第39話 消えない壁
第39話 消えない壁
後半13分。
横浜マンゲールFCの攻撃。
谷口修吾は一度、右サイドへ流れた。
中央ではなく、あえてサイドでボールを受ける。
「谷口が右へ!」
実況が声を上げる。
右サイドバックとのワンツー。
さらに前線の選手へ預け、自ら中央へ走り込む。
(中央で捕まるなら、外から入る。)
谷口なりの修正だった。
しかし――。
「付いてる!」
戸塚彩加だった。
谷口が中央へ戻る動きに合わせ、戸塚も無駄なくスライドする。
パスコースを消す。
谷口は受けられない。
結局、ボールは再び最終ラインまで戻された。
「くっ……。」
谷口は唇を噛んだ。
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後半16分。
今度は逆だった。
谷口は最終ライン近くまで下がる。
センターバックから直接ボールを引き出し、自分で前へ運ぼうとする。
「自分で行くか!」
実況が叫ぶ。
谷口はドリブルで中央へ持ち込む。
一人かわす。
さらにもう一人。
その瞬間。
「そこだ。」
戸塚が真横から身体を寄せる。
激しく当たるわけではない。
絶妙な距離。
ボールだけを狙う。
コツッ。
わずかにつつかれたボールが転がる。
そこへエミリオが素早く回収した。
「ナイス!」
郷田が最後方から叫ぶ。
谷口は思わず両手を広げた。
(また……。)
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後半20分。
横浜ベンチ。
監督も腕を組んでいた。
「谷口。」
「もっと自由に動いていい。」
谷口は小さく頷く。
(自由に、か。)
それなら――。
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次のプレー。
谷口は最前線まで上がった。
トップ下ではない。
一時的にFWのような位置へ。
センターバックの間へ入り込む。
宇津木が迷う。
(誰が見る?)
その一瞬。
谷口が下がって受ける。
「今だ!」
ボールが入る。
ようやく前を向ける――。
そう思った瞬間だった。
「遅い。」
戸塚が背後から現れた。
スッ。
身体を入れる。
谷口は無理にターンできない。
後ろへ落とすしかない。
スタンドからもどよめきが起こる。
「また戸塚か。」
「どこにでもいるぞ。」
「ずっと谷口についてるじゃないか。」
実況も思わず声を上げる。
「戸塚彩加選手、本当に素晴らしい守備ですね!」
解説者も感心したように頷く。
「マンマークではありません。」
「ですが、谷口選手が危険な場所へ顔を出す瞬間だけ、必ず戸塚選手が現れる。」
「距離感が絶妙です。」
「飛び込まず、自由だけを奪っている。」
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ピッチ中央。
谷口は一度深呼吸した。
(右へ行っても。)
(下がっても。)
(前へ出ても。)
(全部、戸塚がいる。)
周囲を見回す。
もちろんダニエルもいる。
エミリオもいる。
だが、一番厄介なのは――。
戸塚彩加だった。
危険な位置に入ろうとした瞬間だけ現れ、プレーの選択肢を削っていく。
ボールを奪われるよりも厄介だった。
思い描いたプレーを、何一つ最後までやらせてもらえない。
谷口は苦笑した。
「……本当に嫌な相手だ。」
その呟きを聞いた戸塚は、小さく笑みを浮かべるだけだった。
「今日は、自由にはさせません。」
後半はまだ中盤。
それでも、エストレヤ千葉の中盤は、横浜マンゲールFCの司令塔に最後まで答えを与えていなかった。