第33話 敵地・横浜故九条スタジアム
第33話 敵地・横浜故九条スタジアム
試合当日。
午前11時15分。
エストレヤ千葉のチームバスは、横浜市内へ入っていた。
目的地は、横浜マンゲールFCの本拠地――**横浜故九条スタジアム**。
今日は**J2リーグ第7節**。
敵地での一戦。
前節・福岡レガーロ戦で今季初勝利を挙げたエストレヤ千葉にとって、連勝を懸けた重要な試合だった。
車内には静かな空気が流れている。
試合前だけに、誰も大きな声では話さない。
最前列ではキャプテン・郷田京が目を閉じ、試合のイメージを頭の中で繰り返していた。
宇津木健太と長谷川智樹は、小さな声で守備の確認をする。
「セットプレーはいつも通り。」
「セカンドボールだけ気を付けよう。」
「了解。」
右サイドバックの毛利良一は、イヤホンを外し、静かに窓の外を眺める。
その後ろでは、高山俊樹が深呼吸を繰り返していた。
今日が今季初先発。
葉山隼人の代役として左サイドバックを任される。
緊張しないわけがない。
その隣へ葉山が歩いてきた。
「隣、空いてるか?」
「もちろん。」
葉山は腰を下ろした。
二人は同じ二十四歳。
同じポジションを争うライバルだった。
しかし今は、仲間として高山を送り出す立場にある。
葉山が静かに口を開いた。
「変に俺を意識するなよ。」
高山が笑う。
「分かってる。」
「俺は俺のプレーをする。」
葉山は頷いた。
「それでいい。」
「お前は守備で勝負できる。」
「一対一ならチームでもトップクラスだ。」
「無理にオーバーラップしなくていい。」
「守って、つないで、それがお前の仕事だ。」
高山は真っ直ぐ前を見たまま答えた。
「任せろ。」
葉山はそれ以上何も言わなかった。
軽く拳を合わせる。
それだけで十分だった。
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通路を挟んだ反対側。
**比企谷八幡**はタブレットを見つめていた。
画面には横浜マンゲールFCの分析映像。
谷口修吾。
右サイドの崩し。
左サイドとの連係。
セットプレー。
すでに頭に入っている内容だった。
それでも最後まで確認を続ける。
マルコ・ベッルーニが歩いてくる。
「まだ見ているのか。」
比企谷は視線を画面から外さない。
「最後まで確認します。」
「何か見落としがあるかもしれません。」
マルコは苦笑した。
「相変わらずだな。」
「だが、その慎重さがお前の武器だ。」
比企谷は小さく頷くだけだった。
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午前11時45分。
チームバスがゆっくりと速度を落とす。
窓の外に巨大なスタジアムが姿を現した。
**横浜故九条スタジアム。**
横浜マンゲールFCの本拠地。
スタジアム周辺はホームサポーターで埋め尽くされ、青いユニフォームが目立つ。
その中に、赤いエストレヤ千葉のユニフォームを着たサポーターの姿も少しずつ増えていた。
「到着します。」
運転手のアナウンスが流れる。
郷田が立ち上がる。
「行こう。」
その一言で選手全員が席を立った。
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バスが関係者入口へ横付けされる。
ドアが開く。
最初に郷田京。
続いて宇津木、長谷川。
毛利。
高山。
戸塚。
エミリオ。
森川。
川崎。
ダニエル。
材木座。
ベンチメンバーもその後に続く。
今日遠征に帯同しているのは、この18人とスタッフだけだった。
万条グループも、帯同メンバーに選ばれた**背番号29のDF**と**背番号3・万条富隆**の二人はチームとともにスタジアムへ入る。
一方で、**遠征メンバーから外れた万条グループの選手たちは誰一人として横浜には来ていない。**
クラブハウスで調整を続ける者、自宅で試合を見守る者、それぞれが次のチャンスに向けて準備を続けていた。
比企谷八幡は最後にバスを降りると、一度だけ横浜故九条スタジアムを見上げた。
敵地特有の熱気。
ホームサポーターの大歓声。
そのすべてを静かに受け止める。
「……行きましょう。」
マルコにそう声を掛けると、二人は並んでスタジアムの中へ歩き出した。
J2リーグ第7節。
横浜マンゲールFCとの一戦まで、あと約一時間。
敵地での九十分が、まもなく幕を開けようとしていた。