第46話〜第60話
第46話〜第60話
第46話 変わらない日常
翌朝。
午前八時五十分。
エストレヤ千葉クラブハウス。
ロッカールームには、いつもと変わらない朝の空気が流れていた。
「葉山、足どうだ?」
高山俊樹が着替えながら声を掛ける。
葉山隼人はリハビリシューズの紐を締め、軽く右足を動かした。
「順調。今日も別メニューだけど、来週には全体合流できそう。」
「それなら安心だな。」
「横浜戦、お前よくやったじゃん。」
葉山が笑う。
高山は首を横に振った。
「いや、お前ならもっと攻撃で違いを作れてた。」
「俺は守るだけで精一杯だった。」
「十分だろ。」
戸塚彩加も会話に加わる。
「無失点だったんだから。」
「郷田さんにも助けられたしな。」
三人が笑う。
そこへ材木座義輝が缶コーヒーを片手に近づいた。
「次は俺がもう少し点を取らんとな。」
森川佑がすぐ反応する。
「いや、お前はアシストしてくれれば十分だ。」
「ひどくないか?」
「事実だ。」
ロッカールームに笑い声が広がった。
---
少し離れたロッカー。
万条富隆は無言でスパイクを取り出していた。
二十九歳。
クラブでも年長組に入る選手。
誰とも話さないわけではない。
だが、自分から輪へ入ることもしない。
静かに準備を終え、立ち上がる。
誰も昨日、自分が移籍志願書を提出したことは知らない。
知っているのは、ごく限られた人間だけだった。
---
グラウンド。
マルコ・ベッルーニ監督がホイッスルを吹く。
「集合。」
選手たちが一斉に集まる。
比企谷八幡は監督の横でタブレットを開いていた。
「今日は守備から攻撃への切り替えを確認する。」
「横浜戦は良かった。」
「だが、満足するには早い。」
マルコは全員を見回した。
「スタメンもベンチも関係ない。」
「競争は毎日続く。」
「アピールしろ。」
「はい!」
力強い返事が返ってくる。
万条も、その中にいた。
---
七対七のゲーム形式。
万条は中盤でボールを受ける。
右足でトラップ。
相手を一人かわし、逆足で縦パス。
テンポのいい展開を作る。
「ナイス。」
エミリオ・アルバレスが声を掛ける。
万条は軽く手を上げるだけだった。
次のプレー。
守備へ素早く戻り、相手のパスコースを切る。
さらにボールを奪う。
「続けろ!」
マルコの声が飛ぶ。
万条は最後まで走り切った。
---
グラウンド脇。
八幡はプレーを見ながら淡々と入力していく。
**万条富隆。**
走行距離。
パス成功率。
ボール奪取。
守備への切り替え。
すべて数字で残していく。
評価に私情は入れない。
移籍志願を出したことも、この記録には関係なかった。
---
午前練習終了。
「お疲れ!」
選手たちは次々とクラブハウスへ戻っていく。
万条は最後までクールダウンを続けていた。
そこへマルコが歩み寄る。
「万条。」
「はい。」
「今日は良かった。」
短い言葉。
万条は少し驚いたような顔をした。
「ありがとうございます。」
「移籍が決まるまで、お前はエストレヤ千葉の選手だ。」
マルコはそれだけ言う。
「私は全員を平等に評価する。」
「それは変わらない。」
万条は静かに頷いた。
「分かっています。」
「俺も、そのつもりです。」
二人はそれ以上話さなかった。
マルコはクラブハウスへ戻り、万条は再びランニングを始める。
その姿を、遠くから八幡が一瞬だけ見つめる。
そして何も言わず、タブレットの画面を閉じた。
夏の移籍市場は、まだ始まったばかりだった。
第47話 三連勝への準備
**J2第8節・CS栃木戦まで、あと4日。**
横浜マンゲールFCとのアウェーゲームに3-0で勝利してから数日。
エストレヤ千葉はクラブハウスで、次節・CS栃木戦へ向けた準備を本格化させていた。
現在、リーグ戦二連勝。
次節に勝てば、今季初の三連勝。
順位をさらに上げるためにも、絶対に落とせない一戦だった。
---
午前九時。
クラブハウス。
ロッカールーム。
「おはよう。」
「おはようございます。」
選手たちが次々と姿を見せる。
キャプテン・郷田京が最初にロッカーへ入り、荷物を置く。
三十四歳。
経験豊富な守護神は、いつもどおり静かだった。
続いて長谷川智樹、宇津木健太。
ベテラン二人も黙々と準備を始める。
その横では、毛利良一がスパイクを磨いていた。
「毛利。」
宇津木が声を掛ける。
「はい。」
「栃木はクロスが多い。」
「サイドで簡単に上げさせるな。」
「分かっています。」
毛利は力強く頷いた。
「前節よりもいい守備を見せます。」
宇津木は小さく笑う。
「期待してる。」
---
左側のロッカーでは、高山俊樹がテーピングを巻いていた。
そこへ葉山隼人が歩いてくる。
葉山はまだ全体練習への復帰途中だった。
「調子どうだ?」
高山が聞く。
「だいぶ戻った。」
葉山は笑う。
「今日から対人も少し入る。」
「焦るなよ。」
「分かってる。」
「お前が調子いいからな。」
高山は苦笑した。
「そんな煽るな。」
「事実だろ。」
二人は笑い合う。
ポジションを争うライバル。
しかし、それ以上に互いを認める仲間だった。
---
反対側。
材木座義輝がロッカーを閉める。
そこへ森川佑が近付く。
「材木座。」
「なんだ。」
「次も起点頼む。」
材木座はため息をつく。
「またアシスト役か。」
森川が笑う。
「俺も点は狙う。」
「でも、お前が収めてくれるから攻撃が始まる。」
「それが一番助かる。」
材木座は肩をすくめた。
「分かった。」
「じゃあ俺はゴールも狙う。」
そこへ川崎大志が入ってくる。
「宣言しましたね。」
「期待してます。」
材木座は笑った。
「お前ら、プレッシャー掛けるな。」
ロッカールームに笑い声が広がる。
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少し離れた場所。
万条富隆は一人でスパイクの紐を締めていた。
二十九歳。
チームでも年長組。
移籍志願書を提出して数日。
しかし、そのことを表に出すことはない。
練習では全力。
試合も全力。
それがプロとしての責任だと考えていた。
ロッカールームの空気も、何一つ変わらない。
誰も知らない。
だからこそ、普段どおりだった。
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午前九時三十分。
グラウンド。
マルコ・ベッルーニ監督がホワイトボードの前に立つ。
「今日はCS栃木を想定したメニューを行う。」
選手たちが半円を描くように集まった。
その横には比企谷八幡。
タブレットを持ち、映像を準備している。
「八幡。」
「お願いします。」
八幡が前へ出る。
「CS栃木は守備時4-4-2。」
「中央を締める時間が非常に長いチームです。」
モニターに映像が映る。
「中央突破は難しくなります。」
映像が切り替わる。
「その代わり、サイドへのスライドは少し遅れます。」
レーザーポインターで左サイドを示す。
「森川さん、高山さん。」
二人が顔を上げる。
「このスペースを使えるかどうかが重要になります。」
森川は頷いた。
「なるほど。」
高山も真剣な表情で映像を見る。
---
「毛利さん。」
「はい。」
「逆サイドは中へ絞る場面が多いです。」
「クロス対応を優先してください。」
「分かりました。」
---
「万条さん。」
「はい。」
「エミリオ。」
二人へ視線を向ける。
「栃木はボールを奪うと縦へ速いです。」
「攻撃参加は問題ありません。」
「ただし、二人同時に前へ出る時間は最小限にしてください。」
エミリオが腕を組む。
