第34話 最高の立ち上がり
第34話 最高の立ち上がり
午後1時。
**J2リーグ第7節**
**横浜マンゲールFC vs エストレヤ千葉**
横浜故九条スタジアム。
スタンドを埋めた一万八千人を超える観客の歓声が、ピッチを包み込む。
選手入場。
ホームの横浜マンゲールFCに大きな拍手が送られる。
続いて、赤いユニフォームに身を包んだエストレヤ千葉の選手たちが姿を現した。
アウェーゴール裏から、力強いチャントが響く。
「エストレヤ! エストレヤ!」
敵地とは思えないほど、大きな声援だった。
ピッチ中央。
両キャプテンが握手を交わす。
郷田京はコイントスを終えると、仲間たちの元へ戻った。
「最初の十分だ。」
「集中して入るぞ。」
「おう!」
全員の声が重なった。
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主審が時計を見る。
ピーッ!!
試合開始の笛が鳴った。
前半開始。
横浜マンゲールFCのキックオフ。
最初はホームチームがボールを保持する。
谷口修吾が中盤でリズムを作ろうとするが、エストレヤ千葉は慌てない。
前線の材木座義輝がコースを限定し、
ダニエル・ロドリゲスがボランチへのパスを消す。
その背後では戸塚彩加とエミリオ・アルバレスがコンパクトな距離を保ち、中盤を締める。
「前へ!」
宇津木健太の声が飛ぶ。
横浜は一度最終ラインまで下げるしかなかった。
ベンチ前。
マルコ・ベッルーニが腕を組む。
「いい入りだ。」
隣で比企谷八幡も静かに頷いた。
「狙いどおりです。」
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前半3分。
長谷川智樹がロングボールを跳ね返す。
こぼれ球を戸塚が拾う。
すぐにエミリオへ。
エミリオはワンタッチで右へ展開。
毛利良一が前を向く。
「川崎!」
縦へ速いパス。
川崎大志は相手SBを引きつけながら中央へ戻した。
ダニエルが受ける。
一瞬で前を向く。
相手ボランチが飛び込む。
しかし、ダニエルは左足アウトサイドで左へ流した。
「森川!」
森川佑が走り込む。
ペナルティーエリア左角。
相手DFが寄せる。
森川は一度右へ切り返すと見せかけ、左へ持ち出した。
シュートコースがわずかに開く。
「打て!」
材木座が叫ぶ。
森川は迷わなかった。
左足一閃。
低く鋭いシュートがニアサイドを抜ける。
GKが反応する。
指先は届かない。
次の瞬間――。
**ズバァァァン!!**
ゴールネットが大きく揺れた。
「よっしゃぁぁぁ!!」
森川が両拳を握り締める。
アウェーゴール裏が爆発した。
「うおおおおお!!」
「森川ーーー!!」
実況が絶叫する。
「決まったーーー!!」
「前半4分! エストレヤ千葉、森川佑のゴールで先制です!」
スコアボードが書き換えられる。
**前半4分**
**横浜マンゲールFC 0-1 エストレヤ千葉**
**得点**
森川佑
森川はコーナーフラッグ付近まで駆け出し、両手を広げる。
真っ先に駆け寄ったのはダニエルだった。
「ナイスシュート!」
「最高のパスだった!」
川崎、材木座、戸塚、エミリオも次々と抱きつく。
ベンチでは控え選手たちが総立ちになっていた。
葉山隼人も思わず拳を握る。
「よし!」
マルコは大きく拍手を送り、比企谷八幡へ目を向けた。
「狙いどおりだったな。」
比企谷はピッチから目を離さず答える。
「横浜の右サイドは、攻撃時にSBとCBの間が少し空きます。」
「そこへ森川が入りました。」
「映像で何度も確認していた形です。」
マルコは満足そうに頷く。
「最高の立ち上がりだ。」
しかし、比企谷の表情は変わらない。
「ここからです。」
「横浜は失点後、前に出てきます。」
「次の十五分が一番危険です。」
マルコは静かに笑った。
「だからこそ、お前を連れてきた。」
ピッチでは試合が再開される。
先制したエストレヤ千葉。
だが、敵地・横浜故九条スタジアムには、まだ八十六分以上の戦いが残されていた。