第36話 想定以上
第36話 想定以上
前半終了。
スコアは――
**横浜マンゲールFC 0-1 エストレヤ千葉**
選手たちは汗を拭きながらロッカールームへ戻っていく。
ホームサポーターからは重苦しい空気が漂っていた。
「谷口が何もできてない……。」
「エストレヤ千葉の中盤、かなり厄介だな。」
「前を向かせてもらえない。」
そんな声も聞こえてくる。
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エストレヤ千葉ロッカールーム。
選手たちが席に着き、水分を補給していた。
誰も浮かれてはいない。
まだ45分残っていることを全員が理解していた。
マルコ・ベッルーニはホワイトボードの前に立つ。
「前半はよくやった。」
その一言に、選手たちは静かに耳を傾ける。
「攻守ともに狙いは出せている。」
「だが、1点差だ。」
「次の1点が試合を決める。」
誰も頷くだけだった。
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マルコは比企谷八幡へ視線を向ける。
「八幡。」
「前半、どう見る?」
ロッカールームの全員の視線が比企谷へ集まる。
比企谷はタブレットを机に置き、静かに口を開いた。
「守備は予定どおりです。」
「谷口選手への制限も機能しています。」
そう言いながら、タブレットに表示されたヒートマップを選手たちへ向ける。
「谷口選手は本来なら、この辺りでボールを受けて試合を組み立てます。」
中央の危険なエリアを指差す。
「ですが今日は、この位置まで下がらされています。」
表示されているデータでは、谷口のプレーエリアは自陣寄りに偏っていた。
戸塚が画面を見つめる。
「かなり下がってるな。」
比企谷は頷く。
「はい。」
「ここまでは狙いどおりです。」
少し間を置いて続ける。
「ただ……。」
マルコが表情を変える。
「ただ?」
比企谷は正直に答えた。
「ここまでうまくいくとは思っていませんでした。」
ロッカールームが静かになる。
「横浜は開幕から本来の力を出せていません。」
「谷口選手自身もコンディションは決して良くない。」
「それは分析でも分かっていました。」
「ですが、それを差し引いても予想以上です。」
マルコも腕を組んで頷く。
「同感だ。」
比企谷は映像を切り替える。
前半のプレーが映し出される。
「ダニエルさんが最初にコースを切る。」
「戸塚さんが受け際を潰す。」
「エミリオさんがこぼれ球を回収する。」
「この三人の連動が予想以上に完成しています。」
ダニエルが笑う。
「息が合ってるってことか。」
「はい。」
比企谷も珍しく小さく笑みを浮かべた。
「三人とも判断が速いので、谷口選手が考える時間を与えられていません。」
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しかし、その笑みはすぐ消えた。
「だからこそ後半が危険です。」
ロッカールームの空気が再び引き締まる。
「相手も修正してきます。」
「このまま同じ試合にはなりません。」
マルコが選手たちを見回した。
「その通りだ。」
「横浜はこのまま終わるチームじゃない。」
「後半開始十五分。」
「そこが勝負になる。」
郷田が立ち上がる。
「追加点を取るぞ。」
「守るためじゃない。」
「勝つために。」
「おお!」
全員の声がロッカールームに響いた。
敵地・横浜故九条スタジアム。
エストレヤ千葉は理想的な前半を終えた。
だが、比企谷八幡の頭の中では、すでに横浜マンゲールFCが後半に見せるであろう修正パターンがいくつも描かれていた。