「片方は必ず残る。」
「そういうことだな。」
「はい。」
万条も短く答えた。
「了解。」
---
「ダニエル。」
「はい。」
「相手アンカーの背後で受ける回数を増やします。」
「材木座さんとの距離を近くしてください。」
ダニエルは笑顔で答えた。
「任せてください。」
材木座も頷く。
「落とす準備はしておく。」
---
説明が終わると、マルコが前へ出る。
「今日のテーマは二つ。」
「守備から攻撃への切り替え。」
「そしてクロスへの入り方。」
ホイッスルを鳴らす。
「始めよう。」
「はい!」
選手たちが一斉にグラウンドへ散っていく。
八幡はタブレットを閉じ、その背中を見送った。
CS栃木戦まで、あと四日。
三連勝を目指すエストレヤ千葉の準備は、着実に進んでいた。
第48話 サポーターの反応
その日の夕方。
エストレヤ千葉は、翌節・CS栃木戦の遠征メンバー十八名をクラブ公式サイトで発表した。
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### エストレヤ千葉 J2第8節 CS栃木戦 遠征メンバー
GK
郷田京
玉縄幸三
DF
宇津木健太
長谷川智樹
毛利良一
高山俊樹
葉山隼人
橋本翔
MF
万条富隆
エミリオ・アルバレス
森川佑
川崎大志
ダニエル・ロドリゲス
戸部翔
佐久間浩二
中田正和
FW
材木座義輝
背番号32
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そして数分後。
サポーターたちが集うネット掲示板では、早くも話題になっていた。
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**【J2】エストレヤ千葉総合スレ Part146**
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**412**
遠征メンバー出たぞ。
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**413**
戸塚ベンチ外?
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**414**
コンディション不良ってクラブが発表してる。
無理させないのは賛成。
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**415**
葉山戻ってきたな。
ベンチだけど。
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**416**
橋本も帯同か。
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**417**
いや、それより。
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**418**
**まさか万条出るのか?**
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**419**
俺もそこ気になった。
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**420**
普通にスタメン予想になってる。
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**421**
戸塚いないならDMF誰やるんだよ。
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**422**
普通に万条じゃね?
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**423**
エミリオと万条かな。
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**424**
万条使うの?
大丈夫か?
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**425**
実力だけならJ2ではそこそこやれる。
問題はそれ以外。
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**426**
寝坊。
遅刻。
遠征拒否。
全部やってきたからな。
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**427**
去年も問題起こしてたろ。
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**428**
八幡が来てから干され気味だったし。
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**429**
いや。
干されたというより競争で負けただけ。
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**430**
戸塚が良すぎる。
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**431**
エミリオ外せない。
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**432**
ダニエル加入してから余計に出番減ったしな。
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**433**
それでも今回は戸塚いない。
チャンスではある。
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**434**
ここで結果出したら面白い。
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**435**
逆にダメなら完全に終わる。
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**436**
万条も二十九歳だからな。
もう後がない。
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**437**
昔は期待してたんだけどなぁ。
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**438**
前任スカウト最大の補強って言われてたし。
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**439**
能力だけならもっとやれた。
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**440**
素行が全部壊した。
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**441**
八幡も使える選手なら使うタイプだろ。
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**442**
それな。
感情で干すタイプじゃない。
