第35話 封じられた司令塔
第35話 封じられた司令塔
前半5分以降。
先制を許した横浜マンゲールFCは、一気に攻勢へ転じた。
「落ち着け!」
谷口修吾が両手を広げ、味方に声を掛ける。
「慌てるな! 一回つなぐぞ!」
横浜は最終ラインから丁寧にボールを回し始めた。
センターバックからボランチへ。
そして谷口へ。
しかし――。
「行け!」
ダニエル・ロドリゲスが一気に距離を詰める。
谷口は前を向けない。
すぐに後方へ落とす。
その瞬間。
戸塚彩加がパスコースを消し、エミリオ・アルバレスが中央を締める。
横浜は再び最終ラインまで戻さざるを得なかった。
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前半12分。
横浜は右サイドから崩しにかかる。
SBがオーバーラップ。
谷口へ縦パス。
だが――。
「行かせるな!」
戸塚が身体を寄せる。
谷口が反転を狙う。
そこへエミリオが素早く寄せた。
前後から挟み込まれる形となり、谷口はボールを失う。
「ナイス!」
宇津木が大きく声を上げた。
そのままエストレヤ千葉は素早くカウンターへ移る。
惜しくも追加点にはつながらなかったが、横浜へ大きなプレッシャーを与え続けた。
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前半20分。
実況席。
「ここまで谷口修吾選手にほとんど前を向かせてもらえません。」
解説者も頷く。
「そうですね。」
「エストレヤ千葉は谷口選手を一人で止めているわけではありません。」
「ダニエル・ロドリゲス選手が最初の制限を掛け、戸塚彩加選手とエミリオ・アルバレス選手が受けた瞬間を狙う。」
「三人で囲い込むような守備ですね。」
「非常によく準備されています。」
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ベンチ前。
マルコ・ベッルーニは腕を組んだまま見つめていた。
隣の比企谷八幡が静かに言う。
「谷口選手がボールに触る位置が予定より低いです。」
マルコは頷く。
「危険なエリアまで運べていない。」
「はい。」
「中盤で時間を与えていません。」
比企谷の視線は一瞬たりともピッチから離れない。
「このまま集中を切らさなければ、ゲームはこちらが主導権を握れます。」
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前半29分。
谷口がようやく前を向いた。
縦へ鋭いスルーパスを狙う。
しかし。
「読んでいた!」
戸塚が足を伸ばし、見事にインターセプト。
そのままエミリオへつなぐ。
エミリオはワンタッチでダニエルへ。
ダニエルが前線へ展開し、再びエストレヤ千葉が攻め込む。
谷口は悔しそうに両手を腰へ当てた。
「……。」
今日、自分のリズムを一度も作れていない。
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前半36分。
横浜はセットプレーを獲得する。
キッカーは谷口。
鋭いボールがゴール前へ送られる。
「クリア!」
宇津木が競り勝つ。
こぼれ球も長谷川が大きく蹴り出す。
郷田京も大きく声を張った。
「集中切らすな!」
「あと十分!」
「オー!」
選手たちが応える。
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前半43分。
横浜が最後の攻撃を仕掛ける。
谷口が中央で受けようとする。
しかし、その前へダニエルが入り込む。
パスはわずかにずれ、その隙をエミリオが回収。
今日何度目か分からない、中盤でのボール奪取だった。
横浜サポーターからも小さなどよめきが起こる。
「谷口が仕事をさせてもらえない……。」
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前半アディショナルタイム2分。
横浜のロングボールを郷田が落ち着いてキャッチ。
その直後――。
**ピーーーッ!**
主審が前半終了を告げる笛を吹いた。
**前半終了**
**横浜マンゲールFC 0-1 エストレヤ千葉**
得点者
* 4分 森川佑(エストレヤ千葉)
選手たちは汗を拭いながらロッカールームへ向かう。
谷口修吾は悔しそうな表情でピッチを見つめた。
この45分間、自分の思い描いたゲームを一度も作れなかった。
その理由は明白だった。
エストレヤ千葉の中盤。
ダニエル・ロドリゲス、戸塚彩加、エミリオ・アルバレスの三人が、谷口へ自由を与えなかったのである。
敵地・横浜故九条スタジアム。
前半は、エストレヤ千葉が狙い通りの試合運びを見せた。