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第32話 託される左サイド

やはり俺のスカウト人生は間違っている。 — www.pixiv.net · All chapters

第32話 託される左サイド

葉山隼人の横浜マンゲールFC戦欠場が決まった翌日。

午前九時三十分。

クラブハウス・分析室。

大型モニターには戦術ボードが映し出されていた。

監督マルコ・ベッルーニ。

GM竹内正樹。

強化部長佐藤智成。

ヘッドコーチ中村敏三郎。

そして八幡比企谷。

横浜戦のスターティングメンバーを決める最後のミーティングが始まっていた。

マルコが静かに口を開く。

「葉山の代役。」

「決めよう。」

部屋が静まり返る。

八幡が資料を切り替える。

「候補は複数検討しました。」

モニターには候補案が並ぶ。

右サイドバックの毛利を左へ回す案。

システムを3バックへ変更する案。

センターバックを左へ回す案。

それぞれのメリットとデメリットが表示されている。

八幡が説明を始めた。

「毛利を左へ回す案。」

「毛利は右利きです。」

「左ではビルドアップのテンポが落ちます。」

「さらに右サイドにも代役が必要になります。」

マルコが頷く。

「守備だけじゃなく、攻撃の形も崩れるな。」

「はい。」

八幡は次の資料を映す。

「3バックへの変更。」

「準備期間が短すぎます。」

「横浜戦で採用するリスクが大きいです。」

中村も同意した。

「このタイミングでシステム変更は避けたい。」

八幡は最後の資料を表示する。

画面いっぱいに、一人の選手のデータが映し出された。

**背番号24 高山俊樹 24歳**

**左サイドバック**

**左利き**

マルコは静かに画面を見つめる。

八幡が説明を続けた。

「葉山ほどの攻撃参加はありません。」

「オーバーラップの回数も少ないです。」

「クロス本数も葉山を下回ります。」

画面には今季の比較データが表示される。

葉山は攻撃面の数値が高い。

一方、高山は守備の項目が安定していた。

対人勝率。

インターセプト。

クリア数。

いずれもリーグ平均を大きく上回っている。

八幡は高山のプレー映像へ切り替えた。

相手ウイングとの一対一。

身体を入れてボールを奪う。

クロスをブロックする。

最後まで集中を切らさず守り切る。

一本一本のプレーに派手さはない。

しかし、確実だった。

「高山の武器は守備です。」

「葉山ほど攻撃力はありません。」

「ですが。」

映像が止まる。

「左サイドバックとして、安定して高い守備力があります。」

「左利きでもあり、ビルドアップも普段どおり行えます。」

竹内が腕を組む。

「攻撃力は落ちる。」

「はい。」

「だが、守備の計算は立つ。」

「その通りです。」

佐藤も資料を見ながら頷いた。

「横浜の右サイドは突破力がある。」

「その相手なら、高山の守備力は魅力だな。」

マルコはしばらく考え込んだ。

数十秒。

誰も口を開かない。

やがて監督は静かに笑った。

「最初から答えは決まっていたのかもしれんな。」

八幡も小さく頷く。

「……やはり、高山しかいません。」

その一言で空気が変わった。

竹内が続ける。

「私も同意見だ。」

中村も頷く。

「葉山のような攻撃力は期待しない。」

「だが、守備を安定させるなら高山が最適だ。」

佐藤も異論はなかった。

マルコはホワイトボードへ歩く。

左サイドバックの欄に、ゆっくりと名前を書いた。

**24 高山俊樹**

「横浜戦。」

「左サイドは高山で行く。」

誰も反対しなかった。

---

午後。

グラウンド。

全体練習では、高山が主力組の左サイドバックに入っていた。

対面には川崎大志。

攻守の連係を何度も確認する。

「高山!」

ダニエル・ロドリゲスのパスを受ける。

無理に仕掛けない。

一度エミリオへ戻す。

タイミングを見て前へ出る。

派手さはない。

しかし、ボールを失わない。

守備では相手を外へ追い込み、確実にクロスコースを消していた。

練習を見つめるマルコが小さく呟く。

「葉山とは違う。」

その隣で八幡が答えた。

「はい。」

「でも、高山には高山の良さがあります。」

マルコは静かに頷いた。

「横浜戦は、攻める左ではない。」

「守り切る左だ。」

その言葉に、八幡も同意するように視線を高山へ向けた。

背番号24。

高山俊樹。

葉山の穴を埋めるのではない。

**高山自身のプレーで、左サイドを支える。**

横浜マンゲールFCとの一戦は、目前まで迫っていた。