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**443**
横浜戦だって戸部入れてFK決めたし。
結果出す奴は使う。
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**444**
だから今回万条スタメン予想なんだろ。
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**445**
俺は応援する。
試合出るなら千葉の選手だから。
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**446**
同意。
ピッチに立つ以上は頼むぞ。
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**447**
栃木戦。
ここが万条の正念場だな。
---
画面を閉じたサポーターもいれば、
静かに期待を書き込む者もいた。
賛否はある。
だが、一つだけ共通していることがある。
**次節、万条富隆のプレーに注目が集まっていた。**
## 第49話 噛み合わない歯車
J2第8節。
**CS栃木 対 エストレヤ千葉。**
マントックスタジアム。
午後2時。
スタンドを埋めた両クラブのサポーターから大きな拍手が送られる中、両チームの選手がピッチへ姿を現した。
千葉ゴール裏からは大きなチャントが響く。
「エストレヤ! エストレヤ!」
郷田が最後尾から前方を見つめる。
長谷川、宇津木、高山、毛利が横一列に並ぶ。
中盤にはエミリオと万条。
前線には森川、川崎、ダニエル、そして材木座。
主審が両キャプテンを呼び、コイントスを行う。
まもなく試合開始。
---
「ピーッ!」
開始のホイッスルが鳴った。
エストレヤ千葉のキックオフ。
材木座がダニエルへ落とし、ボールは後方へ。
いつも通り、最終ラインからボールを動かしていく。
エミリオが中央へ下り、受けようとした、その時だった。
「エミリオ!」
万条が手を挙げる。
エミリオは万条へパス。
万条はワンタッチで前を向く。
本来なら一度テンポを落ち着かせる場面。
しかし――
「行く!」
万条はそのまま縦へ強引なパスを狙った。
ダニエルの足元を狙ったボールだったが、相手ボランチが読み切る。
インターセプト。
「切り替え!」
郷田の声が飛ぶ。
長谷川が素早くカバーに入り、栃木の速攻は何とか防いだ。
---
開始二分。
今度は高山が左サイドから万条へ預ける。
エミリオは横でフリー。
「落ち着け。」
そう声を掛ける前に、万条は再び前を向いた。
相手二人の間を通そうとした縦パス。
しかし、また引っ掛かる。
「くそっ!」
万条はすぐに奪い返そうと飛び込む。
その結果、中盤のバランスが一瞬崩れた。
「万条! 戻れ!」
宇津木が叫ぶ。
空いたスペースへ栃木が侵入。
毛利が慌てて中へ絞り、長谷川もカバーへ走る。
何とかシュートまでは持ち込ませなかったものの、エストレヤの守備陣は開始早々に大きく揺さぶられた。
---
ベンチ。
マルコは腕を組んだまま、静かに試合を見つめている。
その横で八幡も視線を切らさない。
「……。」
八幡は何も言わない。
ただ、万条の動きを追っていた。
---
開始六分。
今度は郷田から丁寧につないだボール。
宇津木。
長谷川。
エミリオ。
ここまでは狙い通り。
エミリオは左へ展開しようと顔を上げる。
だが、その瞬間。
「こっち!」
万条が中央で要求する。
エミリオは預けた。
万条は受けると同時に反転。
またしてもドリブルで中央突破を狙う。
栃木のダブルボランチがすぐに挟み込む。
ボールを失う。
「またか……。」
森川が小さく呟く。
本来ならサイドへ展開し、相手を動かしてから崩す。
それがこの試合の準備してきた形だった。
しかし万条は、自ら局面を打開しようと焦っていた。
---
開始十分。
エストレヤ千葉はまだ決定機を作れていない。
高山が左で何度手を挙げても、ボールはなかなか出てこない。
ダニエルも何度もアンカーの背後へ動き直す。
だが中央で攻撃が止まり、狙っていた形にならない。
エミリオが万条へ近づいた。
「万条。」
「一回落ち着こう。」
穏やかな口調だった。
万条は短く頷く。
「ああ……分かってる。」
そう返事はしたものの、その表情には焦りが滲んでいた。
久しぶりの先発。
結果を出さなければならないという思いが、普段なら見えるはずの選択肢を狭めていた。
ベンチ前では、マルコがゆっくりと一歩前へ出る。
試合はまだ序盤。
だが、エストレヤ千葉が準備してきた攻撃のリズムは、万条の空回りによって少しずつ狂い始めていた。
## 第50話 焦り
前半アディショナルタイム2分。
「ピーッ! ピーッ!」
主審が前半終了のホイッスルを吹いた。
**CS栃木 0-0 エストレヤ千葉**
スコアは動いていない。
しかし、エストレヤ千葉にとっては決して満足できる45分ではなかった。
---
「ナイスカバー!」
郷田が最後尾から声を掛けながら、自陣ゴールへ歩いていく。
長谷川は汗を拭い、大きく息を吐いた。
「何とか耐えたな……。」
宇津木も頷く。
「ああ。」
「危ない場面は何回かあった。」
高山は黙ったまま前を歩く。
左サイドで何度もフリーになった。
それでも、思うようにボールは来なかった。
森川も同じだった。
「今日は左が使えそうだったんだけどな……。」
小さく呟く。
その言葉にエミリオは何も返さなかった。
---
ロッカールーム。
静かな空気が流れる。
誰も大きな声を出さない。
マルコが前へ立つ前に、八幡はタブレットで前半のデータを確認していた。
シュート数。
ボール保持率。
パス成功率。
すべてを冷静に見つめる。
一方で、選手たちはそれぞれ水を口に含み、息を整えていた。
万条は俯いたまま、自分のスパイクを見つめている。
(まただ……。)
心の中で自分に問い掛ける。
(何でこんなに焦ってる。)
頭では分かっている。
もっとシンプルにプレーすればいい。
エミリオを経由してもいい。
ダニエルを使ってもいい。
高山へ展開してもいい。
だが、ボールを持つと体が勝手に前へ出てしまう。
一本で決めよう。
自分で崩そう。
結果を出そう。
その気持ちが、判断を狂わせていた。
---
万条は拳を握る。
(この夏には移籍する。)
その考えは変わらない。
提出した移籍志願。
それはもう撤回するつもりはなかった。
だからこそ——。
(移籍するなら、価値を証明しなきゃならない。)
新しいクラブへ行くためにも。
自分を必要としてもらうためにも。
試合で活躍しなければ意味がない。
その思いが、心の中で何度も繰り返される。
(一本通せば流れは変わる。)
(一点取れば評価も変わる。)
(今日は俺が……。)
そこまで考えたところで、万条は目を閉じた。
---
その様子を少し離れた場所から見ていた八幡は、何も口にしなかった。
表情だけを見れば分かる。
万条は戦っている。
相手ではない。
**自分自身と。**
---
「みんな。」
マルコが静かに口を開く。
ロッカールームの視線が一斉に集まる。
「スコアは0-0だ。」
「悪い結果じゃない。」
「だが、私たちのサッカーでもない。」
選手たちは黙って聞く。
「前半は中央に急ぎ過ぎた。」
「準備してきたことを思い出せ。」
ホワイトボードに左サイドを書き込む。
「相手を動かしてから攻める。」
「一人で崩す必要はない。」
「ボールを動かせ。」
「味方を使え。」
「そうすれば必ず隙はできる。」
マルコは選手一人ひとりを見渡した。
