へ向かった。
上位では優勝や昇格を巡る戦いがあった一方で、下位ではまったく別の意味を持つ九十分が行われていた。
十六位。
秋田ノルディアFC。
勝ち点34。
最終節に勝利し、プレーオフへ望みを繋いだ。
「秋田、最後勝ったんだな」
佐藤が言う。
「残りましたね。まだ確定じゃないですけど」
「最後の最後でな」
シーズン途中、千葉も秋田とは対戦している。
中央を固め、残留のために必死に勝ち点を取りに来ていたクラブだった。
その秋田には、まだ次の試合がある。
来季も同じカテゴリーへ残るための最後の戦いだ。
しかし、その一つ下。
十七位の信州アルプスFCには、もう次がない。
勝ち点33。
最終節に敗れ、降格が決まった。
千葉がアウェーで1対1に終わった相手でもある。
あの時には千葉の連勝を止めたクラブが、シーズン終了時には降格という結果を受け入れなければならなくなった。
そして最下位。
十八位の駿河ユナイテッドFC。
勝ち点30。
最終節には勝った。
最後の試合だけを見れば勝利で終えている。
それでも、それまでに開いた差を埋めるには届かなかった。
こちらも降格決定。
佐藤はしばらく順位表の下側を眺めてから、小さく息を吐いた。
「同じ日に、こっちは優勝で、向こうは降格か」
「リーグなんで、そうなりますよね」
八幡の答えは淡々としていたが、その視線は画面から離れなかった。
同じ最終節。
同じ九十分。
優勝トロフィーを掲げたクラブがある。
J1昇格を決めているクラブもある。
プレーオフへ希望を繋いだクラブもあれば、来季の所属カテゴリーを懸けてもう一試合戦わなければならないクラブもある。
そして。
どれだけ悔やんでも、降格という結果を変えられないクラブもある。
全員が同じ三十四試合を戦ってきた。
その積み重ねが、今表示されている一枚の順位表になっていた。
◇
やがて佐藤は別の仕事を思い出したのか、机の上に置いていた資料を手に取った。
「俺、ちょっとフロントの方行ってくるわ」
「まだ仕事するんですか?」
「優勝したからって仕事なくなるわけじゃないからな。むしろ増えてる」
「夢がないですね」
「お前もそのうち呼ばれるぞ」
「聞かなかったことにします」
「無理だろ」
佐藤は笑いながらスタッフルームを出ていった。
一人残った八幡は、もう一度モニターへ目を向ける。
一番上。
そこには変わらず、エストレヤ千葉と表示されていた。
勝ち点74。
二十三勝六分五敗。
シーズンを締めくくる八連勝。
J2優勝。
J1昇格。
開幕五試合を終えた時点では二分三敗、勝ち点2。
最下位だった。
あの頃は、一位など画面の遥か上にある名前でしかなかった。
そこから一つずつ勝った。
何度も失敗した。
補強もした。
戦い方を変えた。
選手も変わった。
最後には七連勝で北海道へ追いつき、最終節の直接対決で八連勝目を挙げた。
そうして最後に辿り着いたのが、この場所だった。
八幡は椅子へ座りながら、順位表をもう一度上から下まで眺めた。
一年間、何度も更新されてきた画面。
勝つたびに順位が上がり。
引き分ければ他クラブの結果を気にし。
負ければ勝ち点差を計算した。
その順位表は、もう更新されない。
2026シーズン。
十八クラブの頂点。
**1位 エストレヤ千葉。**
その名前は、シーズンが終わった今も一番上に残っている。
もう誰にも追い抜かれない。
それが2026シーズンのJ2リーグに残された、最後の順位だった。