「焦る必要はない。」
「四十五分あれば十分勝てる。」
ロッカールームに静かな緊張感が漂う。
後半開始まで、あとわずか。
エストレヤ千葉は、崩れかけた自分たちのリズムを取り戻すため、再びピッチへ向かおうとしていた。
## 第51話 アクシデント
後半開始。
両チームとも選手交代はない。
エストレヤ千葉は前半と同じ十一人。
CS栃木も同じメンバーで後半に入った。
「ピーッ!」
主審のホイッスル。
後半45分が始まる。
---
マルコの指示どおり、エストレヤ千葉は前半とは違う入りを見せた。
エミリオを経由し、左右へ大きくボールを動かす。
高山が左サイドを駆け上がる。
森川とのワンツーで前進。
中央へ折り返す。
しかし、栃木のCBが先にクリアした。
「いいぞ!」
ベンチからマルコの声が飛ぶ。
「続けろ!」
選手たちも前半より落ち着きを取り戻し始めていた。
---
後半7分。
栃木が自陣でボールを奪う。
素早く縦へ一本。
前線のFWが裏へ抜け出した。
「宇津木!」
郷田が叫ぶ。
宇津木が懸命に追う。
しかしFWが一歩先に触る。
ボールはそのままペナルティーエリア内へ転がった。
「キーパー!」
長谷川の声。
郷田は迷わず前へ飛び出す。
ゴールラインから一気に距離を詰める。
FWも止まらない。
五分五分のボール。
郷田は両腕を伸ばし、先にボールへ飛び込んだ。
その瞬間だった。
**ドンッ!!**
激しい衝突音がスタジアムに響く。
郷田と栃木のFWが正面から交錯。
ボールは大きく弾かれ、ゴールラインの外へ転がる。
「ファウル!」
主審が笛を吹く。
プレーは止まった。
---
しかし。
郷田が立ち上がらない。
スタジアムが静まり返る。
「京!」
宇津木が真っ先に駆け寄る。
長谷川も続く。
「大丈夫か!」
郷田は苦しそうに顔をしかめていた。
右肩を押さえている。
「……っ。」
声にならない。
すぐにメディカルスタッフがピッチへ飛び込んできた。
マルコもベンチ前まで歩み寄る。
八幡は無言で様子を見守っていた。
---
数分後。
メディカルスタッフが郷田へ確認する。
「腕は上がりますか?」
郷田はゆっくり動かそうとする。
だが。
「……無理だ。」
右腕が肩より上へ上がらない。
表情が歪む。
スタッフ同士が目を合わせた。
その様子を見たマルコは、すぐに決断した。
「交代だ。」
無理はさせない。
それが監督としての判断だった。
---
第四の審判へ交代カードが渡される。
**エストレヤ千葉 選手交代。**
**1 郷田京 OUT**
**21 玉縄幸三 IN**
スタジアムから拍手が送られる。
郷田はスタッフに肩を支えられながら、ゆっくりとピッチを後にした。
ゴール裏のサポーターは立ち上がり、大きな拍手でキャプテンを送り出す。
郷田は左手を軽く上げ、声援に応えた。
---
玉縄は急いでグローブをはめ、ゴール前へ走る。
二十四歳。
普段は控えGK。
しかし今、このゴールを守るのは自分しかいない。
長谷川が近づく。
「落ち着いていこう。」
宇津木も肩を叩く。
「いつもどおりでいい。」
玉縄は大きく頷いた。
「はい!」
主審が時計を確認する。
そして笛を鳴らした。
試合は再開される。
だが、キャプテンを失ったエストレヤ千葉にとって、この交代が試合の流れにどのような影響を与えるのか――。
誰にも、まだ分からなかった。
## 第52話 生まれた隙
試合は再開された。
後半12分。
スコアは依然として、
**CS栃木 0-0 エストレヤ千葉。**
しかし、ピッチ上の空気は先ほどまでとは明らかに違っていた。
キャプテン・郷田京の負傷交代。
その影響は、少しずつ選手たちのプレーにも表れ始める。
---
「集中!」
ゴールマウスに入った玉縄幸三が大きな声を張る。
「ライン上げるぞ!」
普段から練習では何度も声を出している。
だが、郷田の存在感とは違う。
最終ラインも無意識のうちに、確認の回数が増えていた。
「宇津木!」
「分かってる!」
「長谷川、中!」
「見えてる!」
細かな声が飛び交う。
普段なら郷田の一声で済む場面も、今日はDF同士で何度も確認し合う。
そのわずかな迷いが、守備のテンポを狂わせていた。
---
後半15分。
万条が中盤でボールを受ける。
(ここだ。)
焦りはまだ消えていない。
郷田が負傷した。
流れも悪い。
(俺が流れを変えなきゃ。)
その思いだけが強くなる。
エミリオが左へ開き、パスコースを作る。
「万条!」
高山も前方で手を挙げる。
しかし万条は使わない。
相手二人の間へ強引にドリブル。
「取られる!」
ダニエルが叫ぶ。
次の瞬間。
栃木のボランチが体を寄せる。
ボールを失った。
「切り替え!」
エミリオがすぐに戻る。
だが栃木は迷わない。
右サイドへ大きく展開。
---
「戻れ!」
宇津木が叫ぶ。
毛利が全力で戻る。
森川も必死に追う。
栃木の右サイドが勢いよく駆け上がる。
高山が中央へ絞る。
長谷川もカバーへ入る。
だが、その一瞬だった。
「宇津木!」
玉縄の声。
宇津木が一瞬だけゴール方向を見る。
郷田なら飛び出すか。
玉縄はどうだ。
ほんの一瞬。
その判断が遅れた。
栃木のFWはその隙を見逃さない。
斜めへ走り込み、縦パスを受ける。
「まずい!」
長谷川が寄せる。
しかし間に合わない。
ペナルティーエリア右。
FWが右足を振り抜いた。
---
**シュート!!**
玉縄が右へ飛ぶ。
指先は届かない。
ボールはゴール左隅へ突き刺さった。
ネットが大きく揺れる。
---
「ピーッ!」
主審がセンターサークルを指す。
**後半17分。**
**CS栃木 1-0 エストレヤ千葉。**
ホームスタンドが大歓声に包まれた。
---
宇津木はその場で立ち止まる。
「……くそ。」
長谷川も両手を腰に当てた。
高山は悔しそうに芝を叩く。
玉縄はゴールネットの中からボールを拾い上げた。
「ごめん!」
叫ぶ。
しかし宇津木は首を振る。
「お前のせいじゃない。」
「切られた俺たちの責任だ。」
その声には、自分自身への悔しさも混じっていた。
---
一方。
万条はセンターサークル付近で立ち尽くしていた。
自分のボールロスト。
そこから始まった失点。
拳を強く握る。
(俺が……。)
(俺が奪われた。)
(俺のせいだ。)
顔を上げることができない。
結果を残そうと焦った。
その焦りが、チームを苦しめている。
その現実だけが、万条の胸に重くのしかかっていた。
---
ベンチ前。
マルコは静かに腕を組む。
隣では八幡がピッチから目を離さない。
「……。」
八幡は何も言わない。
だが、その視線は万条だけでなく、動揺が残る最終ライン全体を見ていた。
失点は一人だけの責任ではない。
万条のボールロスト。
郷田負傷交代後の連係の乱れ。
最終ラインの一瞬の迷い。
いくつもの要因が重なった結果だった。
試合はまだ残り30分近くある。
しかしエストレヤ千葉は、敵地で1点を追う苦しい展開に追い込まれた。
## 第53話 決断
後半20分。
**CS栃木 1-0 エストレヤ千葉。**
敵地のスタンドは大きな歓声に包まれていた。
一方、エストレヤ千葉ベンチは静かだった。
マルコ・ベッルーニ監督は腕を組み、ピッチを見つめる。
隣では比企谷八幡がタブレットで試合データを確認していた。
数秒の沈黙。
マルコが口を開く。
「八幡。」
「はい。」
「万条だ。」
八幡は画面から目を離さず答えた。
「今日は判断が早すぎます。」
「結果を急ぎ過ぎています。」
「本来のプレーができていません。」
マルコはゆっくり頷いた。
「私も同じ考えだ。」
そしてベンチへ向き直る。
「正和。」
「はい。」
中田正和がすぐに立ち上がった。
三十四歳。
経験豊富なベテランMF。
「準備しろ。」
「はい。」
中田は素早くビブスを脱ぎ、アップコーチのもとへ走った。
---
後半22分。
プレーが一度切れる。
第四の審判が交代ボードを掲げた。
**エストレヤ千葉 選手交代。**
**3 万条富隆 OUT**
**22 中田正和 IN**
アウェーゴール裏から拍手が送られる。
その拍手は万条を責めるものではなく、「切り替えていこう」という励ましの拍手だった。
万条は一度だけスタンドへ目を向け、小さく頭を下げる。
そのまま足早にベンチへ戻っていく。
---
中田は万条とすれ違う。
「万条。」
万条は立ち止まる。
「……。」
中田は短く言った。
「後は任せろ。」
それだけだった。
万条も短く返す。
「お願いします。」
二人は軽く手を合わせる。
中田はそのままピッチへ入り、主審の合図で試合へ加わった。
---
万条はベンチへ腰を下ろす。
タオルを受け取るが、顔を拭こうとはしない。
ただ前を見つめていた。
(何やってるんだ……。)
今日は絶好のアピールの場だった。
戸塚がベンチ外。
自分に巡ってきた先発。
それなのに。
ボールを失い。
リズムを乱し。
失点のきっかけも作ってしまった。
拳を強く握る。
(活躍して移籍するつもりだった。)
(なのに……。)
悔しさだけが胸を締め付ける。
---
その隣に八幡が立った。
万条は顔を上げる。
八幡は試合を見たまま、静かに口を開いた。
「今日は、自分一人で何とかしようとし過ぎた。」
万条は何も答えない。
「サッカーは十一人でやる。」
「一人で勝とうとすると、周りも苦しくなる。」
万条はゆっくり俯いた。
「……分かってます。」
声は小さかった。
八幡はそれ以上何も言わない。
責めるためではない。
試合はまだ終わっていない。
ベンチに下がった万条もまた、この試合を戦うチームの一員だからだ。
八幡は再び視線をピッチへ戻した。
中田が入ったことで中盤は落ち着きを取り戻し始め、エストレヤ千葉は同点を目指して、再び前へ出ようとしていた。
## 第54話 執念の勝ち点1
後半23分。
万条に代わって中田正和が入ると、エストレヤ千葉の中盤は少しずつ落ち着きを取り戻していった。
中田は無理に縦を狙わない。
エミリオへ。
高山へ。
森川へ。
シンプルにボールを動かし、攻撃のリズムを整えていく。
「落ち着け!」
「まだ時間はある!」
中田の声がピッチに響く。
その一言で、味方の動きにも少しずつ余裕が生まれ始めた。
---
後半29分。
ダニエルが中央で前を向く。
材木座へ縦パス。
材木座はCBを背負いながら胸で収める。
「ダニエル!」
落としを受けたダニエルは右へ展開。
川崎がクロスを上げる。
ニアへ飛び込んだ材木座。
しかし、わずかに頭一つ届かない。
ボールはGKがキャッチした。
「惜しい!」
ゴール裏から大きな拍手が起こる。
---
後半34分。
今度は高山が左サイドを駆け上がる。
森川とのワンツー。
深い位置まで侵入し、低いクロスを送る。
エミリオが飛び込む。
しかし、相手DFが身体を張ってブロック。
こぼれ球をダニエルが狙うも、シュートはクロスバーの上へ。
マルコはベンチ前で両手を叩いた。
「続けろ!」
「あと一本だ!」
---
時間は後半39分。
栃木も守備を固め始める。
5バック気味にラインを下げ、ゴール前を閉じる。
「焦るな!」
郷田に代わってキャプテンマークを巻いた長谷川が声を飛ばす。
「ボールを動かせ!」
---
後半42分。
中田が中央でボールを受ける。
前を向く。
ダニエルがアンカー脇へ顔を出した。
「ダニエル!」
縦パス。
ダニエルはワンタッチで右へ流す。
川崎が受ける。
相手SBを引きつける。
その瞬間だった。
逆サイド。
森川がタイミングよくゴール前へ走り込む。
川崎は迷わずクロスを送った。
速く、低いボール。
「森川!」
材木座がニアへ飛び込み、CBを引き連れる。
その後ろ。
フリーで飛び込んできた森川が右足を振り抜く。
**ドンッ!!**
強烈なダイレクトシュート。
ボールはGKの手を弾き、
そのままゴールネットへ突き刺さった。
---
「ゴーーーーール!!」
後半43分。
**CS栃木 1-1 エストレヤ千葉。**
アウェーゴール裏が爆発する。
「よっしゃあああ!!」
森川は拳を握りしめ、サポーターへ向かって雄叫びを上げた。
川崎が真っ先に抱きつく。
「ナイス!」
「最高!」
ダニエルも駆け寄る。
材木座は笑いながら森川の頭を叩いた。
「やっと決めたな。」
森川は笑顔で頷く。
「みんなが繋いでくれた。」
これで、
**森川佑、3試合連続ゴール。**
チームを救う同点弾だった。
---
アディショナルタイムは4分。
栃木も最後の力を振り絞る。
ロングボール。
セットプレー。
何度もゴール前へボールが送られる。
「クリア!」
宇津木が頭ではね返す。
長谷川が身体を投げ出してシュートを防ぐ。
最後は玉縄がクロスをしっかりキャッチした。
「落ち着け!」
その声に全員が呼吸を整える。
---
そして——。
「ピーーーーーッ!」
試合終了。
**CS栃木 1-1 エストレヤ千葉**
敵地で何とか勝ち点1を持ち帰る結果となった。
---
試合後。
森川は汗を拭いながら空を見上げる。
勝てなかった悔しさはある。
それでも、敗戦寸前からチームを救った。
長谷川が近づく。
「助かった。」
森川は苦笑する。
「勝ちたかったですけどね。」
「ああ。」
「でも、負けなかった。」
長谷川は力強く頷いた。
「この勝ち点1は無駄にしちゃいけない。」
その少し後ろでは、万条が静かに試合終了の光景を見つめていた。
ベンチから仲間の同点ゴールを喜んだ。
しかし、その表情は晴れない。
先発のチャンスを生かせなかった悔しさ。
途中交代という現実。
そして、自分のプレーへの不甲斐なさ。
さまざまな思いを胸に抱えながら、万条は誰よりも静かにピッチを後にした。
## 第55話 J2第8節終了 順位表
CS栃木とのアウェーゲームを1-1で引き分け、勝ち点1を積み上げたエストレヤ千葉。
その日の夜。
J2第8節の全試合が終了し、リーグ公式から最新順位が発表された。
---
# J2リーグ順位表(第8節終了)
| 順位 | クラブ | 勝ち点 | 勝 | 分 | 敗 |
| :-----: | :---------- | :---: | :---: | :---: | :---: |
| 1位 | 北海道フェニックスFC | 24 | 8 | 0 | 0 |
| 2位 | 鹿児島レヴァンテFC | 17 | 5 | 2 | 1 |
| 3位 | 岡山セルフィオFC | 16 | 5 | 1 | 2 |
| 4位 | 愛媛サザンクロスFC | 15 | 5 | 0 | 3 |
| 5位 | 福岡レガーロ | 15 | 5 | 0 | 3 |
| 6位 | 青森ブランシェFC | 14 | 4 | 2 | 2 |
| 7位 | 山形ブリッツFC | 13 | 4 | 1 | 3 |
| 8位 | 富山ベイウインズ | 13 | 4 | 1 | 3 |
| 9位 | 相模原マンスリーFC | 12 | 3 | 3 | 2 |
| 10位 | CS栃木 | 11 | 3 | 2 | 3 |
| 11位 | 仙台アステルFC | 10 | 3 | 1 | 4 |
| 12位 | 熊本アスフィーダ | 9 | 3 | 0 | 5 |
| 13位 | 伊勢シーガルズ | 9 | 2 | 3 | 3 |
| **14位** | **エストレヤ千葉** | **9** | **2** | **3** | **3** |
| 15位 | 横浜マンゲールFC | 7 | 2 | 1 | 5 |
| 16位 | 秋田ノルディアFC | 5 | 3 | 2 | 3 |
| 17位 | 駿河ユナイテッドFC | 4 | 1 | 1 | 6 |
| 18位 | 信州アルプスFC | 3 | 1 | 0 | 7 |
※福岡レガーロは得失点差で5位。
※富山ベイウインズは得失点差で8位。
※伊勢シーガルズは得失点差で13位。
※エストレヤ千葉は得失点差で14位。
---
クラブハウスのミーティングルーム。
大型モニターに順位表が映し出される。
練習後、選手たちは静かに席へ座っていた。
マルコ・ベッルーニ監督はモニターを見つめながら口を開く。
「これが現在の順位だ。」
部屋は静まり返る。
十四位。
開幕直後の最下位からは脱した。
しかし、まだ満足できる順位ではない。
マルコは順位表の上位を指差した。
「首位の北海道フェニックスは開幕八連勝。」
「勝ち点二十四。」
「素晴らしい成績だ。」
続いて画面を下へ動かす。
「だが、我々が今見るべきなのは首位ではない。」
レーザーポインターが**エストレヤ千葉**で止まる。
「勝ち点九。」
「十四位。」
「プレーオフ圏とはまだ差がある。」
「しかし、下位との差も決して大きくない。」
選手たちは真剣な表情で聞いていた。
---
マルコは再び全員を見渡す。
「今日、栃木戦で勝てなかった。」
「それは悔しい。」
「だが、負けなかった。」
「勝ち点を積み上げた。」
「この一つが、シーズンの終わりには大きな意味を持つこともある。」
長谷川がゆっくり頷く。
郷田が負傷し、苦しい試合だった。
それでも敗戦は免れた。
その価値は全員が理解していた。
---
八幡も前へ出る。
「順位だけを見る必要はありません。」
「ただ、一つだけ数字を見てください。」
モニターには、
**2勝3分3敗 勝ち点9**
と表示される。
「開幕五試合終了時。」
「私たちは最下位でした。」
「そこから三試合。」
「2勝1分。」
選手たちの視線が集まる。
「少しずつですが、前へ進んでいます。」
「大事なのは、この流れを止めないことです。」
---
材木座が腕を組みながら順位表を見る。
「まだ十四位か。」
森川は苦笑した。
「でも、勝てばすぐ上がれる。」
エミリオも頷く。
「リーグはまだ長い。」
「焦る必要はない。」
---
その後方。
万条富隆は静かに順位表を見つめていた。
勝ち点九。
十四位。
チームは少しずつ前へ進んでいる。
だが、自分自身はどうだったのか。
栃木戦では先発のチャンスを生かせず、途中交代。
胸の中に残る悔しさは消えない。
万条は誰にも気付かれないよう、小さく拳を握った。
次こそは――。
その思いだけが、静かに胸の奥で燃え続けていた。
## 第56話 三連勝、そして次なる戦いへ
CS栃木戦の引き分けから、エストレヤ千葉は着実に勝ち点を積み重ねていった。
苦しい時間帯を耐え、勝負どころで仕留める。
マルコ・ベッルーニ監督の目指すサッカーが、少しずつ形になり始めていた。
---
### J2第9節
**エストレヤ千葉 2-0 信州アルプスFC**
ホーム・エストレヤパーク。
試合開始から主導権を握った千葉。
前半31分。
材木座義輝が最終ラインの間へ絶妙なスルーパスを送る。
抜け出したダニエル・ロドリゲスがGKとの一対一を冷静に制し、先制。
**1-0。**
後半72分。
左サイドを崩すと、こぼれ球を戸塚彩加がペナルティーエリア手前から右足でミドルシュート。
低く伸びたボールはゴール右隅へ吸い込まれた。
**2-0。**
守っては郷田京を中心に無失点。
危なげなく勝ち点3を手にした。
**得点**
* ダニエル・ロドリゲス(アシスト:材木座義輝)
* 戸塚彩加
---
### J2第10節
**エストレヤ千葉 1-0 秋田ノルディアFC**
アウェーゲーム。
秋田の堅い守備に苦しむ展開。
それでも後半64分。
材木座が中央でボールを収める。
ワンタッチで左へ流す。
そこへ走り込んだ森川佑。
右足を振り抜いたシュートがゴール右下へ決まる。
**1-0。**
この1点を最後まで守り切り、リーグ戦連勝を「2」から「3」へ伸ばした。
**得点**
* 森川佑(アシスト:材木座義輝)
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### J2第11節
**エストレヤ千葉 3-1 伊勢シーガルズ**
ホームゲーム。
立ち上がりから攻勢を掛ける千葉。
前半18分。
材木座がポストプレーから森川へ落とす。
森川が右足でゴール左隅へ流し込み先制。
**1-0。**
しかし前半終了間際。
伊勢シーガルズがセットプレーから同点。
**1-1。**
それでも後半は千葉が圧倒した。
後半58分。
材木座のスルーパスに反応したダニエルが抜け出し、勝ち越しゴール。
**2-1。**
さらに後半81分。
右サイドを突破した材木座がゴール前へラストパス。
川崎大志がダイレクトで合わせ、試合を決定付けた。
**3-1。**
ホームの大歓声に包まれる中、試合終了。
**得点**
* 森川佑(アシスト:材木座義輝)
* ダニエル・ロドリゲス(アシスト:材木座義輝)
* 川崎大志(アシスト:材木座義輝)
---
### 材木座義輝、止まらない
11節終了時点。
材木座義輝は、この3試合だけで**4アシスト**を記録。
ポストプレー。
ラストパス。
前線での起点。
ゴールこそなかったが、その存在感はリーグ屈指だった。
試合後のヒーローインタビューで森川は笑いながら話した。
「最後のところで材木座さんが全部預かってくれるので、自分たちは思い切って走れます。」
ダニエルも同じ質問にこう答えた。
「材木座さんが前にいると、安心して裏へ走れます。」
チームメイトからの信頼は日に日に大きくなっていた。
---
そして――。
クラブハウス。
第11節終了翌日。
ミーティングルームのモニターには、次節の対戦カードが映し出される。
**J2第12節**
**エストレヤ千葉**
**VS**
**富山ベイウインズ**
現在、エストレヤ千葉はリーグ戦**3連勝中**。
次節勝利すれば、今シーズン初の**4連勝**となる。
マルコ・ベッルーニ監督は選手たちを見渡し、静かに口を開いた。
「三連勝した。」
「だが、このチームはまだ何も成し遂げていない。」
部屋は静まり返る。
「本当に強いチームは、勝ち続ける。」
「四連勝へ挑もう。」
選手たちの表情が引き締まる。
富山ベイウインズ。
上位進出を狙う相手との一戦。
エストレヤ千葉にとって、今季の現在地を示す九十分が近づいていた。
## 第57話 止まらない仕事人
第11節終了後。
エストレヤ千葉はリーグ戦3連勝。
順位も少しずつ上昇し、クラブ全体に明るい空気が流れ始めていた。
そんな中、サポーターの間で大きな話題になっていたのは、一人のFWだった。
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**【J2】エストレヤ千葉総合スレ Part153**
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**128**
3連勝きたあああああ!!
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**129**
マルコサッカー完成してきたな。
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**130**
守備が安定してる。
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**131**
11節終了。
材木座どうなってる?
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**132**
リーグ成績
**1ゴール8アシスト。**
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**133**
アシスト8!?
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**134**
やばすぎるwww
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**135**
FWなのにゴールよりアシストが多い。
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**136**
しかも全部決定機作ってる。
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**137**
9〜11節だけで4アシスト。
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**138**
ポストプレーが化け物。
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**139**
あいつボール収まるから攻撃終わらないんだよ。
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**140**
森川が点取れてる理由の半分は材木座。
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**141**
ダニエルとの相性も最高。
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**142**
川崎も裏抜けしやすそう。
---
**143**
数字以上に効いてる。
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**144**
でも1ゴールなんだよな(笑)
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**145**
逆に笑う。
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**146**
ストライカーなのにアシスト王狙ってる。
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**147**
点取るより仲間使う方が好きなんじゃね?
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**148**
いや、本人はめちゃくちゃ点狙ってるぞ(笑)
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**149**
でも結果的に味方が決める。
---
**150**
材木座が潰れて、
森川ゴール。
ダニエルゴール。
川崎ゴール。
これ最近何回見た?
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**151**
テンプレになってる(笑)
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**152**
材木座のポスト
↓
誰か決める
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**153**
もう様式美。
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**154**
正直、得点ランキングよりアシストランキング1位狙ってほしい。
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**155**
今リーグトップじゃない?
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**156**
8アシストなら普通にトップ候補。
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**157**
今年のMVP候補まである。
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**158**
ゴール少ないのにMVPって珍しいよな。
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**159**
でも試合見てると分かる。
材木座いないと攻撃機能しない。
---
**160**
森川もダニエルも自由に動けるの材木座のおかげ。
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**161**
守備も前から追うし。
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**162**
空中戦も強い。
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**163**
ポストも強い。
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**164**
アシストもする。
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**165**
万能すぎる(笑)
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**166**
あと地味にほぼフル出場。
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**167**
怪我だけは気を付けてほしい。
---
**168**
次は富山か。
---
**169**
4連勝かかってる。
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**170**
材木座にはゴールも期待。
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**171**
でもまたアシストしそう(笑)
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**172**
それでも勝てばいい。
---
**173**
今の千葉は見てて面白い。
---
**174**
開幕の頃とは別チームだな。
---
画面の向こうでは、サポーターたちが期待を膨らませていた。
**リーグ戦3連勝。**
そして、
**材木座義輝。**
**11試合終了時点で、1ゴール8アシスト。**
数字だけでは語れない存在感が、エストレヤ千葉の躍進を支えていた。
## 第58話 四連勝への九十分
J2第12節。
**エストレヤ千葉 vs 富山ベイウインズ**
午後1時30分。
ホーム――**エストレヤパーク**。
開門前にもかかわらず、スタジアムの外には長い列ができていた。
三連勝中のエストレヤ千葉。
そして今日は、今季初の**四連勝**が懸かった一戦だった。
---
クラブハウス。
午前九時。
ロッカールーム。
キャプテン・郷田京が一番乗りで姿を見せる。
前節、CS栃木戦で相手FWと激しく交錯し負傷したものの、大事には至らず、メディカルチェックを経てこの日の出場が認められていた。
右肩にはテーピングが巻かれている。
郷田はゆっくりとグローブを取り出した。
「京さん。」
長谷川智樹が声を掛ける。
「肩、大丈夫ですか。」
郷田は右肩を軽く回した。
「痛みは少しある。」
「でもプレーには問題ない。」
宇津木健太も安心したように笑う。
「それ聞いて安心しました。」
---
次々と選手たちが集まる。
毛利良一。
高山俊樹。
戸塚彩加。
エミリオ・アルバレス。
森川佑。
川崎大志。
ダニエル・ロドリゲス。
材木座義輝。
リーグ三連勝を支えた主力たちが、それぞれ静かに準備を進める。
---
材木座がスパイクを履いていると、森川が隣へ座った。
「ネット見た?」
「何をだ。」
「アシスト八。」
材木座は苦笑した。
「見てない。」
「俺はFWなんだから、ゴールの方が増えてほしい。」
森川は笑う。
「俺は助かってるけど。」
そこへダニエルも加わる。
「材木座さん。」
「今日も一本お願いします。」
「一本でいいのか?」
「二本でも三本でも。」
三人が笑う。
そのやり取りを見ていた川崎が口を挟む。
「俺にもください。」
「自分だけずるいですよ。」
材木座は肩をすくめた。
「走れ。」
「走れば出す。」
「もちろんです。」
ロッカールームに自然と笑顔が広がる。
---
その頃。
監督室。
マルコ・ベッルーニ監督と比企谷八幡が、富山ベイウインズの分析映像を最後に確認していた。
「富山は。」
マルコが口を開く。
八幡は映像を切り替える。
「基本システムは4-2-3-1。」
「両サイドの突破力があります。」
「ただし。」
画面が止まる。
「守備への切り替えは速くありません。」
「ボールを奪った直後が最大の狙い目です。」
マルコは頷く。
「前から行く。」
「はい。」
八幡も答える。
「材木座さんを起点に二列目が飛び出せれば、十分攻略できます。」
---
午前十時。
ミーティングルーム。
全選手が席に着く。
マルコが前へ立った。
「今日は四連勝が懸かっている。」
静かな口調。
だが、その言葉には重みがあった。
「三連勝は過去だ。」
「今日勝たなければ意味はない。」
選手全員が監督を見つめる。
「相手も上位。」
「簡単な試合にはならない。」
「だからこそ。」
マルコは一人ひとりと目を合わせる。
「九十分、走り切れ。」
「自分たちのサッカーを貫け。」
「それだけだ。」
「はい!」
力強い返事が部屋に響いた。
---
試合開始一時間前。
選手たちはウォーミングアップのため、ピッチへ姿を現す。
満員に近いホームスタンドから、大きな拍手が送られた。
「エストレヤ!」
「エストレヤ!」
チャントがスタジアム中に響く。
材木座はスタンドを見上げ、小さく息を吐いた。
森川は芝の感触を確かめる。
ダニエルはリフティングを繰り返す。
戸塚とエミリオはパス交換を始めた。
郷田はゴール前でキャッチングを確認する。
八幡はベンチ横から全員の動きを静かに見つめていた。
リーグ戦四連勝。
その挑戦が、まもなく始まる。
## 第59話 新たな挑戦
**2026年6月5日(土)**
試合開始約1時間15分前。
ホーム・エストレヤパーク。
ホームロッカールーム。
選手たちが静かに席へ着く。
部屋の前にはマルコ・ベッルーニ監督。
その隣にはスカウト兼分析官・比企谷八幡。
ロッカールームが静まり返る。
マルコがホワイトボードの前へ立った。
「今日のスターティングメンバーを発表する。」
ホワイトボードにマグネットを並べていく。
いつもの4バックではない。
中央には、
**3-5-2**
の文字。
選手たちの表情が少し引き締まる。
---
「ゴールキーパー。」
**『背番号21 玉縄幸三。』**
「はい!」
玉縄が立ち上がる。
郷田京は静かに拍手を送りながら頷いた。
前節の負傷を考慮し、この日は大事を取ってベンチスタートとなる。
---
「右センターバック。」
**『背番号5 宇津木健太。』**
「はい。」
---
「センターバック。」
**『背番号26 長谷川智樹。』**
「はい。」
---
「左センターバック。」
マルコが一呼吸置く。
「背番号35。」
**『橋本翔。』**
橋本が少し驚いた表情で立ち上がる。
「……はい!」
十九歳。
ユース昇格一年目。
リーグ戦では初めてスタメンの名が呼ばれた。
長谷川が橋本の肩を軽く叩く。
「橋本。」
「はい、長谷川さん。」
「いつも通りやればいい。」
「俺たちが後ろにいる。」
宇津木も笑顔で続けた。
「困ったら声を出せ。」
「一人で抱え込まなくていい。」
橋本は深く頭を下げる。
「よろしくお願いします!」
---
「ダブルボランチ。」
「背番号18。」
**『戸塚彩加。』**
「はい。」
「背番号7。」
**『エミリオ・アルバレス。』**
「はい。」
戸塚とエミリオは互いに視線を合わせ、小さく頷き合った。
---
「右サイドハーフ。」
「背番号19。」
**『川崎大志。』**
「はい!」
---
「左サイドハーフ。」
「背番号10。」
**『森川佑。』**
「はい。」
---
「トップ下。」
「背番号14。」
**『ダニエル・ロドリゲス。』**
ダニエルが立ち上がる。
「はい。」
---
「セカンドトップ。」
「背番号16。」
**『栗林宰三。』**
栗林が少し緊張した表情で立ち上がる。
「はい!」
リーグ戦では久々の先発。
3-5-2への変更とともに巡ってきたチャンスだった。
材木座が栗林へ声を掛ける。
「栗林。」
「はい、材木座さん。」
「焦らなくていい。」
「前を向けるように俺が収める。」
栗林は真っ直ぐ頷く。
「よろしくお願いします。」
---
最後にマルコが前線を見る。
「センターフォワード。」
「背番号11。」
**『材木座義輝。』**
材木座が静かに立ち上がる。
「はい。」
---
マルコはホワイトボードを指した。
「今日の3バックは初めての組み合わせだ。」
橋本を見る。
「橋本。」
「はい!」
「難しいことは考えるな。」
「空中戦。」
「対人。」
「それがお前の武器だ。」
「自信を持ってプレーしろ。」
「はい!」
---
続いて栗林へ視線を向ける。
「栗林。」
「はい。」
「今日は材木座の近くでプレーする。」
「無理に一人で勝負する必要はない。」
「材木座を使え。」
「ダニエルを使え。」
「空いたスペースへ走れ。」
栗林は力強く返事をした。
「分かりました!」
---
最後にマルコは全員を見渡した。
「三連勝している。」
「だからシステムを変えたわけではない。」
「もっと強くなるためだ。」
誰も口を開かない。
「今日の相手は富山ベイウインズ。」
「簡単な相手ではない。」
「だが、ホームで勝つ。」
「四連勝を掴みに行く。」
マルコは右拳を握る。
「行こう。」
「はい!」
ロッカールームいっぱいに選手たちの声が響く。
新システム、**3-5-2**。
そして、ユース育ちの橋本翔のリーグ戦初スタメン。
2026年6月5日(土)。
エストレヤ千葉は、新たな挑戦とともに、ホームで四連勝を懸けた戦いへ向かう。
## 第60話 キックオフ前
スタメン発表が終わる。
ロッカールームは再び静かになった。
選手たちはスパイクを履き直し、水分を口に含み、それぞれ最後の準備を進める。
試合開始まで、あと約一時間。
---
橋本翔は黙って深呼吸を繰り返していた。
その様子に気付いた長谷川智樹が声を掛ける。
「橋本。」
「はい、長谷川さん。」
「初スタメンだからって気負うな。」
「練習でやってきたことを出せ。」
橋本は真っすぐ頷いた。
「はい。」
宇津木健太も笑う。
「競り合いは任せたぞ。」
「高さでは負けるな。」
「はい!」
長谷川が橋本の肩を軽く叩く。
「後ろは俺たちがいる。」
「思い切って行け。」
「よろしくお願いします!」
---
郷田京は玉縄幸三を呼ぶ。
「玉縄。」
「はい、郷田さん。」
「今日はお前がゴールを守る。」
「遠慮して声が出ないのが一番駄目だ。」
「長谷川にも宇津木にも、必要ならどんどん指示を出せ。」
玉縄は力強く頷く。
「はい。」
「任せてください。」
郷田は笑った。
「そのくらいでいい。」
---
その横で村上渉が頭を下げる。
「玉縄さん。」
「はい。」
「頑張ってください!」
玉縄は笑顔で答えた。
「ありがとう。」
「しっかり見て勉強しろ。」
「はい!」
---
前線では栗林宰三がストレッチを終える。
材木座義輝が近付いた。
「栗林さん。」
「おう。」
「今日はよろしくお願いします。」
栗林は笑って頷く。
「こちらこそ。」
「一緒に勝とう。」
材木座も笑う。
「前で収めます。」
「裏へ走ってください。」
「分かった。」
「思い切って行く。」
そこへダニエル・ロドリゲスも加わる。
「栗林さん。」
「今日は三人で崩しましょう。」
栗林は二人を見て笑う。
「ああ。」
「楽しもう。」
「はい!」
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左サイドでは森川佑が川崎大志へ声を掛ける。
「川崎。」
「はい、森川さん。」
「今日は上下動が多くなる。」
「最後まで走れるか。」
川崎は迷いなく答える。
「はい!」
「九十分走ります!」
森川は笑顔で頷いた。
「期待してる。」
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戸塚彩加とエミリオ・アルバレスも確認をしていた。
「エミリオ。」
「ああ。」
「橋本が前へ出たら、僕がカバーします。」
エミリオは頷く。
「私は逆を見る。」
「距離を保とう。」
「はい。」
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少し離れた場所で八幡が選手たちを見つめていた。
マルコ・ベッルーニ監督が静かに言う。
「いい雰囲気だ。」
八幡は頷く。
「はい。」
「若手も自然に入れています。」
スタッフがロッカールームの扉を開けた。
「時間です!」
臨時キャプテン長谷川が立ち上がる。
「行くぞ!」
「はい!」
選手たちは一斉に立ち上がり、大歓声が響くエストレヤパークのピッチへ向かった。